7話 奥の手
剣と魔法の稽古を始めて一年が経った。
国の行事がある日など、どうしても外せない時以外は全て稽古をした。
剣に励み。
魔法に励み。
鍛えて鍛えて鍛えて……
騎士団長より強くなり、宮廷魔法使いより多数の魔法を使えるようになり。
それでも尚、稽古を続けた。
おかげで、だいぶレベルアップしたと思う。
きちんと計っていないが、50くらいだろうか?
ちなみに、この世界は、わかりやすくレベルの概念がある。
騎士団長は30ほど。
宮廷魔法使いは40ほど。
それを考えると、けっこう強くなった。
一年で二人を追い抜くことができたのは、これも改造コードのおかげだ。
経験値入手設定をいじっていたため、一気にレベルアップした、というわけだ。
しかし、足りない。
ぜんぜん足りていない。
グランハイド王国では屈指の強者になったと思う。
ただ、世界レベルで見たら、まだまだ下から数えた方が早い。
原作だと、レベル80の猛者がそこら中にあふれていたからな。
カンストの99もたくさんいる。
むしろ、カンストしてからがゲームスタート、と言われているほどだ。
公爵令嬢と聖女は、そんな化け物達に立ち向かわないといけない。
彼女達に恩を売るのなら、もっともっと強くないと話にならない。
現状、ただのお荷物だ。
「だから、もっともっと改造コードを研究しないと」
この一年の研究で、少しずつ世界のプログラムについて理解してきた。
おかげで、改造コードで十倍までの数値を設定できるようになった。
ただ、数値を書き換えるだけでは足りない。
時に、改造コードはもっと大きな力を発揮する。
「たとえば……なんてことのないアイテムを伝説の装備に入れ替えたり、とかな」
特定の数値を書き換えることで、アイテムをまったく別のものに変化させる。
そんなことも可能なのだ。
「とはいえ、伝説の剣のコードなんて、簡単に調べられないだろうから……今は」
近くに落ちている木の枝を拾う。
なんてことのない普通の木の枝だ。
「……よし、やるか」
集中。
まずは、木の枝に割り振られているコードを解析する。
どこにでもあるような木の枝なので、すぐに解析は完了した。
続けて、木の枝のコードを書き換えていく。
先日、訓練の途中で木剣のコードを解析して、覚えておいた。
それを、この木の枝に上書きしてやれば……
「できた!」
木の枝が光に包まれて……
収まった後、木の枝は木剣になっていた。
「うん。最初にしては、いい感じじゃないか?」
軽く素振りをして、感覚を確かめてみる。
いい剣だ。
「まずは、第一段階をクリアーだな。続けて、第二段階にいくか」
木の枝から木剣を生成する。
それはそれですごい能力ではあるが……
ノクトがバッドエンドに立ち向かうには、物足りない力だろう。
もっと上を目指さないといけない。
「というわけで……今度は、木剣のステータスを書き換えるか」
改造コードで、特定のアイテムの数値を書き換えることが可能だ。
たとえば、ポーション。
三十しか回復しないポーションでも、改造コードで、三百にすることができる。
それと同じ要領で、木剣の攻撃力を引き上げてやれば……
「……」
再び集中。
木剣を体の一部とするようなイメージで、魔力を伝わせていき……そして、木剣のコードを書き換える。
木剣の攻撃力は三。
それを十倍の三十に引き上げる。
魔力が輝いて、それが木剣に染み込んでいく。
「さて……うまくいったかどうか、さっそく試してみようか」
改造コードで数値をいじった木剣を、近くの岩に叩きつけてみた。
普通なら弾かれるか、折れておしまい。
でも……
ザッ!
木剣は岩に深く食い込んだ。
実験は成功だ。
改造コードのおかげで、この木剣は、木剣ではありえない力を持つことができた。
「よしよし、いいぞ。これなら、切り札と呼べる力になるだろうな」
今はまだ、木の枝を木剣に変えて。
そして、その木剣を強化する程度。
しかし、いずれは真剣を伝説の剣に変えて。
さらにその威力を底上げできるようになってみせる。
それだけのことができるのなら、バッドエンドに抗うための大きな力になるだろう。
この力で未来を切り開いて……
バッドエンドを回避してみせる!
「そのためにも、もっともっとコードの解析を進めて……ん?」
ふと、悲鳴が聞こえてきた。