山田タカシは復讐を忘れたい
閑話 その2です。
次から異世界編に入ります。
桜の蕾が綻び始めた春の午後。
可愛らしく詰められた愛妻弁当を、腹一杯に食べた昼食後という事もあり、強い眠気に襲われた山田タカシは、大欠伸をしながら射撃場の隅に置いてある椅子に座っていた。
緊張感のかけらも無い大欠伸に、振り返った数人の狙撃選抜隊員たちが、軽蔑したような目で見てきたが、特に気にはならなかった。
身長は170センチを少し超える程度で、腹が少し出ている。さらに、左腕が上腕の途中からない。おまけに前髪は後退気味だ。
狙撃手として毎日切磋琢磨している選抜隊員たちからしたら、負傷してお情けで配属された、使えないオッサンにしか見えんわなと思う。
自衛軍異世界ゲート人工島駐屯地所属の狙撃部隊特務教官。
それが、片腕を失い戦場ではお役御免となった、今のタカシの身分である。
何をやってんだかなと、タカシ自身もよく分からなくなる。
羽虫どもを堕とし続けていた、20年にも及ぶ戦場での毎日との落差に戸惑うばかりだ。
先日、47歳になったタカシが生まれたのは近畿の山奥の村だ。
先祖代々、栗農家をしている父と近所の山芋農家の娘だった母の間に生まれた。
自宅から自転車で1時間かかる高校に通い、学校終わりに家業を手伝い、両親や祖父母から小遣いをもらい、たまに街まで幼馴染のキョウコと遊びに行く。
それが17歳のタカシの全てだった。
このまま家業を継いで、キョウコと結婚してこの村で生きていくんだろうなと、ぼんやりと思っていたし、それでいいとも思っていた。
今でもはっきり覚えている。春だった。桜が散り始めた時期で、高校3年生になってしばらく過ぎた金曜日の夕方だった。
部活で学校に残ったキョウコと別れて、自転車で村に向かっている途中、村内放送が流れた。
いつもは、警報が出た時や選挙前に、警報が出ましただの選挙に行きましょうだの、のんびりした口調の、佐々木さんとこの奥さんがアナウンスしているものだ。
「みんな逃げてー!山!山に逃げやだ!やだ!いややだ!あっちいけ!や、、、ああああ、、、」
山に逃げるように促す絶叫が響き渡り、引き攣るような悲鳴の後、何か水気のあるものが潰れるような音が響いた。
しばらくすると、災害時に流す決まりの避難用のサイレンが鳴り響き、役所や警察、消防署が集まる村の中心部から黒煙が上がった。
タカシは自転車のカゴに積んであったリュックを背負い、いつも荷台に括り付けてある学校指定の避難セットを持ち、小さな頃から駆け回った山の中に飛び込んだ。
リュックから厚手のパーカーを取り出して、袖を通し、首元までジッパーをしっかり上げて、ヘルメットの上からフードを被る。
虫と棘がある植物の対策を済ませると、皮の手袋を身につけてリュックを背負いなおし、左手に避難セットを持ち、右手で藪を払いながら、ゆっくりと自宅の方に向かう。
村の中心部の方から爆発音が響き、何が起こっているのか分からず、不安がどんどん広がっていく。
焦る気持ちを抑えて、山歩きの達人である祖父の教え通りに、音をなるべく立てずに、慎重に足元を確認して歩き続ける。
30分ほどかけて、ようやく敷地の裏山付近まで辿り着いたタカシの目の前で、巨大な炎が降ってきて自宅が吹き飛んだ。
衝撃で吹き飛ばされ、木にぶつかったのまでは覚えている。
薮の間から、何か巨大な白い羽が見えた気がしたが、そのまま目の前が真っ暗になった。
タカシが目覚めたのは病院だった。
あの日から3日が過ぎており、精密検査の後、自衛軍の職員が来て、村が壊滅した事を知った。
村だけではなく、離れた場所にあった高校や街も甚大な被害を受けていた。
後にエンジェルと呼称されるエネミー群による、初の被害であった。
両親、弟、祖父母、親戚、ご近所さん、友達、先生。そしてキョウコ。
皆んな奴らにやられてしまっていた。
村の生き残りはタカシと山に逃げた数人だった。
遺体は執拗に壊されて酷い状態だったらしく、すでに火葬されて埋葬されていた。
たまたま、宗派の集まりで本山に行っていたお坊さんが戻ってきてお経を上げて、戒名をつけてくれて、位牌を渡してくれた。
しばらく、国の保護施設で呆然としていたタカシは自衛軍が隊員を大量募集していると知り、全身から湧き立つような強く昏い思いが溢れた。
あの化け物どもを1匹残らず狩ってやる。
タカシが生きる理由は、復讐以外、何ひとつとして無かった。
自衛軍での訓練は毎日脱落者が出るくらい厳しかったが、タカシは平気でこなした。
早くあの化け物どもを、特にエンジェルと呼ばれる事になった、あの羽虫どもを狩りたい。
その一念で訓練期間にトップの成績を残し、異世界で戦う選抜隊に選ばれた。
あちらの国々との契約が交わされ、異世界に常駐する事になった自衛軍の第一陣が、異世界に通じるゲートに潜った後、数人の兵士に奇妙な能力が宿っている事が判明した。
後にギフテッドと呼称される異能が公式に初観測された事例であり、タカシも異能を得た1人であった。
「必中の魔眼とはまた凄いな。我々の記録でも、過去に数例しかない伝説の力だよ」
細く長い耳を持つ、信じられないくらい美しい女性が呆れたようにタカシに教えてくれた。
日本語で話してはいないのに、何故か頭の中で日本語に変換されるのが不思議だった。
狙った獲物には必ず武器が当たり、威力が増す力だそうだが、重要なのはそこではない。
「あの羽虫どもを狩れますか?」
タカシの言葉に、エレクトラと名乗ったエルフの女性はニンマリと獰猛に笑った。
「いいだろう、私が狩り方を教えてやる。この天才大魔導師エレクトラ様がね」
その日から、タカシは自衛軍に所属しながらも自称エルフの大魔道士エレクトラの弟子となった。
異世界との協調を重視する自衛軍の方針で、タカシは一兵士でありながら、エレクトラと行動する事が認められた。
自衛軍とエレクトラの共同で、指揮個体狙撃用の対物ライフル麒麟型が開発され、運用実験はタカシとエルフの少女によって行われる事となる。
タカシは必中という能力は得たが、目標を遠距離から索敵出来なければ意味がない。
エレクトラの弟子でエルフ族の最年少であるアリシャは、風の魔法を使う索敵が得意で、恐ろしく気が強く、快活によく笑い、礼儀やマナーにとてつもなくうるさく、そして世話焼きだった。
幼馴染のキョウコとそっくりな性格のアリシャを最初は疎ましく思っていた。
毎日、喧嘩をしながら、共に学び、羽虫を狩り、メシを食い、そしてまた喧嘩をする。
異世界中を移動するエレクトラについて周り、あらゆるバケモノどもの狩り方を学ぶ。
エレクトラは自称ではなく、魔法使いだらけの異世界でも頂点に君臨する、あらゆる種族の大魔道士たちに影すら踏ませない本物であった。
師匠とアリシャと旅を続け5年が過ぎた。
復讐以外、何にも無かったタカシにも、別の感情が生まれていた。
アリシャが羽虫の知覚範囲外から指揮個体を見つけ出して、タカシが超長距離から撃ち抜く。
エンジェル種の攻撃範囲に入ることなく、多大な戦果を上げ続けるこのコンボは、友軍の被害を劇的に減らしていた。
自衛軍と異世界精鋭部隊で構成された、特殊作戦群に所属するようになり、その部隊の中核にまで成長していた。
特殊作戦群の快進撃は続く。
アリシャとタカシの力は益々研ぎ澄まされ、その射程は9キロを超えるようになる。
さらに、800年ほど前から確認されているアークエンジェルと呼称され、異世界全土に膨大な被害を出していた、巨大な羽虫を撃ち落とし、さらに名声は高まった。
「あんた達、いつ結婚すんの?」
作戦行動中の夕飯の場での、唐突なエレクトラの言葉に、アリシャが真っ赤になり俯く。
タカシこの野郎!責任とればかやろー!山田ァ!アリシャお姉様目を覚まして!周囲から次々とヤジが飛んでくる。
「次の休暇でアリシャの両親に挨拶をしたい。すまないが、師匠が仲人になってくれないか?」
タカシの言葉に、弾かれたようにアリシャが顔を上げ、信じられないと目を見開き見つめてくる。
大切にすると宣言すると、綻ぶような笑顔になってくれた。
彼女の全てが愛おしくてたまらない。
この大切な相棒と一緒に、復讐以外の人生を歩みたくなってしまった。
タカシの宣言に全員が黙り込み、エレクトラの返答に注目する。
「いいだろう!この私、天才大仲人エレクトラ様が取り持ってやる。アリシャの親には上手いこと話してやる」
大仲人ってなんだよ!意味わからんし!山田ァ!この野郎山田ァ!仲間たちが笑い祝福してくれる。
最高の夜だった。
輝かしい未来を疑いもしなかった。
だけど、次の休暇を迎える事は出来なかった。
最初に潰されたのは補給路だった。
2日前までなんの問題もなかった補給路に、デーモンの大群が溢れた。
次は偵察隊が崩壊した。異変を感じて、一旦、前線基地まで退こうと、慎重に撤退路を探りに行ったはずだった。
しかしアークデーモンに率いられた100匹を超えるグレーターデーモンの奇襲を受け、ギフテッド4つ持ちの敷島スバルがグレーターデーモンを潰しながら、副隊長を引きずって戻るのがやっとだった。
1000匹以上に増殖したグレーターデーモンに包囲された部隊に、アークデーモンは要求を突きつけてきた。
エルフの尊き血筋であるエレクトラを差し出せば、逃げ出すチャンスをやると。
もちろん、そんな守られる事のない要求を飲む者など、部隊には1人もいなかった。
「アリシャ、タカシ、スバル、ウルスラ、エレクトラ。この5人は失えない」
自衛軍で残っているのは、意識がない自衛軍側の代表の副隊長、タカシ、スバル、ウルスラだけだった。
指揮は精鋭軍の隊長である虎人族の大戦士がとっていた。
その言葉に名前があがった5人以外が頷く。
「待ちなさい!私が囮になって、その間に」
「エレクトラ、それは無理だ。エルフの象徴であり長の娘であるおまえが辱めを受ければ、エルフ達は我々と協力をせずに、単独で暴走する。最大戦力であるアリシャとタカシ、ウルスラとスバルは失えんしな」
隊長の重々しい言葉に、エレクトラは唇を噛み締め黙り込む。
エルフの大英雄であり、個別主義のエルフという種族ではあり得ない、信者がつくような神格化されたアイドル扱いをされている自覚があるのだろう。
「部隊を分ける。アークデーモンに吶喊をする部隊と、5人を生かす部隊だ。3時間後に出る。皆、すまぬな。あの世で酒を奢る故、力無き者達の未来の為に頼む」
深く頭を下げる隊長に、タカシ達5人を除く、300名の部隊員全員が力強く頷いた。
撤退戦は酷い有様だった。
隊長を先頭とする部隊がアークデーモンがいる方向に突っ込み、凄まじい勢いでグレーターデーモンを駆逐し、その反対からタカシ達5人と意識のない副隊長、死兵となった護衛部隊200名が撤退する。
ウルスラが体中に緑色の戦闘紋様を光らせて、グレーターデーモンの群れに突っ込み、竜巻のごとく両手に持った巨大な金棒を振り回して、反撃すら許さず殲滅していく。
その後ろをエレクトラを背負ったスバルが駆け抜ける。切り札たる5つ目のギフテッドを発動し、全身を赤い光が覆い、近づこうとするグレーターデーモンが消し飛ぶ。
さらに、エレクトラの魔法が頑強なトンネルを作り上げて、そこをアリシャとタカシと副隊長が乗った高起動装甲車が駆け抜ける。
もう少しだった。
誓って全員に、油断など微塵もなかった。
グレーターデーモンの包囲網を何とか抜け出した時には、200名いた護衛部隊は10名しか残っていなかった。
緊急事態を察した、自衛軍と異世界軍の合同救出部隊が展開する陣地まで、あと1キロもなかった。
「タカシ!南3000に羽虫!おっきい!」
アリシャの悲鳴のような叫びに、タカシの体は精密機械の如く動いた。
アリシャから送られてくる情報を元に、弾丸を込めた麒麟型対物ライフルの銃口を向ける。
2人のコンボはこの時も絶大な効果を見せた。
以前に堕としたでかい羽虫と同じサイズの羽虫だったが、アリシャから脳内に送られてくる緻密な情報により、弱点のコアはタカシの魔眼に丸見えであり、放たれた必中の弾丸は確実に命中し巨体を撃墜した。
しかし、いつもより羽虫の距離が近すぎた。
でかい羽虫の攻撃射程は3000メートルにも及ぶことがある。
いつもはもっと遠距離から撃ち抜くが、今回は想定外の会敵だった。
コアを撃ち抜かれ、巨大な魔石を中心とし受肉した体が消える寸前、残っていた武装から無差別に攻撃が放たれてしまった。
トンっと突き飛ばされる感触と、柔らかな風に包まれる感触にタカシは戸惑った。
高機動装甲者から宙に体が投げ出され、地面に優しく転がされた。
顔を上げると、泣きそうな顔で笑顔を見せるアリシャが見えた。
「いきて、おねがい」
耳元でそう聞こえたのが最期だった。
直後に熱線が高機動装甲車を掠めて爆散した。飛んできた破片が左腕を切断するが、痛みすら感じなかった。
自分の命より大切な人を守れず、反対に守られてしまった事に、呆然とする。
何かに右腕を掴まれた。
全身血まみれのスバルに引き摺られるように、タカシは陣地まで向かった。
スバルの背中にいたエレクトラは、背骨が見えるほどに切り裂かれていた。
それでも、暖かな力が切断された左腕の傷を覆い出血が止まるのがわかった。
「し、ししょ、、、師匠!俺はいい!自分の傷をおねがいだから!師匠!」
陣地にたどり着けたのは、たった6人だった。
ウルスラ、スバル、副隊長、護衛の女性隊員2人にタカシのたった6人。
エレクトラは助からなかった。
道中、206名に結界魔法を使い続けて、部隊に近づくデーモンを消し飛ばし続け、救出部隊の陣地を直撃しかけたあの羽虫の攻撃を防ぎ、タカシの傷を止血し、全ての魔力を失い、陣地目前で力尽きた。
「なんで俺なんかを助けた!師匠だけ連れて行けば助かっただろうが!」
エレクトラの亡骸を、彼女の両親に託して、放心して座り込むスバルに怒鳴ってしまった。
タカシの八つ当たりに、放心していたスバルは涙を流し、子供のように泣きじゃくり、ごめんなさいごめんなさいと呟き出した。
その直後、無言で駆け寄ってきたウルスラに蹴り飛ばされて意識を失った。
意識が戻ると、異世界ではなくこちらの病院だった。調査に淡々と応じ、幹部の訪問を受け、長期休暇と莫大な年金の支給があると説明された。
そんなものはどうでも良かった。
失った左腕もどうでも良かった
実の親と同じくらい慕っていた師匠と、半身ともいえる恋人と、家族みたいな仲間たちの殆どを失った現実に、どうしていいか分からなかった。
無気力なタカシを世話したのは、牛人族の看護師だった。
あちらで家族を失い出稼ぎにきて、懸命に働いて簡単ではない試験を突破して、看護師になったと言われた。
「なんで、生きようと思えんだ?」
タカシの下の世話をする彼女に聞いてみたくなった。
そんな境遇でも生きようとする理由が知りたかった。
「だって、あたしが生きないと、家族のことを覚えている人がいなくなっちゃいますから。そんなの寂しいじゃないですか。だから、あたしは頑張ってるんですよ」
その言葉にアリシャの最後の声を思い出す。
彼女は「いきて」と言ってくれたのに、そんな事すら忘れていた。
無気力にベッドに転がり、宥められながら飯を食わせてもらい、下の世話までしてもらう。
彼女が言った「いきて」が、こういう事じゃないのは絶望に支配されていたタカシにも分かる。
涙が溢れてきた。あれから半年、全く泣けなかったのに、涙が止まらなかった。
つらくてつらくて、どうしようもないけれど、アリシャの最期の頼みを、叶えようと思えた。
男ってのはどうしようもねえなと思う。
ちょっと優しくされりゃ、フラフラと靡いてしまう。
アリシャ以外の女とくっつくなんて考えられなかったのに、気がついたら看護師の牛人族の女と結婚していた。
去年、ガキまで産まれた。
そして、毎日飯を食わせてもらい、家事と育児を分担し、作ってもらった弁当を持って週に3日仕事にきている。
女房の作る飯がうま過ぎて、最近は腹筋は薄くなり腹が出てきた。
「教官殿!お手本を見せてくれませんか!」
選抜隊員の1人が、小馬鹿にしたように言ってくる。亡くなって左腕を見ながらニヤニヤしていた。
他の教官が激昂し、叱責しようとするのを止めて了承する。
「いいぜ、的を頼むわ。そうだな、こいつなら3000メートルってとこだな」
訓練用ライフルを持ってそう嘯くタカシに、選抜隊員たちはドッと笑う。最大射程を遥かに超えているからである。
準備できましたとの係員のアナウンスに礼を言って、ブースに入り、無造作に片手で構えて撃つ。
射撃場に1発の銃声が鳴り響き、的がモニターに拡大される。
3000メートル先の的の中心が、見事に撃ち抜かれていた。
静まり返る選抜隊員たちに、カッコつけすぎたかと気まずくなるタカシ。
小さな拍手の音に振り返ると戦友がいた。
「流石ですね『羽虫狩り』の力は健在のようで、安心しました」
隣の民間志願者訓練所にいるはずの、敷島スバルがそこに居た。
スバルと教官室に移動したタカシはなかなか言葉が出てこなかった。
あれから、ずっとスバルに謝りたいと思い続けていたが、勇気が出ずに4年が過ぎていた。
「あー、あのよぅ、そのなんつーかな、、、」
そんなタカシの様子に目を細めるスバル。
「わたし、傷ついたんですよ。親友も守れず、憧れの英雄から罵倒されて、とても傷つきました。」
その言葉に項垂れてしまう。
あんなひでぇ事を言ったのに、許してくれなんて虫が良すぎる話だ。
「すまねぇ、、、あん時は八つ当たりしちまった、、、本当にすまねぇ、、、そんでよ、、、助けてくれてありがとうな。本当に感謝している」
深く頭を下げる。やっと言えた。許されないのは分かっても、自己満足でも言っておかなきゃならない言葉だった。
かえってきたのは、弾けるような笑い声だった。
「知ってます、奥さん相手に謝る練習をしていたんでしょ。奥さんから聞きましたから」
その言葉に呆気にとられる。
「わたしと奥さん、3年も前から友達なんですよ。ご存知なかったでしょ」
にっこりと笑いかけられる。
「だから、もういいんです。タカシさんが元気になってくれて嬉しいですから。」
「女は強えな、、、男なんぞいつも掌の上だ」
「世界の真理を知れたんですね、おめでとうございます」
少しの間、懐かしい話や家族同士で飯を食おうと約束をした後、本題をスバルは切り出した。
鍛えてほしい子がいるんです。
その夜、家に帰ったタカシは妻に感謝を伝えた。
謝れてよかったなぁと、ふんわりと笑われた。
食卓にはタカシの好物ばかりが並んでいた。
そして翌朝、いつものように弁当を持たされて職場の射撃場に来た。
スバルとの約束通りの13時きっちりにそいつはやって来た。
金色の髪に透けるような青い瞳の小柄な民間志願訓練生。
その美しさに、選抜隊員たちは見惚れて浮足だっていた。
「伊知地セイラ訓練生です、よろしくお願いしま〜すじゃなくてします」
慣れていない敬礼だったが、体幹が凄まじい。
体の中心に棒が入ったかのように、一切のブレがない。
この子が俺と同じ必中の魔眼持ちねぇ。なんか顔に見覚えあんなぁとも思う。
「山田タカシ特務教官だ。敷島教官に頼まれて、今日から伊知地訓練生の狙撃を見る事になった。あと俺には口調は改めなくていい。あくまで民間の訓練生だからな」
「ちゃんと〜敬語も使えますよ〜苦手ですけど〜でも助かりま〜す」
「ああ、俺も敬語が苦手だ。さて、伊知地訓練生、君は何の為に志願した?民間から志願して、ロクな訓練もなしに、異世界まで行って戦う理由が知りたい」
少し悩んだようだが、彼女はその理由を話してくれた。
「えっと〜一目惚れした子がいるんですよね〜おんなじ部隊になって〜その子を守りたいかな〜と思いました〜」
口調は砕けているが、その顔は真剣そのものだった。
「変ですかね〜?」
目を合わせて尋ねてくる。
「いや、俺が今まで聞いた中で、最高にクールな理由だ。伊知地訓練生、歓迎する。俺の技術を全て伝授しよう」
タカシの返答に、セイラは猫のように目を細めてにっこりと笑う。
「せんせ〜話せる人だね〜よろしく〜」
アリシャの最期の笑顔を思い出す。
自分は彼女を守ることが出来ず、守ってもらい生かされた。
目の前の小さな子に、自分の代わりになって羽虫どもを狩って欲しいとは思わない。
けれど、自分と同じ力を得たこの子が、大切な人を守れるように。
タカシが20年間かけて研ぎ続けた牙の使い方を教える事に、全力を尽くすと、改めて彼女に誓った。
「でさ〜サキってば沢山食べて可愛いんだよ〜せんせ〜」
「そ、そうか相手は女の子なのか」
「そうだよ〜運命の人なんだ〜」
「そうか、、、大事にしてやれ」
「当たり前なんですけど〜」




