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11.瓊妃の噂




 噂を探れ。

 

 宸柳にそう命じられて、シュカなりにいろいろと気にしてみたのだが、そもそも噂を流してくれる人もいなかった。

 シュカが話す人といえば、侍女である玉麗と春凛、華凛がほとんどだ。それも、玉麗の厳しい監視下に置かれ、無駄話ひとつ許されない。

 

 あとは、宦官の秀英。

 こちらも龍聆が来たと呼びに来るくらいしか顔を見せない。


 そうなると、やはり噂を引き出せそうなのは、あの怠惰な双子か。

 茶点おやつで買収しやすいし、口も軽いのはこの一年の付き合いで心得ている。

 シュカのことを見下しているので、おだてれば乗せやすいという利点もある。


 昔からその手の人間をおだてるのは得意だ。

 ソゴイのムラで世話になっていたソウケイの家にいた、ミンメイが同じような性格だった。

 

「ねぇ、春凛、私、このままこの後宮にいなくてはいけないのかしら。陛下のお渡りもないでしょう?」

「どうしたのですか? 突然」


 春凛はしおらしく言ってくるシュカにギョッとして、隣にいる華凛と顔を見合わせた。不気味に思っているのか、顔が引き攣っている。


「この間、聞いてしまったの。私がここで『おまけの姫』と呼ばれていることを」

「えぇ? そうなのです?」

「ま、まさか、誰がそんなことを?」


 貴女たちだと心の中で舌を出しながら、およよと裾で目元を隠してみせる。

 すると、二人はまた困ったように顔を見合わせて、目配せをしていた。


「もしかすると、私が至らないせいで貴女たちのも迷惑をかけているのではないかと思って心配になったの……」

「……いえ……まぁ……迷惑といえば……」

「迷惑ですけどぉ……。いつも珠玉龍妃様と比べられますしぃ」

「そうよね。いつも主が比べられて辛いわよね」


 目に涙を浮かべて見せれば、二人の警戒は解けて戸惑いから平素の態度に戻った。

 つまりは、こちらを見下すかのような視線を向けてきたのだ。


「そうですよぉ。瓊妃様がいつまでも龍妃らしくなさらないから、私たちも大変なのですぅ」

「ただでさえ出自が卑しく、敬遠されているというのに。陛下が足を向けないのも当然でございます」

「珠玉龍妃様のもとには毎日足繁く通っていらっしゃるのにねぇ」

「それだけ陛下の寵愛が深い証拠です」


 知らなかった。

 足繁くとは聞いていたが、宸柳は毎日彼女に会いに行っているのか。

 それなのにシュカのもとには来ないとなると、たしかに玉麗はじめ春凛や華凛にとっては面白くない状況だろう。

 自分の主がいかに寵を受けているか。

 それがこの後宮での地位になる。


「では、何故陛下は私のもとに来てくださらないのかしら? 二人とも何か聞いている?」


 自分を卑下し、二人を持ち上げて気分を良くさせたところで本題に入る。

 すると、華凛が胸を張って答えてくれた。


「それはもちろん、珠玉龍妃様のご実家の潘家におもねっているからでしょう。鈺瑤様が珠玉龍妃の座を賜ったのも、藩家のご当主様の後押しがあったからです。瓊妃様のもとに通うのは些か気が引けるのでしょう」

「それに、瓊妃様はまだまだ田舎の芋臭さが抜けきれないですもの、やはり洗練された珠玉龍妃様の肌の方がいいのでは?」


 こちらが下手に出れば、好き勝手言ってくれる。

 シュカもこの一年で、随分と肉付きが良くなって棒切れだった身体もマシになってきた。田舎臭さが抜けたと思っていたのだが、煌びやかな世界に生きる人たちから見ればまだまだらしい。


「それに、龍聆様が会いに来ていらっしゃるから、かしら?」

「そうよね。陛下も、兄上様にはまださすがに遠慮があるだろうし」

「歴史の講義なんて建前だ、と考えた方が自然でしょうね。わざわざ、皇帝だった人が買って出るまでの役目ではないもの」

「何か目的があってのことでしょうねぇ。――たとえば、瓊妃様に会いたくて、とか」


 二人はにんまりと笑い、意地の悪い顔でこちらを見遣ってきた。

 やはり、講義という名目を掲げても、男女が会えばそのような憶測は飛ぶものだ。


「もちろんそんなことはないと二人とも分かっていると思うけど、でも相当噂になっているのかしら?」

「それはもちろん。あのお二人の姿を見れば……ねぇ?」

「噂をしない方がおかしいと思います……ねぇ?」


 シュカは顔を引き攣らせながら、どうにかこうにか怒声や弁明の言葉を呑み込んで聞いてみた。


「よかったら、どんな噂か聞いてもいいかしら?」





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