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変わりゆく、己にようやく気づく愚か者

力なき愚か者は力を得た

 訓練の厳しさは日を追うごとに増していった。特に厳しかったのが11日目の24時間全体演習だ。

 朝5時に緊急放送で起こされ、基地が襲撃を受けたという想定でドーリーまで移動し乗り込み、人工島から本土に向かう橋を渡る。

 自衛軍が確保している、山に広がるフィールドにて、翌日の朝まで24時間ずっと不規則に現れ、ペイント弾を撃ってくる動く的に向かい、訓練弾を叩き込みながら逃げ回るという過酷なものだった。


 ドーリーは操縦室、居住区画に加え、物資運搬も任務に含まれる為、倉庫も備えられている3層からなる巨大な装甲車だ。

 ヘルメットに埋め込まれた無線機から、部隊内の会話が共有される。


「サキ、進路は北東でいいのか?」


 操縦室でハンドルを握るのはユウキだ。意外なまでに繊細な運用は、機体を丁寧に扱っていると整備から高い評価が上がってきており担当となった。


「小さな的の現れ方から、西側と南側に誘導したい意図が見て取れる。座学で習った、デーモンがよく使う釣りを模しているんだろう。撃ちやすいから追っている部隊もいるが、あちらは駄目だ、包囲されて終わり」


 同じく操縦室にて、レーダーの監視に加えて6台のシーカーと呼称される、攻撃能力を備えたドローンから送られてくる情報から進路を決め、砲撃担当に伝達するのはサキだ。

 いかなる時でも状況を正確に認識し、部隊内に伝達する能力が評価され、前面と側面に取り付けられている自動化されたほぼ全ての火器の管制も任されてた。


 背面の上部にある銃座にて、白虎型分隊支援火器二式を構えているのはエリナだ。

 背面の自動化された砲門の管制と、本部との通信まで任されている。


「サキさんに同意します。南の的を追った2部隊が沈黙しました。戦闘不能状態と判断されたのでしょう。大型の的の隙間を抜けたので、このまま行きましょう。ユウキさん、見事な運転です」

 

 砲撃訓練の翌日からエリナは変わった。

 苛立ちを見せず、まるで憑き物が落ちたかのように落ち着き、よく笑うようになってきた。

 ユウキとサトシに対してキツかった言動も柔らかくなり、見下すような態度も見せなくなった。



「エリナいい感じになったね〜なんか〜安心して背中を任せられる感じ〜」



 エリナと背中合わになる分厚い装甲で守られた狙撃室にて、超長距離からエネミー群の指揮個体を撃ち抜く為に開発された、巨大な麒麟型対物ライフル三式を、セイラはうつ伏せで構えていた。

 2つのギフテッドの付与が確認されたセイラに貸与された自衛軍の秘匿兵器のひとつである。

 通常の麒麟型対物ライフルの射程は2500メートルであり、魔法処理がされた二式の射程は3500メートルだが、より強力な儀式魔法が施されたエリナが構える三式の射程は6000メートルにもなる。


「うー暇だなーボクの出番ないよねこれ」


 主砲が配置されたドーリー前面にて、手持ち無沙汰のジュリアが柔軟体操をしていた。戦闘用補助服の上からヘルメットと体の動きを阻害しない、最低限の装甲だけを身につけている。

 両腕に至っては肩まで素肌が剥き出しである。


「ジュリアさん、、、武器は使わないんですか?」


視界の端で上半身が床にべったりとつく股割りをしているジュリアを見ながら、スゴいなぁ関節どうなっているんだろとサトシは感心していた。

 

「うーん、今はいらないかな。ボクは基本的に素手だからね!」


 ニパッと笑顔全開のジュリアの言葉の意味はよく分からない。ジュリアは敷島教官と訓練所の地下で体術訓練をしているらしく、どういった戦いをするのか見たことがない。

 何だかすごくすごいらしいが、見た目が小さくて細いから大丈夫だろうかと心配になる。


 サトシは巨大な砲門に張り付くように衝撃を吸収する台座に座り、朱雀型滑空砲を備えていた。

 ドーリーの主砲となる朱雀型滑空砲は訓練で使われていた二式より、更に巨大な試作機との事で、二式より速射性は増したとの事だが、反動はさらに凄まじい。

 しかし、初めて撃った時のような体の痛みは全くなくなっていた。腹に多少響くなぁという程度である。


 僕も少しは強くなってきたのかな、と小さくつぶやく。

 この10日間であれだけついていた贅肉はほぼ無くなり、筋肉がしっかり付いている。

 食事量も増え、すでに朝から12時間が経過しているが疲労もほぼない。

 これなら、頑張れるかなと思う。


「だいじょうぶだよ!サトシはちゃんと強くなっている!ボクが保証する!最初はオジサンって感じだったけど、今はちゃんとした一人前のオスって感じだから!」


 近づいてきたジュリアは、サトシの肩をバシバシ叩きながら笑顔だ。

 よく分からないが褒めてくれているらしい。


「ありがとうジュリアさん、これからも頑張るね」


 怠惰な愚か者は、ようやく自分の体に起こっている変化に気がついた。

 

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