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12話 公爵令嬢は照れている

 セフィーリアは、一言でまとめると、めんどくさい子だ。


 やたら攻撃的で、今そうしてみせたように、相手が誰であれ口撃を緩めることはない。

 口を開けば毒舌と皮肉が。


 天上天下唯我独尊。


 誰に従うこともなく。

 ただひたすらに己の道を突き進む。


 ある意味で、究極のわがままだ。


 ……とはいえ。


 それは、セフィーリアの本当の姿ではない。

 攻撃的な性格は、自分を守るための鎧。


 公爵令嬢という立場故に、彼女は敵が多い。

 血の繋がった家族でさえも、時に敵となる。


 だから隙を見せることはできない。

 親しい人を作り、心を許すことはできない。

 それらの行動の一つ一つが破滅に繋がるかもしれないから。


 故に、必要以上に攻撃的になる。

 人と人の交流は、遠ざけることしか知らないから。

 それが安全な道だと思い込んでいるから。


 セフィーリアの攻撃的な性格は、幼い防衛本能によるもの。

 それを原作プレイで知っている俺は、大人の対応を取ることができる。


「あ、あたしが可愛いなんて……つまらない冗談を」

「いや、本気だけど。セフィーリアは、こんなにも可愛いだろう?」

「っ……!?」

「キミが可愛くないとしたら、世の女性の大半は可愛くないことになってしまう」

「なっ、なっ……」


 褒められ慣れていないのだろう。

 とてもわかりやすく照れていた。


「あ、あたしが可愛いなどと、世迷言を……!」

「そうか? 十分に可愛いと思うけど」

「ど、どのようなところにゃ!」

「そういうところで噛むところ」

「っーーーーー!!!?」


 真っ赤になっていた。

 うん、可愛い。


 いい感じにツンツンした感じは消えていた。

 ここは、一気に畳み掛けるところだろう。


「ところで……聞いた話によると、セフィーリアは魔法が好きなようだな?」

「え? あ、ええ……そうね。魔法は好きよ。とてもわかりやすく、でも複雑で、学べば学ぶほど底が深くなり……あと、あたしの力になってくれるところも」


 セフィーリアは闇属性の魔法を使うことができる。

 今はまだ才能が開花していないだろう。

 ただ、幼い頃から魔法の勉強していたため、その影響ではないか? と考察勢が言っていたのを覚えている。


「実は俺、四属性の魔法を使えるんだ」

「えっ、本当に!?」


 俺の言葉を証明するために、実際に四属性の魔法を使ってみせた。


 執事とメイドに退出願ったのは、このためだ。

 さすがに、お見合いの場で魔法を使うわけにはいかないからな。


 ちなみに、これも改造コードの力だ。

 プログラムの数値をいじることで、本来は使えない能力を付与することができる。


 たとえば、パワー系の戦士に回復魔法を覚えさせたり。

 たとえば、頭脳系の魔法使いにとんでもないパワープレイを覚えさせたり。

 色々なことが可能だ。


 とはいえ、本来はありえないことを引き起こすため、間違えると、とんでもないバグを引き起こす場合がある。

 ゲームだったら、プログラムが壊れて、進行不可能に陥ったり。


 そういう事態を避けるために、慎重に慎重に解析を進めて……

 ようやく、少し前に四属性を付与することができた。


 それもこれも、セフィーリアと仲良くなるため。

 彼女は魔法が大好きっ娘なので、いいきっかけになると考えていた。


 俺の魔法をセフィーリアは、子供らしく目をキラキラと輝かせる。


「す、すごいっ……本当に四属性を!」

「まだ誰にも話していない。セフィーリアが初めてだから、秘密にしておいてほしい」


 キミだけの特別感、というのを出すのがポイントだ。


 ……悪役というか、ホストっぽくなってきたな。


「え、ええ……というか、このようなこと、子供が話しても信じてもらえないわ」

「かもな」

「普通は、一人一属性のみ。百年に一人の天才でも、二属性が限界と言われているのに……まさか、四属性なんて。いったい、どのように制御をしているの? 料理で例えるのなら、まったく用途の異なる調理器具を完璧に扱うようなものなのに」

「確かに、魔法の構造式はまったく異なる。属性が違うだけで、まるで別物だ。ただ、魔法であることに変わりはない。魔法という概念を見失わずにいれば、扱うこと自体はそれほど難しくはないさ。まあ、適性の問題があるから、誰でも、というわけにはいかないが」

「いえ。それでも、四属性をまったく問題なく扱うことができるというのは、本当にすごいわ……普通なら、四つの問題をどのように扱い、整理すればいいかわからなくなって、混乱してしまうはずなのに。それなのに、ノクト様はいとも簡単に……よくよく思い返してみたら、制御もとても洗練されていたわね? まるで、己の体の一部のように魔法を操っていた。構造式をその目で見えているかのよう。それほどの域に達しているなんて、そのようなことは……はっ」


 長々と語り、途中で、セフィーリアは我に返った。

 そして顔を赤くする。


「……失礼」

「いや、気にしなくていい。魔法が好きなんだろう?」


 彼女は、かなりの魔法好きだ。

 魔法オタクと言ってもいい。


 研究をして、実践をして、知識を蓄えて。

 マナーや作法などの貴族としての勉強よりも、魔法の勉強を優先するほどだ。

 故に、彼女は婚約破棄をされた後も強くたくましく生きることができる。


 セフィーリアというヒロインは、そういう人なのだ。

 それを知っていることは大きなアドバンテージとなる。


「魔法は楽しいからな」

「え」

「俺も、魔法について研究している時は楽しい。時間を忘れてしまうし、相手がいれば延々と語りたいくらいだ」


 一応、これは本心だ。

 前世は、魔法という言葉はあったものの、実際に存在することはない。

 物語の中だけのもの。


 でも、この世界は違う。

 当たり前のように魔法が存在する。


 その事実に、どれだけわくわくして、心躍らせたことか。


「そもそも……よほど特殊なものでない限り、なにかを好きということについて謝る必要なんてない。好きなものは好きであり、それは誇らしく思うことこそあれ、責められるものではない」

「……ノクト様は変わっているのね。普通は、公爵令嬢が魔法なんて、って反対するわよ?」

「公爵令嬢であろうがなんであろうが、好きなものまで縛られるなんてあってはならない。趣味趣向は、人それぞれ違うのだし……なにより、なにもかも縛られている人生なんてつまらないだろう? もっと楽しくあるべきだ」

「……」


 セフィーリアは、きょとんとした様子を見せた。

 ややあって、楽しそうに笑う。


「ふふ。まさか、王族であるノクト様がそのようなことを言うなんて……おかしい。あたしを笑い殺すつもり?」

「殺すなんて、そんなつもりはないけど、笑わせたいとは思う」

「あら、どうして?」

「だって、笑っている方が可愛いだろう?」

「……」


 再びの沈黙。

 ただ、今度は、セフィーリアは顔を赤くしていた。

 それから、逃げるように俺から視線を逸らしてしまう。


「どうかした?」

「……そういう言葉は卑怯よ」

「素直な感想なんだけど」

「だから、それが卑怯なの! もうっ……」


 セフィーリアの耳は赤い。

 ぶつぶつと、小さな声で文句を口にしている。


 うん。

 やっぱり可愛い。


 セフィーリアは、悪役令嬢ものの主人公で、ヒロインで……

 そして、とびっきりのツンデレさんなのだ。


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既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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