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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

善人の故障

作者: 刃山 戒

人というものは実に恐ろしいものである。気付かないうちに血みどろの過去を送る者もいる。次に始まるのはある殺人鬼のお話であるが、まぁ、率直に君たちにはこうならないで欲しいと願うばかりだよ。でも、やはり人同士のいさかいは何時の時代も止められないんだ。

今日も何時(いつ)になく教室は動物園の様だ。僕の席は廊下側から三列目の一番後ろ。右前では女子が四人ほど集まって何やら陰口を叩いているようで、左側では男子が他愛もない話を笑い飛ばし、僕の真横にはスマホをいじりながら無言の会話を繰り広げている。一言で言ってしまえば、疲れる。だがもう一年半、この環境に慣れていく事もそろそろ必要だろう。

担任が入ってきて、朝のショートホームルームが始まる。そして今日も何事も無くこの狭い空間の中で六時間と少し、過ごす事になるのだろう、と僕は考えていた。しかし、こうして何らかの手記を(のこ)すという事は、やはり何か人生に起点を迎えさせる様な事件が起きる、という事の現れでもあるとも分かる。

丁度(ちょうど)、三時限目が終わる頃だった。ただ異国語の良く分からない文をつらつら書く時間も(ようや)く終わるのかと生徒達は伸びをしていた。

━━━キャーーーーー!!━━━

耳を刺すような声が辺りに響く。

無理もない。目の前で女子生徒が胸から血を吹き出していたのだから。いつも動じない流石の僕も()()には声を上げた。

死因はナイフによる心臓破壊。犯人は(いま)だに見つからず、捜査も困難であるとの事。当然の事ながらナイフには一切指紋はなく、何かの器具、例えば、糸とか布とかそういう類を使用した事は明らかであるらしい。間もなく2日間の臨時休校が決定し、生徒全員に取り調べが回った。近所にも犯行の手掛かりがないか聞いてみたようだが、一向に掴めない状況となり、事件は迷宮入りとなった。程なくして報道され、亡くなった女子生徒の遺族が語る番組が世間の目を引いた。テレビで申し訳無さそうに警官が喋っていた気がする。

臨時休校明けの6日後。教室はいつも通りとまではいかないが、僕にとっては耳許(みみもと)で蝉が鳴いているようにしか感じなかった。あまりにも五月蝿(うるさ)いので、休み時間は図書室に逃げ込むように入っていった。

図書室はクラスの隅でじっとしているような男子生徒が一人いるだけで、服が擦れる音が分かるほどに静かであった。これぞ、僕の求めていた無音の空間。至福の時間をしみじみと味わった後、図書室を出ようとしたその時だった。カチリ、とボタンが押される音が聞こえた。

「?」

瞬間、僕の背後で爆発が起きた。僕はもしかしたら不幸を呼び寄せる人間なのかもしれないと思いながらその場に座り込んだ。先程の()()()の男子生徒は自由に肉片を飛び散らせていた。

またしても警察がやって来る。この間の殺人事件との関係性がないかを踏まえた事情聴取が生徒達にも行われ、臨時休校は今度は一週間程取られた。流石に、と言うよりも、もっと焦るべきだが、学校側も警察と協力体制を築いた様だった。

校内は警備体制を敷き、あちらこちらに警官の姿が見える。もし僕がこの二件の殺害行為に関わっていたなら、怖気付いたこんなこと()めてしまうだろう。しかし、事件は起きた。確か、放課後だったろうか。僕の数少ない友人が飲みかけの清涼飲料をごくごくと一気に飲んだ。僕は一気飲みして窒息とか止めてくれよ、と冗談をこぼしていた。友人は飲み終わった後笑って、餅じゃねぇんだから、そんなわけないだろ、と僕の冗談に応えてくれた。瞬間、うっ、と少しばかり(うめ)いてその場に倒れた。おいおい、そこまで付き合わなくてもいいんだぜ。やれやれと思っておい、と声をかけた。返事が無い。まだ続ける気か。今度は耳許で叫んでみた。起きない。流石に怪しいと感じて揺さぶったり、身体(からだ)身体(からだ)を仰向けにして頬を叩いたりした。そして漸く、気が付いた。

━━━息を、していない━━━

僕はどうしたらいいのか分からずただ(わめ)いていた。自分でも鼓膜が破ける程五月蝿いのが分かった。何で。何故だ。自分は死神か何か…?

唯一の級友を失った僕は警察が事情を聞いても上の空でいた。

こうなってくると、先の事も読めてくる。二週間後、英語教諭が自宅で斬殺に()った。またその七日後。僕のクラスの担任がトイレで窒息死。今度は二ヶ月後。治まったかと思われる連続殺害は再始動し、被害者は生徒であった。


もう、分かっただろう?君が殺したのだよ。全員。ある寓話(ぐうわ)に多重人格の物語があるが、それとはまた別物だ。彼は、常に、人を憎んでいた。語って貰おうか。今までの動機をさ。

最初の女子生徒?嗚呼(ああ)五月蝿いから殺したさ。ナイフが刺さった所から鼓動のリズムに合わせて吹き出る血は中々芸術的だったね。

図書室にいた根暗?アイツは陰口言うだけで何も行動に起こさないんだ!鬱陶(うっとう)しいから殺してやったよ。跡形も無く消し飛んだんだ!ゾクゾクする爽快感だったよ!

唯一の友人?そんなのいたかなぁ。あ、金貸して返って来なかったからよ。仕入れた薬で殺しといたよ。

アイツの(もだ)える顔には興奮し過ぎて叫んじまったよ。警察に事情聴取されたのは焦ってよ、黙秘権行使したぜ。

その後も、イラつく奴らは全員殺していったよ。

さて、と。まだバレてないみたいだし、転校しておくか。最後にクラスの奴ら皆殺しにしてからさ。


本当に恐ろしいのは化け物でも幽霊でも無い。最も恐るべきものはやはり、人間の心なのだろう。

そして彼の狂演劇は終わらない。

その後、彼の姿を見た者は死者のみである。

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[気になる点] サイコパス感が出て凄く良かったです [一言] ホラー小説を読ませて頂きました! 最初は凡人?だった人がサイコパス感溢れ出る人物になったのは鳥肌に立ちました( ・_・;)(゜Д゜) 評価…
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