ろく
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私の人生は無駄ばかりだった、などと格好つけて書いてみたので無駄の展覧会でも開いてみようと思う
あれは、人生で初めて想う人が出来たときのことだった
それはそれは有頂天になり、あれやこんやこの、と毎日踊り狂うことすらあるほどで、その人のためなら何でも出来るのでは、とすら思ったものだった
といっても、私はその人を見たことがあるだけで、話したことも無く、お互いの名前すら知識になかった
所謂、一目惚れだと言えば少し聞こえが佳いだろうか
私は生まれも程々の庶民だったのだが、その人は少しばかり良家の生まれだったそうで、家から離れた学舎へと通うため、列車を多用していた
ならば、彼の人に会うがため、駅で待ってみようではないか、と意気揚々たる足取りで駅に向かい、一日中、厳密に言えば八時間半ほど、そのあたりをぶらぶらと徘徊し、時に警邏の者に訝しげな視線を向けられながらも、ただひたすらに彼の人を待ったのである
そして、日も落ち、いつの間にやら影も立たなくなった頃、彼の人がやってきた
しかしまぁ、とんでもないことに、その人は、それはそれは絶世の人だろうという見目麗しき男性を伴っていたのである
見なくたってそのおそろしいほどの気配というものを感じてしまって、悔しさすらも放棄して家へと舞い帰ることとなってしまった
それ以降、驚くほどにその人への恋慕は煙と消え、再び燃え始めるなんてことはなかった
その日の八時間半ほど、それ程無駄な時間はなかったのではないかと思う
〟
はぁぁあ、本当に、自叙伝たるものの何と無慈悲なことか。なんという気遣いのなさか。
こんな記憶をわざわざと持ち出してきて、やっと終わるかと思えども、まだまだ原稿用紙は減りきらない。
あとどれだけ羞恥を捧げれば、門番たる自叙伝殿は納得されるのかいざ分からん。
これで、一度望夏先生に推敲の程を願ってみよう。
何やら聞くところによると、仕事のできるものははじめは一旦手を抜いて仕事をし、上官に確認を取って指摘を受けることで上官の思う方向性を悟るのだとか。
私もいざ、仕事のできる人間になってみようではないか。
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