第8話(1)講堂にて
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「えっと……」
「さて……」
「う~ん……?」
「昨日の今日で申し訳ないのですが……」
「はあ……」
「ぼくにお付き合いいただきたいのです」
「お、お付き合いというのは?」
「ああ、ざっくばらんな話し合いです」
「話し合い……」
「ええ」
「ここで⁉」
わたしは自分の立っている場所を指し示す。ここは講堂。そこのステージ上の中央で、何故かわたしと天馬さんが縦に細長い机を挟んで、向かい合って立っている。
「はい」
天馬さんがにこやかに頷く。
「なにもこんなところで……」
「まあ、いいじゃあありませんか」
「いや、人目もありますし……」
わたしが控えめに指し示した先には、講堂を埋め尽くす女子生徒たちがいる。学内屈指のイケメンである天馬さんがステージ上に立つのだ。これは何事か始まるようだという口コミが瞬く間に広がったのであろう。
「ああ、こちらはまあ……気にしないでいただいて……」
「気にしますよ!」
わたしは思わず声を上げる。天馬さんが首を傾げる。
「気になりますか?」
「そ、それはもちろん……」
「ふむ……」
天馬さんが自らの顎に手を添えて考え込む。
「……」
「………」
「あ、あの……?」
「……これもひとつの修行だと思えば……」
「修行?」
今度はわたしが首を傾げる。天馬さんが頷く。
「ええ、修行です」
「な、何故に?」
「昨日……ぼくは九尾の狐に対して、遅れを取りました」
「ああ、はい……」
「これはつまり、ぼくの明確な実力不足です……」
天馬さんが自らの胸にそっと手を添えてうつむく。
「そ、そうでしょうか?」
「そうなのです」
天馬さんが顔を上げてわたしを見つめてくる。
「た、たまたま調子が悪かったのでは?」
「その時点で出るのが本来の実力というものです」
「う、う~む……」
わたしは腕を組んで考え込む。
「ですので、ぼくは己を鍛え直さなければならないのです……」
「は、はあ……」
「ご理解いただけましたか?」
「いや、それは分かりましたが……」
「が?」
天馬さんが首を捻る。
「陰陽師の方の修行に何故わたしが?」
「ここは新宿のど真ん中ですからね。出来る修行にも限りというものがあります」
「ああ……」
わたしは頷く。大岩を担いだり、滝に打たれりすることは出来ないもんな。
「出来る限りのことをやろうかと思いまして……」
「それが……話し合い?」
わたしは右手の人指し指で、自分と天馬さんを順に指し示す。
「そうです」
天馬さんが首を縦に振る。
「そ、そんなことで良いんですか?」
「なにも体を動かすことだけが修行ではありません」
「し、しかし……話し合いと言っても、何について……?」
「……お友達についてです」
「お友達?」
「あのピンク色の……」
「ああ、華土竜ですか?」
「ええ、そうです」
「別にお友達というわけじゃないですけれど……」
「しかし、引き寄せたということは、静香さんに何らかの共鳴を感じたということです」
勘弁してくれよ。モグラと共鳴した覚えはない。わたしは苦笑する。
「ははっ……」
「ちょっと、ここに出してみてもらえませんか?」
「ええっ⁉」
「どうしました?」
わたしは小声で囁く。
「……パニックになりますよ」
「ん? ああ、それは大丈夫ですから」
「ええ?」
「お願いいたします」
天馬さんがうやうやしく、わたしに向かって頭を下げてくる。女子生徒たちの注目がわたしに集中する。……どうなっても知らないぞ。こうなりゃヤケだ。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
わたしは九字を切る。すっかり慣れたものだ。ステージ上に華土竜が出現する。
「!」
「……カ、カワイイーー!」
「⁉」
予想外の反応にわたしは面食らう。同じ女子高生ながら、カワイイのストライクゾーン広すぎだろう。
「キャアアア!」
講堂に悲鳴があがる。天馬さんが少し前に出て、両手を上げる。
「……ちゃ! ちゃちゃちゃ!」
「…………」
天馬さんが両手を広げてリズムを取って、悲鳴を静めてしまった。なんだそれは。
「ふむ、この愛らしさに強さの秘密が……」
天馬さんが華土竜をマジマジと観察し始めた。わたしの昼休みを返して欲しい。
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