引きこもり姫君
あ~~~。
今日もいい天気。
読書日和とはまさにこのこと。
ふぁ~~~~~。寝ながら読むのが一番だよね~~~。
バン!!!
「モイラ、また書物を読んでいるのか?」
私の平和をぶち壊す人がやってきた。
「時継様、なんです突然……」
「まったく、裳着の式が済んでから、屋敷に閉じこもりっぱなしだと聴いたぞ?」
「誰から聞いたんです?」
「お前の母であり、私の乳母の早霧からだ」
「お母様が!?」
「そうだ、年頃の娘が結婚もせずに閉じこもっているから何とかして欲しいと、私に連絡が来たぞ」
「まったく……お母様は」
「早霧の気持ちも分かるがな」
「なにがです?」
「日がな一日、部屋から出てこない娘を見るのが嫌なんだろう」
「失礼な!読書に励んでいるだけです」
「ああ、寝ながらな」
「いいじゃありませんか。実家なんだから」
「はぁ~~~~。早霧はお前にそろそろ結婚して欲しいんだ」
「結婚!?私はまだ十二歳ですよ?早すぎでしょう!」
何故か、私の裳着は早かった。
私個人としてはもっと遅くしてくれ方がありがたかったのだが、それを言うには周りが盛り上がっていたのでいう事ができなかった。所詮、空気を読む日本人。
「早霧は早く婿を迎えて欲しそうだったがな。知り合いを通して、何人かと見合いの場を設けたのに、肝心のお前がその都度、雲隠れしているせいで、今では全く見合いが来なくなったと嘆いていたぞ」
「なにが見合いですか!あれは『ならず者の夜這いの会』の間違いでしょう!」
「クックックッ。派手にやらかしたようだな。相手の男は一、二ヶ月ほど床から出てこれない有り様だと聴いたぞ」
「あばらの三本や四本どうってことありませんでしょう。私を襲ってきたという事はやり返されても文句は言えないはずです」
「ははははははっ!!!」
「笑い事ですか!」
「ははっ、すまんすまん」
「だいたい、時継様も共犯でしょう!私を匿ったり、一緒になって殴り倒したではありませんか!」
「ああ!あれはいい!殴ればスッキリすると言った意味がよく分かったぞ!」
あはははははは!
時継様の大笑いは館中に響き渡った。
胡坐を掻いて大笑いする様も美形なら許されるとは、この事だろう。
一条時継様。
右大臣家の嫡男であり、私の幼馴染であり、主家の跡取り息子。歳は私よりも八歳年上の二十歳である。何故、主家の跡取りとここまで親しいかというと、彼の乳母が私の母親だからだ。
私と時継様は『乳兄弟』の間柄。
私が十二歳で裳着を行うまで、時継様の住んでいる三条屋敷で一緒に暮らしていた。
一応、私は時継様の祖母の大奥様である大宮様付の女童だったりする。もっとも、殆ど時継様と一緒だったけど。
「私たちが殴り倒した者達は一様に『物の怪に取り付かれて床に伏した』ことになっているぞ。
まあ、まさか大の男が成人したばかりの幼い姫にやられた、とは口が裂けてもいえんがな。そのせいで、早霧が『娘には通ってくる男の影すらない』とこぼしているぞ」
「失礼な!私にだって訪ねてくれる殿方の一人や二人いますよ!」
「ほぉ……。誰だ?言っておくが、私を数に入れるなよ?」
「ぐっ~~~~~~~~~」