ナマケモノ殿下と冒険者ギルド
フォーグラム領内冒険者ギルド 比較的大きな領土を待つフォーグラム領では街の中にしっかりとした冒険者ギルドがあるものの、フォーグラム領には管理されていないダンジョンや未踏派のダンジョン等はないため、そこまでレベルの高い冒険者はいない。
冒険者ギルドにしては治安がよく、初心者冒険者や流れ者、兼業の冒険者が多い。
術式魔石の作成に夢中となってしまい、自らが術式魔石を作成することがクリスティーナにバレてしまったシンセイ。
クリスティーナと話を行い、くだけた会話をする事で秘密にしてもらうことになった。
そのまま術式魔石の作成を行い、完成の目処がたったため、シンセイとクリスティーナは冒険者ギルドへ出向き協力を依頼するのだった。
-----------------
「クリス、悪いけどこの仮面舞踏会用のマスクをつけてフードを被ってくれないか?俺とお揃いで申し訳ないんだけど、それと、護衛はここで待っていてくれ」
そういって貴族がつけるようなマスクと、フードを渡し、冒険者ギルド近くで護衛を待機させる。
「身分を隠して訪ねるのですか?護衛なしでも大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ、フォーグラムの冒険者ギルドは治安がいいからね。それと、冒険者ギルドでは基本的に何かあっても静かにしておいてくれないかな、身分偽ってるからね、色々と疑問も出てくると思うけど」
「わかりました、なんだかお忍びで仮面舞踏会に出る感じですね」
「あっ、お久しぶりですエイセイさん、今日はアールさんとご一緒じゃないんですか?」
「アールは帰省中です、今日は私だけで要件があってきました。」
馴染み受付嬢が対応をしてくれる、変なマスクをしているが、過去何度も依頼を通してもらっているため、話が早くていい。
「いつもの個人依頼ですね、何組ほど紹介が必要でしょうか?」
「3組ほど、口の堅いCクラス以上の冒険者をお願いします。依頼内容はこちら、依頼料はこちらになります。申し訳ございませんがいつも通り依頼内容は内密でお願い致します。」
「いつもありがとうございます。少々お待ちください。」
冒険への依頼は基本的に、冒険者ギルドを通して個人へ依頼、または依頼を掲示して達成して貰うの2つがあり。
今回は内密で対応したいため、個人依頼となる、ギルドに紹介料を払うことで、冒険者を紹介してもらうというシステムだ。
個人依頼をとる場合、別途紹介料がかかるが、冒険者ギルドが責任をもって紹介するため、外れの冒険者が少なく、依頼達成率が高いという特徴がある。
「(シン様、顔が効くっていうのは本当だったんですね)」
クリスが小声で話しかけてくる。
「(今は休暇中だけどアールっていう元冒険者の執事とよくこの格好と名前で依頼を受けたり依頼を出したりしてるんだ、受ける依頼は術式魔石の作成がほとんどだけど)」
「(そうだったんですね、アール様にもお会いできるのを楽しみにしております。)」
ニッコリと笑ってこちらを見る、笑顔が絵になるが、マスク越しでもそのオーラは危ないなぁ。
「(あんまり笑うと美人さんだから目立っちゃうよ。アールのおかげで、こんな変なマスクをしているのにサクサク話が進むんだ、おっ、そろそろ来たみたい)」
「(美人さん?)」
そんな疑問に思わなくても、間違いなく美人さんである。
そうこうしているうちに受付嬢が戻ってきた。
「エイセイさん、紹介させていただく3組が決まりました、1組はエイセイさんもよくご存じのデュークさんのところです偶然いらっしゃったようです。3組ともちょうど冒険に出ていないので宿や食事処にいらっしゃいますので、および致しますね、また後程いらしてください。」
受付嬢は3つの紹介状をもってきてくれた。
「ありがとうございます。しかしデュークはAランクパーティだから本依頼には適さないと思うのですが」
「デュークさんからエイセイさんが依頼をだしたら必ず紹介しろと言われてまして、まぁ細かいことは本人たちから来てください」
デュークたちはAランク冒険者、凄腕といっても過言ではなく、騎士団に入っても遜色のない、本来王都の冒険者ギルドにいるパーティーである。アールとともに冒険者ギルドに出入りするころからの仲だ、以前術式魔石を作成した時のお礼もかねてということだろう。律儀な人たちだ。
「(シン様、少しお時間ありますか?でしたら私お忍びで街を見て回りたいです。いつも注目されてしまいますので、顔がわからない今の状態で普通に買いものとかやってみたいです。)」
「(わかった、でも仮面してるのは少し変だから認識阻害の魔法を使おうか、ちょっと待ってね)」
クリスは貴族令嬢だから行く先々で注目されてしまって中々普通に街を歩けないのだろう、普段使っている認識阻害の術式魔石を貸してあげよう。
「はいこれ、ネックレス」
「えっ、ネックレスいただけるんですか!?ありがとうございます!」
ネックレスを手渡すと説明を聞かずすごく嬉しそうに受け取られてしまった、すでに首にかけようとしてる。
「ここの部分に認識阻害の術式魔石があるから」
「あっ、認識阻害のためのものだったんですね、早とちりしてしまいました。」
なぜか落ち込んでしまった。これ以上落ち込まれては困る、貸すつもりだったとは言えないな。
「えっと、これは認識阻害の術式魔石でできてるから、魔力を通してもらえば解除するまで認識阻害が続くんだ、よく知っている人やすごく注目されない限りはクリスだとわからなくなるよ。でもこれ俺が作ったやつだから、デザインとか気に入らない部分はちゃんとプロに加工して貰ってね」
「えっ、これはシン様が作ったんですか?それをプレゼントしていただけるんですね、ありがとうございます。本当に、一生大事致します。」
詳しく説明をすると落ち込んでいた顔が明るくなった、大げさだなぁ、でも認識阻害の術式魔石つきネックレス作れる人ほとんどいないし、嬉しいんだろうね。
とりあえず喜んでくれてよかった、プレゼントするつもりはなかったけどね。珍しい魔石が必要だから新しく作るにはお金がかかるなぁ、あとでフォーグラム公に請求してみよう。
---
クリスに付き合ってお店回りやショッピングを一通り終わった後、指定された時間となったため、冒険者ギルドに向い、3組の冒険者が待つ客間へと向かった。
若い人がメインの新進気鋭のパーティー、経験豊富そうなベテランのパーティー、そしてこの場にそぐわない高い実力を持つデュークのパーティーがそこにはいた。
「おーっす、久しぶりだなエイセイ」
スキンヘッドで色黒のマッチョなデュークさんが手を挙げてくれる。
デュークさんの他のパーティーメンバーの3人も歓迎してくれた。
「お久しぶりですデュークさん、今回依頼を受けていただけるとのことで、ありがとうございます。」
「いいってことよ、前に作ってもらった治癒魔法の術式魔石、まだ使えてるぜ、ありがとよ」
術式魔石は質の低いものや術式を刻む人間の技量が低いと数回で使えなくなってしまう、俺が作る術式魔石は起動のたびに術式をメンテナンスするようにできているため、ほぼ永続で使用できるものだ。治癒魔法自体はへたくそだから治癒魔法の効きはそこまでよくないはず。
「ところで今日はアールじゃねぇんだな、そっちのねーちゃんはエイセイの彼女か?ったく隅に置けねぇな、お揃いのマスク似合ってるぜ」
「はいそうです!」
クリスが笑顔で肯定してくる。
「違います、デュークさん、茶化さないでください!他のパーティーの皆さんもよろしくお願い致します。では本件の説明を始めますね」
---
「ということで、開始は2日後、一斉スタートです。この術式魔石を使用して反応する術式魔石を回収するのが目的です。道中マウンテンウルフの集団と出くわす恐れがあります、討伐してもいいですし、見逃しても問題ありません。もちろん討伐した分の報酬はだします。またマウンテンウルフ以外で魔力を使える上位個体の可能性があるため、本件は探索、マウンテンウルフ相手ですがCランクの依頼とさせていただきました。」
「あくまで探索がメインで、討伐はメインじゃねーんだな?クエストの完了、成功の判定はどうするんだ?」
ベテランの冒険者からの質問、さすがベテランらしい観点での質問だ。
「先ほど指示したルートを術式魔石を発動した状態で歩いていただき、反応したらその術式魔石を回収、一周したら完了、成功という形でお願い致します。また、想定外の上位モンスターと遭遇した場合、命のほうが大切ですので逃げてください。術式魔石は返却してもらう予定ですので、なくさないようにお気をつけください」
「おう、任せとけ」
「任せてください!」
「エイセイも大きくなったなぁ、最初にあったときはあんなに小さかったのによ、大船に乗ったつもりでいろよ」
こうして冒険者への依頼も無事終わった、あとはいくつかの術式魔石を作り、探索、そして黒幕の確保準備を整えよう。
それにしても少し頑張りすぎじゃないかな?全然怠けていない気がする。