時継の妹姫
一条佳子。
右大臣、一条正継様の長女。
御年十九歳。后がねの姫君と世間でも評判。
でもね、あの時継様の妹君……。
憂鬱。
一体どんな高慢な姫君なのよ~~~~!
「そなたが高階茂衣羅ですね。兄上から聞いております。これからよろしくお願いしますね」
時継様の妹で、右大臣の長女である大姫様。
どんな高慢ちきな姫君かと思ったら、とんでもない!
輝くような美貌に上品な仕草。
「ごめんなさいね、今、私の入内の準備で屋敷中が落ち着かないでいるの。
茂衣羅も私付きの女房として御所に赴いてもらう事になるけれど、慣れない事や、気疲れする事も多いと思うわ。嫌な事もあるかもしれない。そんな時は必ず私に相談するのですよ」
優しく微笑みながら言うセリフに心が響く。
本当にあの時継様の妹か!?
「あの…姫様。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なにかしら」
「姫様と時継様は実の御兄妹でいらっしゃるのですか?」
「ええ。兄、時継は私の兄ですよ」
「失礼ながら異母兄妹でしょうか?」
「いいえ。兄上とは母を同じくする同母兄妹ですよ。それがどうかしたのですか?」
「い、いえ、なんでもありません。少し確認したかっただけです。大変失礼いたしました」
ありえん。
この淑やかに優しく微笑む美女が、あのワガママ大魔王の実の妹。
遺伝子の神秘だ!
「茂衣羅は兄上の乳兄弟とか。兄上と一緒に三条屋敷で生活を共にしていたと聞いております。兄上は気難しいところがありますから大変だったでしょう」
「はい、それはもう。他人のものは俺のもの、俺のものは俺のもの、といった人格破綻者の傍若無人の俺様やろうでございますから。それでいて、宮家の姫君を妻にして、それ以外にも山のように浮気する艶福家。時継様のお子は数名だと聞いておりますが、絶対に余所で子がおりますわ。私は一ダースほどの隠し子がいると予想しております。数年後には隠し子が時継様に認知を迫る場面を何度見ることになるのかと日々冷や冷やしている程です」
「……あ、茂衣羅、そこまでに…」
「その時になって、世の女性達は、やっと時継様の所業に気付いてそっぽを向くんです。時継様が女性に人気の当代一の貴公子などデマであると。自分がモテるからと調子に乗っていられるのは今の内です!」
「……(茂衣羅の言葉に絶句している佳子)」
「人が居ない処で堂々と悪口をいうな」
「げっ!」
「…兄上」
いつの間にか、時継様が私の背後に来ていた。
音がしなかった!
忍じゃか!
「やれやれ。佳子、この通り、大変な粗忽者ではあるが、女御付きの女房として出仕させるので宜しく頼む」
私の横に座ると、右手を私の頭に乗せ、そのまま頭を佳子様に向かって丁寧に下げさせる。
「はい。兄上」
頭を下げているので佳子様の表情を見ることは出来ないけど、困惑しているっぽい声である事は何となく分かった。