51話 エルネスト・ルア
「……これはこれは。ナナ嬢ではありませんか」
突然、聞こえてきた粘っこい感じのする声。
振り返ると、一人の男がいた。
歳は……たぶん、40から50といったところだろう。
年齢によるしわなどが顔に少しずつ現れている。
運動不足なのだろうか?
体は横に広い。
無駄な肉があちらこちらについていた。
メガネをかけているけど、その肉にフレームが食い込んでしまっていた。
きらびやかな服と宝石などの装飾品。
そして、後ろに控える護衛らしき男が二人。
たぶん、貴族なのだろう。
そうでもないと、ナナに親しそうに声をかけることはできない。
ただ……
「……ルア卿……」
ナナは感情を隠すことなく、とても嫌そうに眉をひそめていた。
知り合い。
でも、仲が良いわけではない……という感じか。
「このようなところで出会うなんて奇遇ですね」
「……ええ、そうですね」
「これもなにかの運命だ。どうでしょう? これから、一緒にお食事でも」
「せっかくですが、お断りします。今は、お客様と一緒ですから」
ナナは、ふいっと顔を背けつつ、ハッキリとした口調で言う。
ちょっと以外だ。
おとなしい子だと思っていたけど、言う時はしっかりと言うタイプだったらしい。
貴族だから、貴族なりのプライドとか矜持とか……
そういう芯の部分はしっかりしているみたいだ。
「……その方達は?」
「大事なお客様です」
「私よりも優先しなければいけない、と?」
「もちろんです」
「……」
男はとても不快そうな顔に。
感情をまったく隠そうとしていない。
同じ貴族でも、ナナとはぜんぜん違うな。
「……いいでしょう」
男は舌打ちをしつつも、おとなしく引き下がる。
「今日は残念ですが……お食事は、またの機会にでも」
「……」
ナナは、ものすごく嫌そうな顔をしているけど……
気づいているのかいないのか。
なかなか微妙なところだ。
「では、また」
男と、その護衛らしき人達が立ち去る。
その姿が見えなくなったところで、ナナは大きなため息をこぼした。
そして、こちらに頭を下げてくる。
「ごめんなさい……お二人に不快な思いをさせて」
「謝る必要なんてないよ」
「はい。私達は、なにも問題ございません」
「そう言っていただけると……」
「えっと……無理に聞くつもりはないんだけど、今の人は?」
「……エルネスト・ルア。ルア家という貴族でして、えっと、その……なぜかわからないんですけど、私のことを妻にしたいみたいで……」
恋愛話……というほど甘くないみたいだ。
それは、ナナの表情を見ればわかる。
ものすごく顔をしかめていた。
思い出すのも嫌。
顔を見るのも嫌。
声を聞くのも嫌。
ルアの一方通行、という感じかな?
それにしては、やけに嫌われているような気がするけど……
先の様子を見る限り、ルアは、わりと強引に迫っているのだろうか?
「大丈夫? なにか俺達にできることがあれば……」
「あっ、いえいえ! 心配かけてごめんなさい。私なら大丈夫ですから、観光の続きといきましょう。まだまだ案内したいところはたくさんありますからね!」
ナナは、気持ちを切り替えた様子でにっこりと笑う。
ただ、その笑顔はやや陰りがあり……
気になる。
とはいえ、ただの冒険者で旅人である俺達にできることなんてあるだろうか?
なかなか難しい。
……様子見しかないのかな?
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