表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

第15章 片隅に葬られた記憶

今回はシリアス回です!

 夜になって、僕らは花火を始めました。最初の方は、打ち上げ花火で遊んだり、みんなで楽しく騒いでいたけど……今は……そんな楽しかった空気が一変してしまった。……僕のせいで……。


 最後に、みんなで線香花火をしていた時の事だった。


「……僕さ、こんなに楽しい夏休みや、学生生活が送れるようになるなんて、思ってもなかったよ。元いた世界では、この能力のせいで、いじめられてばかりいたから。……そう言えば、みんなは、どうやってここに来たの?僕みたいに、この世界に迷い込んだ?それとも、ダイアナ達みたいに、元からエスカロッティの住人なの?」


 僕の質問に、みんなは少し、哀しそうな顔をした後、順番に質問に答えてくれた。


 

 ネロの独白


「……俺、小さい頃から、動物の言葉が分かって、心を通じ合わせたりすることが出来た。でも、周りの奴らはそれを気味悪がって、俺は、動物しか友達がいない変なやつって、変わり者のレッテルを貼られて、クラスで孤立した。ラビニアだけは、いつも俺を庇ってくれて、俺の味方をしてくれた。唯一の家族だった母ちゃんは、俺をいつも励ましてくれて、『動物の言葉が分かるって、とっても素敵な力だ』って、誉めてくれたけど、そんな母ちゃんも、俺が13の時に、病気で死んじまった。それ以降は、生きるのに絶望して、ラビニアと2人で、逃げることを考えたんだ。」



 ラビニアの独白


「…俺は、ネロとは4、5歳ぐらいからの幼馴染みだった。家が近くて、いっつも一緒に遊んでた。俺は、両親がいなくてさ、親戚の援助で暮らしてたんだ。だから、ネロの母ちゃんにも、よくお世話になったよ。当時のネロは、自己主張が出来ないおとなしいやつでな。あいつがいじめられた時は、俺がいつも庇って、いじめるやつを片っ端からボコボコにしてた。でも、それは度が過ぎてて、当時、ちゃんとした力の使い方を知らなかった俺は、喧嘩相手に大怪我させたり、酷い時は骨折させたりもしてた。そんなある日、ネロが同級生に殴られてるのを見つけて、俺は、いてもたってもいられなくなって、そいつを再起不能になるぐらいまで、痛め付けちまった。幸い、そいつは命に別状は無くて、怪我が治ってから、学校に戻ってくることが出来たけど、俺は、学校にいられなくなった。事情を知った親戚からも援助切られて、どうしたらいいか分かんなかった時に、ネロと相談して、2人で逃げることを決めた。山に逃げ込んだその時に、学長に保護されてな、それから、エスカロッティで暮らすようになったんだ。」



 アンの独白


「……私は、捨て子だった。幼い頃から、本を読むことで、過去を見たり、予知が出来たりする子供だった私は、母からは恐れられ、父からは疎まれた。そして、ある日の夜。どこか分からない真っ暗な森に置き去りにされて、そのまま捨てられた。だけど、とっくに壊れてしまっていた私の心は、助けを求めることも、哀しみに嘆くことも出来なかった。森を進んでいく途中で、私は突然現れた濃霧に呑まれ、気を失った。起きたらそこは、見たこともない綺麗な家で、私の目の前には優しそうな女の人がいた。それが、ダイアナのお母様、エリザベス夫人。つまり、私はメーヴェリー家に保護されたの。それから、エリザベス夫人は、私の話を聞いてくださって、現状を理解すると、グリムジレッタ学長に掛け合ってくださった。そして、私は学園で生活することになったの。ダイアナと言う素晴らしい親友に出会ったことで、私の人生は、白黒の寂しいフィルムから、美しい薔薇色の世界に変わったのよ……。」



 グリンダの独白


「あたしは、生まれた時から不思議な子供だったらしくて、3歳の頃には、お姉ちゃんと一緒に、魔法みたいな、おまじないの力が使えた。あたしのお父さんとお母さんは、少し、感覚がブレた人で、不思議な能力を持つあたしとお姉ちゃんを、神様の使いだって信じて止まなかった。その内に、お父さんとお母さんは、あたし達姉妹を神として崇める新興宗教を作り出した。あたしとお姉ちゃんは、毎日、綺麗で豪華なドレスを着させられて、高い椅子に座らされた。そして、お祈りに訪れる人や、貢ぎ物を捧げに来る人達の相手ばかりさせられた。一番辛かったのは、ずって微笑んでなければならなかったこと。少しでも表情を崩すと、神様がお怒りだって、両親が慌てて、生け贄になる人間を探し始めるの。あたし達、それが耐えられなくなって、ある日の夜、お姉ちゃんと2人で家を抜け出して、森に入った。そこで、迷って、途方に暮れてた所に、霧と一緒に学長先生が現れた。学長先生は事情を聞いて、あたし達をエスカロッティに連れていってくれた。そこで、ようやく救われた気がしたの。」



 エイミーの独白


「……グリンダの話で分かったでしょ?うちの親、本当にクレイジーで超絶バカなの。動きにくいドレス着せて、表情崩れると『祟りだー!!』とか言ってアホみたいに騒いでさ。あまりにも最悪だから、グリンダ連れて逃げ出した。グリンダにはあたししか頼る人がいなかったし、あたしも、頼りはグリンダだけだった。だから、あの時学長が拾ってくれて良かったと思う。あの時拾われてなかったら、あたし達姉妹はいつまでも親のエゴの元で神の使いとして奉られて、年頃の女の子らしいことも、こう言う、楽しい学園生活も、送れてなかったと思う。今は楽しいよ!あたしは生徒会で、クリスとピッタンからかって遊ぶの好きだし、グリンダにも、ラビニーいるし、友達もいっぱい出来てさ、ホント、エスカロッティに来れて良かったよ。」



 僕は、みんなの話を聞いて、心が痛くなった。


 寂しい思いをしていたネロ。


 力の使い方が分からず、守りたいと言う思いが空回り してしまっていたラビニア。


 孤独を抱え、感情までも失ってしまっていたアン。


 幼い頃から両親のエゴのために利用されたいたグリンダとエイミー。



 みんな、僕が考え付きもしないような、暗くて、苦しい過去を抱えていた。でも、みんなは、自殺を考え、山に入り、学長に助けられ、学園に編入してきた僕を、いつも助けてくれている。


 ネロは、僕の初めての友達になってくれたし


 ラビニアは、僕が授業で危険な目に合った時に助けてくれた


 アンは、授業で難しい所をいつも教えてくれるし


 グリンダは他愛もない話で楽しませてくれる


 エイミー先輩は、僕のことをすごく可愛がってくれている。


 僕の周りの友達が、こんなにも優しくて、心強いのは、きっと、辛い経験を何度も乗り越えてきたからだろう。いつだったか、僕の父さんがまだ生きていた頃、僕に教えてくれた言葉があった……。



『コゼット。本当に優しい人と言うのは、人の心の痛みが理解できて、それに寄り添ってくれるひとのことだよ。』



 あの時の父さんの言葉が、今なら痛いほど分かる。僕の友達は、みんな、人の心の痛みが理解できて、それに寄り添ってくれる。


 父さん、母さん、おばあちゃん。僕、ここでたくさんの友達が出来たんだ。毎日楽しくやってるよ。だから……心配しないで……。


 僕は、夜空を見上げて、心の中で呟いた。その瞬間、僕らが手に持っていた線香花火の灯りが、ポトリと地面に落ちた。


「……あ、終わっちゃったね。」 


「結構長く続いた方だと思うぞ?」


「……線香花火って……ちょっと哀しいよな。」


「……けど、短い時間でも明るく輝いてて……あたし、とっても綺麗だと思うよ。」


「…そうそう。ようは、短くても、この美しい時間を、大切にしなさいってことだからね。」


「……お姉様とジョー姉様の意見に賛同です。」


「私もよ、アン!」


「グリ~、ジョ~!いいこと言うじゃん!」


 僕らの小さな花火大会は、こうして幕を閉じた。


「……よっしゃぁぁ!!花火も終わったし、部屋に戻ってヴァリエフェスティバルやろうぜ~!!!」


「……お前なぁ……。ヴァリエフェスティバル俺の持ってきたソフトだぞ……?」


「そうだね!続きやろうよ!アン達やる?」


「……バカをけちょんけちょんに出来るならやるわ。」


「……てめぇ……アン……!!!!」


「あたしもやる~!ヴァリエフェスティバルこの前ラビニーとやって楽しかったから~。」


「じゃあ、部屋に戻ろう!!」


 僕達は、部屋に戻ってゲーム大会をするために駆け出す。この夏休みを通じて、もっと、みんなとの絆が深まったような気がした。


第15章 fin.

続きをお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ