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6話 最強の鉱夫

「逃げろ、って……なんだ?」


 外が騒がしい。

 なにかあったのだろうか?


 今後の判断に迷い、足を止めてしまう。


 ……それは失敗だった。


「おっ、いたぜ」

「やっと見つけることができたな。これで、こんな辺境からはおさらばだ」


 身長が二メートルに達しているような大男が二人、食堂に入ってきた。


「おいっ、なに勝手をしてやがる!」


 仲間が大男を止めようと、その体に手を伸ばすのだけど、


「うるせえな……雑魚は引っ込んでろ!」

「ぐぁ!?」


 大男が手を一振りすると、それだけで仲間は吹き飛ばされてしまう。

 嵐に巻き込まれたかのような勢いで、遠くに転がる。


「おい、なにをするんだ!?」

「なんだ、このガキは?」

「知らねえよ。それよりも、さっさとそいつを回収しようぜ」


 二人の大男はシオンを見ていた。


 こいつら……

 もしかして、狙いはシオンなのか?


「クロード、シオン! こいつらは俺達がなんとかする! 今のうちに逃げろ!!!」

「部外者に好き勝手させてたまるかよ!」

「ここでいいところを見せて、シオンちゃんにアピールしてやるぜ!」


 親方を含めたみんなが大男に立ち向かう。

 殴り合いでは勝負にならないと判断したらしく、体にしがみついて、その自由を奪う。


 なんだ?

 いったい、なにが起きているんだ?


「……」


 見ると、シオンは顔を青くして震えていた。


「シオン、あの二人を知っているのか?」

「は、はい……奴隷商人の護衛を務める、ゴッズ兄弟です。彼らはとても強く、たったの二人で百人の荒くれ者をまとめあげたという話も……だ、ダメです! みなさん、逃げてください!」


 奴隷商人の護衛?

 ということは……

 そうか! シオンの居場所が奴隷商人にバレたのか。


 それで、ゴッズ兄弟がシオンを取り返すために……


「あー……クソが! てめえら、雑魚のくせにうぜえんだよ!」

「消え失せろや、おらっ!!!」


 大男達は、その場で回転するようにして、みんなを吹き飛ばした。

 さらに拳を打ちつけて、ゴンッ! という鈍い音を響かせていく。


 一人、また一人と倒れていく。

 それでもみんなは無理をして立ち上がり、再びゴッズ兄弟に組み付いていく。


 ……全ては俺達を逃がすために。


「……」


 親方達の気持ちは嬉しい。

 自分の体を盾にして、俺達を守ろうとしてくれている。


 今なら逃げられるかもしれない。

 今が最大のチャンスだ。


 でも……


「そんなことできるか!!!」


 親方達を餌にして、俺達だけ逃げる?

 そんな恥知らずなこと、絶対に無理だ。


 みんなと一緒に立ち向かう。

 それが正解だ。


「うぉおおおおお!」


 俺は、力を湧き上がらせるために叫びつつ、一人目の大男に向かって突撃した。


「おいおい、なんだよ、このガキは?」

「またうっとうしいヤツが一人増えたな……いいぜ、トマトみたいにぐしゃぐちゃに潰してやるよ! おらぁ!!!」


 大男は嗜虐的な笑みを浮かべると、俺の動きに合わせて、大木のような足で蹴りを放つ。


 速い。

 力だけじゃなくて、ちゃんとした技を持っているみたいだ。


 でも……


「負けて……たまるかぁあああああ!!!」


 大男の蹴りが顔面に直撃した。


 痛い。

 でも、耐えられないほどじゃない。

 ぐぐっと足に力を込めて、吹き飛ばされないように耐えた。


「はぁ!? な、なんで俺の蹴りを受けて吹き飛ばな……っていうか、立ったままで耐えられるんだ!? おかしいだろ、馬車に跳ねられるようなもんだぞ!?」

「そんなもの……軽い!!!」


 その状態から全力で前に出て……


「シオンを泣かせようとするヤツは……俺の敵だ!!!」

「がはぁっ!?!?!?」


 大男の足を押しのけて。

 さらに加速して、勢いを乗せて、ありったけの力で殴りつけた。


 大男はきりもみ回転をしつつ、大きく吹き飛んだ。

 そのまま食堂の窓を割り、外に飛び出して。

 それでも止まることなく、何度も何度も地面をバウンドして。


 そして、そこらにある巨岩にぶつかり、ようやく停止。


 ……大男は巨岩にめりこみ、人型の穴を空けていた。


「……は? 兄者……?」


 もう一人の大男……弟の方だろうか?

 なにが起きたか理解できないという様子で、間の抜けた声をこぼしていた。


「え……いや、なにが……え? ど、どういうことだ……? こんなガキの一撃で、兄者が……え? たったの一撃で……?」

「やれやれ……こんな状況でもクロードに頼ることになるなんて、くそ……大人として情けねえな」

「でも、いい気味じゃないですか」

「へへ、鉱夫の力を思い知ったか」

「鉱夫じゃなくて、クロードの力な」


 みんな、顔などを腫らせつつも、ゆっくりと立ち上がる。


「ど、どういうことだ……!? あのガキ、何者だ!? なんで、あんな力を持ってやがる!?」

「クロードは鉱夫だな」


 動揺する弟に、親方はニヤリと不敵に告げる。


「ふ、ふざけるな! ただの鉱夫が兄者をあんな風に殴り飛ばせるわけねえだろ!? 舐めてんのか、てめえ!!!」

「クロードが『ただの』鉱夫、なんて言った覚えはないぞ? クロードは鉱夫だが、そこらにいる鉱夫と一緒にしてもらったら困るな。うちで一番の働き手で、エースで、最有力の最年少で……そして、最強の鉱夫だ」

「な、なにを言って……」

「十二年だ」

「な、なに……?」

「クロードは、六歳から鉱山で働くようになって、そして、十八になる今年まで……十二年、鉱山で働き続けてきた。この意味、理解できるか? だいたい、鉱夫としての寿命は三年だ。それくらいの時間が経ったところで、体がイカれたり心が病んだりして、働くことができなくなっちまう。だが、クロードは十二年、働き続けた。しかも、六歳の時からだ」

「言い換えれば、めちゃくちゃきついトレーニングを子供の頃から十二年、ずっと続けていた、ってことだな」


 親方の言葉を引き継いで、仲間が言う。


「才能があったのか適正があったのか、そこはわからないけどな。クロードは、大人が三年でへばるような鉱山で十二年働き続けて、その上、まだピンピンしてて、毎日、トップの成績を叩き出している。それはつまり、それだけの身体能力がある、ってことさ」

「そういうことだ。情けない話だが、クロードは俺達よりも圧倒的に上……てめえのようなチンピラが敵う相手じゃねえ」

「な……そ、そんなバカなことが……」

「……俺は、みんなが言うほどすごい存在だなんて思っていないし、鉱夫を続けられたのは運がいいのと、みんなのサポートがあったから、って思っている。まあ、その辺りはどうでもいいんだけど……」


 拳を握り、弟の方を睨みつけた。


「お前がシオンの敵だっていうのなら、容赦はしない。全力で叩き潰す!」

「ひ、ひぃ……!?」


 弟の方は腰を抜かしてしまったらしく、その場にへたりこんだ。


 ふぅ……なんとか撃退することができそうだ。

 でも、この場所がバレたっていうことは、これから先は……


「いやはや、これは驚きました」


 ふと、第三者の声が響いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます

楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

感想や誤字報告、ありがとうございます。

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