表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/52

ナマケモノ殿下と悪徳商人

 成人の義のパーティ会場から逃げ出したナマケモノ殿下ことシンセイは、見張りの兵に助けを求めている女のエマを発見。パーティ会場から逃げ出した口実作りに話を聞いてみたところ思ったより大変な悩みを相談されてしまう。

 エマに案内された家で体調を崩していたご婦人に話を聞き、連れ攫われたというエマの姉を救出することになった。

 

 シンセイに助けを求めたご婦人はある貴族の愛人であった。元々ご婦人と貴族は愛し合っており、結婚し子供までいた。しかし政略結婚で強引に正室となった貴族の妻は家の格の違いを盾に側室を認めず、ご婦人とその子供を領地から追放していた。

 しかしそれでも2人は愛し合うことを諦めなかった。

 これらの情報よりシンセイは、恐らく今回の誘拐事件、そしてご婦人の体調不良は貴族の正室の仕業だと断定した。


 ---

 

 想像の10倍めんどくさい出来事だった。

 こんなに厄介な話、小さい女の子が抱えるには重すぎる。でも成人の義よりギリギリめんどくさくないはず、俺の身分をあかせば素直に返してくれるだろう、その後の始末はテンセイや父上に放り投げよう。

 という作戦を抱えて連れて行かれた先の商館へたどり着いた。


 豪華絢爛なその商館は国でも有数の規模を誇るローエングリン商会の王都支部の商館である。

 貴族にパイプをもつ商会であり、ある時は貴族を借金漬けにしてコントロールしたり、ある時は貴族に取り入り利権を占領したりと、あまりいい噂は聞かない商会である。


「ローエングリン商会だな、私だ、通せ」

 俺は成人の義のパーティ会場からそのままの衣装、身なりを整えて、堂々と、あえて名乗らずに門番へ声をかけた。


「大変失礼ですが、その、お前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「私の名前がわからない、そう申すか?王都で勤めて何年になる?話にならん、他の者を呼べ」

「しかし」

「これはこれは、よくぞいらっしゃいました。」

 困惑する門番の後ろからドアが開き、凄く偉そうな小太りのおっさんが出てきた。


「私の名前はエルウィン=ヨーゼフ、この商館の館長を勤めております。」

「そうかエルウィン、初めましてだな、私だ。ドロシーを引き渡せ、話はそこからだ。」

「テンセイ殿下でおありますな、成人の義は宜しいのですか?」

 よし、テンセイと勘違いしてくれた、計算通り。

 俺は笑みを我慢しながら、エルウィンに答えた。


「成人の義は抜けていた、姉を助けて欲しいと泣く子がきたのでね、返してもらえるかい?それと、ローエングリンはこの国の皇子をいつまで外に立たせるんだ?」

「さっさと中へ通ししろ!申し訳ございませんテンセイ様。」

 かわいそうに、真面目に仕事をしていた門番が怒られてしまった、ごめんね。

 

 ---

 

 屋敷の中に案内された俺はソファーに腰をかけ、引き続き渋い顔で対応を行う。


「殿下、ドロシーを準備致しますので、少々お待ちください。ご安心を、傷1つつけておりません。」

 そうしてエルウィンは部下に指示を行い、急がせる。

 

「さて、商談だ、エルウィン、私からの要望は2つある」

 俺は1つ1つ指をたてながら説明していく。


「1つ、ドロシーの解放」

「2つ、誘拐を指示した人間の大元を告発する」

 2つ目の段階でエルウィンはピクリと少しだけ顔を歪ませる。


「それで、我が商会には何をいただけるので?」

 苦い顔を押しつぶしながら、振り絞るように質問される。


「そうだな、2つ目の要望を叶えてもらうため、俺の名で王都への参上を許そう。そこで今回の依頼人についてしっかりと告発しろ。その後はまぁこのお茶に私の名を使ってもいい」

 そう言って出されている紅茶を飲む。

 使っていい名前はイケメン殿下のテンセイではなく、ナマケモノ殿下の俺の名前だけどね。

 

「そっ、それは、」

「もちろん王国お墨付きではなく私の名だが、十分ではないか?何せ俺の名前を使う商品は初だ」

 割に合ってないわけじゃない、王国との繋がりがより強固になり、イケメン殿下と呼ばれ国内でも人気の高いテンセイの名を使えるのだから(ほんとは使えないけど)。

 だからこそ警戒をする、そんなエルウィンの発言に被せるように話を続ける。

 

「私の名は自分で言うのもなんだが国内に広がっている、だからこそ私の前で流布される物の売れ行きは好調となるだろう。もちろんメリットはまだあるぞ、これはローエングリン商会ではなくエルウィンとの契約だからな、商会内で地位を高めることもできるし独立も夢ではない。」


「ドロシー様をお連れしました。」

 そうこう言っているうちに助けを求めてきた女の子の姉、ドロシーが連れてこられる、本人は困惑した表情を浮かべているが、いくらか丁重には扱われているらしい。

 まぁ貴族の娘だ、交渉用だろうな。


「貴方がドロシーさんか?エマちゃんと母君の依頼で連れ帰ります。」

「あっ、えっ?はい」

 狼狽えているエルウィンを他所にドロシー嬢の手を引き帰ろうとする。

 

「お待ちください殿下、その子には借金があり連れて行くためには返済していただく必要があります。」

 エルウィンがそう言った瞬間、帰りのドアの前に武装した兵が数名、ドロシーがきた奥の部屋から数名の兵が集まり、囲まれてしまった。


「今は殿下もお金はお持ちではないでしょう、この書類にしっかりとサインをしていただきたい」

 気色悪い笑顔を浮かべながらエルウィンが怪しい書類をもって近づいてくる。

 俺はドロシー嬢の手を引きながらそれを


 無視した

 

 何も気にすることなく、困惑しているドロシー嬢の手を引いて歩き出した。

 当然振り下ろされる刃、叫ぶエルウィン。


「包囲結界発動」

 パチィン


 全てを意に返さず、指を鳴らした。

 その瞬間、俺とドロシーを包むように円柱状の結界が発動する、円柱状の結界には魔法術式が刻まれており、俺が進むたびに自動でどんどん書き換えられていく。

 俺を中心に横直径1メートル、縦2メートルほどの大きさで、自動で魔法術式を書き換えることで本来の防御結界を超える防御力と範囲を実現している。

 振り下ろされるた刃が弾かれ、拘束にきた兵が結界に押し戻される。


「ドロシーさん、お気になさらず、帰りましょう」

 依然として困惑するドロシー嬢を連れ固く閉ざした戸へ近づく、扉とそれを守護するヘイは俺と結界が移動するとそのまま押し出され壊れ、吹き飛ばされてしまう。

 そのまま廊下を歩き出口を目指す。


「止めろ!なんだこれは、お前ら何をしている!」

 エルウィンが力強く叫ぶが、誰も止める事が出来ず、出口へ進む際に結界に触れた扉や壁、部屋がどんどん崩れていく。

 階段を一段降りるたびに今までいた段が崩れ、階段を下り切った後には綺麗な吹き抜けが完成する。

 出口に辿りつくころには屋敷はボロボロになっていた。


「少し汚してしまってすまないな、苦情や請求は王家に言ってくれ」

 そうエルウィンに挨拶し、俺は屋敷を後にする。


「くそっ、何が起こった、」

 エルウィンの叫びが響き、野次馬と警備隊が集まってくるが、無視してエマちゃんの家に帰っていった。

 

 ---


 ふむ、どうしよう。

 ドロシー嬢を助け出したのはいいが完全に固まってしまっている、何が起きてるのかわからないと言った形だ。


 まぁいいか、あとはテンセイがなんとかしてくれる。


 そういってエマの家に到着し、ドロシー嬢を引き渡しエマと、ご婦人に別れを告げる。

 何度もありがとうやお礼をと言われたが、その全てが旦那さんの家に迷惑となるため、そのまま立ち去った。


 ---


 色々あったけど騒動は無事収束した。

 エルウィンが色々騒いでいたがテンセイはもちろん成人の義に出ており、ナマケモノの俺がそんな真似できるはずないため誰も信用してくれなかったらしい。

 ご婦人に毒を含んだ食材を卸していたことがバレたため、王都のローエングリン商会は営業停止となったらしい。

 どこぞの辺境伯にお小遣いをもらって一言手紙を書いてあげたところ、無事側室が認められ子供が2人も増えたらしい。

 正室の奥さんと離縁までは出来なかったが、ほとんど関わりなく幸せに暮らしいているそうだ。


 ---

 

 王城の4塔目にある中庭、ここが俺とテンセイのいつもの場所、そこでいつもの報告会を兼ねたお茶会を行っていた。


「ということでテンが貴族相手にニコニコしている間に、俺は1家族救ってきたわけ」

 ことの顛末を自慢する俺、もう一年分は働いた気がするんだ、テンに自慢ぐらい許される。

 

「今回はさすがに偉いねシン、きっと父上もサボりを許してくれるよ、兄さん達は知らないけど」

「大切なのは民を守る事だからね、貴族に挨拶する事じゃないから大丈夫!」

 テンといつもの冗談を言いながら、今回の報告を行ういつものお茶会。何かあるたびにこの場所でお茶会を行うのが俺とテンの暗黙の了解。


「しかしまたシンのファンが増えるね、兄としては嬉しい限りだよ、なんにも知らないでナマケモノとか百戦不勝とかさ!僕だってシンには勝てないのに」

「それはゆっくりとした老後が送れなくなりそうでいやだなー、俺としては兄上や姉上が王座について、そこら辺の領地に屋敷もらってゆっくり暮らせればそれでいいんだよね。可愛い嫁さんもらって、有能な子供を送り出してさ」

 俺は綺麗な空を見上げながら、王子としてはとても慎ましい夢を語る。

 

「無理だろうなー、シンは自分ではバレてないつもりだけど、結構もうバレてるよ、特に宮廷魔導士や4塔のメイド、使用人たちにはさ。この前もこっそり城の結界修復してたでしょ?それに騎士もシンに勝てない人ばかりじゃん。」

 いつも以上にニヤニヤした顔で衝撃の事実を伝えられた。

 

「えっ、初耳なんだけど、うちの城勤めの人は俺みたいなナマケモノにもちゃんと接して凄いなぁって思ってた」

 仕事と言われればそれまでだが、悪名高い俺を何も疑わずに対応してくれてると思っていたのに。

 

「もう成人したし、よその貴族のお嬢様からお誘いもあるかもね。」

「そうだね、俺はテンと違って心に決めた人はいないから、騒乱とは無関係な地方の領主の娘さんもらって、次期領主に媚び売って小さな町で暮らそう。」

「はは、僕が引き摺り出してあげるよ」


 貴族の面倒事から抜け出して、より面倒事に巻き込まれ、最後はテンと反省会、いつもの日常、いつもの俺の大切な時間。


「ところでシン、ちょっとお願いがあるんだけど」

「またぁ?めんどくさいなぁ」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ