第11章 お茶会後奏曲
第11章です!ホラー展開注意です。
美味しいお茶菓子と、他愛もない高校生同士の会話であんなに楽しかったお茶会も、そろそろ、終わりを告げる。
「…貴様ら。お茶会はもう十分楽しんだだろう。では、カップと皿を片付ける。」
会長は指で操って僕らが使っていたティーカップやお皿を、隣の給湯室に持っていく。カップやお皿は宙を舞い、見事シンクに全て入っていく。
「…本当にすごいですね。会長…。」
「こんなこと造作もない。うちの学園には普通でない者ばかり集まっているのだからな。これが我ら、普通でない者達の普通だ。」
「クリス…。そろそろ。」
「あの話に移る時間やな。」
エイミーとピーターが表情を暗くして告げると、会長は頷き、指を鳴らして、テーブルに大きなアクリル版をおく。丁度、人1人置けそうなくらいの大きさのアクリル版を……。
「…会長…これは?」
「…まぁ黙って見ていろ。後、貴様らにマスクを一枚ずつ配布する。すぐにそれを着けろ。」
会長がもう一度指を鳴らすと、僕らの手元に1枚のマスクが現れる。僕らは会長の指示通り、そのマスクをすぐに着ける。
「…マスクって。一体どう言うことなんだろうな…コゼット。」
「さぁ…。僕も、これから何が始まるのか、よく分からないよ。ネロ…。」
僕とネロは、この奇妙な瞬間に、目を合わせて苦々しい表情を浮かべる。
「…さて。始める前に…。エイミー。」
「…うん。…グリ。お願いがあるの。グリのおまじないで、ここにいる全員の嗅覚の機能を、一時的に停止させて。」
「……え?……お、お姉ちゃん何言って…。」
「…いいから。これは、今から行われることに大事なことなの。」
エイミーは、普段のあの明るさとは打って変わって、少し厳しいような、怯えたような表情を見せている。
「…分かった。お姉ちゃん…。」
グリンダは制服のポケットからステッキを取りだし、まじないを唱える。すると、次第に僕らの鼻から、先程まで感じていた紅茶の香りや、茶菓子の甘い匂いが消えていく。
「……わ…本当に何も感じなくなった…。」
「…何の匂いもしないわ…。」
「…グリンダ、これ、後でちゃんと戻るのか?」
僕らは全員不思議そうな表情で思わず鼻を押さえる。アンも眉を潜めており、ネロは少し怖くなったのか、グリンダに尋ねている。
「大丈夫。これからすることが何なのかは、あたしにも分かんないけど、終わったら、ちゃんと戻すから。安心してね。」
グリンダの柔らかい笑みに、僕らは少しホッとする。
「…貴様ら、全員マスクは着けたな。じゃあ、始めるぞ。貴様ら後輩にこんなものを見せるのは酷だと思うのだが、情報共有だと思って、目を瞑ってくれ。準備はいいか?じゃあ、出すぞ。」
会長は苦虫を噛み潰したような顔をした後、また指を鳴らす。すると、アクリル版の上に、まるでサンタクロースがプレゼントを入れているかのような大きな袋が出てくる。
「……会長……これは……?」
会長は、少し躊躇った後、袋の口を開く。
「……見たくない者は目を瞑れ。」
「え?」
その瞬間だった。会長は、袋をひっくり返す。すると、アクリル版の上に、バラバラになった無惨な女性の死体が現れる。
「……お、おいこれ!!」
「…グリンダ!見るな!」
「おいおい何だよコレ!!」
「……ダイアナが……この場にいなくて良かったわ…。こんなの見たらきっと…。」
バラバラになった死体を見た瞬間に、僕らは絶句する。ネロは驚き、ラビニアはグリンダの目を隠す。ジャンは声を荒げ、アンは目を見開いて口元を手で押さえる。エポニーヌは眉を吊り上げて怒ったような顔を見せており、ジムは膝を着く。僕も、その場に立ち尽くしてしまう。バラバラに切り刻まれているものの、腹の部分には、食われた形跡があり、明らかにそこの肉が多く減っていた。
「……会長…。これって…。」
「…あぁ。この間、森の奥の川岸の近くの茂みで発見した。貴様らがマッジの森に埋められていた死体を発見してから、もっと後の話だ。」
目の前の無惨なバラバラ死体に、エイミーも、ピーターも、会長も、やりきれない表情を浮かべている。なるほど、会長が僕らにマスクを着けさせ、グリンダのまじないで、一時的に嗅覚の機能を停止させた理由も、これで全部分かる。遺体はかなり腐敗が進んでおり、嗅覚の機能を停止していなかった場合、僕らはみんな、この部屋にいることさえ出来なくなったことだろう。
「…会長…。これ、バートリーの仕業よね?」
エポニーヌが口を開く。
「…あぁ。ここにいる全員がもう気付いているだろうが、この女性のバラバラ死体は、あのバートリーによるものだ。俺達生徒会も、バートリー事件を追っていることは、貴様ら全員知っているな?」
僕らは会長の言葉に頷く。
「…最近になって、怪しい事例が多発してるのよね。マッジの森にも死体が埋まってたし、先月だって、普通の奴らが住む世界で、20代の女性2人の遺体が見つかってる。」
「…しかも、犯人の痕跡は何も残ってねぇ。遺体にはかじられた後もあった。もうそれしか考えられんやん?」
エイミーとピーターの言葉に、僕らは表情を曇らせる。
「…カニバリズム…。完全な犯罪…。」
「…エルゼベート・バートリー……。」
僕とネロはお互い歯を食いしばって目元を少し潤ませる。
「……ジム・カーネギー。」
「……え?……は、はい。」
会長は唐突にジムを呼ぶ。
「…貴様に頼みがある。このバラバラになった女性の遺体を、つなぎ合わせてくれ。貴様ら。マッジの森の時、遺体を弔うのを、学長に止められただろ?今回こそは、俺達の手で弔ってやろう。」
ジムは、会長からの申し出に、少し涙を溢しながら、大きく頷く。
「…はい!!僕にも…出来ることがあるなら…。」
ジムはそう言うと、涙を拭って、何かを唱える。
「…糸、針、鋏…。全てを僕の手に!」
すると、ジムの前に、普通とは違う透明な美しい糸と針、治療用だと思われる鋏が出てくる。ジムは、ポケットからゴム手袋を取り出すと、それを装着して、一度息を吐く。
「…グリンダ先輩。1つお願いがあります。この遺体の腐敗が、もうこれ以上進まないように、おまじないをかけてください。」
グリンダは、ジムの申し出に一歩前に出る。
「…分かった。じゃあ…おまじないかけるよ…。」
グリンダはステッキを振って、遺体の腐敗がこれ以上進まないようにおまじないをかける。おまじないがかかった状態の遺体は、薄い緑色の光で包まれ、腐敗した所が段々と浄化されていく。
「……ありがとうございます……。じゃあ、縫合処置を始めます!!」
ジムは、針に糸を通して、バラバラになった部分をつなぎ合わせていく。糸はどれだけ使っても尽きず、針は固くなった部分にもスッと入っていく。
「……ネロ。ジムには、あんな力があったんだね……。」
「…あぁ。普段は少し頼りねぇけど、流石は7人の天才の1人。"治しの天才" ジム・カーネギーの名は、伊達じゃねぇな。」
「……治しの天才…。」
どうやら、ジムはエスカロッティの街出身で、父は、街の開業医らしい。幼い頃から、素晴らしい街の医師である父を見て育ったジムは、いつからか、自身も医師を志すようになったのだとか。
「……必ず…元の身体に治して見せますから……!」
ジムは汗をかきながらも、真剣な表情で縫合処置を続ける。
「……ジム……。すごいなぁ……。」
「7人の天才には、それぞれ天才と呼ばれる由縁があるわ。ジムなら、どんな怪我でも治せるし、私には、幻惑能力がある。霊視が出来て、降霊術もあれだけ上手いコゼットなら、いつか本当に、天才の1人になれるかもね。」
「……ありがとうエポニーヌ。」
僕はエポニーヌに言われて、少し笑顔になる。そして……。
「……出来……ました!!」
ジムは最後の糸を鋏で切る。すると、先程まで見るも無惨だった遺体が青白い光に包まれ、次の瞬間には、まるで今でも生きているかのような、美しい女性の姿に変わった。
「……わぁ……こんなに……綺麗な人だったんだ……。」
「……心が痛むわね…。こんなに若くて綺麗な人が、食われて殺されるなんて……。」
僕はアンの言葉に表情を曇らせる。
「…カーネギー。……ありがとう。貴様のおかげだ。」
「……そ、そんな……わぁっ……!!」
ジムは全てが終わって力が抜けたのか、その場にた倒れ込んでしまう。
「……じ、ジム!!」
僕はジムの側に駆け寄り、身体を起こさせる。
「……あ、ありがとうございます…。コゼットくん…。」
「…カーネギー。今度、礼をさせてくれ。夏休みにでもな。」
「じゃあ、この遺体は、後で生徒会で埋葬してから。」
「みんな心配せんでいいけんな~。俺らが完璧にやっておくから。大丈夫!!生徒会には、俺がいます☆」
「ピッタン今そう言うのいいから…。ありがとね。みんな集まってくれて。グリもおまじないサンキュー!」
「…ううん。お姉ちゃん達の役に立てたなら…。あ、終わったから嗅覚機能戻さなくちゃね……はい!」
グリンダがおまじないを唱えると、僕らの嗅覚機能が徐々に戻って来る。
「……わぁ、戻った!」
「さっすがグリ!ナイスアシスト!ありがとね!」
「…今のがアシストかどうかは分かんないけど……。どういたしまして…。」
「…7人の天才達…。それと、アーウィンブルー。今日はわざわざありがとう。貴様らに充実した夏休みが訪れる事を願っている。……では、今日は解散!!」
こうして、どこか奇妙で、不思議なお茶会は幕を閉じ、僕らは翌日、無事に1学期の終業式を終えた。そして、この学園に来て初めての夏休みが始まるのだった。
第11章 fin.
第12章、コゼット達の夏休みが始まります!




