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第0章 不気味な谷エスカロッティ

エスカロッティの7人始まります。どうぞ楽しんでくださいね!

 人と言う生命体の多くは、周りとは違う、"普通ではない者"を排除しようとする傾向にある。

 学校と言う小さな箱に詰め込まれた僕達は、その中で生活する選択肢しか与えられていない。それなのに、その小さな箱に詰め込まれたアリのような僕ら子供は、やがて、自分とは違う者、言わば、"普通ではない者"を見つけると、それを排除しようと、必死になる。いつもはバラバラなくせに、"普通ではない者"を排除する時だけ、その成熟しきっていない小さな体から滲み出た悪意は1つになる。汚い手を使い、陰口、暴力、無視、デマ、何でもあり。傍観者だってたくさんいる。本当に狡い奴等ばかり。


「もう…死んでしまおう。」


 僕の名前は…あぁ、言わなくても大丈夫か。僕、もうすぐ死ぬんだもんね…。名前なんて覚えて貰う必要ないよ。


僕は昔から幽霊の類いが見えた。ただ見えるだけじゃない。喋る事だって出来るんだ。でも、それは周りの皆とは違う。普通じゃない。気味悪いよね。分かってる。僕は昔からこの不可思議な力のせいで、仲間はずれにされ、いつもいじめられてきた。高校1年になった今もそれは変わらず、クラスメイトから陰口を叩かれ、無視をされ、毎日暴力を受ける始末。小さい時からそうだったから、もう慣れたはずだったけれど、慣れるものなんかではなかった。


「何で僕は、周りと同じ、普通の子として、生まれてくる事が出来なかったんだろう…。」


 意地悪な神様。どうして僕の人生はこんなにも暗いのでしょう。僕の人生に、今まで光が差したことなんてなかった。幼い頃に、両親を事故で亡くし、ずっと、唯一の味方でいてくれたお祖母ちゃんも、この間病気で亡くなってしまった。家族を亡くして、学校でも居場所が無い僕には、もう、ほんの少しの生きる価値も希望も残っていない。


「お母さん、お父さん、お祖母ちゃん。ごめん。僕、皆と同じ所にはいけないや。でも、許してね。僕は、これまでの人生を、こんなでも…精一杯生きたつもりだよ。だから、最後くらいは、『頑張ったね』って、褒めてくれたら嬉しいな…。」


 僕は学校からの帰り道、入ったら二度と生きて帰っては来れないと言い伝えられている、リグバート山に入った。汗と涙を流しながら、登って登って、僕の死体が見つからないような場所を見つけた。そこは気味の悪い洞窟で、自殺を図るには、僕なんかには勿体無さすぎる場所だった。


「…これで、この何の希望も持てない人生をやっと終わらせられる。…さようなら忌まわしいこの世界。意地悪な神様。最後のお願いです。次に生まれてくる時は、どうか普通の子として…この世に生を受けさせてください。」


 この世の暇乞いを終わらせ、リュックから取り出した包丁を喉元に突きつけようとしたその瞬間だった。急に2匹のカラスが僕を目掛けて飛んできて、僕の包丁を奪っていった。


「あ!な、なんてことするんだよ!僕はこれから死ぬ所だったんだ!邪魔しないでくれよ!返せ!僕の包丁!」


 カラスは木の上に止まり、2羽で顔を合わせると人間のように笑い出す。


「アハハ!見ただろう?相棒。こいつ死のうとしてたんだってよ!」

「アハハ!バカだなこいつ。せっかく"ここ"に辿り着けたって言うのに勿体無いやつだなぁ!」


 カラスは巧みに人間の言葉を喋りながら、木の上から僕を嘲り笑った。


「か、カラスが喋るなんて…もう…とうとうおかしくなったのか?幽霊が見えたり…喋れたりするだけじゃなく、カラスが喋る瞬間まで見てしまうなんて!」


 僕は自暴自棄になり、髪を振り乱してその場に手を着いた。汗と涙にまみれて、思いっきり声を枯らして泣いた。


「もう死なせてくれよ!カラスも幽霊も、僕自身ももうどうだっていいよ!もう…僕は一秒だって生きたくないんだ!あっち行ってくれよ!」


 僕が叫ぶと、2羽のカラスは僕の元に黒い翼を羽ばたかせて降りてくる。


「まぁまぁ少年。そんな自暴自棄になるな。お前の年齢なら、道なんていくらでも開けるだろ。」

「青髪の女の子みたいな小さな少年。生きるのを諦めるな。もうお前の道なら…開かれ始めてる。何故ならば…」


「な、何故ならば…?」


「「"ここ"に辿り着くことが出来たからだ!おめでとう少年!そして…ようこそ!現実と幻想の狭間……エスカロッティへ!!」」


 2羽のカラスは声をあげて同時に飛び上がる。僕が汗と涙を拭って立ち上がると、そこは先程の山でも、洞窟でもなく、濃霧立ち込める不気味な谷だった。


「エスカロッティ…現実と幻想の狭間…。」


僕はその不気味な谷を一望する。


「そう!エスカロッティ!いいかい?ここには普通の人間は、辿り着くことさえ出来ない!今までここに辿り着けた人間は、お前と同じように"普通ではない"不可思議な力を持っていた。」

「そして、お前は、幽霊を視て、それと語らう力を持っている!文句無しの力だ!グリムジレッタ学長が喜ぶぞ~!新しい生徒が増えるんだからな!」


 僕はカラスの話の意味が全く理解出来なかった。普通の人間は辿り着くことさえ出来ない不気味な谷、エスカロッティ。僕の気味の悪い力が文句無しと言う点。そして、グリムジレッタ学長と言う謎の人物。


「…待ってくれよ…!さっきからどう言う事なんだよ!不気味な谷とか、僕の力が文句無しとか!それに…グリムジレッタ学長って誰だよ!」


 僕は沸き上がるどうしようもない感情に身を任せてカラスに激しい言葉を投げ掛ける。だが、カラスはそれでも動じない。


「落ち着け少年。まずは着いてこい。」

「そうだ。グリムジレッタ学長の所まで案内してやる。」


 僕は、今まで感じたことのない大きすぎる不安に呑まれながらも、もうどうにでもなればいいと思い、カラスに着いていく。足場の悪い道を進み、途中、雨が降り、強い風が吹いて嵐となった。だが、僕の心は冷静で、そんな嵐など、気にもならなかった。


「少年。着いたぞ。」

「そんな死んだような顔するな。ほら、前を見ろ。」


 僕はカラスの声に気付き、雨で濡れ、泥まみれになった身体のまま、ゆっくりと顔をあげる。


「…な、なんだこれ……。」


 僕の目の前に現れた大きな影。…それは、紛れもなく、中世の貴族達の居城だった。固く鋭い黒塗りの大きな門。門番のように立ちはだかっている2匹のガーゴイルの像。歴史書でしか見たことのない風景が、僕の目の前に広がっていた。


「…ここは…?貴族の…いや、王族の城?」


「違うぞ少年。ここは、学校だ。」


 学校。そう聞いた瞬間に、今までの悪しき記憶が甦る。


「…が、学校!?ここが!?…君達僕を騙したな!僕は学校って言うものが大嫌いなんだよ!君達2羽は…僕をまた苦しみに突き落とすためにここまで…ここまで連れてきたっていうのか!?」


僕は怒りに身を任せてカラスに暴言を吐く。


「苦しみに突き落とす?そんなバカな。この学校は、普通の人間が集まるような学校ではない。お前のような"普通ではない者"達のための学校なんだ。」

「そうだぞ少年。"普通ではない者"を貶めて私腹を肥やす無様で愚鈍な人間はここにはいない。安心しろ。お前学生だろ?」


「…こ、高校1年…。一応…。」


 僕がなんとか声を絞り出して答えると、カラスは目を合わせて笑う。


「なら丁度良い!少年、よく聞け!ここは……

        アンナ・グリムジレッタ記念学園!」

「偉大な霊能者、アンナ・グリムジレッタ様が御創りになられた、"普通ではない者"のための学校だ!」


 アンナ・グリムジレッタ記念学園。初めて聞く学校の名前。霊能者が創った"普通ではない者"のための学校。僕は、学園から感じるその圧倒的な力に唇を震わせている。


「そういえば…名前聞いてなかったな。少年」

「そうだ。いつまでも少年で通すのは悪いな。」


「コゼット…。コゼット・アーウィンブルー。」


「そうか……じゃあコゼット!改めてようこそ!」

「アンナ・グリムジレッタ記念学園へ!」


僕は、カラス達に初めて名前を告げた。え?さっきもうすぐ死ぬから名前は言わなくてもいいって言った?ごめん。それは忘れて。


「お母さん、お父さん、お祖母ちゃん。さっきはごめん。はやまったりして。僕…もしかしたら道が開けるかもしれないんだ。普通じゃないことを今まで責めて、疎んでいたけど、それも悪くないかもしれない…。僕、もうちょっと頑張ってみるよ。」


『よく決心しましたね。コゼット・アーウィンブルー。私の新しい可愛い生徒。』


 僕は急に後ろから響いた声に振り向く。そこには大きな杖を持った美しい女性が立っていた。長い黒髪は嵐になびき、青白い肌に真っ赤な唇が、異様なほどに魅力的に見えた。


「「アンナ・グリムジレッタ様!」」


「…アンナ・グリムジレッタ…この人が!?」


 そう。僕の元に現れた女性こそが、この学園の創設者であり学長。アンナ・グリムジレッタだったのだ。


「初めまして、コゼット・アーウィンブルー。貴方が学園に来ることは分かっていましたよ。可哀想に…。"普通ではない者"だからと言って、迫害を受けるなんて…。でも、もう大丈夫。私の学園に辿り着いたからにはもう安心。心配なんて要りませんよ。…霊視をし…語らう…。素晴らしい能力ね。」


「…な、何でそれを…?」


「あら、この2羽のカラス達は私の使い魔なの。そして、この子達の瞳は私の持っている霊魂の水晶と繋がっている。だから何でもお見通しよ。……さぁ、嵐が強まってきたわ。まずは編入手続きをしなくてはね。門を開けて、新しい生徒のお通りです!」


 グリムジレッタ学長が声を張り上げると、門が開き、濃霧が晴れる。そこには、広い敷地に、豪勢な建物が並んでいた。


「どう?とても素敵な学園でしょう?」


「…はい。で、でも学長…。編入って…。」


「貴方は学生。学生の本分は勉強。それを怠ってはいけない。そして、貴方の新たな道を開くためにも、貴方にはこの学園で、私の可愛い生徒達と共に、明日から一緒に学んでもらいます。よろしいですね?」


 学長の言葉に、僕は何故か初めて…希望を持てたような気がする。僕と同じ"普通ではない者"が集まる学園と言っても、楽しい学園生活が送れる保証はない。だけど……


「…はい。僕…ここの学園で…学んでみたいです。」


 もう一回…かけてみたいんだ…。暗かった僕の人生。今までは、どうにもならないと思って、自分から何も解決しようとしなかった。だけど…思わぬ事態から…道が開きかけている…。


「神様…。意地悪な神様…。最後のチャンスをくれてありがとう。僕…自分の力で頑張ってみます。」


 僕はグリムジレッタ学長に着いていく。いつの間にか嵐は止み、雲間には一筋の光が差し込んでいる。


「…よろしく。新しい人生!」


第0章 fin.

第1話に続きます。読んでくださりありがとうございました!

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