第2章 特殊授業と連続猟奇殺人事件の謎
第2章です!楽しんでください!
「え?降霊術の授業?」
僕、コゼット・アーウィンブルーは、編入初日、ネロから聞かされたとある授業内容に唖然としていた。
「あぁ。学長先生が直々に教える唯一の授業なんだけどさ、これがすげー難しい訳よ。」
「そんなに難しいの…?」
僕ら2人は教室の隅で少し慌てていた。降霊術の授業があるなんて…さすがは偉大な霊能者、グリムジレッタ学長が創った学校なだけはある。この学校の授業は、本当に普通ではない。毒草薬学の授業や、お祓いの授業。体育だって、一歩間違えたら怪我をする丸腰フェンシングや、学長先生の使い魔であるピラニアを手懐けてから入らなければいけないプールなど、本当に頭がどうかしているとしか思えない授業内容ばかりで、考えただけで気が遠くなりそうだ…。
「個人的には、想像物語の授業が一番楽しいと思うの。覚えておいてね?」
「わぁ!!…アン…。この授業一緒だったんだね…。」
気付いたら僕らの後ろにはアンがいた。アンは本当に神出鬼没で、ネロはまた驚いている。
「お前!!昨日いきなり現れたら心臓に悪いって言ったばっかりじゃねーか!」
「馬鹿は本当に学習しないわね。そろそろ私の行動原理くらい覚えたら?」
「お前本当に失礼だな!」
「アン…ネロ…。」
馬が合っていないように見えて、アンとネロは案外仲が良さそうで、この他愛のないやり取りは、何故か見ていて楽しい。
「…ねぇ、もしかして、あなたが噂の編入生?」
僕は急に声をかけられる。後ろを振り替えると、大人しそうな女の子が立っていた。薄紫色のロングヘアは、光に照らされて美しく輝き、にっこりとした笑みを称えている。
「あ…うん。そうだよ。僕、コゼット・アーウィンブルー。よろしく。」
「私、ダイアナ・メーヴェリー。こちらこそ、よろしくね。同級生同士、仲良くしましょう。」
僕は差し出された手を取って握手をする。
「コゼット。ダイアナは私の親友で、ルームメイトでもあるの。思いやりに溢れた、とても素晴らしい女の子よ。覚えておいてね?」
「うん、分かったよ。」
アンとダイアナは2人で並んで席に着いている。僕とネロは、その隣の席に2人並んで着く。
「そう言えばコゼットは知ってたっけ?ここの学園の授業は選択制だって。」
「あ、うん。一応、学長先生には聞いてあるよ。」
「そっか。なら良かった。この降霊術の授業は、俺達1年だけじゃなくて、上の学年の奴らもいるからさ。まぁ、だからって気にする必要はないけどな!先輩達も良い人多いから。」
「…ネロがそう言ってくれるなら、安心かな。今の所、僕浮いてないみたいだし…。アンもダイアナもいるし、ネロもいるから、心強いよ。」
「本当かよ!嬉しいこと言ってくれるな!コゼット!」
そんなことを話していると、教室が少し騒がしくなった。クラスの全員が何故か少し慌てており、怖がっている人もいる。皆の目線は後ろの方に向いており、僕も目線を後ろに移す。そこには、濃い焦げ茶色の長髪を上で軽く束ね、ピアスを付けた男子生徒がいた。皆の目線はその男子生徒に向いており、僕はその状況を不可思議に思った。
「ね、ねぇアン…。あの人誰?」
「出た…盗みの天才…。私、あの人嫌いなのよ。」
「盗みの天才…?」
僕は昨日ネロに見せて貰った、この学園に在籍する7人の天才の名簿を思い出す。- 盗みの天才 -…確かそんな人がいたような……。
「そう。学園で一番喧嘩が強くて、成績も良い。男子生徒は誰もあいつに逆らえないし、先生達でも手が出せない。ようは…この学園のボスみたいなやつよ。」
「…あ!おーいラビニア!!お前もこの授業選択してたのか!?」
「…え?」
ネロはラビニアと呼ばれた少し人相の悪い男子生徒の元に走っていった。そして、少し話した後、その男子生徒を連れてこっちにネロが戻ってくる。
「コゼット!紹介するぜ!こいつ2年のラビニア・グレゴール!昨日言った俺の幼馴染み!ラビニア!こいつが編入生のコゼット・アーウィンブルー。俺のルームメイトだ!」
「…へぇ…。お前か、霊と喋れるってやつ。」
ラビニアは僕を少し訝しげな目付きで見てくる。僕は椅子から立ち上がって、ラビニアの前に立つ。
「うん…。そうだよ。僕は、霊を視て、霊と喋る事が出来る。」
「…その目、嘘は吐いてねぇみたいだな。まぁ、このエスカロッティに辿り着いたってことは、お前も普通じゃねぇってことだもんな。ハハッ…ネロ。こいつ、ちょっと面白そうじゃねぇか。コゼット…。だったよな?」
「…う、うん。」
「良いこと教えてやる。俺もお前と似たような能力持ってんだ。」
「え?…それってどう言う……」
「皆さん!席について!授業を始めますよ!」
「やべっ…学長来ちまったな…。じゃあなコゼット。ネロと仲良くしろよ?」
「あ、ら、ラビニア…!」
「コゼット・アーウィンブルー。どうかしたのですか?」
「あ、いや、何でもありません。学長先生。」
「…そうですか。じゃあ、降霊術の授業を始めましょう。」
こうして、学長先生による降霊術の授業が始まった。降霊術の授業は、皆それぞれパワーストーンのブレスレットを渡され、それを手に、教科書に書かれた呪文を唱え、目の前の古い人形に霊を卸すと言う内容だった。
「……アブレル・ミヒャエル・ストラテス……アブレル・ミヒャエル・ストラテス……冥界に眠りし可の死霊よ、我の名の元において、汝その姿を現すがいい!」
アンは呪文を唱えると、見事目の前の古い人形に、少女の霊を卸す事に成功した。
「アン!すごいじゃないか!一発成功なんて!」
「当たり前。」
「……くっそー…俺だって!俺だって今度こそ!アブレルミヒャエ……ッッ!いってー!!舌噛んだ!!」
「…馬鹿には出来ないわよ。集中力も注意力も散漫。それじゃあいつまで絶っても霊なんて呼び出せる訳無いに決まってるじゃない。」
「でも、アンは本当にすごいわ。私も、出来たのは出来たけど、ウサギの魂しか卸せなかったもの。」
「それでも十分すごいわよダイアナ!ウサギの魂なんて、可愛くてダイアナらしいわ!」
「…チッ…ダイアナには優しいよなー…アンのやつ。」
「まぁまぁネロ。2人は親友なんだし。」
「なんだよお前まだ出来てねーのか?ネロ。ホントお前昔っから降霊術の授業下手だよな。」
「…う、うるせーラビニア!自分が得意だからっつって…!」
「あれ?ラビニア、君はもう終わったの?」
「あぁ、とんでもねぇマフィアの霊呼んじまったから、危なくなる前に冥界に戻した。」
「…ど、どんな霊呼んでるんだよお前!!…なぁコゼット~…俺やっぱ降霊術向いてねぇみたいだわ…。」
「そんなこと言わずにさぁ。もう一回やってみようよ。僕も…やってみるから!」
僕はパワーストーンを持って、呪文を唱える。
「アブレル・ミヒャエル・ストラテス、アブレル・ミヒャエル・ストラテス。冥界に眠りし、可の死霊よ、我の名の元において、汝その姿を現すがいい!」
僕が唱えると、人形は青い光に包まれた。
「…やった!成功だ……」
だが、人形は少し経つと動きだし、首を一回転させると、僕の顔に飛び付いてきた。
『タスケテ……タスケテ……』
「うわぁ!!な、なんだよ!は、離れろ!この!」
人形は僕に飛び付いて血の涙を流しており、ひたすらに渇いた声で『タスケテ……タスケテ……』と、叫び続ける。
「これはいけないわ!」
学長先生は長い数珠を取り出して何かを念じると、人形の動きを一時的に止めた。
「…ラビニア・グレゴール!あなたなら出来るはず!コゼットが卸したこの霊を冥界に送り届けなさい!」
「…分かりましたよ…学長!!」
ラビニアはそう言うと、パワーストーンを人形にかざして、また違う呪文を唱える。
「…バーサ・ツヴァィト・バルテジカ…バーサ・ツヴァィト・ザルテジカ…。我その悪しき魂を、冥界の歪みに引きずり戻さんと、是を誓う!」
ラビニアが唱えると、人形に宿った死霊の魂は、消え去り、冥界に戻っていった。
「…はぁ……はぁ……な、なんだったんだあれ…。」
僕は呼吸を整えながら、乱れた髪を手櫛で少し解きほぐす。
「…コゼット~!!良かった無事で~!!怪我してねぇか?お前……一体何卸したんだよ!」
ネロが僕に抱きついてきて、心配そうに顔を見る。
「…降霊術が成功して、青く光る場合は、要注意せねばならない…。何故なら…青い光は苦しみと絶望に囚われた、成仏できていない悪霊だからである…。」
気付けば、アンが教科書の最後のページを開いて僕の前に立っており、先程の青い光について読んでいる。
「アン…それ…。」
「大丈夫よダイアナ。さっきラビニアが冥界に戻してくれたでしょ?でも、さっきの霊は、明らかに様子がおかしかったし、執拗に助けを求めていた。もしかしたら、何かと関係があるのかも…。」
「何か…もしかして!!…アン…それって…もしかして…バートリー事件……?」
ダイアナが怯えながら口を開いた瞬間、クラス中が凍りつく。
「…バートリー事件って……?」
僕はその雰囲気に動揺しながらも口を開く。
「…ラビニア。説明してあげて。」
学長先生がそう言うと、ラビニアは重たい口を開く。
「あのな、コゼット。バートリー事件っつーのは、今から100年前、このエスカロッティで起きた、連続猟奇殺人事件の事なんだ。」
「100年前の…連続猟奇殺人事件?」
「…100年前、このエスカロッティに迷い込んだ一人の女が居た。女の名前は、エルゼベート・バートリー。齢40を越えた壮年の女だ。バートリーは、丁度100年前、自分の夫が浮気していた事に気付き、嫉妬に狂って、浮気相手の女共々刺し殺した。そして、街を追われ、辿り着いた場所が、ここ、エスカロッティだったんだ。昔エスカロッティには、幾つかの集落があったらしいんだが、今は存在してねぇ。学長の計らいによって、集落の跡地は学園町になってるからな。」
ラビニアの説明に、僕らは言葉を押し殺して聞き入る。皆苦虫を噛み潰したような顔をしているが、何故か学長先生だけが無表情だった。僕はその学長先生の表情に、違和感と、不可思議な恐怖感を持った。異様に白い肌に張り付いた長い黒髪も、真っ赤な唇も、何故か今だけは…すごく不気味に見えた。
「…で、バートリーは、エスカロッティに辿り着いてから、異常行動を繰り返したんだ。殺した夫の浮気相手が若い女だったのを憎んで、何の関係もない集落の若い女を次々に残酷な手口で殺していった。縄で縛りあげて絞め殺したり、時には、若い女の肉は若さを保てると、その肉を削ぎ落として食べることもあったそうだ。」
あまりにも残酷な事件内容に、皆の中には目を瞑ったり、耳を塞いでいる者達もいる。ダイアナは怯えてアンにしがみついており、アンも怒りに満ちたような表情をしている。あのネロですら、辛そうな顔をしている。
「…それで、その…バートリーは、結局どうなったんだ?…も、勿論捕まって罰を受けたんだよ…ね?」
僕が言うと、ラビニアは渋い顔をして首を振る。
「え?…ど、どういうこと?」
「バートリーはまだ生きてる。」
「……え?」
「……丁度50人目の若い女を殺した時、バートリーは魔女裁判にかけられるはずだった。だが、魔女裁判のその日、バートリーはこつぜんと姿を消した。」
「た、だけど…もう100年前の事じゃないか…。きっとバートリーは死んでるよ…。」
「果たしてそうかしら……?彼女は人々の歴史の中でも悪名名高い魔女。さっきラビニアの話で聞いたでしょ?バートリーは若さを保つために殺した若い女の肉を食べていたって…。バートリーはね。そのせいで、年を取らない身体になってしまったのよ。殺して食べた女の中に、呪術者の娘が居てね、その影響よ…。」
「学長先生…どうしてそんなに、詳しいことを知っているんですか?」
僕が恐る恐る尋ねると、学長先生は、一度その真っ赤な唇を歪ませて微笑んだ。そして、いつもの微笑みに戻り……
「勿論よ。学長として、エスカロッティの長として、あなた達と、この現実と幻想の狭間。守らなければならないのだもの。この谷に関する事例は全て知っているわ。勿論、バートリー事件のこともね。」
そう、優しく言った。
「…そ、そう…ですか…。」
僕はさっきから恐くて恐くて、震えてしまい、身体に走る悪寒のせいで、なかなか立ち上がることが出来ない。その時、チャイムが鳴り、学長先生は顔色を変える。
「…あら、授業は終わりね。それじゃあ皆さん。使ったものを元の位置に戻してから、次の授業に行ってね。」
学長先生はそう言うと、帰ってしまった。僕は、ネロとラビニアの力を借りて立ち上がる。
「あ、ありがとう二人とも…。」
「だ、大丈夫?コゼット…。」
「ダイアナ…大丈夫だよ。君こそ、顔色が悪いよ?」
「そうよダイアナ。少し座って。ちょっと休んでから次の授業に行きましょう?」
「あ、ありがとう…コゼット。アン。」
アンはそう言ってダイアナを座らせて背中を擦る。先程の事件の話が、重かったのだろう。
「…なぁラビニア。…その…さっきの事件の話なんだけどよ。お前…何でそんなに知ってんだ?この学園でその事件の話は、禁忌みたいなもんだろ?」
ネロはラビニアに尋ねる。いつの間にか、教室には、僕とネロ、ラビニア。アンとダイアナの5人しか残っていなかった。
「あぁそうさ。でも、このままに出来ねぇだろ。100年間未解決のままの事件…。おかしな事が多すぎるんだよ…。バートリーが突如として姿を消した件、そして、どうしてここにこんな学園が立っているのかも…。分からねぇ事だらけだ。」
「ラビニアは…盗みの天才…なんだよね。そのことと事件と…何か関係があるの…?」
僕が尋ねると、ラビニアは指を鳴らして、後ろに屈強な身体の男と、ナイフを持った奇妙な男の霊を出す。霊が視える僕は、驚いてしまう。
「ら、ラビニア…それ、誰だ?」
「こいつらは、俺の協力者だ。歴史に名を残す希代の犯罪者達。俺はこいつらを従えて、必要な情報を盗んでる。この事件解決のためにな。」
彼が盗みの天才と言われる理由が分かった。ラビニアは、僕と能力が似ているようで、似ていない。だが、その身から溢れてくる強者のオーラは、僕にも感じる事が出来た。
「なぁ、お前ら。この事件、俺達の代で解決しねぇか?これからここに辿り着く奴らや、これからここで生まれてくる奴らのために。俺達の代で、この凶悪な事件を終わりにしようぜ。」
ラビニアの言葉に、僕は、心を揺さぶられた。今までいじめられてばかりで、何の役にも立てていなかった僕が、彼に協力する事で、誰かの役にたてる。自分の生に意味を見いだせる…。それならば…。
「…僕、やるよ。僕の力でも、役に立つなら…。協力するよ。編入したばかりの新参ものだけど…それでもいいなら…。」
「何言ってんだよ。もう俺ら仲間だろ?それに、ネロの友達なら、俺だって信用出来る。こいつは馬鹿だけど、人を見る目はあるからな。」
「うるせぇなラビニア!余計なお世話だよ!でも、コゼットとラビニアがやるなら…俺も協力する!」
「私も…。この事件には前から興味があったの。」
「アンがするなら…私も!微力かもしれないけど…可哀想な女の子達の魂を…救ってあげたい!」
「なら、皆でやろう!皆の力を合わせれば、きっと何でも出来るよ!」
僕、普通じゃなくて良かったな。こんなに良い仲間に恵まれるなんて…。自殺なんて図ろうとしてた自分が馬鹿みたいだ。皆で力を合わせてこのエスカロッティに眠ったままの事件を解決する。僕の生きる道…。この道を選んで良かったかもしれない。
仲間と笑い合う。こんな幸せ、僕なんかが感じて良いのだろうか。いや、そんなこと思ったらいけない。この幸せは、きっと、与えるべくして与えられている。この人生をもう無駄にしないためにも、僕は、僕に出来ることをする!
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『…編入生…コゼット・アーウィンブルーねぇ…。あいつ…気に入らねぇなぁ…。』
第2章 fin.
第3章に続きます!読んでくださりありがとうございました!