第八話『幸せににゃる方法にゃん!』
第八話『幸せににゃる方法にゃん!』
ミクリにゃんが片づいたと思ったら、またまた地面から湧き水とともにウチらの仲間が。『あぐらをかこうとしたものの足が届かなくて、これで落ち着いています』といわんばかりの座り方をしているネコ型妖体がひとり、ぬぅぅっ、と現われたのにゃん。
「モワン、ほら」
「ミーにゃん、待つのにゃ」
ウチは近づこうとした親友の肩を軽くつかんでとめたのにゃ。
「どうしたの?」
怪訝そうにゃ顔を目の前にして、ウチは目を瞑って頭を二、三回横に振る。『再び開く目とこれから放つ言葉が、説得力を持つように』と願いつつ、口を開いたのにゃ。
「あんにゃものを見てはいけにゃいのにゃよ」
ウチはあらためて、現われた友にゃちへと視線を移してみる。
(ミリアにゃん、あんた…………)
とり憑かれている、にゃんて生やさしいものに留まらにゃい様相を呈しているのにゃ。
不自然にゃまでに傾げた首。開きっ放しの真っ赤っ赤にゃ両目。口の端から垂れている透明にゃ一筋の雫。にたぁっ、とだらしのにゃい笑みを浮かべている表情。『ひっひっひっ』の呻き声。これらのどれもが、自分自身の夢想、思い描いた世界にどっぷりと浸かっているのを物語る。
(もう、にゃにもいうまい)
夢想にとらわれさえしにゃければにゃあ。のんびり屋で、親切さんで、ネコなつっこい性格で、話しても楽しい、にゃどと、ミーにゃん同盟の中でも一番、親しみやすいネコ柄にゃのににゃあ。残念無念にゃ。……とはいってもにゃ。これが現実、とにゃれば。
くるっ、と踵を返して歩き始めたのにゃ。隣で翅をぱたぱたさせていたミーにゃんも、『あっ、どこに行くわん?』とウチの背中に横向きで腰を下ろす。
(君子危うきに近寄らずにゃ。このまま居たら、ウチらにゃってあんにゃ風に)
心に湧き上がった強迫観念から、ついつい急ぎ足に。ところがにゃ。
たったったったったっ!
日頃のミリアにゃんではとても考えられにゃいほどの素早さで、ウチらの前にネコ人型モードで立ったのにゃ。
(まるでネコが変わったみたいにゃ。……ああでも、良く良く見れば)
目が赤いのを除けば、普段の状態に戻っているようにも思われる。にゃらば、と声をかけようとしたのにゃけれども。
びしっ!
にゃんの前触れもにゃく、突然ウチらを指差したかと思えば、開口一番、
「無気力も『力』なんです!」とぶちまけたのにゃん。
にゃもんでウチとミーにゃんは反射的に。
ささぁっ!
一瞬の早技にゃん。
ピンク色のお布団一組を敷いてにゃ。でもって大きさの異にゃるピンク色の枕……白いカバーつきにゃ……を二つ並べてにゃ。あとは、
すうぅっ。すうぅっ。すうぅっ。すうっ。
「こらあぁぁっ!
話をしている最中なのに、なんで最高級羽根布団で寝ちゃうんですかあっ!」
「はっ!」「はっ!」
がばっ!
またまた一瞬の早技にゃ。
起き上がったウチらは、お布団を、あっという間に片づけたのにゃ。
「いやあ、悪かったのにゃ。ほら、ミーにゃんって、お姫様にゃろう。棲み家には高級にゃ物しか置いていにゃいし、高級にゃものでしか眠れにゃいのにゃよ」
「本当、悪かったと思っているわん。それにね。二組敷きたくても、ここに持ってこられるのはせいぜい一組だけなの。そりゃあアタシだって出来ることなら、三にんでお布団に入りたいわん。でもやっぱりダメ。だって全然スペースが足らないんだもの。ミアンと一緒に寝るのが精一杯で、ミリアんまではとても無理。諦めてもらうしか、しょうがなかったの」
頭をかきかき、弁解するも、ミリアにゃんの怒鳴り声は収まりそうもにゃい。
「おふざけはやめて下さい!
一体全体、誰が羽根布団の話をしているっていうんですかぁっ!」
びしっ! 「ミリアにゃん」
びしっ! 「ミリアん」
指差しにゃがら素直に答えた。にゃのに相手の顔は両目に劣らず、真っ赤っ赤。
かにゃり興奮気味にゃ。
「だぁかぁらっ!」
「ああでも……、にゃんでウチら、眠ってしまったのにゃろう?」
「なんかいきなり、くらっくらっ、ときたわん。でもそれがなんだったかまでは」
顔を見合わせ、ともに途切れた記憶を呼び起こそうとしたのにゃ。
でもにゃ、ちぃとも。
「にゃあ、ミリアにゃんはにゃんか知っているのにゃん?」
「知っていたら教えて欲しいわん」
「知りませんよ、そんなこと。私が一言いっただけで勝手に眠っちゃったんですから。
本当、いい加減にして下さいよ」
「一言? 一体にゃにをいったのにゃ?」
「なにをいったわん?」
「……あのですね」
ミリアにゃんは苦り切った顔にゃがらも教えてくれた。
「いいですか。もう一度いいますから、良ぉく聞いていて下さいね。こういっただけです。
無気力も『力』なんです!」
「…………」「…………」
無言で顔を見合すウチら。ミーにゃんもウチと同様、想い出したみたいにゃ。それと同時に、おんにゃじ思いも共感出来たのに違いにゃい。ウチらはどちらからともにゃく無言でうなずき合うと、くるっ、と声の主、ミリアにゃんに背を向けたのにゃん。
にゃにも見にゃかった。にゃにも聞かにゃかった。ウチとミーにゃんは急いで脳内整理。無事に終わって、ほっと一息突いたあとは、
「行こう、ミーにゃん」
「うん。 それがいいわん」
特にあてもにゃいのにゃけれども、『この場に居るよりは、ましにゃろう』との判断の元、すたすた、ぱたぱた、と動き始めたのにゃん。
「あっ、待って!」
ミリアにゃんは、『逃がすものですか』とばかり、ウチらの前へ回り込むと、両腕を拡げて通せんぼ。『ここから先は行かせませんよ』のポーズをとってしまったのにゃ。
「話はこれからですよ。なのにどうして……逃げようとするのですか。あんまりじゃありませんか。あんまりですよ。そうでしょ? そうだとは思いませんかぁっ?」
両手を絡めて、わぁわぁ訴えるミリアにゃん。でもって赤い目もウルウル状態。
「ミーにゃん。どうしたものにゃろう?」
「これでも一応、友だちだし。聴くことだけは聴いてみない?」
「おっ。ミーにゃんにしては前向きにゃ発言。
よぉし。ミーにゃんがその気にゃら、ウチも覚悟を決めるのにゃん」
「その意気だわん。死ぬ気で聴けば、きっと道も開けるわん」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
多少にゃりとも盛り上がってきたウチらの会話。そこに『私も忘れないで』といわんばかりに、ミリアにゃんも口を挟んできたのにゃ。
「覚悟とか死ぬとかって、そんな大層な話じゃありません。
そうですねぇ。たとえていうのであれば……、にこやかな笑顔を見せながら、『ねぇ、ちょっおっと、黄泉の国にいってみません?』って誘うぐらいの本当に軽いノリです」
「それのどこが軽いのにゃん?」
「そうよそうよ。説明出来るものなら説明して欲しいわん」
ミーにゃんがそう口にした途端、ミリアにゃんの顔には、『待ってました』とばかり、満面の笑みが零れたのにゃ。右手のネコ差し指を一本おっ立て、ほおの近くでフリフリしつつも、
「説明ですね。いいでしょう。そもそも『無気力』というのはですね」
「ありゃりゃ!」
ウチは、びっくり仰天。思わず、顔をお隣さんへと向けたのにゃ。
「ミーにゃん。今の、どう思う?
にゃにか話を巧妙にすり替えられてしまったみたいにゃのにゃけれども」
「しまったぁ。予見出来て然るべき展開だったのにアタシとしたことが……、
うかつだったわん」
ミーにゃんは視線を下に向けている。さも、自分が悪い、と思っている様子にゃ。でもってその感情が抑え切れにゃくにゃったとみえる。とはいえ……、『悔しいわん。悔しいわん。悔しいわんったら悔しいわん』と悔しさを連呼。左右の拳でウチの肩辺りを連打するさまにゃんて、見ていてあまりにも不憫にゃ。
「ミーにゃん。生きている間にはにゃ。こんにゃこともあるのにゃよ」
ウチは親友として優しく諭したのにゃん。
「あのぉ。そろそろいいですか?」
痺れを切らした、みたいに、ちょっとイラついた感じでミリアにゃんが声をかけてきた。にゃもんで、ウチはミーにゃんともども顔ををミリアにゃんのほうに。
「ウチらはとうに諦めているのにゃん。いつでもいいにゃよ」
「そうそう。『諦めてこそ、浮かぶ瀬もあれ』だわん」
覚悟のほどを語ったのにゃけれども、ミリアにゃんは首を傾げて、頭の上に『?(はてな)』の文字を浮かべるばかりにゃん。挙句の果てに、こちらを気遣うようにゃセリフまで飛び出す始末にゃ。
「どうしたのです? 『諦め、諦め』って。テンションが下がりっ放しですよ」
「ミリアにゃん。どうやってこの冷え切った状態から盛り上がれっていうのにゃん?」
「モワン。ダメだわん。ムキになったら、それこそ敵の思う壺だわん」
「んにゃことをいわれても」
と、ここで、『言葉ってすっごい力があるのにゃあ』と思わせる発言が、意外にもミリアにゃんの口から零れたのにゃ。
「そこですよ、そこ。そこにこそ、私の『無気力』説が生きるのです」
「にゃ、にゃんと!」
あまりの衝撃的にゃ発言。ウチは思わずミーにゃんを振り返ったのにゃん。
「今の聞いたにゃん? 『そこにこそ』にゃと」
「しかと聞いたわん。上から聞いても下から聞いても『そこにこそ』。
ここに来て、やっと目の覚めるような言葉に出逢えたわん」
「ミリアにゃん。是非とも、お話を聴かせて欲しいのにゃん」
「アタシも。心からお願いするわん」
『そこにこそ』がきっかけで盛り上がるウチら。心の片隅に、『とんでもにゃいことを口走ってしまったにゃあ』と思うも、あとの祭りにゃ。元々、覚悟は決めていたこともあり、ミーにゃんと一緒におとにゃしく拝聴することにしたのにゃん。
「『無気力』とはなにか? やる気を失くす。投げやりになる。など、負の概念ばかりが先行してしまう言葉ではありますけど……、ところが本当は『そこにこそ』、生きとし生けるもの全てが幸せになる秘訣が隠されていたのです」
「やったにゃあ! ミーにゃん、またまた『そこにこそ』にゃん」
「やったぁわん! モワン。『そこにこそ』こそ、全てだわん!」
浮かれているウチらに、ネコ差し指を口に当てて『お静かに』との教祖のお言葉。次の『そこにこそ』を聞きたくて、たちまち静かにしたのにゃん。
「みなさんは、『無気力になる』ということがどういうことなのか、本当には、お判りになっていないのです。確かに今も申しました通り、やる気をなくす、投げやりになる、などの気持ちを抱くこともありましょう。また、霊体は心でのみ自分を支えるもの、との観点から、気力がなくなるのだから、霊体は滅びてしまうのでは? とのご懸念を抱かれる方も多いと思われます。
しかしながら、これらは、とんだ思い違いというものです。いいですか、良ぉく聞いて下さい。そもそも、『無気力になる』というのは、気力がなくなった状態を指すのでは決してありません。『無』という気力を得たことに他ならないのです。しかし、実体であれ、霊体であれ、『無』を得られることなど、そうそうありません。それゆえ、いざ、自分がそうなった時に錯覚を起こしてしまうのです。負の念を心に抱いてしまうのです。折角、つかんだ『無』の気力を手放そうと、いえ、実際、手放してしまうのです。
ここで私はみなさんの間違いを正す為、はっきりと断言したい、と思います。
『無気力になる』ということは……、
『無』という気力を得たということは……、
全てを超越した存在になったことを、無我の境地に達したことを意味するのです!」
(にゃんとも、すっごいにゃあ)
ウチは小声で呟く。
「見事にゃ。見事ととしかいいようのにゃいアホにゃん」
ミーにゃんも小声で呟く。
「見事だわん。ミクリんを超えた、正真正銘のアホだわん」
「ミーにゃん。ウチは今、確信したのにゃん。
ミクリにゃんとミリアにゃん。この二枚看板があるかぎり、ミーにゃん同盟は安泰にゃ」「うん。アタシもそう思うわん。安泰だわん」
ウチらの心は安らぎに満たされてしまったのにゃ。しかしにゃがら、生き物の欲は果てしがにゃいもの。妖体とてそれはおんにゃじにゃ。まにゃミリアにゃんの口からは肝心の『アレ』が飛び出してこにゃい。『アレ』を聴いて、更にゃる安らぎを得ようと、ウチらはたにゃひたすら、ミリアにゃんの話に耳を傾けたのにゃ。
「無我の境地に身を置くことで、あらゆる感情、とりわけ、自身を不幸のどん底に陥れてしまう危険が最も高いとされる強い欲望などからも、自らを開放することが出来るのです。生きている以上ついて回る精神の呪縛もまた消え、更なる高みへと目指すことが。怖いものなどなに一つなくなり、死すら笑顔で迎えられます。幸せも所詮は個々の生き物が心に感じる刺激の一つ。全ての戒めから解き放たれ、心を自由にした者が簡単に手に出来るのはいうまでもありません」
演説は終わったようにゃ。ミリアにゃんの顔には、『全てをいい尽くした』といわんばかりの満足げにゃ表情と、『どうでしたか?』と感想を聴きたそうにゃ表情が重にゃって浮かんでいる。にゃもんでミーにゃんともども率直にゃ意見を述べることにしたのにゃ。
「にゃぁんにゃ。がっかりにゃん」
「本当本当。聴いて損したわん」
(『アレ』を耳にすることが出来にゃかったのにゃもん。当ったり前にゃ)
ミリアにゃんの意気揚々としていた顔が、しゅん、としぼんにゃようににゃってしまったのは、にゃかにゃかの見もの。よっぽど意外にゃ反応にゃったとみえて、眉間に皺を寄せるにゃどの困り顔にゃ。
「一体どうしたというのです? 私の説になにか重大な瑕疵でも?」
納得がいかにゃいウチらは、もちろん、『アレ』を口にして責め立てたのにゃ。
「『そこにこそ』はどうしたのにゃん?」
「そうよ。肝心要の『そこにこそ』がなくては、なんの説得力もないわん」
「ええと。一体なんの話を……」
戸惑っているミリアにゃん。ウチは、『これまで』と思ったのにゃん。
「ミーにゃん。これ以上、話を聴いてもムダのようにゃん」
「やれやれ。聴くだけムダだったわん」
ムダを連呼したあと、ウチらは再びミリアにゃんから遠ざかっていったのにゃ。
すたっすたっすたっすたっすたっ!
ぱたぱたぱたぱたぱた!
「ま、待って下さい。
誰だって幸せになる権利があります。幸せになりたいはずでしょう」
たったったったったっ!
四つ足で勢い良く追い駆けてくる気配が。にゃもんで振り切ろうと、ウチらは更にゃる加速に挑む。ところがにゃ。迫りくる足音は一向に小さくにゃらにゃい。
「幸せになりたくないのですかぁ! なるなら今です。私が叶えてあげますよぉ」
たったったったったっ!
(うるさいにゃあ。幸せ幸せって)
ウチは走る足を、とめることにゃく後ろを振り返る。
「あのにゃあ。幸せっていうのは自分でつかむことにこそ意味が……」
ウチは最後まで喋らずに前を向いて加速する。
「モワン、どうしたの?」
「後ろを見れば直ぐに判るのにゃ」
「後ろって……」
くるっ。
「きゃっ!」
短い悲鳴。慌てて、みたいにゃ感じで再び前へ戻した顔には、生き物であれば『血相を変えて』との言葉がぴったりの表情を浮かべていたのにゃ。
「た、大変だわん!」
「にゃろう? 急ぐのにゃん!」
悪鬼のようにゃ形相でウチらを睨みつけているのにゃ。
(とろくて、のんびり屋さんのミリアにゃんをこうまで変えさせるにゃんて)
驚いたことに両目とも赤くにゃい。どちらも銀目に戻っているのにゃ。
(とり憑いていたメノオラにゃんさえもが、逃げ出してしまったのにゃ)
夢想の『力』というか、『怖ろしさ』をまざまざと見せつけられた気がするのにゃ。
(もうひたすら逃げるしかにゃい!)
走る中、尻尾の先へと移動させた左目がとらえたのにゃ。
ピンク色の首輪がメガネへと変わるさまを。
「絶ぇ対に逃がしませんよぉ。それえっ! 暗転、『無気力波』ぁっ!」
左右のレンズから放たれたのは光沢のある緑色の真ん丸輪。連続して、しかも、こちらへと近づくにつれて大きくにゃっていくのにゃん。
ぷわんぷわんぷわんぷわんぷわん。
(来たにゃあ。無気力にさせられてたまるかにゃん!)
左目を戻すと、くるっ、と踵を返して立ちどまる。ミリアにゃんを真正面に見据えると、ウチは力ある言葉を放つ!
「ネコネコ反射ぁっ!」
バアアァァッ!
迎え討つはウチの得意とする霊技の一つ。青みがかった半透明にゃ色の丸い反射板が、防壁とにゃって目の前に造られたのにゃ。
無気力波はウチの反射板にぶつかるや否や、180度はね返ってミリアにゃんへ。
「あ、あげちゃったのになんで戻ってくるのですか。これが生きざま、とでもいいたいのですか。私に身にもなって下さい。どの面下げて受け取ればいいと……ぐおおおおっ!」
自分が放った無気力波に文句をいいつつも、立て続けに自分の身に受けている。
「ミアンさん……もうやめて下さい……やめて」
(やれやれ。しょうがにゃいにゃあ)
憑かれた、とはいっても相手は友にゃち。にゃもんでウチは助言を惜しまにゃかった。
「ミリアにゃん。あんたがやめれば終わるんじゃにゃあい?」
「はっ! ……そうでした。有難うございます、ミアンさん」
ミリアにゃんは、やっと無気力波をとめたのにゃ。『これで終わり』かと思いきや、
「ふふふっ。甘い。甘いですよ、ミアンさん」
うつむいて、ゆらゆらぁっ、とゆれていた身体が、四本の足が、ぴたりと、とまったのにゃ。静かに上げた顔の口元には不敵にゃ笑みが。
「どういうことにゃん?」
「元々、のんびり屋さんな私のこと。無気力には耐性があるのですよ。この程度で倒れるものですか」
(自慢することじゃにゃいと思うのにゃけれども)
「にゃら、まにゃやるというのにゃん?
何度やってもおんにゃじと思うのにゃけれども」
「私にはまだこの力があります。それぇっ! 『ネコ分身』!」
にゃんと! 一瞬にして緑色のネコ三十にんがウチらを円形に囲んでしまったのにゃ。
「ミリアん。これ全部が」
「そうです、ミーナさん。私が造った私です。どうです? こうなった以上、どんなにもがいてもダメです。あなた方は幸せになるしかないのですよ」
「そんなことはないわん。モワンの『ネコネコ反射』は強力よ。絶対に負けないわん」
「確かにミーナさんのいう通りです。しかしながら、『ネコネコ反射』は一方向にだけしか放つことが出来ません。ひとりがやられても、残り二十九にんが間違いなく、あなた方を幸せの光に包み込むことでしょう」
「そんなぁ」
「お喋りはここまでです。さぁふたりとも。三十倍の力で幸せにおなりなさい!
無気力波、エクストラVersion!」
三十ものメガネのレンズ上に真ん丸輪が同時に浮かび上がる。ウチはすぐさま蹲る。
「ささっ、ミーにゃん。ウチのお腹へ」「う、うん」
ミーにゃんは翅を背中に仕舞うと、滑り込むようにウチの下へと潜ったのにゃ。
(やるにゃら……今にゃん!)
「装甲型ネコネコ反射、ハイバーVersion!」
ウチの全身が青色に輝く。ネコネコ反射の鎧を装着したようにゃものにゃ。
(来る!)
三十にんのミリアにゃんから放たれた無気力波の真ん丸輪が今、一斉にウチの身体へともろにぶつかる!
と、その時にゃ。
ピキャアアン!
反射板が強烈にゃ輝きを見せた。そしてその光の中、ウチは見たのにゃ。全ての無気力波が同時に、180度はね返されるさまを。
「ああっ……。もう、もうやめましょう」
喘ぐ声が幾つも響く中、ひとり、またひとり、と消えていく。……そしてとうとう。
最後に残った者……恐らく本物にゃ……の膝が、がくっ、と。分身を何体造ろうが、所詮はひとりにゃ。それが三十もの無気力波を逆に浴びたのにゃもん。無理もにゃい。
ミリアにゃんは独り言をぶつぶつと。
「もう、なんにもする気がなくなりましたよ。
さぁてと。折角、膝を突いたのですし、このまま寝てしまいましょうか」
まさに無気力そのもの、といった感じで横向きに倒れたミリアにゃん。前足後ろ足のどちらも、左右両方を真っ直ぐに伸ばして重ねられている。にゃんともお上品っぽい姿にゃ。
「素晴らしい生涯でした。悔いはありません」
メガネは既に首輪へと姿を戻っていたのにゃ。
(メノオラにゃんはとっくに逃げたのに。まさかここまでやるとは思わにゃかったにゃあ)
敵にゃがら倒れた姿にちょっと感動にゃ。
「目を開けているのにも疲れました」
そういってから、ミリアにゃんは静かにまぶたを閉じたのにゃん。
ウチはミリアにゃんに気をとられすぎたようにゃ。
すやすやすや。すやすやすや。
「ぐすっ。……あれっ? 寝息を立てて」
(ぐすっ、て……。もしや、ミーにゃん)
ちらっ。
(あっ、やっぱりにゃ。……にしても、顔を覗き込むまで気がつかにゃかったとは、
我にゃがら、うかつとしかいいようがにゃい)
ウチの顔近くに浮かんでいる親友は……涙ぐんでいたのにゃ。
「ミーにゃん。にゃにか勘違いをしているにゃろう。
ミリアにゃんはごらんの通り、寝ているにゃけにゃん」
「ぐす……えっ、寝ている?」
ミーにゃんは、ずずずいっ、とミリアにゃんの直ぐそばへ。倒れた相手の姿を見た途端、顔の表情が一変、真っ赤とにゃった。どうやら、現実を理解したみたいにゃ。
「ちょ、ちょっと待つわん!
アタシの純情を、ほおを流れた雫をどうしてくれるわん!」
喋り方にも、『憤まんやるかたにゃい』といった調子を含んでいて、にゃんとも可哀そう。とはいえ、ミーにゃんが叫ぼうが喚こうが、ミリアにゃんは微動にゃにせず。寝顔も平穏そのものにゃ。
(本当、紛らわしいおネムの仕方にゃ。……ふわあああんにゃ)
寝顔は黙っていても眠けを誘う。ネコにゃらば尚更にゃ。加えて、『ネコダマの作成』『ネコネコ反射板に依る闘い』と続いたことで、霊力の大半が失われてしまっている。もう眠くて眠くてたまらにゃい。にゃもんで、親友が奏でる騒がしさを子守唄に、ウチはしばしの仮眠をとることに。
(ミーにゃん。ほんのちょっとでいいから、声のトーンを落としてにゃ)