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異世界における特殊警備任務等に従事する志願制度

この物語は架空のパラレルワールドのお話です。

実在するありとあらゆる国、団体、組織、個人等とはなんの関係もありません。

 自衛軍敷島スバル特務軍曹は虚無感と怒りに奪われそうになる思考を必死にコントロールしながら、毎日、新兵達をシゴいている。

 

 30年前に和華山県和華山市の沖合いにある、旧大戦時代の砲台跡がある無人島に、異世界への大規模ゲートが開いてしまった。

 政府に保管されている資料では、1800年前から世界中で、散発的に異世界との小規模なゲートが開いており、そこからこちらに迷い込んだ人がいたり、こちらから神隠しという逸話で迷い込んでいたりする事は確認されていたそうだ。


 迷い込んでくるのは人類ばかりではない。

 天使や悪魔、鬼などと称される極めて好戦的で敵対的な存在も確認されており、世界中の公的機関や民間の機関は、小規模ながら対抗組織を保持しており、秘密裏に対処してきたことが公になったのもこの事がきっかけだ。


 まず、犠牲になったのはキャンパー12名だった。基本的には無人島ではあるが、県の委託団体に料金を支払いさえすれば、整備された浜辺近くの広場でキャンプする事が可能だった。

 大昔の大人気劇場アニメのような世界観を楽しめ映えスポットである旧砲台跡で撮影した後、キャンプをするのが観光客に大人気の島だった。


 島の対岸にある港からフェリーが4便、繁忙期は6便出ている。朝一番のフェリーが港に着いた時、12名いるはずの乗船予定者が1人も乗ってこない事を不審に思い、業者が警察に連絡したのが悲劇を加速させた。

 和華山県警は警察官2人を派遣するが、島に到着後に入った連絡を最後に音信不通となる。

 不審に思った県警は警察犬を含む捜査要員12名と、機動隊2分隊を派遣するが、こちらも島に到着後の定期報告の通信中に、爆発音のような音が連続し音信不通。


 あまりの異常事態に県警は県知事に自衛軍の派遣を要請。県知事は即座に日本政府に派遣を要請するが、法的根拠を議論する為に12時間も消費してしまう。

 その間に、キャンパー達の家族やマスコミ、ネット配信者が騒ぎ始め、少し離れた港から船をチャーターして島に強行上陸をしてしまう。


 それは3メートルを超えるナニカだった。4本から6本の腕を持ち、頭部に捻れた2本の角を持つ、巨大な人型の生物が、マスコミのカメラに映る範囲で12体もいたのだ。

 恐怖に立ち竦む人々を化け物どもが襲う様を地面に転がったカメラがとらえ、世界中に配信された。

 見るだけで吐き気と恐怖を催すその姿。警察官のリボルバー程度では傷すらつかず、一定時間毎に異界から仲間を呼び寄せ、逃げ惑う人々を執拗に追い回し、怪力で弄ぶように壊し、喰らい、魔法と称される軽自動車くらいの火球を飛ばしてくる化け物。

 後にレッサーデーモンと称される個体が世界中に認知された瞬間だった。


 自衛軍が重火器を投入するも44体にまで増殖したレッサーデーモンを殲滅する事は困難を極め、半数近く撃退するも120名もの犠牲者を出し撤退。

 政府の保有する秘密部隊がはるか昔から化け物と戦ってきた民間の組織やとある武道の一族に要請し、多大な犠牲を出しながらも退けたのは3日後だった。


 当時、2歳だったスバルの父親も殉職した自衛軍の隊員だった。


 世界中、凄まじい騒ぎになった。世界の超大国はゲートを国連の支配下に置く事を日本に強制しようとするが、そんな事は言っていられなくなった。

 後にアビスと称される大量の化け物が湧く穴が世界中に現れ、各国はその対処に精一杯となる。


 日本政府は5年をかけてゲート向こうの異世界の国々と交渉を行い、協力関係を取り付けることに成功する。

 ゲート向こうに要塞を作り、こちらへの侵入を防ぐ代わりに、化け物どもに対抗する戦闘部隊の派遣が決まった。


 派遣され重火器を装備した自衛軍の部隊は、当初は問題なく戦えていた。異世界でもデーモンどもの侵攻は深刻な問題となっており、それに共同で対処を続け、現場レベルから、あちらの国々と兵士たちと深い信頼関係を築けたのも大きかった。


 しかし、その状況は長くは続かなかった。

 大侵攻と呼ばれるデーモンの軍団の大量発生が異世界にて起こってしまう。

 推定62万もの化け物の群れの対処に、日本は自衛軍4個師団を投入。こちらへの侵攻は防げたが、戦力の30%を失う大打撃を受けてしまう。


 父の仇を打つために自衛軍に志願したスバルもその時の戦闘に参加していた。

 デミデーモンと呼ばれる強靭な金属で武装した個体や、レッサーデーモンへの対策は異世界勢力との共同研究により万全だった。

 しかし、グレーターデーモンと呼ばれる上位個体への対処は困難を極め、アークデーモンという存在には太刀打ちすら出来ず、スバルのいた部隊も副隊長とスバル以外は全滅した。


 これに焦った日本政府は、政府の完全監理下においていた島を巨大な人工島として開発し、世界中の富裕層に開放し、莫大な税金を課し、その予算を投入し戦力の回復を目指す事にした。


 それはある意味成功し、ある意味で失敗となる。 

 目論見通り、世界中の富裕層は異世界という投資先に莫大な資金を投入し、日本政府は莫大な税収を得ることに成功。

 マスメディアとインフルエンサーに税金を投入して、若者の英雄願望を煽り、憧れを抱かせて、高校を出たばかりの子供たちに一定の体格と学力さえあれば自衛軍への入隊を許可した。


 志願隊員は増えたが、デーモンとの戦闘系経験がある自衛軍隊員の猛反発を受け、訓練機関は当初の1年から2年に延長されることになる。

 ここで問題となったのが異世界の国々との契約である。日本政府は異世界側のゲートを守る要塞に1万名、前線基地に2万名の戦闘員の常駐。

 さらに、物資補給の補助部隊の派遣を約束していたが、大侵攻の影響と新規隊員の訓練期間の延長により、人員の確保が困難となった事だ。


 そこで政府が苦肉の策として考えたのが、自衛軍採用試験時に体格検査や学力検査で弾かれた若者達や貧困層、金に困った人たちを最低限以下の訓練で異世界に送り出す事だった。

 本来ならセーフティネットとして機能するはずの制度を簡単には申請出来ないようにし、日本中の行政組織に自衛軍からスカウト部隊を派遣した。

 スカウト部隊は男女とも見栄えを重視し、徹底したマニュアルにより、それ以外の選択肢を見えないように、志願するという形で勧誘する。


 魅力的な容姿のスカウト部隊は絶大な成果をあげ続けている。現実を知らない若者や貧困層、金に困った人たちは通常ではあり得ない金額の給与に惹かれ、スカウト部隊の甘言に舞い上がり、志願者は増え続け、異世界との約束以上の人員を送り込めていた。

 そして、まともな訓練を受けていない人々は、自衛軍なら問題なく対処できるデミデーモンにすら狩られ、その命を簡単に失う。


 何が警備だ志願制度だとスバルは思う。

 はっきり言えば使い捨ての肉壁に過ぎない。


 異世界で一人前に戦える自衛軍の兵をを養成するのに、1人約4000万かかると試算が出ている。

 対して、このクソみたいな制度では5年の任期期間を過ごせば1000万の報奨金が出るだけだ。

 極めて「経済的だ」と断言した官僚と政治家を泣き叫ぶまでマウントポジションで殴り続けたい。

 もしそれが可能なら泣き叫んだとしても殴るのを止めるつもりはない。


 人工島の訓練施設に教官として配属されたスバルは、虚無感と怒りに我を失いそうになりながら、今日も口汚なく怒鳴りつけ、精一杯の訓練を志願者たちに課す。


 自分が生還できたあの状況から得た経験の全てを2週間という絶望的な短い期間で、全力で叩きこみ続ける。

 

 どうか五体満足で生きて帰ってきてくれと、祈りにも似た感情を抱きながら、今日も怒鳴り続ける。

敷島スバルは女性です。共に生還した副隊長と結婚している一児のママさんです。

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