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青山サキは騙されない

おじさんと一緒に訓練をした女性たちの事情です。

 元々、綱渡りの生活ではあったのだと、職業安定所の順番待ちの間に、青山サキは今までの状況を振り返っていた。


 父親は顔すら知らないし、親戚の付き合いすらない上、母親がサキを産んだのが15歳だという事実から、駆け落ちでもして破綻したのだろうと推察していた。

 母親はサキと2つ下の双子の妹たちを一生懸命に育ててはくれていた。貧しくはあったが、朝から晩まで働き、精一杯の愛情を注いでくれる母がサキは大好きだし、母を助けたくて幼い頃から家事も担当していた。


 サキが中学を卒業した際、働きに出ると宣言した時も、せめて高校は出ようと一生懸命に説得してくれたが、1日14時間も働く母に、あと3年間も世話になる選択肢はサキにはなかった。

 可愛くてたまらない双子の妹たちには、高校生活を楽しませてあげたいという理由もある。


 学校が世話をしてくれたのは、家から徒歩圏内のスーパーだった。週休2日で1日8時間勤務。各種保険ありの月給手取り14万。母が仕事を減らしても、慎ましく暮らせば、親子4人の暮らしは安定するはずだった。


 サキが就職してわずか半年。仕事に慣れ始めた時期に、母が吐血をして救急搬送されたと職場に連絡が入るまでは。


 幸いなことに重度な疾患ではなかったが、15歳から3人の子供を産み、休みなく働き続けながら育児もこなしていた母の体はボロボロであり、重度の過労だった。

 最低、3ヶ月の入院とリハビリに1年ははかかるとの青山家の生活には絶望的な医師の説明も、サキは冷静に聞いていた。


 その説明を聞いた後、すぐに職場に向かい、上司に生活が成り立たない為、別の仕事につくからと辞職願を出す。

 上司をはじめ、皆はわずか15歳で懸命に働くサキを惜しみ、引き止めてはくれ、解決策を考える為、弁護士まで紹介してくれると言ってくれた。

 皆の好意に心が揺らぎそうになるが、1年単位ならともかく、将来を考えるとどうしてもまとまったお金が必要なると判断し、深く頭を下げて退職を願い出た。


 ロッカーの荷物を整理していると、パートのおばちゃんや社員たちが集めてくれた、封筒に入ったカンパを上司が渡してくれた。20万近く入っていたその封筒の厚みに涙が滲む。たった半年しかいなかった自分にこんな事をしてくれる暖かさが嬉しかった。


 カンパを銀行に預けた後、すぐに職業安定所に来た。自己都合退職のはずなのに、会社都合にしてくれた上、半年分もの給料が振り込まれる事を知り、また涙腺が緩みそうになる。

 その日は手続きだけを済ませて帰宅した。妹たちは母親が倒れた事実に泣き出しそうだったが、必死に堪えてサキの説明を聞いてくれた。


 母が必死に貯めていた貯金額60万とサキの貯金30万。そして、会社の皆の好意により入手出来た100万が青山家の全財産だった。


 サキは次の日からすぐに動き出す。朝から妹たちの朝食と弁当を作り学校に送り出す。母を見舞い、看護師から経過を聞き、そのまま前日の夜に予約した職業安定所に来た。


 担当は前日の女性とは違い、背の高いモデルのような男性だった。柔らかな笑顔と物腰で、サキの事情を聞き、笑顔で最善のお仕事先を考えましょうと励ましてくれる。


 あまりの胡散臭さにサキは呆れかえる。そもそも特務嘱託員ってなんだよと思うが、そんな事は表情どころか態度にすら出さない。

 少し話していると、この男の目的が分かった。異世界での特殊警備等という仕事にサキをつかせたいとの意図が見えてきた。

 条件は破格だ。月に手取り30万に各種手当と家族の生活保障。5年毎に1000万を支給。しかも、国が保障する公的な仕事だという。


 あまりのバカバカしさに、ため息を吐きたくなってくる。そんな美味しい仕事があるなら、こんな子供に紹介せずに、おまえがやればいい。何故、お前はやらないんだと指摘したくなる。


 しかし、条件が破格なのは間違いない。母と妹たちは富裕層しか住めないはずの異世界ゲートがある人工島に住めるという。

 おそらく、いや、ほぼ確実に命を賭けるような仕事になるとサキは確信した。

 5年の任期すら怪しいくらい危険な仕事なのだろうが、3000万もの死亡保障がついた、国の保障制度まで用意してくれる徹底ぶりだ。


 大好きな母は悲しむだろうな、可愛い妹たちは笑顔でいてくれるかなと悩みはするが、それも一瞬だった。


「こちらのお仕事に志願します」


 淡々と宣言すると、それまでにこやかだった男性が真剣な顔になる。


「貴女は騙されてないんですね青山さん。私の話を一切、信用していない」


へぇ、この人こんな顔もできるんだとサキは思う。


「生きる上でお金は必要です。人並みの生活を捨てて、わたしを守ってくれた母と、可愛い妹たちに笑顔の人生を贈りたいだけです。それに、保障は事実でしょう」


 ネームプレートをもう一度確認し、覚える気は一切なかった男に続ける。



「千反田さん、わたしはこちらのお仕事に志願します。よろしくお願いします」


 絶対に負けないと、強い決意を込めながら、サキは千反田の目を見て宣言した。







 千反田はブースに来て初めてしっかりと目を合わせてくれた、わずか15歳の女の子に捨てたはずの罪悪感を感じてしまう。


「、、、青山さん。貴女は敷島スバル教官のところに送ります。彼女の言うことをよく聞いて学んでください。あの方の元で学べれば、生存確率は極めて高くなります。3日以内にご家族に別れを告げて、人工島に向かってください。こちらに戻って、会えるのは3ヶ月に1度だけですので」



 千反田は声を抑えながら、マニュアルでは言ってはいけない事を伝えてしまう。この子の命が失われるのは国の損失だとまで思う。

 インカムから、オペレーターの焦ったような声が聞こえてくる。

 ペナルティ?減給?クソくらえだと思う。


 そんな千反田の様子に、呆気に取られたサキは吹き出した。年相応の15歳の無邪気な女の子の笑い。


「千反田さん、あなたそんな顔が出来るんですね、、、最初の胡散臭さとは、まるで別人ですよ。その顔なら女の子に好かれると思いますよ」



 その笑顔に千反田は救われた気になった。

 人工島での全てを保障するパスとなるカードキーを渡し、諸注意を伝え、母音を押させた後、立ち上がり敬意を込めて敬礼をする。


「青山サキさん、貴女のご武運をお祈りいたします、、、生きてお戻りください」


 返事はとびっきりの笑顔だった。



 5年後、千反田は知ることになる。


 異世界で再び起きたデーモンの大侵攻。自衛軍のトラウマとなり、この非人道的な制度すら利用しなくてはならなくなった、かつての大侵攻を遥かに超える規模の絶望的な状況に立ち向かった中核部隊。

 その部隊に『全てを見通す者』と呼称され、大戦果をあげた作戦を立案した女性兵士がいた事を。


 その女性は、千反田にとびっきりの笑顔を見せてくれた子と同じ名前だった。

 千反田は大侵攻の生き残りです。

 片手を失いながらも、怪我をした同部隊の仲間3人を連れ帰った兵士です。

 トラウマにより戦場には行けなくなり、嘱託として働いています。


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