3話 二人の生活
「ここがクロード様のお部屋……」
寮の俺の部屋に案内した。
縦に長い部屋で、奥に窓が設置されている。
手前に収納棚。
それと、トイレとシャワールーム。
キッチンはない。
料理をしたい時は、寮の一階にある共同キッチンを使う必要がある。
「ごめん、狭くて」
「いいえ、そのようなことはありません。とても素敵かと」
「そうかな? まあ、そう言ってもらえると助かるよ」
女の子をこんな部屋に住まわせるなんて、ちょっと罪悪感だけど……
本人が気にしていないのならよかった。
まあ、気を使ってくれているだけかもしれないけどな。
そうだとしても、今は、シオンの厚意に甘えよう。
「ちょっとまってて」
「はい?」
収納棚を整理して、その半分を空けた。
「ここ、半分をシオンが使っていいから」
「え? そ、そのようなことは……」
「シオンだって、今度、自分の物が増えていくだろうし。服とか。そういうのをしまう場所は必要だろ?」
「それは……」
「大丈夫。元々、俺一人でも持て余していたから。まだまだ余裕はあるよ」
「……ありがとうございます」
シオンが深く頭を下げる。
そこまでかしこまらなくてもいいんだけど……
シオンの立場上、色々と気にしてしまうのかな?
「そうだ、シャワーを浴びる?」
「シャワー……ですか?」
「女の子にこんなことを言うのはあれだけど、けっこう汚れているみたいだから……空を落ちた影響かな? そのままだと、ちょっと気持ち悪いだろう?」
「それは……はい」
「狭いけど、シャワールームは設置されているからさ。好きに使って。あ、俺はその間に、シオンの分の寝具を取ってくるよ。予備の寝具が倉庫にあるはずだから」
「……わかりました。では、シャワーを浴びさせていただきますね」
「うん、どうぞ」
シャワールームに案内して、使い方を教えて。
その後、俺は部屋を後にした。
――――――――――
「ふぅ……」
一人になったところで、俺は吐息をこぼした。
「緊張したぁ……」
シオンの前では、なんてことのないフリをしていたのだけど、内心、かなり緊張していた。
二人きりになると、シオンの綺麗な顔についつい目が行ってしまう。
鈴を転がすような声も魅力的で……
「……なんか、やばいかも」
シオンのことばかり考えてしまう。
「って、落ち着け、俺」
こんな態度を見せたら、シオンを怖がらせてしまうかもしれない。
シオンは行く宛がない。
俺がしっかりと守らないと。
妙な知り合い方をしたからなのか、シオンのことが気になる。
放っておけない、守りたいと思う。
「よし、がんばろう!」
シオンを守る。
そう誓い、俺は、倉庫に急いだ。
――――――――――
「シオン、寝具を持ってきて……」
「あ、クロード様」
「っ!?」
シャワーを浴び終えたらしく、シオンが部屋の中にいた。
ただし、その姿はバスタオル一枚だけ。
髪もしっとりと濡れていて、妙な色気があるというか……
「クロード様」
「は、はい!?」
「私は、まだ教育前なので、そういう知識に疎く……クロード様を困らせてしまうかもしれません。ですが、満足していただけるように一生懸命がんばりたいと思います」
そんなよくわからないことを言って……
シオンは、そっとバスタオルを外した。
「えっ!? ちょ……えぇ!?」
「どうぞ、好きにしてくださいませ……」
「いや!? いやいやいや!?!?!?」
今日一番、大きな声が出てしまう。
よかった。
今が午後の仕事中で、みんなが寮にいなくて。
もしも夜中だったら、何事かとみんながやってきただろう。
「な、なにをしているんだよ!?」
「それは、クロード様にこの身を捧げようと……」
「なんで!?」
「私は奴隷ですし、このような方法でしかお礼をすることができず……それに、シャワーを浴びろというのは、クロード様もそういうことを考えていたのでは?」
「違う違う違う!? 誤解だ! 俺は本当に、汚れが気になるんじゃないか、って思っただけで、そういうことは一切考えてない! 一切!!!」
「そ、そうだったのですか……?」
どうやら、シオンが早とちりしたらしい。
誤解が解けてなによりだ。
って……
「体! 体を隠して!?」
「あ、はい。わかりました」
シオンは淡々とした様子で、バスタオルを体に巻いた。
とても落ち着いているのだけど……
奴隷だから、色々と慣れているのだろうか?
「ふぅ……驚いた」
「申しわけありません、私のせいで……」
「いや、シオンが気にすることじゃないさ。よく考えたら、俺も、誤解を生むような発言をしていたし……まあ、お互いさま、っていうことで」
「そうですか……」
「シオンは奴隷かもしれないけど、でも、俺は、そういう風に扱うつもりはないというか……とにかく。普通に、普通にしてくれればいいから!」
「私の普通は、先程のような感じなのですが……」
「じゃあ、鉱夫の普通で! それを覚えていこう、うん。俺もサポートするから」
「はい、わかりました。クロード様がそうおっしゃるのなら」
よかった。
なんとか話がまとまりそうだ。
「……クロード様」
「うん? どうかした?」
「一つ、お聞きしたいのですが……どうして、私なんかのために、ここまで優しくしてくれるのですか?」
「優しく?」
「はい。助けていただいただけではなくて、こうして、同じ部屋に住まわせていただいて。私の体も必要とせず、普通にしてほしいと言う……とても優しく、だからこそ、なぜなのだろうと疑問に思ってしまいます」
「んー……俺は、別に優しくしているつもりはないんだよな」
「え?」
「困っている人がいたら手を差し伸べる。それ、当たり前のことだろう?」
「……」
シオンはひどく驚いた様子で、キョトンと目を大きくしていた。
「強いて理由をつけるのなら、俺も、色々な人に助けてもらっているからかな? だから、俺が助けてもらったように、俺も誰かを助けたい。それが今回はシオンだった、っていうだけさ」
「そう……なのですね。クロード様、あなたは……」
「うん?」
「……いえ、なんでもありません」
シオンはなにかを言いかけて、しかし、途中で止めた。
どうしたのだろう?
ただ……
「クロード様は、とても不思議な方なのですね」
優しい笑みを浮かべるのだった。
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