55話 影は静かにゆっくりと
ナナの買い物に付き合い、三人で街に出た。
目的はぬいぐるみ。
いくつかの店を回り、気に入ったものを見つけることができたらしく、ナナはごきげんだ。
「~♪」
購入したばかりの犬のぬいぐるみを腕に抱いて、にこにこ笑顔。
やっぱり、妹みたいで可愛い。
「むぅ……」
そしてシオンは、時折見せる、ちょっと不満そうな顔。
こんな表情、今まで見たことがないのだけど……
どうしたんだろう?
今度、ちゃんと話をした方がいいかな?
……そんなことを考えていた時。
「……二人共、ストップ」
「「?」」
立ち止まり、周囲を見回した。
街を歩く人々。
観光客が多く、笑顔があふれている。
ただ……
「二人共、なんてことないフリをして、落ち着いて聞いて」
歩みを再開しつつ、小さな声で言う。
「俺達をつけている人がいる」
「「えっ」」
「しっ……できるだけ顔に出さないようにして、足も止めないで」
「は、はいっ」
ナナは動揺しつつも、がんばって俺達についてくる。
シオンは、さすがというべきか、すぐに気持ちを切り替えていつも通りになっていた。
「ご主人様、確かなことなのですか?」
「間違いないと思うよ。こうして……」
いくらかの道を曲がる。
それに合わせているかのように、後ろからついてくる気配は途切れることがない。
「気配が消えることはなくて、ずっとついてくる」
「言われてみると、微かに……」
「よ、よく気づきましたね」
「鉱夫をやっていたからね。細かな変化はよくわかる方なんだ」
鉱夫は、ただ掘る能力に長けていればいいというものではない。
崩落や落盤などを回避するため、わずかな違和感も逃さない観察力も必要だ。
鉱夫をやっていたことで養われた観察眼で、今回の違和感も気づくことができた、というわけだ。
「鉱夫ってすごいんですね!」
「えっと……たぶん、ご主人様だけだと思いますよ?」
ナナはキラキラと顔を輝かせて、シオンはちょっと困った感じに。
二人の反応が違うのが気になるけど……
今はいいか。
それよりも尾行者の対処だ。
俺とシオンのような観光客を狙う犯罪者という可能性もあるだろうけど……
ナナの両親から護衛の依頼を請けて、厄介な事情を知ったばかりだ。
狙われているのは、たぶん、ナナだろう。
ただ尾行して、ナナの様子を探っているだけなのか?
あるいは、機会を見てさらってしまおうと考えているのか?
話を聞く限り、後者のような気がした。
エルネスト・ルアという男の歪んだ愛は、そこまでやってしまう危険性がある。
「……ご主人様、どうされますか?」
状況を察したらしく、シオンが俺にだけ聞こえる声で問いかけてきた。
「そうだね……」
依頼されたのは、ナナの護衛。
エルネスト・ルアの偏愛から守ること。
安全を一番に考えるのなら、すぐに人通りの多いところへ移動すること。
そして、そのまま屋敷に帰る。
ただ……
それで問題が解決することはない。
次、街に出た時に再び狙われる可能性が高い。
もちろん、俺とシオンにできる範囲で護衛するつもりだ。
ただ、ずっとオーシャンテイルにいるわけにはいかない。
そう遠くないうちに、俺とシオンはここを旅立たないといけない。
そのことを考えると……
「ナナ」
とある決意をして、ナナに声をかけた。
「俺達を尾行している人は、たぶん、ナナを狙っていると思う」
「え」
「この前の貴族の関係者、かな? なかなか応えてくれないことに業を煮やして、ナナを無理矢理さらおうとしているかも」
「……」
ナナが恐怖に顔を青くした。
ごめん、怖がらせて。
ただ、なにも告げず、黙っていて。
全部を隠しておくなんて、それはそれで不誠実な気がした。
それと、これからやろうとすることを考えた場合、どうしてもナナに事情を話しておく必要があった。
「俺は……」
そして、俺は頭の中で考えた作戦をナナに告げた。
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