はち
「確かに、無駄を羅列するようにと言ったのは私だ、が、そもそもそれを守らず駄作を見せに来たのはお前だろう」
はて、守らず。
私が望夏大先生のお言葉に背いたことなど、一度だってありましょうか。
もしあったというのならこの場で逆立ちして地面に絵を書きながら腹踊りだってしてみせましょう。絶妙にウケない腹踊りには自信があるのです。
「そんなそんなまさか、私が望夏大先生の言いつけを守らなかったことなど……」
「二十五までで物書きとして大成せよ、という約定は、はてさてどこへ行った」
うぅむ、痛いところを突かれた。
確かに二十歳になって初めて行った酒場の酔いの席にて寝ぼけ眼に酔眼、「わたひは二十五には物書きとひて大成してまふから!」などと戯言を言ったかも知れぬ。
望夏先生もその時は少々酔われて酒場に響くような声で言われたのであった。
「では、やってみせよ、二十五までに物書きとして大成せよ!」と。
これは、腹踊りの準備をせねばならなくなってきた。どうしたものか、腹踊りがために羞恥は捨てられようとも、我が身に積り祟った運動不足は捨てられてくれぬ。
腹踊りと絵描きは良い、が、逆立ちがいけるかどうか。
「何をしようとしてるのか知らぬがやめておけ、お前の矜持のために家を壊されたくない」
「はぁ、それはそれは、おっしゃるとおりで」
危ない危ない、まさか望夏大先生のお言葉に泥を向けるだけに飽き足らず、望夏先生の広くもない唯一の住処を壊しかけるとは。
いつの間にやら寝惚けていたのかも。
「お前は、サンシンスウのくだり、虚無の想い人のくだり、どちらも無駄として羅列したのであろう」
「へぇ、その通りで」
「少なくとも、これを無駄だと思っているうちでは自叙伝など書けぬ」
はて、またやはり望夏先生のお言葉は不可解だもんで。無駄を書けと言われて無駄を書き連ねてみれば、まさかのこれを無駄だと思っていてはいけぬと。
しかし、これが無駄でなくなってしまえば無駄の数も減って、自叙伝なるものの面白さも半減ほどするのではなかろうか。
いやいやまぁ、望夏先生のお言葉は絶対。これはやはり変わらぬので、仕方なし。
無駄を無駄と思わぬままに無駄として書かねばならぬ。
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