第10章 お茶会前奏曲
第10章です!お茶会始まります。
夏も深まる7月19日。そう。明日は1学期の終業式。そして今日は、生徒会と、この学園の7人の天才が集まる、公式のお茶会の日だ。僕、コゼット・アーウィンブルーは、この、奇妙キテレツ、不可思議なお茶会に招待された…。理由は、僕が、あのバートリー事件を追う仲間内の中心人物だから…。僕達がバートリー事件を追う裏で、実は生徒会も密かにバートリー事件を追っていたらしく、今回のお茶会では、バートリー事件に関しての、意見交換会の場も設けているらしい。だけど、僕はまだ、生徒会と7人の天才、そして、学長先生しか入ることを許されないこの特別室のドアを、開けられずにいた。
「…生徒会長と副会長……どんな人達なんだろう…。」
生徒会長、副会長共々、僕は会ったことも見かけたこともない。グリンダのお姉さんで、書記のエイミーは、生徒会長は頭がキレて、副会長は観察眼が鋭いと言っていた。だが、信用に足る人物かどうかは、まだ僕には分からない。
「会ってみないと…始まらないよね…。生徒会長と副会長が、信用に足る人物かどうかは、僕の目で見て判断するんだ…。」
僕は思いきって取っ手に手を掛け、ドアを開ける。すると、中には、もう全員が揃っていた。皆少し緊張した面持ちで座っている。あのジャンでさえも。それはおそらく、部屋の中心に座る眼鏡をかけたアイスブルーの髪を持つ人物の威圧感によるものだろう。
『…5分遅刻だ。アーウィンブルー。』
「あ…ご、ごめんなさい…。なかなか、この部屋に入る勇気が出なくて…。」
僕はその眼鏡の人物に遅刻を咎められ、少し萎縮してしまう。
『まーまーいいやんかクリス。そんなん咎めんでも。えっと…コゼットやったっけ?やっぱこの部屋に入るの最初緊張するよなぁ~。俺もやったわぁ~。』
「は、はぁ…。」
唐突に口を挟んできた銀髪の明るい人物は、眼鏡の人物から、何故か僕を庇ってくれる。
「もークリス!コゼいじめないでよ!あんたがそんな威圧感出してるから皆緊張するんでしょ!?バーカ。頭でっかち!堅物メガネー!」
エイミーはいつもの調子でクリスと呼ばれた眼鏡の人物をいじり始める。……クリス?その名前どこかで……。
「…黙れ尻軽女…。」
「なんですって!?堅物メガネ!」
「まーまーやめろよ2人とも!後輩困ってんぞ?ごめんなみんな。こいつらホントすーぐ喧嘩するけんさ~。…あ!お茶会始める時間過ぎとるやん!ほら見ろ!お前らがくだらん喧嘩するけんや!…コゼット!お前の席ネロの隣な!」
「…あ、はい。ありがとうございます…。」
僕は銀髪の人物に促され、ネロの隣に座る。ネロも少し緊張したように震えており、僕の前に座るアンも、ぶつぶつと何かを言っている。
「…ふん。まぁいいだろう。それでは、1学期の、ティーアレスタを始める。」
「…ネロ。ティーアレスタって…?」
「…あ、あぁ、お茶会のことだよ。」
「…そんな風に呼ぶんだ…。」
「アーウィンブルー、パフライード!!私語は慎め!」
「「す、すみません!!」」
眼鏡の人物は、僕達を見て顔をしかめると、咳払いをする。
「…それでは、今日は何も知らない新参者がいると言うことで、我々の自己紹介から始めよう。…あぁ、エイミーとはもう面識があるんだっけか…。」
眼鏡の人物は、その切れ長の瞳で僕をじっと見てくる。
「…はい。エイミー…先輩とは、もう会っています。」
「…そうか。ならば俺とピーターだけでいいな。じゃあピーター。貴様から。」
眼鏡の人物がそう告げると、銀髪の人物がその場で立つ。
「ほーい。えっと、俺はピーター・シュギット!3年。生徒会副会長をやってまーす。よろしくな。えっと…能力は…こんな感じ。」
副会長、ピーターは、僕を見てウインクをすると、一瞬で、その姿が僕に変わる。
「…ぼ、僕が…もう1人!?」
「へっへー!!驚いたかコゼット!そう!俺の能力はつまり変身!認識したやつになら誰にだってなれるヤバい能力だぜ!すげーやろ!?」
ピーターはそう言うと、一瞬でまた元のピーターに戻る。
「…す、すごいです…。素直に…驚きました。」
「やろ?いや、やっぱ俺神やわ。」
「ピッタンうるさーい。そろそろクリスに変わってあげてー。」
「んだよエイミー!人がせっかく、俺の勇姿を後輩にもっと見せようと……」
「お前の勇姿はもう結構だ。ピーター。」
「…なんだよ……。もっと見てもらって先輩すげー!とか言われたかったのに…。」
「ナルシおつー(笑)」
「エイミーお前ホント可愛くねぇ!グリちゃんと大違いだ!なーグリちゃーん!お前のねーちゃんこえーよ!……いってぇぇ!!!」
ピーターは下心があるのか、グリンダの肩に触れようとするが、それをラビニアに叩かれて払われる。
「触んな。」
「……は、はい。……ごめんなさい……。」
「さすがラビニア…。この学園の男子の頂点…。」
「俺らの兄貴は伊達じゃねぇな…。」
僕とネロはラビニアを見て苦笑する。
「下賎なことをするなピーター。すまんな。グリンダ。こいつが…。」
「ラビニーいるから平気です。」
グリンダは相変わらずバッサリと切る。
「…エイミー。お前の妹、やはり強いな。」
「でしょ~。自慢のいもーとだよ~。」
「では、俺の番だな…。」
眼鏡の人物はその場に立ち上がると、僕を見て口を開く。
「俺の名は、クリストファー・ペンドルトン。この学園の生徒会長だ。」
「こいつ。俺のマイベストフレンド。」
「黙れピーター。」
話のペースを乱してくるピーターに少しキレながらも、会長は一度咳払いを挟み、話を続ける。
「…趣味はお菓子作りだ!!」
「……は……ぁ……?」
僕は会長の趣味を聞いて唖然とする。
「…貴様……今イメージと真逆だって思っただろ…。」
「…あ、はい!思いました!……って……あ、ち、違います!」
「黙れアーウィンブルー!はっきり言っておいて言い逃れ出来ると思うなよ…。」
すごい圧だ…。僕は思った。……この人……怖い。
「…ふん。まぁ食べてみろ。せっかくのお茶会だからな。意見交換とやらの前に、ここに集まった皆で楽しまねば…。」
会長が指を鳴らすと、目の前に、とても綺麗なティーセットが出てくる。現れたティーポットは、会長の指の動きに合わせて、ティーカップにお茶を注ぐ。
「…え、エイミー先輩!会長の能力って…もしかして。」
「そう!物を自在に操って動かす能力。一種の超能力ってやつね!」
僕はこの能力に感心した。先程の緊張感も忘れてお茶会の雰囲気を楽しみ始める。そして……次の瞬間。
「…ふん。驚くのはまだ早いぞ。」
「え?…わぁ……何これ……!?」
僕らの目の前に用意されたお皿に、それぞれ色の違うマカロンが現れる。僕のマカロンは青だ。
「…これ…もしかして会長が…?」
「決まっている。」
「…コゼット。すごいでしょ?会長のお菓子。美味しいのよ?」
エポニーヌにそう言われ、僕は目の前のマカロンに釘付けになる。
「…イチゴ…。」
「アン、イチゴ好きだもんな。」
「そう言うネロは何?…バナナ?」
「…多分。」
「お姉ちゃん!あたしメロンだよ!」
「ちゃーんとクリスに言っといたからねー!グリはメロン好きだって!」
「お姉ちゃんは…りんごだ!」
「あったりー☆」
「…なんだか、この姉妹のやり取り……可愛いね。」
「だな。…あ、そうだそうだラビニア!お前は?」
「…チョコ。にげーやつ。」
「…お、俺が食えねぇやつじゃねぇかよ…!お前のと合わせて、チョコバナナマカロンにしようと思ってたのによ!」
「…お前俺の茶菓子取る気だったのかよ!!」
「おーいチビコゼットー。お前のよこせよ。その青いの美味そうじゃねぇか。」
「君にだけは絶対にあげないよ、ジャン。君のマカロンこそ、真っ黒で美味しくなさそうだね。」
「馬鹿野郎。これは黒ごまだよ。美味いんだよ。」
「あーそう…。ねぇジム。君のは?すごく綺麗な色だけど…。」
「僕のは…バタフライピーですね!」
「わぁ美味しそう!それにオシャレ……。」
「コゼットくんのは?」
「匂いからして…ブルーハワイ?かな?爽やかな感じだよ。」
「私のはフランボワーズよ!コゼット!」
「エポニーヌのも美味しそうだね!」
僕達は皆で楽しそうにお茶会の茶菓子の話をする。
「俺のこれ何だ…バニラ?」
「あぁ。お前のはとびきり甘くしてある。」
「嫌がらせかよ。なぁお前俺のマイベストフレンドだろ?…あ、じゃあこれの甘さを緩和するためにお前のラムネマカロン貰うわ。」
「そんなものになった覚えはない。それにこれも渡さない…。だが、今はそんなことはどうでもいい!!」
「いいのかよ。」
会長は急に後ろを向く。
「…後輩達が…俺の…俺の作ったマカロンを喜んでくれている…!こんなに……こんなに嬉しいことはない!」
「…お前って意外と感動屋だよな…。」
「黙れ!それよりも!お茶会だぞ!あ!貴様ら!先にお茶だろ!茶菓子から食うやつがあるか!!」
こうして、会長の厳しいのか、厳しくないのか分からない指導の元、お茶会が始まった。
「……わぁ!美味しいです会長!」
「……ふん。当然だ。」
会長お手製のマカロンは、とっても美味しかった。見た目を裏切らない上品で繊細な味に、僕は思わず頬を緩ませる。
「ねーグリー。グリのマカロン1口ちょーだい。」
「え~?やだよお姉ちゃん。だってお姉ちゃんの1口大きいんだもん…。」
「えー?いいじゃん1口~!」
「…妹から奪おうなどとは、相変わらず下品な女だな。」
「…あ"…今なんつったクリス?」
「まーまーやめよーや。お茶菓子うめーし、お茶もうめーし、お前らのくだらん喧嘩が無かったら最高やな。」
お茶会は賑やかで、思ったよりも、楽しく和やかな時間が続く。
「ねぇ…ネロ。本当に…この後に、バートリー事件の意見交換会するの……?僕、出来ればこの楽しい雰囲気で終わってほしいんだけど…。」
「…だよな…。俺もそうだけど…。」
僕はネロと共に、このお茶会が辿る先を恐れていた。この先の話がどうなるかは分からないけど、僕は僕の目で見てみて思った…。会長と副会長は…きっと信用に足る人物だ…。信じてみよう…。生徒会を…先輩達を…。
- そして、少し奇妙なお茶会は続く -
第10章 fin.
第11章に続きます。お茶会も続きます。




