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恋と暴君  作者: 井桁沙凪
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恋文


 最後の恋愛にしたいのだ。あなたにずっと焦がれているわけにはいかない。口を噤んださよならをして、わたしの目に届かないところへ消えてほしい。

 ここに、わたしの敬愛する宮沢賢治の言葉がある。


  ああ いとしくおもふものが

  そのままどこへいってしまったかわからないことから

  ほんたうのさいはひはひとびとにくる……


 薤露青(かいろせい)という詩の一節だ。しかし、わたしは賢治の呻吟(しんぎん)を無下にしても、改正後の詩よりもこっちの草稿のほうを好いている。


 あなたに恋をしてから、いくども空で読んだ詩だ。どの部分で舌が口蓋を叩くのか、唇が微かにすぼむのか、もうこの口元で覚えている。

 わたしは宮沢賢治を敬愛している。そのどこまでも謙虚でいっそ自罰的とも称するべき人生をならい、流麗で孤独な詩をよすがにしてきた。

 そんなときにあなたは落雷のようにわたしを打った。焼け木杭(ぼっくい)に火がついたとは言うけれど、わたしがとうの昔に諦めたはずのそれを、あなたはもはや無視できないほど熱く、轟轟と燃やした。


 恋は求める力で、愛は与える力だ。わたしは賢治を愛している。もはや生きていない者になにを求めることができようか。

 そういう意味でも、これは愛ではなく恋なのだ。あなたは生きている。ひりひりするほど熱く、わくわくするほど眩く。その殺意は、あなたが生きている限り尽きないだろう。死んでしまえとは言わないから、せめて遠くへ行ってほしい。わたしにあなたは得られない。ならいっそ、一縷(いちる)の望みも抱けないほど遠くへ。どうか。



(7月10日の新聞記事)


 7月9日夕方、■■県■■市の高校で男子生徒(17)が同学年の男子生徒の背中を刃物で刺し、その場に居合わせた同学年の女子生徒の腕などにも怪我を負わせたとして、傷害の疑いで現行犯逮捕された。

 背中を刃物で刺された生徒に関しては、すぐに病院へ搬送されたが軽傷だった。腕などを切りつけられた女子生徒も同様とのこと。

 男子生徒(17)は容疑を認めており、警察が犯行に至った動機などについて詳しく調べている。



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