【外伝】クリスとナマケモノ殿下
クリスの外伝になります。
こんな感じで章が終わったら外伝を入れられたらと思っています。
王都学校 フォーグラム王国では希望する貴族と一部平民は8歳から14歳まで王都にある学校へ通い、ある程度の一般常識や剣術、内政学を学ぶことができる。
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私の名前はクリスティーナ=フォーグラム、由緒正しきフォーグラム王国に仕える公爵家の長女。
長女といっても跡継ぎにはお兄様が2人もいるし、自由に育ててもらってます。
今年から13歳になったのだけど、最近悩み事があります。
「あの、クリスティーナ様、私と結婚を前提にお付き合いいただけないでしょうか?」
私の前に膝をついて赤いバラを捧げるこの人は、先日の学内剣術大会でも2位と好成績を収めた侯爵家の跡取りの人らしい。
王都学校からの帰り道では最近こういった形で、よく知らないのに突然求婚されることが多い。
「ごめんなさい、私そういうのよくわからないので」
しっかり頭を下げ、断りをいれる。
これで終わればいいんですが、大抵このあとは粘られるんですよね。
「クリスティーナ様、わからないのであれば俺が本当の愛を教えます。どうか私と付き合-」
侯爵家の跡取りさんは、立ち上がり、私に近づき手をつかもうとしてくる。
その動きを一歩下がり回避行動をとる、強引なのはあまり好きじゃないです。
「ごめんなさい、これ以上はお兄様に言ってください。」
お兄様、この場合さすのはフォーグラム公爵家の跡取りであり、すでにいくつかの戦で結果をだしており、智勇に優れると噂の一番上の兄、ユリウス=フォーグラムのこと。
お兄様はちょっと過保護で、私に近づく男を排除しているという噂があるぐらいなので、大抵の人はこれで引き下がってくれる。
「でしたらユリウス様に認めていただければいいということでしょうか!二人であいさつに行きましょう!」
お兄様の名前で引き下がらないしこちらの意図が全然伝わっていない、困ってしまいます。
侯爵家の跡取りさんは何度断ってもグイグイ私のほうに近づきなんとか手を取ろうとしてくる。
実力もあり、お家柄もいいため横目で見ても誰も助けてくれない。
下がりに下がり、背中を木にぶつかってしまう。
それを好機とみたのか侯爵家の跡取りさんはすぐに距離を詰めてくる。
そんな時、私がぶつかった木の上から人が落ちてくる。
ゴンッ
侯爵家の跡取りさんは見事に下敷きとなってしまってダウンしてしまっている。
落下してきた人は、侯爵家の跡取りさんへ簡単に治癒魔法をかけたあと、こちらに一目もくれるずにまた木の上に登って行った。
助けてくれたのかなんなのかはわからないけど、これが私と、シンセイ=コウエンジ=アーヴィン、ナマケモノ殿下の出会いだった。
後から聞いた話によると、シン様は全然この時のことを覚えていなかった。
でも、困っている人がいると偶然木の上から落下し片手間に片づけてくれるナマケモノ殿下に会う人は意外といるらしく、一部の女子の中で話題だった。
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シン様がフォーグラム家の屋敷に泊まるようになって6日が経ちました。ナマケモノ殿下とよく言われていましたが、私が見たところ毎日ずっと術式魔石の作成をしています。
夜の食事会には顔を出してくれるものの、兄上に文句を言われながら父上と兄上の三人でなんだかんだ楽しくしていて、私がしゃべる時間があまりないのです。
学校での噂の話や、百戦不勝になった話など、いろんな話をしたく毎日お茶や昼食に誘っているんだけど、今のところ全部断られています。
私こういうのをあんまり断られたことがないから少し落ち込んでしまいます。
コンコン
「はーい」
シン様の部屋をノックすると部屋の奥から疲れた返事が返ってくる。
「シンさまー、お邪魔しますね」
戸を開けると机の上に術式魔石を広げ、疲れた顔で椅子に座っているシン様がいた。
「やぁクリス、お茶会のお誘いかな?そろそろ見通しもたったし、今日は俺も邪魔させてもらおうかな」
「へ?」
いつも断られてるお茶会に誘うと思っていたのですが、まさかの返答に驚いて変な声が出てしまいました。
シン様は私のほうを見ることなく、引き続き作業に集中した状態のようです。
「お茶に付き合ってくださるのですか?すぐに準備致します!」
準備自体はすぐに終わるのですが、本日はシン様とのお茶会ですので、少し気合を入れます。
すぐにメイドに指示をだすため、シン様の部屋から出ようとしたところ、シン様が話かけてくださいました。
「お手柔らかに頼むよ、準備ができたら教えて欲しい」
こちらを向いたシン様は目の下にクマを作っており、非常に疲れている様子でした。
シン様の部屋の戸を閉め、すぐにメイドに指示を出します。
「先ほど私が焼いたクッキーを用意してください、それと茶葉は普段のものではなく疲労回復に効く2番目の茶葉をお願いします。あと、シン様が途中で寝てしまっても問題ないように椅子ではなくベンチの用意とタオルケットも準備しておいてください。」
「はい、承りました。」
メイドが頭を下げてすぐに準備に取り掛かってくれます。
私も茶葉の確認やティーポットの準備を行い、お茶会に備えます。
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屋敷の中庭、ぽかぽかした日差しが当たって涼しい場所で、シン様と待望のお茶会を行ってます。
私は椅子で、テーブルをはさんでシン様はベンチ、座るときに少し不思議な顔をしていました。
テーブルの上にはお茶と私が焼いたクッキーの成功品を置いています。
「それにしてもこれは美味しいクッキーだね、お茶ともよくあってる」
「えへへ、それ私が作ったんですよね、レシピは屋敷のシェフに教えてもらいましたけど」
一生懸命作ったクッキーが褒められました。これで昨日一昨日に失敗してお兄様に押し付けたクッキーたちも浮かばれます。
少し顔がにやけてしまいましたが、これは仕方ありません。
「すごいね、クリスはお菓子作りが得意なの?これならもっと早くお茶してればよかったよ。集中するとどうしても中断できなくて、よくテンにも怒られるんだよね。」
テンというのはシン様の双子の兄テンセイ=コウエンジ=アーヴィン、イケメン王子様と言われていて、去年まで在籍していた学校でも人気でした。
シン様はおそらく兄のテン様のことがよほどお好きなのでしょう、シン様の話題はテン様か結界術についてがほとんどです。
「そうなんですね、シン様この前はよほど集中していたのか、子供のような顔でキラキラしていましたよ」
シン様は少し恥ずかしそうに目をそらしながら、ほっぺに手を当てています。
「あー、うん、ありがとう、テンと同じ顔なんだけど、顔のことを褒められるのに慣れてなくて」
「テン様とはあまり話したことないのでわかりませんが、シン様の顔は整っていていいと思いますよ。目のクマもいい味を出しています!」
顔真っ赤にしたシン様は少し黙った後強引に話の内容を変えてきました。
褒めると照れるんですね、かわいいなって、失礼ですがちょっとだけ思ってしまいました。
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シン様とお茶をして少し経ちました、シン様、どうやら瞼が重くなってきたのか、少し虚ろうつろになっています。
「ここは日差しが気持ちいいねー、ぽかぽかしてきたよ」
なんだか眠い時のシン様は少し抜けた顔としゃべり方になっています。
どれだけ急いで術式魔石を作ってくれたのでしょうか、本当に眠そうです。
「シン様、少しお昼寝しますか?ここで寝ると気持ちいいですよ。」
「んー、なるほど、そのためのベンチか。クリスは策士だなー、じゃあお言葉に甘えて少し寝させてもらおうかな」
いくら眠くてもさすがシン様ですね、こちらの意図が読まれてしまいました。
でも睡魔というのは強力、ここまで睡魔を押し付けてしまえばあとはこっちのものです。
私はシン様の隣に座って、眠くて意識のハッキリしていないシン様の頭を膝の上にのせます。
「シン様、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
シン様が寝たのを確認してからメイドを呼びタオルケットをかけてもらいます。
かわいい寝顔だ。
ナマケモノ殿下とはなんなのでしょうね、屋敷にきてからは碌に休憩も取らずにずっと術式魔石を作ってくれていますし、私から見たらとても働き者なのですが。
なんだか私も少し眠くなってきました。
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私が目を覚ますと、もうシン様はおらず、部屋に戻っているとのことでした。
メイドもシン様に言われて起こすに起こせなかったらしく、寝起きに膝枕でびっくりするシン様を見るという計画は失敗してしまいました。
むしろ私の寝顔を見られた可能性が高いほうが問題です。
「ご安心ください。お嬢様の寝顔は大丈夫でしたよ、それとシンセイ様は目を覚ました瞬間にベンチから転がり落ちたので、膝枕には気づいていませんでした」
何が大丈夫だったのでしょう、なんだか少しニヤニヤしてる気もしますし、失礼です。
それに私が知りたかったことも全部お見通しにされています。まったく、さすが私が小さいころからずっとお世話になっているメイドですね、よく訓練されています。
今回の計画はここまで、次はもっとシン様とお近づきになって、もっといろんな話をしてもらいます。
なんだかシン様とお話しするのは楽しいんですよね、たまに少年のような顔になるのはレアなシン様です。
「お嬢様もようやく異性の友人ができましたね、私は嬉しいです。でも、本日のことはユリウス様には言わないようにお気をつけてくださいね」
そうですね、よく考えるとシン様が初めてできた異性の友人です。
お兄様に言ったら怒るのでしょうか?異性の友人ができてお茶をしたなんて知ったら、めんどくさそうですね!
これで一旦公爵家編、クリス編が終わりになります。
クリスは今後も出てきてもらう予定ですので、再登場をお楽しみにしてください。




