第七話『ミクリにゃんが敵に回ってしまったのにゃん!』
第七話『ミクリにゃんが敵に回ってしまったのにゃん!』
どっぷどっぷ! どっぷどっぷ!
足元の地面から水らしきものが滲み出てきた、と思っていたら、あれよあれよという間に増えてきたのにゃ。今やウチのあごにまで届いている始末。しょうがにゃいから、ネコ人型モードで立ってみる。『これにゃら』と息を突く間もにゃく、勢いをつけて更にどんどん水かさを増していくのにゃ。
「だ、ダメだぁ!」「ダメでありまぁす!」
ずぶずぶずぶずぶずぶ!
先ずはミクリにゃんと、その身体を少しでも引っ張り上げようと羽ばたいていたミムカにゃんが沈没。
(一生懸命生きようとしていたのににゃあ。……ぐすん)
「やっぱり。ムダな努力でしたか。……あっ、来ましたね」
ざぶうぅぅん!
ミクリにゃんらの最後を、あたかも観客が如き冷静にゃまなざしで見つめていたミリアにゃん。波のうねりまで生じた水を頭からざんぶりと被って、哀れ、腕を組んだ姿勢のまま没したのにゃ。
(不幸は自分に返ってくるといういい見本にゃ)
「ほら、早く逃げないと」「いけないな」
二つの言葉が一つの言葉に。前半の、『取り敢えずいっておくけど』みたいにゃ落ち着いた声はミストにゃん。後半の、『なにがあっても動じない』といった感じの声はミロネにゃん。最後は呆気にゃいもの。翅で飛べばいいものを、並んで喋り合っている間に、両者とも顔半分までが浸かってしまい、あとは揃って一気に、どぼぉん、と沈んにゃのにゃ。
(あのにゃあ。どちらも客観的に物事を見すぎにゃのにゃん。
これじゃあ丸っきりアホ……でいいのか。アホにゃもんにゃ)
にゃんとにゃく納得してしまうウチにゃん。
「モワン、見たぁ。全滅だわん」
視界から完全に消えた今、もはやウチらには手の打ちようがにゃい。
「始まりがあれば終わりもある、……とはいうもののにゃ。
まぁにゃんとも短いつき合いにゃったにゃぁ」
「もう逢えないのかなぁ」
「妖体にゃから、そう簡単には滅びにゃいとは思うのにゃけれども……、
万が一ってこともにゃいではにゃい。あとで、『あの時、やっておけば良かったにゃあ』とか後悔してもあとの祭りにゃん。……ってことで、ミーにゃん」
「うん、判っているわん」
合掌!
ウチとミーにゃんは目を瞑ると、両手を合わせて、沈んでいった哀れにゃる者たちの冥福を祈ったのにゃん。
(化けて出てもムダにゃんよ。にゃってウチは化けネコにゃもん)
どうしてウチらが上空に居るかといえば……、ミーにゃんについていえば、イヤにゃ気配を感じていたらしいのにゃ。にゃもんで取り敢えずは、ってことで飛んでみた直後に、洪水に見舞われたって話にゃ。一方、ウチはといえば、いったんは全身が浸かってしまったものの、ミーにゃんの念動霊波……物を自分の思い通りに操る力にゃのにゃん……に依る遠隔操作に助けられて無事に逃れることが出来たのにゃん。
とどのつまり、助かったのは仲間らの末路を見届けたウチとミーにゃんのみにゃった。
ウチは今、ミーにゃんの助けで空に浮いているのにゃ。
「ミーにゃん。このまま念動霊波を使い続けたら、ミーにゃんの霊力にゃんて、あっという間ににゃくにゃってしまうのにゃ」
「そうなんだけど……、でもどうするわん?
霊技を解いたら、みんなみたいに、あの水の中に潜っちゃうわん」
「ネコダマを造って、取り敢えずは、そこに非難しようと思うのにゃ。
直ぐに造れると思うから、それまで辛抱してにゃあ」
「なぁるほど。さっすがはミアン。そんな手があったのね。
うん、判ったわん。耐えてみせるわん」
ウチは今、ネコ人型モード。両手の肉球を目の前の空へとかざしたのにゃ。
ぷううぅぅっ。
両手の直ぐ先に、まぁるいネコダマが姿を現わしたのにゃ。最初は小っちゃい。でもにゃ。霊力を与え続けるうちに、どんどん、大きくにゃっていく。
ネコダマの外見はネコの頭にゃ。ネコ耳がある上側が茶色地に黒の縞模様で、下側は白色。早い話が、ウチの顔をモチーフにして描かれているのにゃ。
「よぉし、これぐらいでいいにゃろう。
ネコダマぁっ! 口を開くのにゃよぉっ!」
ばかっ!
「うわっ。本当に開いたわん」
「準備は出来たにゃ。さぁ、ミーにゃん。あそこに飛び込むのにゃよぉっ!」
「うん、行くわん!」
ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱた。
念動霊波のおかげでミーにゃんともども、ウチは『口』の部分へと接近。
「なんか……ふふっ。でっかいミアンに食べられちゃうみたいだわん」
「にゃははは。ウチもにゃん」
ぱくっ。
……喋っている間に本当に食べられてしまったのにゃ。
「きゃはっ。ネコダマってミアンみたい。『食べるの大好きさん』だわん」
「面目にゃい」
こうしてウチらは出来立てほやほやの避難場所に身を置いたのにゃん。
ネコダマの内部は緑がかった白い空間にゃ。
「身体が浮いているわん。それに色だって……ふふっ。なぁんか精霊の間に居るみたい」
「ウチの霊力はイオラにゃんからもらったもの。それが狭いにゃがらも、たっぷりと詰まっているのにゃもん。当たり前にゃよ。ミーにゃんにゃって安心にゃろう?」
「うん。確かに落ち着くわん」
見知らにゅ場所に来たこと。仲間を失ったこと。霊力を使ったこと。心を疲れさせるこれらの事態が重にゃったせいにゃろう。にゃんか、くったくった。ミーにゃんもおんにゃじみたいにゃ。というわけで、しばし仮眠をとることにしたのにゃ。
きょろきょろ。
ミーにゃんが探し物でもしているかのように首を動かしているのにゃ。
「でも、ゆりかごはないわん。となると……」
ミーにゃんはウチの白い毛が生えているお腹の上に、ちょこん、と座る。
「ねぇ、ミアン。あたしはここで寝てもいい?」
「もちろんにゃよ」
「良かったぁ。ふわああっ。じゃあ、ミアン、お休みぃ」
「ミーにゃん、お休みにゃさい。ふわああぁぁんにゃ」
ともに、あくびを交えたお休みの言葉。喋った途端、ミーにゃんは身体を寝かせて、
すうぅっ。すうぅっ。
でもって、もちろん、ウチもにゃ。
すうぅっ。すうぅっ。
ぱちくり。ぱちくり。
どちらからともにゃく目を覚ましたウチら。ネコダマの『目』の部分から、外が見えるので覗いてみる。
「ミーにゃん!」
「水が……なくなっているわん!」
いつの間にか水が引いて、青緑色の地面がムキ出しとにゃっていたのにゃ。
「行ってみようにゃん!」
「それがいいわん!」
ネコダマを地面に下ろすと、口を開かせたのにゃ。ぴょおん、と四つ足で降り立ってみればネコダマに入る前に見た光景がまるで夢だったかの如く、地面は既に乾き切った状態。
続いてミーにゃんも口から飛び出す。ウチの背中へ左向きに腰を下ろしたのにゃ。
「ネコダマ。あんたはお空にぷかぷか浮かんでいにゃさい」
そう声をかけると、大っきにゃネコの頭は、ふわり、と浮上。ウチらが見守る中、ふらぁり、ふらぁり、とウチらから離れていったのにゃ。
「どうして、誰も乗っていないのに飛ばせたの?」
「また妖しげにゃ水が出てきて、みんにゃみたいに取り込まれたら大変と思ってにゃ」
「なるほどね」
ネコダマがにゃくにゃったせいにゃろう。急に孤独感が襲ってきたのにゃ。ウチとミーにゃん以外は誰も居にゃいという現実が、重く心にのしかかる。
ミーにゃんも横っ腹の前で足をぶらぶらさせにゃがら、
「変ねぇ。来た時と変わらない光景なのにミムカんたちが居ないなんてぇ」
にゃんともつまらにゃい、というか、さみしげにゃ様子。ところがにゃ。次の瞬間、驚きの声とともに、前方を指差したのにゃん。
「ああっ! モワン、あれを見て!」
「はて? にゃんにゃのにゃろう?」
地面から、ごぼごぼっ、と水が湧き上がってきたのにゃ。小さな水溜まりが出来た、と思ったのも束の間、その水面から、ずぼぼっ、とネコの影みたいにゃものが浮かび上がってくる。
(まさか……)
水が引いたあとでも影は残っているのにゃ。最初は幻のように、ぼぉっ、と姿。でもにゃ。みるみる間に、輪郭や色がはっきりとしてくる。
「あっ!」「あんたは!」
今やウチらとおんにゃじぐらいのくっきり感。見知った顔の口から零れたのは。
「そう。ただのアホだよ」
(さすがにゃん。この期に及んでもそれがいえるにゃんて)
自分をアホと認めるのは、にゃかにゃか勇気がいるもの。それをあっさりと肯定出来る潔さが、この姿の持ち主にはあるのにゃ。ウチらが友にゃちとにゃった理由の一つ、ともいえるかもしれにゃい。
「ミクリん!」「ミクリにゃん!」
「やぁ、ミーナ君。ミアン君」
気さくに声をかけてくるのは、いつもとおんにゃじにゃ。ウチは駆けて、ミーにゃんは飛んで、そばへ寄ったのにゃ。一見、どこも悪いところはにゃいみたい。ところがにゃ。
「ミクリにゃん。その目は?」
両目とも妖しげにゃ赤い輝きを放っていたのにゃん。
「ミアン、たいしたことじゃないわん」
安心させようとしてか、ウチのナデ肩を、ぽんぽん、と叩くミーにゃん。
「たいしたことじゃにゃいって、ミーにゃんには理由が判っているのにゃん?」
「当然よ。これって多分、充血だわん。水の中にだいぶ居たから、しょうがないわん」
幼児期の妖体って、実体ある生き物と良く似た症状を示すことがあるのにゃん。ましてや、ウチのように実体波を纏う者であれば、滅びるまでそうにゃる。もっとも……、実体波をリフレッシュさせれば、あっさりと症状は消えるのにゃけれども。
ミーにゃんにゃってそうにゃ。人間がいうところの『オネショ』みたいにゃものを……、
おっ、とと。これは内緒の話にゃん。
(……にしても『充血』とは。よくぞ気がついたものにゃ)
「にゃあるほど。さすがはミーにゃん」
「えっへん! どう? アタシの博学に恐れ入ったわん?」
両手を腰に当て、肩をそびやかすウチの親友。ところがにゃ。
「だと良かったんだけどねぇ。残念ながら違うんだなぁ、これが」
ミクリにゃんは即座に否定。するとにゃ。
「うん。アタシも本当はね。そうだと思ったわん」
そういっておんにゃじ姿のまま、こくり、とうなずいたのにゃん。
(あのにゃあ)
親友の『博学』は全くもって当てににゃらにゃい。
ミクリにゃんが、ぼやきともとれる言葉を口にする。
「参ったよ。メノオラの意識がこともあろうにさ。ボクにとり憑いちゃったみたいなんだ。
まぁ自分という存在があまりにも魅力的なのがいけないんだけどねぇ」
(水におぼれたアホがにゃにをいっているのにゃん)
「ふぅぅん、そうにゃん」
「ふぅぅん、そうわん」
ウチらの返事に含まれている淡白にゃ響きを嗅ぎとったのにゃろう。そして、『あっ。全然、相手にしてくれてないや』と焦ったのに違いにゃい。慌ててミクリにゃんは、
「冗談だよ、冗談。少なくとも後半はね」と取りつくろうかのように言葉をつけ足したのにゃん。
(これのどこがとり憑かれているっていうのにゃ。いつもとおんにゃじじゃにゃいか)
そういおうとしたのにゃけれども、『ちょっときつめのいい方かもにゃ』と思って、別にゃ、やんわりとした言葉を返したのにゃ。
「それで? どんにゃ感じにゃのにゃん?」
「なぁんかねぇ。『あそこにいる妖体どもを倒せ』って盛んにボクの意識にけしかけてくるんだ。もう、うるさいったらありゃしない」
「そりゃまたどうしてにゃん?」
「そうよそうよ。どうしてアタシとミアンなのわん?」
ウチらの問いかけ……ミーにゃんの言葉には抗議の意味も含まれているみたいにゃのにゃけれども……に対して、ミクリにゃんの返事は。
「直接、会話が出来るわけじゃないけどね。それでも、『あいつらの力が欲しい』みたいな思いは感じた。実際にボクを利用しているところをみると、よっぽどご執心とみえるね」
「アタシたちの力?」
ミーにゃんとウチは顔を見合わせたあと、お互いの視線を相手の胸の辺りにまで下ろしたのにゃ。
「モワン。メノオラが手に入れたがっているのは」
「うんにゃ。間違いにゃい。ウチらの中にあるイオラにゃんの『命の欠片』にゃ」
お喋りが聞こえたのにゃろう。ミクリにゃんは首を、ぶんぶん、と振っているのにゃ。
もっとも……、予想とは違って、縦に、ではにゃく、横に、にゃのにゃけれども。
「ううん。ちょっと違う感じがする」
「どんにゃ風ににゃ?」
「霊力が欲しいのは間違いなさそうだよ。なんといっても守護神イオラ様は、神霊ガムラ様に次ぐ力をお持ちだからねぇ。だけど……、それでも直接イオラの欠片を手に入れたがっているわけじゃないみたいなんだ」
ミーにゃんも当然とばかりに、うなずく。
「判るわん。メノオラがどんな霊体であっても、イオラの欠片を強引に奪おうとするなら、それ相応の力と覚悟が要るはずだもの」
「リスクが大きすぎるよね。最悪の場合、滅びを迎えることだってないとはいえない。
だから、せめて取れる範囲ぎりぎりの霊力を、って思っているんじゃないかな」
「うん。そっちのほうが無難な考えだと思うわん」
(どうやら、最悪のケースにゃけは、まぬがれそうにゃん)
ミーにゃんとミクリにゃんの会話を耳にし、ほっ、とウチは、ため息を洩らす。
「ところで、と。にゃあ、ミクリにゃん。本当に、とり憑かれているのにゃん?
実際こうやって話をしていても、いつも通り、としか思えにゃいのにゃけれども」
「それがさ。かなりユルいとり憑き方なんだ。こちらが強い意志を示せば、出ていっちゃうんじゃないかと思うぐらいにね。おかげで自分を見失わないでいられるってわけさ」
「にゃら、出ていってもらえばいいじゃにゃいか」
「思うぐらいに、っていったろう? 実際は違うんだ。口うるさいくらい、がなり立てているそばからね、知らず知らずのうちにボクの意識に忍び込んで、『やりたいのはボク自身なんだ』との錯覚を植えつけているみたいなんだよ。ボク自身の意志や力は殺がず、それでいて、きっちりと自分の目的は成就させる、みたいな、自然な形になるように演出しているんだ。本当、いやらしい奴さ」
こういうのって、扱いに悩むのにゃ。敵にゃら敵。味方にゃら味方。はっきりさせてもらわにゃいと、ネコとしては次の行動が決めにくいのにゃ。
「困ったものにゃん」
「困ったものわん」
ミーにゃんもウチとおんにゃじ。腕を組んで困り顔にゃ。
……と思ったら、ミクリにゃんもにゃ。
「確かに困っているよ。こうやって話をしているのだって、果たして自分自身がやりたいからやっているのか、それとも、メノオラの奴にそそのかされてやっているのか、判然としなくてね」
「にゃら、自分を見失っていにゃい、とはいえにゃいのじゃにゃいか?」
「そこが難しいところでね。行動を起こしているのは自分自身の意志だよ。それは間違いない。問題は行動を起こすきっかけ、動機さ。もちろん、ボク自身は、『自分がそうしたいから』だと思っているよ。でも違うかもしれない。そう思わせられているだけ……」
不意に言葉が途切れたのにゃ。見れば、ミクリにゃんがにゃんとにゃくおかしい。両手で頭を抱えて、『あれっ。どうしてボクはこんな話を……』とか呟いたと思ったら、お次は目を閉じて、ちょっとうつむき加減で首を横に振る始末にゃ。これでは声をかけるのもためらわれるというもの。にゃもんで、『落ち着くまでは』と見守ることに。ややあって静かに目が開かれた。混乱しているようにゃ様子は消えたのにゃけれども、代わりに、目の赤い輝きが強くにゃった気がする。おかげで顔の表情から受ける印象も、『悪戯っ子ぽい』から『意地悪っ子ぽい」へと変貌。まるでネコが変わったかのよう。にゃのにミクリにゃんは何事もにゃかったかの如く、ゆっくりと口を開いたのにゃ。
「ところでさぁ。そろそろ始めないかい?」
「なにを? だわん」「にゃにを? にゃん」
「決まっているじゃないか。ずばり、ゲームだよ」
「そんにゃあ。いきにゃりいわれても」
「困るわん」
ウチらが苦言を呈するも、『もはやこれは決定事項』といわんばかりの態度にゃ。一切無視して言葉が続けられる。
「どちらか気を失ったほうが負け。君たちが勝てば、憑いているメノオラはボクから離れてくれる。君たちに元のボクを返してくれる。でも負けたら……、
君たちの霊力を取り放題だ。いいねっ」
ミクリにゃんが喋っているのか、それともメノオラがミクリにゃんの身体を借りて喋っているのか、どうにも判りにくい。たにゃ、これにゃけは判ったのにゃ。
(ミクリにゃんを取り戻すには、闘って勝つしかにゃい!)
赤と青の毛を併せ持つミクリにゃんが、ネコ人型モードに。ぐぐぐっ、と握り締めて造った右手の拳。少し開いた口から覗ける、きらり、と光るネコの牙。戦闘態勢に入ったといえにゃくもにゃい。『ボクは高級ネコ』といわんばかりの、ふわふわっ、とした光沢のある毛並みに似つかわしくにゃい姿にゃ。
念の為に聞いてみる。
「ゲームって、どんにゃゲームにゃのにゃん?」
「もちろん、なんでもありさ。じゃないとつまらないしね。ってことで」
ピカアァン!
ミクリにゃんが眩しいばかりに青く輝く。でもにゃ、それは一瞬の出来事。光を失ったあとには全身が光沢の映える青色の毛並みとにゃっていた。
「これが『技』の戦士さ」
ぎゅぅん!
右手の五本指それぞれから『霊糸』が少しばかり飛び出したのにゃ。
「バトルタイプのゲームでいくよ。ボクが得意とする武器は、君たちも知っての通り、この霊力の糸さ。本当は、『手加減せず、全力で』といいたいところなんだけど……、いきなり、『バトルゲームをやれ』っていわれて、しかも『両手で』じゃあ、誰が見たって聞いたって、不公平だよね。だから、今回はハンデをつけて右手だけで闘ってあげるよ。
さぁゲーム開始だ。どこからでもかかってきなさぁい!」
(にゃあんか『操られている』というよりは、単に悪ノリをしているにゃけのようにゃ気も……)
顔は、と見れば、いつもの如く悪戯っ子っぽい。どう見ても普通に楽しんでいるとしか思えにゃい。
「判ったわん!」
「ふにゃっ!」
ウチは思わず、かたわらで大声を発したミーにゃんを見つめたのにゃ。
「売られた喧嘩、買わないわけにわけにはいかないわん!」
「うん。それでこそ戦士だよ」
「ミクリん。力を尽くして正々堂々と闘おうわん!」
「望むところだよ。ミーナ君!」
(やれやれ。似た者同士ってわけにゃん)
ふたりにゃけで既に盛り上がっているのにゃ。とにゃると、出遅れたウチがやれることっていったら……。
「ふあああんにゃ。……にゃあんか眠くにゃってきたのにゃあ」
(そうにゃ。ここは一つやる気満々のミーにゃんに任せて、と)
「実は、もうちょっと寝たいと思って……ふあああんにゃ」
ネコは一日の大半を寝るのに使う。化けネコとにゃったウチも生前の習性は受け継がれている。つまりにゃ。ウチとしては全然、寝足りにゃいのにゃ。幸いにゃことに、当分、出番はにゃさそう。にゃもんで、『さぁひと眠りにゃん』と蹲って目を瞑ろうとした、まさにその矢先にゃ。
「モワン! いくわよぉっ!」
突然、ミーにゃんの大きにゃ声が。
「ふんにゃ?」
(寝子を起こしてはいけにゃいのにゃよぉ!)
寝ぼけまなこのまま注意しようと思った。ところがにゃ。急に身体が、ふわり、と浮かぶ。『にゃにごと』と戸惑う中、今度はものすごい勢いで前方へと飛ばされていく。
「にゃ、にゃんと!」
ひゅるひゅるひゅるひゅる。ひゅるひゅるひゅるひゅる。
反対方向からは霊糸が五本、飛んできたのにゃ。
ぐぐぐっ!
でもって、ウチは瞬く間に全身を絡めとられてしまう。
「ごめんね、ミアン君。まさか、こんなことになるとは思わなかったよ」
状況が良く呑み込めていにゃいこともあって、にゃにををいっているのかさっぱり判らにゃい。それでもまぁ『取り敢えずは』とウチもいいたいことをいってみる。
「ミクリにゃあん。ウチは今、すっごく眠たいのにゃよ。
出来ればこれ、早急にほどいて欲しいのにゃけれども」
ウチの願いに対し、ミクリにゃんは、
「大丈夫だよ。ミアン君。霊糸は直ぐに片づけるから」
にこやかにゃ笑顔でもって、こう応じたのにゃ。
(ほっ。良かったにゃあ)
ミクリにゃんの右手が霊糸を引っ張る。『これで自由ににゃれる』と思いきや、
ぎゅうん!
逆に締めつけられたのにゃ。お肉に食い込む感じがした、と思った途端、
ばらばらばら。ばらばらばら。
「にゃ、にゃんと!」
思いがけにゃい事態。『どういうことにゃん?』と前を向けば、ミクリにゃんの気の毒そうにゃ顔が目に入ったのにゃ。
「なんだ。永眠にまでは至らなかったのかい? そりゃ残念だったね」
ウチは見かけ上、頭一つ、胴体四つ、足四つ、それに尻尾一つと、合わせて十分割された肉片とにゃってミーにゃんのそばに落ちてしまったのにゃん。
「モワン。大丈夫?」
ウチは親友に質問をぶつけてみる。
「ミーにゃん。どうしてこんにゃことに?」
「それがね、ミクリんの霊糸がどうしても避けきれなくって。
『なにか盾になる物ってないかなぁ』って探してみたの。そしたら」
(にゃあるほど)
「ウチが目についた、というわけにゃん」
「さすがはモワン。察しがいいわん……って、今がチャンスだわん!」
「うわんにゃっ!」
ウチはバラバラにゃまま、びゅううん、と再び敵側へ。ミクリにゃんにとっても予想外の出来事にゃったとみえる。霊糸を飛ばす間もにゃく、身体全体、特に顔面へと集中してウチの肉片をぶつけられ、そのまま仰向けに、ばたぁん! と倒れてしまったのにゃん。
「やったぁ! 勝ったわん!」
ぴょおん、と飛び上がり、右手の拳を高く掲げている。お肉の塊と化した姿の目に映るミーにゃんの勝ち誇った様子は、にゃんともさみしい。
闘いが終わると、ミーにゃんはウチに背中を見せて、にゃにやら、ごそごそ。
「これ、これだわん!」
ミーにゃんは右手に握っているものを、さも自慢げに高々と掲げたのにゃ。
「瞬間接着剤だわん!」
ウチはこれから自分がにゃにをされるのか一発で判ったのにゃん。
ミーにゃんが『治療』と称して始めた作業。予想はしていたものの、すんにゃり、とはいかにゃかった。途中、前足と後ろ足を間違えられたり、頭をお尻につけられたり、首に尻尾をつけられたり、右肩と左の尻をくっつけたり、にゃどにゃどにゃど、間違いを数え上げたらきりがにゃい。全部のパーツを組み上げても、笑うに笑えにゃい姿とされたことが、どれほどあったか。そのたんびに、『きゃははは! なにこれぇっ!』と笑い転げるミーにゃん。それでも、にゃんとか無事に収まるところへと収まったのは……、
本当、『奇跡』としか思えにゃい。
「どう? モワン。アタシの腕前は? 生まれ変わったような新鮮な気分がするでしょ?」
「…………」
返す言葉が見当たらにゃい。新鮮どころか、にゃんとも複雑にゃ気分。一方、ミーにゃんは、といえば、燥ぎにゃがら、まるで『自分の造った作品』といわんばかりにウチの身体を、ぺたぺた、と触っているのにゃ。
闘いは終わった。勝負は終わったのにゃ。と思っていた。ところがにゃ。
「まだまだぁ。これからが本番だよ」
ウチらは驚いて声のするほうへと顔を向けた。いつの間にか、ミクリにゃんがネコ人型モードで立っていたのにゃ。白目で倒れていたとは思えにゃいほど、元気一杯の姿で。
「ミクリんったらぁ。気を失ったんじゃにゃかったのぉ?」
「失いかけたよ。でもね、ミーナ君。どうしてかは知らないけど、君って、ずうぅっ、と笑っていただろう? 『きゃははは!』って。
あれがうるさすぎてね。それで我に返ちゃったのさ」
「にゃ、にゃんと!」
思いがけにゃい言葉にウチは唖然とするしかにゃい。
(折角のチャンスにゃったのにぃ……)
我知らずのうちに目を向けてみれば、ミーにゃんも唖然としていたみたい。でもにゃ。ウチの視線に気がつくと、即座に反応。向かい合うや否や、『アタシが悪いんじゃないわん。全てはモワンのぶつかり方が弱すぎたせいだわん』とこっちに責任転嫁にゃ。挙句に、『今度はもっとしっかりやりなさい』と逆にお説教を食らう羽目に。『にゃんぼにゃんでも』と思って、反論しようとしたのにゃけれども、ふと気がつけば、地面にぽたぽた雫が。
「ミーにゃん……」
「ぐすん。ごめんね、モワン。ごめんね、ミクリん」
雫はもちろん、親友の目から零れたものにゃ。
(やっぱり、ミーにゃんは優しいのにゃ)
「いいのにゃよ。ミーにゃん」
「そうだよ、諦めないで。ボクは君たちのところに帰りたいんだ」
(ふにゃ!)
ウチは見たのにゃ。多分、ミーにゃんも。ほんのわずかにゃ間にゃったのにゃけれども、ミクリにゃんの目がいつもの銀目に戻っていたのを。そして……再び赤くにゃった今でも、ミーにゃんとおんにゃじに目からほおを伝う雫が残っていたのを。
(ミクリにゃん……)
感動にうち震える。実際に身体も震えている。
「ミーにゃん。にゃんとしても、ミクリにゃんを取り戻そうにゃん!」
「うん! 絶対だわん!」
ウチらが決意を新たにしたのはいうまでもにゃい。
「二回戦目は変わった趣向でやろうよ」
「いいにゃよ」「いいわん」
意地悪っ子っぽい表情に戻ったミクリにゃんの提案。口では『やろうよ』とはいっているものの、実際には『やれ』といっているのにゃ。不安はあるものの、ミクリにゃんを取り戻すと心に決めた以上、『イヤ』というわけにもいかにゃい。
「今度のは準備が必要なんだ。直ぐに造るから、ちょっと待っててね」
ネコ人型モードのまま、ミクリにゃんのネコ差し指から一本の霊糸が放たれたのにゃ。見ていると、指先の動き通りに線が描かれていく。霊糸がとまった時には、目の前にキャンパスのようにゃ真っ白い四角形が浮かんでいたのにゃん。
(地中で見たことがある。確か、『ドロウ』とかいう霊技にゃ)
「あとはこれをこうして……それからこうして……」
まるで手元に折り紙でもあるかの如く、ミクリにゃんは両手を動かしているのにゃ。と同時に、その動きに合わせて宙に浮かんにゃ白い四角形が折リ畳まれていく。
そしてついに。
「やったぁ! 完成だぁ!」
見れば、白い四角形は三角形の二枚翼を持つ紙ヒコーキと化していたのにゃ。
「そぉれっ、と」
ぴょおぉん。
ミクリにゃんはさっそうと、紙ヒコーキの上へ乗る。
「準備は出来たよ。さぁ、追い駆けっこを始めよう」
(急にそんにゃことを言われてもにゃあ)
戸惑うウチに対し、またもやミーにゃんは。
「望むところだわん。受けて立つわん」
拳を振るってそう答えたのにゃん。
(翅で飛んで勝てるのにゃろうか?)
そう危惧するウチを振り返るや否や、『モワン、さぁこっちも準備よ』との発言。
「ウチに、にゃにをしろと?」
目をぱちくりさせていると、ミーにゃんはウチの首元を指差したのにゃ。
「それよ、それ。マフラーをマントに変えるの。そうすれば、こっちはなんの力を使うことなく飛べるわん。楽勝で勝てるわん」
「にゃあるほど。ミーにゃんのいうことも、もっともにゃん」
ウチはパンにゃんに話しかけてみる。
「マントににゃってくれにゃいかにゃ?」
「お安い御用のぐし」
さばっ!
あっという間に、ウチの背中はマントで覆われたのにゃ。もらった最初にも思ったのにゃけれども、外側は青、内側は赤と、恥ずかしくにゃるくらい派手にゃのにゃん。
「へぇ。あのマフラーって、そんな風にもなれるんだ。いいね、それ」
ミクリにゃんはさも感心したようにいったあと、またもや霊糸を指から。
(にゃにをするつもりにゃん?)
警戒の意味も込めて見守っていたら、あっという間に、おんにゃじものを二つばかし、造ったのにゃん。
「はい、これを持って」
ミクリにゃんにいわせるとにゃ。『短銃』とかいうものらしい。黒光りしていて、銃身は先っぽへいくにつれ、細くにゃっている。グリップを握った手に霊力を込めにゃがらトリガーを引くことで、霊火弾が放たれるという。『実際に撃ってみれば、簡単だって直ぐに判るよ』との言葉に、親友の目が、きらり、と光る。こういう小道具が好きみたいにゃ。
「どうだい? ミアン君。『空飛ぶガンマンの闘い』っていうのは?
なかなか面白いと思うんだ」
「ウチは出来れば、もっと平和的に」
『じゃんけんぼんで』と続けようとしたのにゃけれども、ミーにゃんは、
「うん。早速やろうわん」と遮ってしまったのにゃん。にゃもんで再びウチは、自分が望みもしにゃい戦いの場へと身を躍らせることに。
(これがウチの宿命にゃのかもにゃあ)
かたわらで目をきらきらさせにゃがら宙を浮かんでいる親友を目の当たりにして、確信にも似た気持ちでそう思ったのにゃん。
かくして空の追い駆けっこが幕を開いた……のにゃけれども。
「ぱぁんぱぁん! あはははっ。ぱぁんぱぁん!」
銃声が出にゃいから、という理由でミクリにゃんは自分の声を代わりに使っている。
(まぁ、それはいいとしてにゃ)
「ミーにゃん。ウチら圧倒的に不利じゃあにゃいか」
「失敗したわん。『追い駆けっこだけど、お先にどうぞ』っていわれて、『ラッキー!』って思ったんだけどね。良ぉく考えてみれば撃ち合いじゃない。だったら、後ろから狙えたほうがいいに決まっているわん」
「所詮、ウチらは闘いにゃんて向かにゃいのにゃよ」
「今更そんな……あっ、危ないわん!
ぱぁんぱぁん! ぱぁんぱぁん!」
(ミーにゃんまで自分の声を使っている……。ふたりともノリノリにゃん)
苦肉の策として、ミーにゃんは銃を撃つことに、ウチは飛ぶことに専念したのにゃ。向こうの射撃を監視する為、ウチは自分の左目を尻尾の先へと移動。尻尾の長さは自由自在。加えてウチの意志でどんにゃ方向へも向けられる。つまりにゃ。360度、全方位監視体制が確立したことににゃる。
ミーにゃんは今、マントの上に腰を下ろしている。ミーにゃんとマント、双方から自然放出される霊力に依り、摩擦力が生じている。結果、引っついた状態とにゃる為、どんにゃ動きをしてもウチから落ちることはにゃい。たとえ、マントからウチの頭の上へと移ったとしても、おんにゃじにゃ。ついでにいえば、ミーにゃんは霊体にゃから体重はゼロ。にゃもんでマントの上に乗っても、飛ぶのに支障は一切にゃい。
ミーにゃんがウチの頭の上から覗き込んでいる。
「ミアンったら、片目がないから怖いわん」
「ほら、ミーにゃん。ウチの顔を覗く余裕にゃんてにゃいのにゃよぉ」
「うわっ!」
飛んできた霊火弾を避ける為、ウチが身体を左側に傾けたのにゃ。ミーにゃんは慌ててウチの頭にしがみつく。
「こらあっ! どうして前もっていわないわん!」
「あのにゃあ……。これにゃけはいっておくにゃよ。
ネコはにゃ。未来を予測することは出来るかもしれにゃい。でもにゃ。知ることは出来にゃいのにゃ。にゃもんで先ずは考えられる全ての事態に対する準備を整えておいて、いざ問題が起きたら、その場その場で、その時その時で臨機応変に対処していく。特に今はそれしかやりようが……あっ! ほら、追いついてきた。ミーにゃん、撃つのにゃ!」
「えっ!」
くるっ。
後ろを振り向いたミーにゃんの顔を尻尾の目が確認。慌てふためく絵とにゃっているのが良ぉく判るのにゃ。
「う、撃つわん!」
両手で握ったグリップ。トリガーにかけた指を引く。発射されると同時に自分の声で、
「ぱぁん! ぱぁん!」
撃つ際に銃口が震えているのが一目瞭然。
(あれじゃあ、無理にゃよ。
どだいウチらは初心者……って、向こうもおんにゃじにゃん)
そう。向こうもひっきりにゃしに『ぱぁん!』を繰り返しているのにゃけれども、余裕で避けられるものばかりにゃん。
ウチはわざと飛ぶのをやめる。もちろん、落下にゃ。この突然の動きに対応し切れにゃいのにゃろう。後ろの紙ヒコーキはウチらが居にゃくにゃった前方を真っ直ぐに進む。『今がチャンスにゃ』とウチは急いで上昇。紙ヒコーキの後ろをとったのにゃ。実体波で造られた偽りの胸が高鳴る中、射程距離まであとわずか。どんどん迫っていく。
……そしてついに来たのにゃ。千載一遇の好機が。
「ミーにゃん、今にゃあ!」
すうぅっ。すうぅっ。
ミーにゃんは……こともあろうに銃を片手に眠りこけていたのにゃ。
(ふぅ。にゃんといってもまにゃ幼児にゃ。無理もにゃい)
怒るにゃんて覚束にゃい。あんにゃに可愛い寝顔にゃもん。
「うわんにゃ!」
ウチらがもたもたしている間に、紙ヒコーキはウチらの上空で『後方反転宙返り』という荒技をやってのけてしまったのにゃ。
(紙ヒコーキにゃのに。紙ヒコーキにゃのに。紙……しつっこいのにゃん!)
あまりにも頭が混乱していたのにゃろう。自分自身に叱咤してしまったのにゃ。
「またまた後ろをとられるにゃんて。くうぅっ。ウチとしたことが一生の不覚にゃん」
でもにゃ。驚くのはまにゃ早かったのにゃ。
「やっほぉっ!
ばばばばば! ばばばばば! ばばばばば! ばばばばば!」
(相も変わらず声で発射音を……って、それどころじゃにゃい!)
にゃんと! 短銃から小さめの霊火弾が多数連射。しかもにゃ。まるでウチらを包囲するかの如く、ぷわあっ、と拡がってしまったのにゃ。もう上下左右斜めと、どこを見ても霊火弾が連にゃって飛ぶ、容赦のにゃい波状攻撃にゃ。でもって真後ろにはミクリにゃんが乗っている紙ヒコーキ。とにゃれば、空いているのはウチの目の前にゃけ。進むしか逃げ道がにゃい。追い駆けられては攻められてと、実体波の心臓、ばくばくものにゃん。
(これは無理にゃ)
ウチは霊覚交信を使って、対決相手の心に訴えたのにゃ。
「ミクリにゃん。あんまりじゃにゃいか。ウチらにこんにゃ真似は出来にゃいのにゃよ」
こっちにあるのは単発でしか撃てにゃい銃。しかもにゃ。弾の大きさにゃって変えられにゃい。
「そうはいってもねぇ、君たちはふたりがかりじゃないか。
これくらいのハンデはあってしかるべきだよ」
「そんにゃあ」
「あっ、いっておくけどさ。これから弾の拡がる範囲はどんどん狭まってくるよ。もっともっと早く飛ばないと全弾命中。ががぁん! だからね。それじゃあ」
ぶちっ。
霊覚交信を一方的に打ち切られてしまったのにゃ。
「ど、どうすればいいのにゃろう」
本気で戸惑う。相談しようにもミーにゃんはおネムの状態。
(ミアン、考えるのにゃ。考えるのにゃ。考えるのにゃ。考える…………)
ネコ頭で必死ににゃって考え、考え、考えた末に。
ぱっ!
ウチの思考が……たった今、とまってしまったのにゃ。
(いや、違うにゃ)
目の前には遊びの広場が拡がっている。小さにゃ蝶が飛んできたので、ウチは追い駆けてみる。そんにゃウチを見て、ミーにゃん同盟のみんにゃが笑っている。いつもの風景。いつものみんにゃ。いつもの笑顔。そして……ふと気がつくと、かたわらでミーにゃんがウチに手を差し伸べているのにゃ。その手を取ろうと、前足を差し出した途端。
ぐしゃあん!
(にゃ、にゃに?)
目をぱちくり。今度こそ本当に我に返ったのにゃん。
「にゃんにゃろ? にゃにかが後ろに当たったようにゃあ……」
尻尾の左目で、そして実際に振り返ってもみた。するとにゃ。
ひゅうううっ。…………ぐしゃああぁぁん!
ミクリにゃんの紙ヒコーキが地面に墜落するまでの瞬間を目撃してしまったのにゃ。
「それにゃら、さっきのは」
ウチがマントを翻して下りた頃には、紙ヒコーキはとっくに消えていた。
「ミ、ミアン君」
ミクリにゃんが足元近くに横たわっている。震える前足を支えに、やっと、みたいにゃ感じで上半身を自力で起こすと、ウチにこう耳打ちを。
「急停止は交通違反……」
この言葉を最後に青い身体は再び、がっくり、と倒れ込む。
(やっぱりにゃ。ウチの推測通りにゃん)
『思考がとまった』と感じた瞬間、ウチは前に進めにゃくにゃっていたはず。とはいってもにゃ。飛ぶのをやめて落下したのじゃにゃい。宙に浮かんにゃまま動かにゃかったのにゃ。そこをミクリにゃんの紙ヒコーキが速度を上げて飛んできた。にゃもんで、……そのあとに起きた出来事は、いわずもがな、にゃ。墜落した紙ヒコーキとミクリにゃんの口にした言葉が全てを物語っている。
「ウチらの運が良かったからにゃろうか、それとも、ミクリにゃんの……。
いんにゃ。ウチらとミクリにゃんの運が良かったのにゃ。それがこの結果を生んにゃのに違いにゃい」
確認の為、ミクリにゃんの目を指で開いてみたのにゃ。メノオラにとり憑かれたことを示唆する赤い目ではもうにゃい。
「済まにゃい、ミクリにゃん。でもにゃ。メノオラを追っ払えたのにゃもん。
違反の罰則金は相殺ってことで勘弁にゃ」
左目を元に戻すと、ウチはネコ人型モードに。今度は無事を祝っての合掌にゃん。
交通違反や罰則金。はるか大昔に移民が残した書物の中にあったキーワードにゃん。地中に埋まっていたのをミクリにゃんとこのナワバリの長が見つけたらしい。にゃんでも異界の慣わしとかしきたりに興味があったとかで……にしてもにゃ。『よく文字を読めたにゃあ』と感心すること頻りにゃん。
(気を失ったままにゃし、念の為にゃ。
ミクリにゃんの身体はネコダマにでも避難させるとしようにゃん)
「おおい! ネコダマぁっ! こっちへ来るのにゃあ!」
声をかけたら、ふらぁり、ふらぁり、と、ゆっくりゆっくり飛んできたのにゃ。青緑の地に下りたネコダマは、求めに応じて口を、ぱかっ、と開いた。首を口にくわえた……あまがみにゃ……格好でミクリにゃんの身体を運ぶウチ。ぽい、と放り込んだら、ぱくっ。これで完了にゃ。
作業が終わってネコダマを見送っているウチの後ろから突然、声が。
「ふわああん! ねぇ、モワン。なにかあったわああん」
振り向けば、声の主はミーにゃん。寝ぼけまなこをこすっていたのにゃん。
(ぶふっ。寝ぼけ顔のミーにゃんも、にゃかにゃか可愛いのにゃん)