若様の提案
「モイラ、いい加減機嫌を直せ」
「どうせ、どうせ、私に求婚してくる男なんていませんよ。特別美人って訳じゃないし、頭が良い訳じゃないし、字だって汚いし、気の利いた歌だって読めないダメダメ女ですからね」
「私が悪かった……許せ」
「謝る必要ありませんよ。時継様は本当の事を言っただけなんですから。私なんてどうせ結婚も出来ないで『いかず後家』で終わるんです」
「……すまん。最悪の時は私がお前の面倒をみてやる」
「!」
「生涯、安泰に暮らせるように取り計らう」
「!!」
「だから心配するな」
「……時継様」
「なんだ?」
「なにか悪い物でも食べたんですか?そんな優しい言葉が出てくるなんて…天変地異の前触れかしら……?」
時継様とは兄妹同然に育った。
実の親以上に傍にいたから彼の性格はよ~~~く知ってる。
唯我独尊!
豪放磊落!
お前の物は俺の物、俺の物は俺の物。平安のジャイアン!
そんな男が「めんどうみてやる」ですって!?空から槍が降ってくるのでは?
「モ・イ・ラ~~~~~!私が真面目に言っているというのに!」
「時継様が頭のおかしなことを言うからでしょう!」
「なに~~~~~~!」
「なんですか~~~!」
名家の嫡男で二十歳の若さで、従四位下の中将という高い身分を得ている時継様だけど、いっちゃあ悪いけど、私と程度があまり変わらない人だったりする。
私たち二人の口喧嘩などいつものこと。実家の者達も我関せずだ。あ、それは三条屋敷も一緒か。
「なら、気晴らしに出仕でもするか?」
「はい!?」
「私の妹が、今度、東宮様の元に入内する。その女房として御所に上がれ」
「な、なんで私が!」
「家でくすぶっていても仕方あるまい」
「私に女房なんて無理です!分かってでしょう。そんな要領よく出来ません。女御の女房なら教養ある人達が集まっているでしょう。私が出仕してなにをするんです?」
「そんなに身構える必要はない。女御になる妹の傍に居るだけでいいんだ。気楽していろ。私から妹に申し伝えておく」
「……ほんとに?」
「ああ。なんなら宮中で夫探しをすればどうだ?一石二鳥だろう」
「私の夢のぐーたら生活が……」
「ぐーたらしている自覚があったのか。ならばなおの事だ。出仕しろ!これは命令だ!」
あぁ~~~~~。メンドクサイ。
時継様に言われたのでこれは決定事項だ。
まさか平安時代に生まれて、今度は御所に行く事になるなんて……夢にも思わなかった。
令和の日本で生きてきた私が、何故か気が付いたら赤ちゃんになってた。
しかも、どうみての平安時代。
そう、私は何時の間にか生まれ変わっていた。
輪廻転生が本当にあったなんて。
まるでアニメの世界。
でも、なんで、なんで過去の日本なの!
ここは、異世界転生とか、魔法世界に転生とか、未来の世界に転生とかでしょう?
普通は。
仮に過去に転生であっても、江戸時代とかがセオリーというもの。
よりにもよって…平安時代とはな。
私の今世の名前は、高階茂衣羅。
高階が家名で、茂衣羅が名前。
身分は中の下かな。
父親は周防の国司だけど、母親が高階家の傍流の傍流の出。
母方の祖父は参議の身分。祖父は既に亡くなっているからまあ、中流の下になると思う。