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ナマケモノ殿下とおサボり口実

「はぁ〜、めんどくさい」

 15歳の誕生日を迎えた俺はフォーグラム王国の第四王子、ナマケモノ殿下こと、シンセイ=コウエンジ=アーヴィンだ。

 勝つのは苦手だから負けないのは得意を信条に防御ばかり伸ばしていたら百戦不勝と呼ばれてしまった、ちょっとカッコいい気がする。


 煌びやかな王都で行われている誕生日、それも15歳、成人の誕生日なため、多くの貴族が参列し、とても豪華絢爛なめんどくさいパーティとなっている。

 もちろん主役は俺ではなく、目の前にいる双子の兄。

 

「シンもほら、挨拶ちゃんとしなきゃだよ、あっフォーグラム公爵様、いつもお世話になっています。モンスターの件は大丈夫でしょうか•••」

 この目の前でキラキラとしたオーラを出しながらニコニコと貴族への対応をしているのは今回の主役であり俺の双子の兄。

 フォーグラム王国の第三王子、イケメン王子、完璧殿下と呼ばれている男、テンセイ=コウエンジ=アーヴィンだ。

 俺なんかとは違い非常高い評判ばかりで今回の成人の義も主役はテンセイ、俺は同じ誕生日なだけのオマケだ。

 俺と同じ黒に近い青色の髪、俺と同じ青い目、俺と同じ顔、俺とは全く違うキラキラしたオーラをまとっている。女性人気も高くまさに王子様。


 今まさに色んな貴族がテンに挨拶している、全員がテンにだけ挨拶してくれたらいいのに、中には俺にも挨拶してくる奇特な方もいるのだ。


「よし、限界だ、テン、後は任せたぞ」

 作り笑いの限界を迎えた俺は小声でテンセイに話かける。

 

「限界?まだ自由な時間になってから30分だよ?成人の義ぐらいがんばりなよ」

 驚いたテンがこちらに小声で返すも俺は意見を曲げる気はない。

 

「どうせ俺のことは誰もみていない、いなくなっても怠けてるって思われるだけだ!そう、どうしても外せない用事がな、すまんテン、おまえのことは忘れない」

 そして俺は早歩きで会場の外へ向かう。


 ゆっくりと庭を歩いていると屋敷の外から何か聞こえてくる、絶対めんどうな話だ、聞きたくないなぁ。


「お姉ちゃんを助けて!ここには今日は貴族様がいっぱいいるって聞いたの、お姉ちゃんを助けて、貴族様なら出来るでしょ!お願い!」

「ダメだよお嬢ちゃん、今日は大切な話をしているんだ、帰ってくれないかな」

 兵士と8歳ぐらいの女の子と門番の兵士が話をしている。

 あー、やっぱり面倒ごとかぁ、聞こえてしまった以上しょうがない話だけでも聞くか、成人の義から抜け出す口実にはなる。


「何があったんですか?」

 とりあえず話を聞いてあげようと兵に話しかける。

 

「あっ、シンセイ様、あの、成人の義中では?」

「成人の義の主役はテンセイです、それより困っている民のほうが大事です。」

 嘘である、成人の義に参加するよりこっちの方が楽だろう、なにより作り笑いがいらない。


「お嬢さん、話を聞かせてくれるかな?」

 女の子に話かける、もちろん人当たりのいいテンセイスマイルで。


「あっ、あのね、お母さんが倒れちゃって、お姉ちゃんが連れて行かれたの!」

 お母さんが病気で倒れてるうちに、借金が返せなくなって、お姉さんが連れて行かれたのかな?そっか、思ったよりかなりめんどくさいな。

 我が国にはこう言った場合にもちゃんと救済制度がある、それをやらないということはちょっとあくどい人達だろう。

 面倒な話だけど困っている子供を見捨てて寝られるほど心が強いわけじゃない。


「わかった、じゃあ名前を教えてくれるかな?それと、お兄ちゃんをお母さんのところに連れて行ってくれないかな?」

 とりあえずお母さんに話を聞こう、治癒術なら少しだけ使えるしね。


「うん、お兄ちゃんありがとう私エマ、お家はこっちだからついてきて」


「すまない、困ってる民がいたから助けに行ってくる。わざわば報告する必要はないが私がどこに行ったか聞かれたら民を助けてると言ってくれ。君の責任じゃなくて私の責任だからね、何か言われたら強引に逃げられたとでも言っておいてくれ」

 兵の責任にならないように指示をして、女の子、エマと一緒に家へと急ぐ。


 ---


 王都街、多くの民が生活する非常に豊かな街、城に近いところには裕福な民や商人が多く暮らし、非常に治安がよい街である。街外れの所謂スラム街と呼ばれる場所でも王国主導の炊き出しや簡単な警備により治安は悪くない。

 そしてシンセイは王都でも裕福な家が並ぶ住宅街に連れてこられた。


「エマ、ここなのかい?」

「そうだよ。お母さんただいまー」

 それは中々に裕福な家庭の家であり、お金を貸せといって人が連れていかれるような家には見えなかった。

 俺は精一杯の警戒とともに家の戸をくぐり、部屋に案内された。


「あっ、あなた、来てくれたんですか?ごめんなさい、ドロシーが連れ攫われてしまって」

 そこには白髪の痩せ細った姿でベッドに横たわっているご婦人がいた、目は虚であまり体を動かすことも出来ないようだ。

 

「違うよおかあさん、お兄ちゃんが助けに来てくれたんだ」

 泣きそうな声で女の子が誤解を解く。


「ご婦人、失礼致します。」

 俺はご婦人の前に片膝をつき、手を握った状態で治癒魔法ヒールを発動する、するとご婦人は少しだけ顔に生気が宿り、ハッキリとした目でこちらを見てきた。


「あぁ、ありがとうございます。その服装、ご高位の方と見受けられます。あの一体何故、夫が依頼したのでしょうか」

 治癒魔法ヒールによる体力の回復ではっきりと喋れるようになったご婦人、恐らく全快とは行かないが体力の回復が大きいのだろう、命に別状はないと判断し、ご婦人の治療は後回しとした。


「私がここにきたのは王城で騒いでいたエマちゃんに依頼されたからです。お姉さんを助けてほしいと言われここに参りました。お話を聞かせていただけますか?」

 俺の話を聞いたご婦人は少し俯いて、そしてとても悩んでいるようだ。

 予測が正しければ貴族の愛人、しかし我が国では貴族の側室は特に問題ないため、家庭に問題があるのだろう、恐妻家かな?


「その、ご依頼する身で申し訳ないのですが、できれば内密にしていただければ」

「わかりました、だいたいのご事情は予想しております。まずは自己紹介をさせてください。」

 俺は顔をあげ、誠実に見えるよう、そして最大限イケメンオーラを出しながら、双子の兄テンセイの真似をして自己紹介をする。


「私はシンセイ=コウエンジ=アーヴィン、この国の第四皇子です。困っている民を助けるのは当たり前です。どうぞ秘密にしたいことは秘密のまま、娘様の救出に必要な情報のみいただきたい。」

 顔はテンセイと同じだからか、こちらの意図が伝わり、ご婦人は泣きながら今回の件を説明してくれた。

 

 ---


「わかりました、では私が出向いて救出してきます。ご安心ください。」

 うん、とりあえずさっさと助けにいこう、後回しにするとめんどくさくなる。


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