11話 公爵令嬢は刺々しい
セフィーリアとの婚約話はトントン拍子に進んで、顔合わせの日がやってきた。
もしかしたら、今日で俺のバッドエンドが確定するかもしれない。
そう考えると緊張してしまうが……
「今更、逃げも隠れもできないからな。ぶつかって砕けるくらいのつもりでいこう」
男は度胸だ。
そう覚悟を決めて、公爵令嬢が待つ部屋に移動した。
「はじめまして、殿下。あたしは、セフィーリア・アリアンロッドと申します。この度、殿下とお会いできて光栄です」
部屋に入ると、アリアンロッド嬢が待っていた。
丁寧で綺麗なカーテシーを見せてくれる。
俺のことは……
たぶん、気づいていないと思う。
あの時の人物が俺と知れば、もう少し驚きを見せるだろう。
「殿下?」
「あ……いや、なんでもない。はじめまして。私は、ノクト・フェイルノート・グランハイドだ。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いいたします」
「アリアンロッド嬢と色々な話をしたいところだが……」
俺は、部屋の端に控えている執事とメイドを見る。
「すまないが、二人にしてくれないか?」
「え? し、しかし……」
「見られていると落ち着かない。ゆっくりと話をしたくてな。なにも問題は起こさないから、いいだろう?」
「……かしこまりました」
この一年、俺は優等生に努めてきた。
おかげで、それなりに信頼も得られている。
二人きりになったところで、ソファーに座る。
「これで話しやすくなったな。アリアンロッド嬢も、もっと砕けた口調にしてくれて構わない」
「それは……」
「俺がそうしてほしい。ダメか?」
「……噂はアテになりませんね」
セフィーリアがくすりと笑う。
「噂?」
「詳細は省きますが……どうしようもない方、と聞いていましたので」
「容赦がないな」
「ですが、噂は所詮噂ですね。殿下はとても聡明で、そして、紳士に思えました」
「まだ大して言葉を交わしていないが……」
「女の勘です」
まだ子供なのに女の勘と言う。
しかし、その姿はとても様になっていた。
「よかったら、俺のことは名前で呼んでほしい」
「あら、よろしいのですか?」
「堅苦しいのは嫌いなんだ」
「でしたら、遠慮なく。それと、あたしのことも名前だけで」
「わかった、セフィーリア」
「よろしくお願いするわ、ノクト様」
互いに微笑む。
うん。
第一印象はいい感じなのではないだろうか?
というか、普通に話してて楽しいな。
それに、セフィーリアは可愛い。
……こんな彼女がいながら、他の女性に目を移すなんて、ノクトはバカなのだろうか?
アホなのだろうか?
俺なら、生涯ずっと大事にするね。
「ところで……」
今までのいい雰囲気はどこへやら、セフィーリアはこちらを睨みつけてきた。
「今回、あたしとノクト様の間で婚約……という話になっているけれど。先に言っておくのだけど、勘違いしないでもらえる?」
「勘違いというのは?」
「あたしは、婚約を受け入れたわけじゃないわ。仮に成立したとしても、あたしの心はノクト様に預けることはできない、あたしはあたしのもの」
「ふむ。つまり?」
「婚約が成立したとしても、あたしは、ノクト様と仲良くする理由はない……ということかしら?」
セフィーリアは、今回の婚約に不満があるのだろうか?
いきなり態度が刺々しくなる。
相手が王子であれ関係ない。
邪魔をするのなら叩きのめす。
そんな気概を感じた。
さすがというか、なんというか……
悪役令嬢なだけはある。
その気位は高く、相手が王子とはいえ、簡単に心を許すようなことはしない。
彼女の心を真に射止めることができるのは、本当のヒーローなのだろう。
……ただ。
「悪いな」
「え?」
「セフィーリアの言いたいことは理解したが、その要望を受け入れることはできない」
「……あたしを好き勝手にしたいと?」
「語弊があるな。好き勝手にしたいのは否定しないが、もちろん、同意あっての上だ」
「なっ……」
「キミは可愛いからな。俺は、セフィーリアと仲良くなりたいよ」
「っ……!?!?!?」
とびきりの笑顔で言うと、セフィーリアは、ぼんっと顔を赤くした。




