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第12章 幻想ノ園ニ潜ム毒使イ

第12章始まります!!

 7月下旬の今日この頃。1学期を終え、僕達は、夏休みに入りました。毎日課題を進めつつ、友達と街に行ったり、寮の部屋でゲーム大会を開いたり、充実した毎日を送っています。


「…普通の世界にいた頃は、こんな充実した楽しい夏休み…過ごしたこともなかったな…。」


「…コゼットくん?どうかしたんですか?」


「……え?あ、ううん。何でもないよジム。ただの独り言だよ。」


 あ、そうそう。今日、僕はジムと一緒に、自由研究の課題のために、マッジの森まで来ています。


「…あ、所で、珍しい毒草がたくさん生えてるって場所、どこだっけ?」


「あ!こっちですよ!!」


 僕はリュックを背負って、ジムの後に着いていく。10分程歩いて、僕らは滝壺に辿り着く。


「…こ、この学園、本当に敷地広いなぁ…。こんな滝壺まであるんだ…。」


「コゼットくん!こっちです!この滝壺の周りに、珍しい毒草がたくさん生えてるんですよ!!」


 ジムの楽しそうな声の方に、僕は駆け寄っていく。


「…わ、わぁ!!本当にたくさん生えてる!!」


「ね!?すごいでしょう!?早く採取しましょう!!」


「…え?あ、うん!」


 僕とジムは、珍しい毒草を採取する。僕は課題のためだけど、ジムにとっては、この毒草も、将来のための重要な資料の1つ。ジムは、卒業後、お父さんのような医者になるために、薬の分野の勉強も欠かさない。将来をきちんと見据えていて、本当にすごいと思う…。


「…僕もこの先のこと…ちゃんと考えないとなぁ…。」


 僕がポツリと言った瞬間に、ジムが少し遠くから大きな声を出す。


「…あ、あぁ!!!」


「…な、何!?どうしたの!?」


 ジムの大声に驚いて、僕はリュックに急いで毒草を詰めると、滝壺の近くに行く。


「…こ、ここ!!見てください!!滝壺の奥に、道があります!!」


「…え!?」


 ジムが指差した滝壺の奥には、確かに道があった。


「…ほ、本当だ…。」


「…も、もしかして!この先にもっと珍しい毒草があったりしませんかね!?」


「…も、もしかしたらあるかもね……って!!ジム!?い、行くの!?……は、早っ!!もう姿見えない!!」


 ジムはもう滝壺の奥に行ってしまっている。僕も急いでジムを追いかけて滝壺の奥に駆けて行く。


「…はぁ…はぁ…。ちょっとジム!!早いよ!!それに、ここ勝手に入っていいようなとこな……の?」


 僕らの目の前には、先程の見慣れた学園の敷地内とは全く違う、摩訶不思議な風景が広がっていた。朱色と群青色が混ざったような空が広がり、木々は紫や青、ピンクに染まっている。見たことない奇妙な花が咲き乱れ、流れる川も、まるで海のような青緑色だ。


「…ね、ねぇジム……ここ……。」


「……ここ、幻想の園ですよ…。」


「…え?……げ、幻想の園って…。」


「……幻想の園…。エスカロッティのどこかにあると言われている、この谷全ての不思議や異形が集まる、特別な場所です。別名、奇妙で美しい花々が咲き乱れることから、秘密の花園とも呼ばれています。」


「…秘密の花園か…。とりあえず、この辺歩いてみようか…。」


「はい!!」


 僕とジムは、一旦不思議な幻想の園を歩いてみることにした。


「……へぇ……。なんだか、どこもここも色鮮やかで…少し気持ち悪くもあるなぁ…。」


「…でも、薬に使えそうな花が多いですよ!!例えば、ほら!!この青い花見てみてください!蝶みたいな形してますよ?」


 ジムはそう言って、青く美しい蝶のような花を一本取る。


「本当だ…!これ綺麗だね!色もいいし、できたら部屋に飾りたいなぁ…。」


「でしょう!?もっと散策しましょうよ!!あ!この紫の薔薇も綺麗ですよ……!!」


 ジムが紫の薔薇に手を伸ばした瞬間のことだった……。



『それ以上その薔薇に触れると、10秒後には身体中に毒が回って、最終的には死に至るわよ。』



「「え……?」」


 僕らの後ろから聞いたことのない美しい声が響く。


「……い、嫌ぁぁぁ!!」


「……じ、ジム!!」


 ジムは薔薇から手を離して僕にしがみつく。


「あぁ、言わんこっちゃない…。アンタ達、学園の生徒だろ。何でここにいる。ここは学長の許可なく入っていい場所じゃないよ?」


「……あ、貴女は……?」


 僕らの前に現れた声の主は、朱色の長い髪に、翡翠の瞳。白い肌に薄化粧を施した、背の高い美しい女の人だった。


「……まぁ、着いてきなよ。紫の薔薇に触ったんだ。今も立ってられる状況から見て、毒はそこまで回ってないだろうけど、一応心配だから、解毒をしてやるよ。」


 女の人は、そう言うと、前を歩いていく。


「…あ!ま、待ってください!ジム!行くよ!」


「……あ、はい!」


 僕とジムは、女の人の後ろを着いていく。


「…どこまで歩くんだろう…。」


「…さぁ、分かりません…。」


「……着いたぞ?ここだ。」


「「え……?」」


 女の人の指差す場所には、少し古びた小さな家があった。


「入れ。」


「「お、お邪魔します…。」」


 僕らは、女の人の家に入っていく。すると、部屋の中には、たくさんの色鮮やかな何かが詰められたビンや、毒草が置かれていた。


「…その…貴女は一体どういう人なんでしょうか…。」


「それに、どうしてここに1人で…?」


 女の人は、椅子に座ると、頬杖をついて口を開く。


「…シュイシュアン・リー。毒使い。よろしく。」


 シュイシュアンと名乗った女の人は、頬杖をついていない方の手をヒラヒラと振る。


「し、シュイシュアン……さん?」


「長ったらしいから、シュイでいいよ。」


「……あ、はい。えっと…。シュイさん。」


「何?」


「その、僕の解毒してくれるって……。」


「…あぁ。ちょっと待ってな。」


 シュイさんは椅子から立ち上がり、ジムの手に自分の手を重ねる。


「…メイ・ロン・フェイ・ドゥバ……。」


 シュイさんがそう唱えると、ジムの中に流れ込んでいた少量の紫色の毒が、シュイさんの身体に流れ込んで行く。


「……これでもう大丈夫。」


「…あ、ありがとうございます……。」


「よ、良かったねジム。少し毒が入ってたみたいだから、危なかったよ……って、待ってくださいシュイさん。今さっきシュイさんの身体に毒入りましたよね?僕の見間違いじゃないですよね!?」


 シュイさんは、僕の問いかけに、笑って答える。


「…あぁ。大丈夫。アタシ、自分に取り込んだ毒を体内分解して、それを力に変える能力を持ってるから。だから毒使いなんだ。アタシも、アンタらと同じ普通じゃない人間だからね。」


「普通じゃない……。まぁ、そうだよね。普通じゃない人じゃないと、エスカロッティに来られないし……。」


「……で、でも、助かりました……。本当にありがとうございました!!」


「……と、友達をありがとうございました!」


 僕達は2人揃ってシュイさんに頭を下げる。


「そ、そう言えば、シュイさんは、どうしてここに?ここって、珍しい幻想の園なんですよね?他にも、ここには人がいるんですか?」


「……そ、それは……なぁ……。」


 僕が質問した途端に、シュイさんは顔を歪めて目を泳がせる。


「……あ、アンタらもう早く帰りな……。こ、ここに来たことが学長や生徒会にバレでもしたら……。」



『やっと見つけたぞ!!!リー!!!』



 その時、家のドアが勢いよく開く。


「……ひ、ヒィィぃ!!!」


「あ、あなたは!!」


「……か、会長!!!」


 そこには、何故か会長が立っていた。


「貴様ら!よくやった!本来ここに学長の許可なく無断で入った者には罰を与えるのが決まりなのだが、今回は、このクリストファー・ペンドルトンの名において許してやる!!何故ならば!!」


「「な、何故ならば……!?」」


 会長は、シュイさんを指差して、目を光らせる。


「この男の居場所を突き止めてくれたからだ!!」


「突き止め……って……えええ!!??男ぉぉ!!??」


「…ど、どういうことですか会長ぉぉ!!??し、シュイさんが男って……!!!」


 綺麗な顔立ちとその出で立ちから、完全に女の人だと思っていたシュイさんがまさかの男。そして、何故会長が連れ戻しに来たのか……。僕らは頭が真っ白になってしまった。


「……いいか貴様ら。この男、シュイシュアン・リーは、我が学園のれっきとした生徒だ!俺とは同学年。だが、この通り奔放な自由人でな。毒の実験とか何とか言って、しょっちゅう消える。そのせいで、出席日数が足りていなくてな。本来、優秀な毒使いのため、前年度は7人の天才にも選ばれていたのだが、その不真面目さが故に、学長から資格を剥奪されている。」


「天才の資格を剥奪……。」


「…ようは、学園から逃げてたんですね……。」


「……なぁクリストファーよぉ……。アンタここまで何しに来たんだよ……。それにどうやってここを突き止めたんだ……。」


「理由は簡単だ!!アップルパイを作ろうと思って、マッジの森にリンゴを収穫に行っていた所、アーウィンブルーとカーネギーが幻想の園の方に入っていくのが見えてな。取り締まろうと思い着いていった矢先!!2人がお前と話しているのを目撃した訳だ!!」


「……リンゴ収穫……。アンタ相変わらずだな……。」


「アーウィンブルー。カーネギー。出来たらいるか?アップルパイ。」


「「いただきまーす。」」


「おいアンタら……!!俺を置いて勝手な話するんじゃないよ!!」


 シュイさんはいつの間にか顔を真っ赤にして怒っており、一人称も俺に変わっていた。


「……あぁ。すまない。では、手短に忠告して、連行するとするか。」


 会長はそう言うと、近くに置かれていた縄を取って一瞬でシュイさんを縛り上げる。


「……んなぁぁぁ!!ほどけ!!クリストファー!!」


「黙れ女装馬鹿男!!学長の所に連れて行く!!貴様らも帰るぞ!!」


「「……あ!!はい!!会長!!」」


「離せクリストファー!!!!」


 こうしてシュイさんは無事会長に連行され、帰ってから3時間たっぷりと学長先生に説教された後、復学することになったそうだ……。


「…やれやれ、また厄介な先輩に会っちゃったなぁ…。」


「……そ、そうですね。悪い人では、ないんですけどね。」


 普通じゃない僕らの夏休みは、まだまだ続く……。


第12章 fin.

第13章に続きます!

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