表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/38

2話 小さなフラグも潰していこう

 コンコン。


 考えがまとまったところで、扉をノックする音が響いた。


「はい? どうぞ」

「失礼します」


 城で働くメイドが姿を見せた。


「……」

「どうかした?」

「えっと、その……」


 メイドはどこか怯えている様子だ。

 なにかあったのだろうか?


「その……陛下が、殿下のことを呼んでいらっしゃいまして……」


 それだけのことを伝えるのに、なぜ怯える必要があるのだろう?


 ……ああ、そういうことか。


 原作では、ノクトは幼い頃からクズだった。

 わがままを体現したかのような性格。

 少しでも彼の機嫌を損ねてしまえば、仕事はクビになってしまう。

 クビはまだマシな方で、あらぬ罪で投獄されてしまうこともある。


 幸い、今の俺は、まだそこまではやらかしていないみたいだけど……

 常日頃から横柄な態度を取っていたから、メイドはそれに怯えているのだろう。


 ものすごい罪悪感。

 記憶を思い出すまでの俺、なにをしていたんだよ……


「そっか、了解。伝えてくれてありがとう」

「え?」


 メイドは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔に。


「ま、まさか……で、殿下からそのようなお言葉を、い、いただけるなんて……」


 そこまで感動すること?


 いや、まあ。

 今までの俺がなにをしていたか、そこはしっかり覚えているから、メイドの反応は当たり前ではあるのだけど。


 ノクトって、子供の頃からクズすぎるだろう。

 待望の一人息子だからと、徹底的に甘やかされてきた結果だ。


 でも、それももう終わり。

 これからは真面目なノクトになる!

 清きノクトに一票をお願いします。




――――――――――




「父上、お呼びでしょうか?」


 父……グランハイド王国第二十代国王グライエン。

 歳は六十近いのだけど、歳を感じさせないほど見た目は若々しい。

 体もしっかりと鍛えられていて、病とは無縁だとか。


「……」

「父上?」

「あ、いや……すまないな。お前が、まさか、そのように礼儀正しく挨拶ができるとは思っておらなんだ」


 そういえば俺、実の父親であり国王でもある父上に対しても、相当酷い態度をとっていたな。

 王子ではあるものの、今まで、よく処刑されなかったと思う。


「今日は、真面目な話のように感じましたので」

「う、うむ。そうだな……実は、お前の日頃の言動について話をしておきたい」

「俺の……っ!?」


 まずい。

 これ……バッドエンドに繋がるフラグの一つだ!


 幼い頃からわがまま放題だったノクトに、王は我慢の限界に。

 溺愛しているとはいえ、時期国王なのだから、もっとしっかりしてもらわないと困る。

 そこで呼び出して、説教をすることになるのだけど……


 この時のノクトは、はいはいと適当に話を聞き流す始末。

 そのせいで王からの信頼を失い、その後、連鎖的に王宮内の味方が消えていく。

 味方を失ったことで、後々で起きる事件で誰もノクトの味方にならず、孤立無援状態になり詰む……という終わりがある。


 そのフラグが、まさか、前世の記憶を思い出した今日だとは。


 まずいな。

 バッドエンドを回避したいが、なにも対策を立てられていない。

 このままだと……


 ……いや、そうでもないか。

 さきほどのメイドの反応を思い出した。


 そう。

 すでに答えはある。


「申しわけありません」

「う……む?」

「父上に心労をかけてしまったこと。心配をかけてしまったこと。ここに、深く謝罪いたします」

「そ、そうだな……?」

「俺……いえ、私の行動について、色々と懸念をしていたことでしょう。もっともな話です。私自身、今までを振り返ると、その愚かさに目眩を覚えてしまうほど。罰が必要というのならば甘んじて受けましょう。ただ、挽回の機会をいただきたい」

「挽回……とな?」

「信じていただけないかもしれませんが、私は目が覚めました。自身の愚かさに気づきました。これからは、己のためではなく、周りのために動いていきたいと思います。もちろん、この場を逃れる方便と疑うのも仕方のないこと。なので、しばしの猶予をいただければ幸いです。これから少しの間、私を見ていただけないでしょうか? 私が、以前の私を捨てたこと……それを、これからの行動で示していきたいと思います」

「む、むぅううう……」


 俺の策は、とても単純。

 誠心誠意の謝罪をして、それと、見守ってほしいとお願いをする。

 それだけだ。


 でも、これはけっこう効果的だ。


 不良が良いことをしたら、ものすごい善人に見えるように。

 マイナス評価しかない俺がこのようなことを言えば、すごいプラス効果が出る。

 ギャップの差、というやつだ。


 父上は優しい。

 そして、俺を溺愛している。

 反省するところを見せれば、あのメイドのように……


「……うむ、わかった。今日は、お前の日頃の言動について注意をして、罰を与えようと思っていたが、それはなしにしよう。信じさせてほしい」


 よし!

 いい展開だ。

 評価がマイナスになることはなくて、むしろプラスに向いたような気がする。


 とはいえ、油断したらいけない。

 この場を乗り切っただけで、バッドエンドに繋がるフラグは山のようにある。

 油断せず慢心せず、堅実に生きていかないとな。


 六歳からこんなことを考えるなんて、なかなか疲れるのだけど……

 前世を足せば三十歳以上だ。

 その度胸と知識でなんとかなるだろう。


「これからに期待させてもらうぞ」

「はい」

「ただし」


 父上は厳しい表情を作る。


「ノクトの言葉を無条件で信じることはできぬ。これからのお前を見させてもらうが、それだけではなくて、儂の出す試練を乗り越えてもらう」

「試練……ですか?」

「うむ。元々考えていたことではあるが……剣と魔法を学んでもらう。そうして力を身に着けて、儂の期待に応えられる器であることを示してみせよ」


 実のところ、剣と魔法の稽古は次の死亡フラグに繋がっている。

 ただ、逆にこの展開を待ち望んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇◆◇ お知らせ ◇◆◇
既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ