第二回 企画会議 時代背景の決定。
本日は第二回 企画会議が行われる日である。
部室に集まった一同は、先ほどもっちゃんがコピーしてきたシナリオに目を通すことになる。
それは、名前だけの顧問である俺も同様である。
「とりあえず、ゲームの最初は現代の主人公の部屋。そこからよくある異世界もの同様に、幾何学模様の魔法陣に乗って異世界に転移。その過程で世界を救うためのスキル入手という。ごくありふれた展開からスタートすることにします。そのあと、転移している間に時代背景のプロローグを見ます。この時のプロローグの内容は主人公がこの世界で生きる最低限度の知識を得る上で見るもの。つまりは、ゲームプレイヤー同様に主人公もプロローグを見て異世界に来たことを知る。という内容のつもりで書いています。」
シナリオを配りながら大まかな説明を入れるもっちゃん。
みんなはそれをうんうんと頷きながら自分の手元に来たシナリオに目を通していく。
~ゲームシナリオ~
俺の名は田中太郎(名前の変更可能)。
今日も学校の宿題を片付けるために机の上に教科書やノート。プリントを広げていく。
そんな当たり前の日常を過ごしていた俺だったが、今日は何かが違った。
いつも通りに机に必要な物を出して椅子に座った瞬間。
突如として足元から光が差した。
何かと思って足元を見れば、真っ白に光輝く幾何学模様の魔法陣のようなものがあった。
そして、その光が強烈に激しくなり、目を閉じると同時に・・・
僕は意識を失った。
「世界を救う勇者よ。どうか、世界に広がる悲しみに終止符を・・・」
記憶を失う刹那。
そんな言葉が聞こえた気がした・・・。
そこは異世界ヌゥー。
この世界ではヒンヌゥー教と呼ばれる宗教が世界的に広まっている。
ヒンヌゥー教。
名前の時点でお気づきの方々もいるだろうが、あえて説明するならば『貧乳』を崇拝する宗教である。
この宗教の布教によって世界では空前の貧ヌゥーブームが巻き起こった。
だが、そんな貧ヌゥーブームに誰もが乗るわけではない。
どこの世界にもヌゥーの大きさに魅力を感じる男性は存在する。
そして、そういった人間の欲望を制御することはできない。
仕方のないこと。
そう言い切れれば、どれだけ幸せだっただろうか。
時は今より数年前。
世界中に信者を持つエリアル教の第17代教皇。
マリエル=グラッツェ・エリアルの婚約から一年が立った日のことだった。
この後、世界を揺るがす大事件が発生したのだ。
「あなた。何をしているの?」
薄暗い部屋のドアを開き覗き込むようにマリエルは中にいる旦那。
ブルドン=ガレッジ・エリアルに声をかけた。
「マリエル・・・ これは・・・ その・・・」
動揺して目を泳がしながら寝台に寝そべる愛人と妻を交互に見るブルドン。
愛人の女はマリエルの視線から逃れるように布団に隠れ、そして乱れた服をいそいそと着始めた。
そんな愛人の名はリリアナル=ストップ・ウォッチャー。
貴族の女性であり、一児の母。
顔の造形は美人の部類にはギリギリ入るレベルだが、歴代で最も美しい教皇と言われるマリエルと比べると、どう見ても陰りが見える女性。
ただし・・・
ヌゥーの大きさだけは、水鉄砲と核爆弾ほどの、圧倒的な戦闘能力の差を持っていた。
そして、ブルドンはヌゥー聖人だった。
「この浮気者!」
「ち、違うんだマリエル! ちょっとオッパイが恋しかっただけなんだ!」
「私の胸はヌゥーじゃないっていうの?!」
「え・・・ いや・・・ そ、そんなことは・・・ ・・・ない・・・ と、おも・・う・・よ?」
「こっちを見て言いなさいよ。」
この泥沼の夫婦喧嘩の末。
マリエルが出した決断は非情なものだった。
『男を惑わす魔(性の)女は全て殺すべし。』
こうして、世界最大宗教を束ねる女。マリエルの魔女狩り。
もとい、ヌゥー狩りが始まった。
これにより、D以上のヌゥーを持つすべての女性は魔女と認定され、容赦なく殺されることになったのだ。
そして、ヌゥーの小さいものこそが神に愛された神聖な存在として手厚い加護を受ける世界が始まった。
そんな世界を見て、一柱の神が世界を救うべく、一人の救世主を異世界から呼び寄せた。
彼には秘められた強大な力があり、それはこの異世界ヌゥーに来ることによって覚醒した。
その名は・・・ 『ゴッドハンド』
そして、田中太郎(名前変更)は魔女狩りから逃げる女性の前に転移するのだった。
~部室~
「なるほど、こうして始まった魔女狩りを主人公が解決するという物語か。でもこれ、どうやって世界を救うんだい?」
序文を読んだ感想を部長が顔を上げて述べる。
ここまでの序文を読んだ感想として、世界を救える気がしない。
オッパイが大きいか小さいかなどという問題は、善し悪しのつけがたい人生最大の命題の一つだ。
それを解決するなど、不可能に近い。
いったい、もっちゃんはこれからどういう展開に持っていこうというのだろうか。
「時代背景的には中世のヨーロッパ。丁度、こっちの世界でも魔女狩りが行われていた時代と同じ技術レベルや町並みで背景や衣装を作れば問題ないのよね?」
「はい。以前話した通りそれで問題ありません。」
「そう。ならいいわ。自室の部屋は部員の誰かの部屋を参考にするわ。」
俺や部長の疑問を他所に、渡辺ADは自分の仕事についての質問をしていた。
そして、もっちゃんはその質問に対してあっさりと肯定する。
それを聞いた渡辺ADはどこから持ってきたのか中世のヨーロッパの街並みが描かれた資料を見始めた。
というか、このシナリオに対する意見はないのか。
なんだよ。
この昼ドラ展開からの世界巻き込んでの魔女狩りって・・・
どう考えても異常だろう。
「ううん。はじまりから重い音楽だね。この夫婦喧嘩のシーンだけラスボスのBGMと一緒でもいいかな?」
「音楽は考えてないからこんちゃんのイメージに任せるよ。」
「りょうかい~。」
やはり、俺の考えとは明後日の方向に会議は進んでいく。
いいのかこれで・・・
「いやいや、ちょっと待って! これじゃ、倒した敵を仲間にできないんじゃない? 確かコンセプトはそれで行くって話だよね?」
おお、部長がスルーされた心の傷から回復して話を戻した。
いいぞ。頑張れ。
「大丈夫です。主人公の能力で敵は強制的に仲間になります。」
部長の言葉にもっちゃんは自信満々に答えた。
「本当? っていうか。ゴッドハンドの能力って何?」
「揉み解すことであらゆるものを自在に変化させる力です。」
な・・・
なんだと・・・?
そんな能力で世界を救えるのか?
「この能力で出てくる敵を全員巨乳にすれば、彼らは死罪を免れるために強制的に仲間になります。」
もっちゃんの言葉に俺と部長は絶句した。
確かに、魔女狩りの対象は相手が巨乳かどうかだ。
つまり、それを行う敵は全員が巨乳ではない。(⇦この表現が重要)
ならば、ゴッドハンドの力で相手を巨乳に変えてしまえば問題は解決する。
「最後には世界で最も美しい女性。マリエルがオッパイと幸せを手に入れて主人公とハッピーエンドを迎える予定です。」
おお。
さらっとブルドンが消えた。
そうか。
ラスボスのはずの教皇が最後はヒロインか。
まぁ、理由はどうあれ彼女も一応被害者だしな。
「そ、そうか。うん。まぁ、いや、でも・・・」
「ちょっと待って。それってキャラに貧乳と巨乳っていう二つの挿絵がいるってこと?」
納得していない感じの部長の曖昧な返事を遮って渡辺ADが口を挟んできた。
確かに、今の発言だとそういうことになるな。
そうなってくると絵を担当する渡辺ADの負担が増えることになるな。
それは彼女にとってあまりよくないことなのだろう。
教師としてもこんなふざけた作品を通すのは御免なので、できれば部員内で却下を出してほしい。
「ええ、そうなりますね。でもその代わり主人公と最初に出てきた襲われてる女性以外の女性キャラは貧乳時敵。巨乳時味方って感じになるんで結構楽じゃないですかね?」
「ああ、そうか。敵と味方で違う顔描かなくてていいのか・・・ じゃあ、まぁいいか・・・」
こうして、あっけなく渡辺ADの反論は消えていった。
そして、話を途中で遮られた部長は、異議を見つけられなかったのか。
黙り込んだままだった。
「じゃ、話はこんなところか。今日は解散だ。俺は部長とゲーム難易度の調整でもするわ。」
最後に東さんが話を切ってその場はお開きになった。
このゲーム部。
大丈夫なんだろうか?




