第六話『にゃんと! 狭界に入ってしまったのにゃん!』修正01
第六話『にゃんと! 狭界に入ってしまったのにゃん!』
「おい、ミアン君。ミアン君ったら」
誰かが声をかけているのにゃ。
「しっかりしなよ、ほら」
誰にゃろう。毛むくじゃらのウチのほおを肉球で、ぷにぷに、と叩いている感じが。
(本当、うるさいにゃあ)
がばっ!
横向きに倒れていた身体を起こすと、続けざまに一喝にゃん。
「寝子を起こしてはいけにゃいのにゃよぉっ!」
はっ!
「ええと……ウチは」
どうやら、自分が怒鳴った声で目を覚ましたみたいにゃ。見れば、ちょうど毛づくろいをするかのようにお尻を座らせたまま上体を起こしている格好。『あれは夢にゃったのか』と思ったのも束の間、再び声が耳に届いたのにゃ。しかも聞き慣れた声が。
「ふぅ。やっと気がついたみたいだねぇ」
「どこか痛いとこってありませんか?」
「ミクリにゃん! それに……ふにゃっ! ミリアにゃんも!」
捜索していた当の妖精が今、目の前に。
ふたりにゃけじゃにゃい。ウチを囲むようにして、ミーにゃん同盟の全員が揃っていたのにゃ。でもって、みんにゃがみんにゃ、心配そうにウチの顔を覗き込んでいる。
「モワン」
ミーにゃんがそばに飛んできたのにゃ。ウチの、ちょうど顔の真ん前でとまると、翅をぱたぱたさせたまま『大丈夫わん?』と尋ねてくる。
「もちろん、にゃよ。ミーにゃんは?」
「強い力で引き込まれた時はさすがに驚いたわん。でもほら、みんなが居てくれたから」
ミーにゃんが後ろを振り返る。もちろん、そこには。
(そうにゃ。手を取り合える友にゃちが居れば)
他の仲間のひとりひとりとも視線を合わせる。みんにゃのウチを見る目がとても優しい。誰ひとりケガをしていにゃいようにゃ。にゃもんで、ほっ、と胸を撫で下ろしたのにゃん。
「心配していたのはウチのほうにゃよ。にゃって誰も居にゃくにゃってしまうのにゃもの。でも、みんにゃ無事みたいで良かったにゃあ」
口先にゃけじゃにゃい。心の底から込み上げてきた思いが言葉とにゃって表われたのにゃん。そういえば、と、ウチは一番目を潤ませている相手を再び見つめる。
「ミリアにゃんも大変にゃ目に遭ったものにゃ」
同情すること頻りにゃん。
(にゃにしろ、最初の被害者にゃもの)
顔を見れば、つらかったことを漂わせる表情が、まにゃありありと。
「本当ですよ。気がついたらこんな見たこともない場所に居て、しかも、他には誰も居ないんですから。ミクリさんたちが来てくれるまでは、『ここはどこなのですかぁ?』とか、『誰か居ませんかぁ』って叫び通しでした。涙ぐんでいましたよ」
口から紡ぎ出された言葉からも、当時の心細かった胸のうちが、ひしひし、と伝わってきたのにゃ。
「ミリアにゃん。気持ちは良ぉく判るのにゃよ」
気がついたら、ウチは自分でも『優しいにゃあ』と思う口調で話しかけていた。
「有難うございます。ミアンさん」
さぞかしや、不安で胸がはち切れんばかりにゃったに違いにゃい。しみじみと口にした感謝の言葉とともに頭を下げたミリアにゃん。再び上げた顔のほおには一筋の雫が伝っていたのにゃ。
身につまされる思い……にウチの心がゆれたのはいうまでもにゃい。
(ウチにゃって、もうひとりぽっちはこりごりにゃもの)
ともあれ、いつまでも再会を喜んではいられにゃい。
「イオラは朝からお出かけだわん」
天空の村でも一番安全とされるイオラの森。そのイオラの森で一番安心出来る場所とされていたのが、守護神が宿るイオラの木が生えている湖の広場にゃ。にもかかわらずにゃ。こんにゃ事態が起こってしまった。『責任者はどこにゃん?』という話が持ち上がるのは自然の成り行きにゃ。
実は今朝、ウチが起きた時にはもう居にゃかったのにゃ。とにゃれば、行く先を知っているのはミーにゃんのみ。質問が集中するのは当たり前のことにゃ。
「で、どこへ行ったの? 素直に白状なさい。もうネタは上がっているのよ」
(あんた、誰にゃん?)
ミストにゃんの、いつもとおんにゃじ腕を組みにゃがらの質問……じゃにゃいにゃ。今の今についていえば、詰問にゃ。あともう少しでキス出来るくらい、ミストにゃんの顔がミーにゃんの顔へと近づいているのにゃん。
「ミストにゃん。ネタが上がっているのにゃら、聞かにゃくてもいいんじゃにゃいの?」
そう声をかけたら、ぎりぎりのところで、
「あら、やだ。わたしったら、いつの間に」といって、ミストにゃんの顔が、くるっ、と、こちらへ。
「気分を盛り上げようとしていってみただけ。意味はないわ」
見れば、右手を当てたほおが、ぽっ、と赤らんでいるのにゃ。
「にゃにを照れているのにゃん?」
「気にしないで。我を忘れていただけ」
返事で『気にしないで』といわれたら、話の打ち切りを宣告されたようにゃもの。そもそもミストにゃん相手にいつまでもツッコミとボケを繰り返したって、イオラにゃんの行方にゃんて判るはずがにゃい。にゃもんで再びミーにゃんに問い質してみたところにゃ。
「イオラが出がけに教えてくれたのはね。
『これから、ちょっと寄り合いがあるの。行ってくるわね』
とまぁこれだけ。で、それっきり。まだ帰ってこないわん」
「そういえば、ウチらがひと休みしていた時にも顔を出さにゃかったものにゃあ」
(とほほ。まさかにゃあ。イオラにゃんが不在の時にこんにゃことににゃるにゃんて)
ウチらもそろそろ行動を起こさねば、ってことで、先ずはミムカにゃんが。多様型の能力を発揮にゃ。ネコ型から透明にゃ、ぐにゃぐにゃっ、とした姿を経て、翅人型へと変化したのにゃ。
髪は黄色でどの髪先も、『癖毛にゃの?』って聞きたいくらいハネている。横髪も後ろ髪も、耳の高さよりは下と、ミーにゃんよりは長いのにゃ。身体はネコ型の時とおんにゃじ白地に黒の縞模様。でもにゃ。霊服と翅は逆に黒地に白の帯が走っているのにゃ。
ぱたぱたと羽ばたきにゃがら、いざ上空へ。とはいってもにゃ。呼べば声が届くくらいの高さにゃ。目の直ぐ上辺りへ水平にした右手を当てつつ、きょろきょろと。
ミムカにゃんに釣られて、ってわけでもにゃいのにゃけれども、まにゃウチもここがどういうところか判っていにゃい。にゃもんでおんにゃじように、きょろきょろと。
(ふぅぅん。こんにゃところに引きずり込まれたのにゃん)
にゃんとも変てこりんにゃ空間にゃ。見上げてみれば、透き通るようにゃ真っ青にゃ空と、いつも見ている眺めと変わらじ。にゃのに、視線を下げていっても白っぽくにゃっていくにゃけで、にゃに一つ目にすることが出来にゃい。周りにゃってそう。湖も、さっきまで寝転んでいた大岩も。野原も、広場を囲むように群生している樹木もにゃ。足元に拡がる地面すらおかしい。青緑色で、まるで湖の上を歩いているといった感じにゃん。
(ふわふわっ、と柔らかにゃ感じで悪くはにゃいにゃあ)
『奇妙奇天烈』と首を傾げているところへ、上空からミムカにゃんの言葉が。
「うぅぅん。本当になんにもありませんですねぇ」
ぼやきともとれる声にゃ。顔は、と見上げてみれば明らかに不満そう。それでも一途の望みをもって、みたいにゃ感じでウチらからそれほど遠くにゃい上空をぐるぐると旋回。こちらとしてもにゃにが出来るというわけでもにゃい。目を回さにゃいように、と自分に注意しにゃがら、お空の友にゃちをじっと見守っていたのにゃん。
しばらくすると、ミムカにゃんは下りてきた。肩を落とした姿と影を落とした顔の表情が、思うようにゃ成果が上げられにゃかったことを暗に物語る。要するににゃ。がっかりとしていたのにゃん。『まぁ、そんなに気落ちしないでも』と近づいてきたミリアにゃんを吹き飛ばしかねにゃいくらいの、『ふはあぁっ!』と大きにゃため息を突いたあとに口から洩れた言葉が。
「それで、これからどうしますですかぁ?」
誰ともにゃしに声をかけている。こういう場合、仲間を引っ張っていく存在の者が、たとえ明確ではにゃくとも一応の答えは返さねばにゃらにゃいのはいうまでもにゃい。でもってミーにゃん同盟のリーダーは、いわずとしれたウチの親友。今こそ出番にゃ。
ところがにゃ。
「ふにゃ? ミーにゃん?」
さっそうと飛び出してくる気配が全くにゃい。いや、それどころか、周りを見回してもどこにも居にゃい。
(どうしたのにゃろう)
すりすり。すりすり。
ウチは今、『前足を、ぴん、と立て、後ろ足は膝を屈して』の格好。にゃにかが背中に寄りかかっている。そんにゃ感覚を覚えたのにゃ。にゃもんで顔をそちらへと向けてみたところにゃ。
「ミーにゃん。どうしてウチの後ろに隠れているのにゃん?」
「しぃっ」
ミーにゃんは立てたネコ差し指を口元に当てたあと、小さにゃ声で返事をしたのにゃ。
「決まっているわん。こうしているとね。ミムカの目も声も、ほら、アタシに直接ぶつかってこないじゃない」
「…………にゃあるほろ。そういうことにゃん」
ミムカにゃんには自分の姿が見えにゃい。ということはにゃ。自分に対して喋っているわけではにゃい。にゃら答える責任はこれっぽっちもにゃい。この三段論法的にゃ考えにて責任回避を狙っているみたいにゃのにゃ。ところが敵も然る者。ミムカにゃんは音もにゃく飛んできたのにゃ。『どうするつもりにゃ?』と思っていたら、ウチの肩に両手を置くと、上から、そぉっ、とみたいにゃ感じに覗き込む。ミムカにゃんとミーにゃんは、にらめっこをするかの如く、顔を見合わせることに。
「あはっ」とミムカにゃんが笑顔を見せれば、ミーにゃんも「えへっ」。
「で、どうしますですかぁ? ミーナ」
(おおっ。ミムカにゃんのターゲットはミーにゃんに絞られてしまったのにゃん)
にっちもさっちもいかにゃい。もう万事休す。ミーにゃんの顔色から伺える心のうちにゃ。これでは、『もはや、これまで』と観念するのも時間の問題、と思いきや、どうしてどうして。ウチの親友もにゃかにゃかの曲者にゃん。『うっ』と口を噤んで目を瞑ったのは束の間。ぱっと見開くや否や、にこやかにゃ顔とにゃった口から零れた言葉は。
「そうねぇ。ミリアんはどう思うわん?」
(出たぁっ! ミーにゃんお得意の責任転嫁にゃん)
あまりにも鮮やかにゃ切り返し、手際の良さに、思わず拍手をしそうににゃったくらいにゃ。この見事にゃ返し技が効を奏したのにゃろう。みんにゃの視線もミーにゃんからミリアにゃんへと注がれる。
「私に聞かれてもですねぇ……」
問われた瞬間こそは、身体をびくっ、とさせ、そのあとも戸惑っている感じではあったのにゃ。でもにゃ。にゃにを考えたのか、やがて無関心を装うかのようにゃ表情とにゃって静かに目を瞑ったのにゃ。
(にゃあんかイヤにゃ予感が)
的中したのにゃ。ぱっと見開いた瞳。そしてほぼ同時に開いた口からは。
「そうですねぇ。ミクリさんは、どう思います?」
(にゃ、にゃんと! ミーにゃんの真似っこにゃん!
こともあろうに、こんにゃ掟破りの秘技を繰り出すにゃんて!)
おおぅっ!
他の仲間からも『感嘆』ととれる、まなざしと叫びが。
(まさか、ミリアにゃんまでやるとはにゃあ)
みんにゃの視線の先がまたまた変わる。すかさず、ミクリにゃんは。
「だってさ。どうするミスト君」
(これまた、にゃんとも自然にゃバトンタッチにゃん)
ここまで来ると、お次は、と期待したくもにゃる。他のみんにゃも『どう出るのか?』に興味深々のようで、誰もが目を、らんらん、と輝かせているのにゃ。
そんにゃ中でもミストにゃんは慌てず騒がず……。
(ま、まずいにゃん!)
ここでウチの額から冷や汗が、たらぁりぃ。ミストにゃんがこちらを向いたのにゃ。
(このままでいくと今度はウチが。でもどうしたら)
焦るウチをよそに、ミストにゃんが放った言葉は。
「なにかいい情報はないの? ミロネ」
(ほっ)
フェイントにゃ。実はウチの後ろを見ていたのにゃん。
(にしても、ミストにゃんも他力本願にゃ。セリフもさっきとおんにゃじにゃし)
そう思ったのにゃけれども、口には出さにゃかった。どうして? にゃんて問うまでもにゃい。ウチが尋ねられたとしてもにゃ。間違いにゃくミロネにゃんに話を振るに違いにゃいもの。わけの判らにゃいことはミロネにゃんへ。これはウチらの常識にゃ。
そして期待のミロネにゃんは、といえばにゃ。
「なんてことだ。これじゃあ、ミロネの名が泣くぞ」
両手で頭を抱えて顔を真っ赤にしている。
「なにが、『消滅してしまったかもしれない』だ。
ミリア殿が全てのスバルから見えなくなった時点で、直ぐに気がつくべきだったんだ」
スバルとは観測点のこと。村中、至るところに配置されている保守空間の『目』にゃ。
自己嫌悪、みたいなこの呟きに、ミストにゃんが、はっ! とした表情を。
「ミロネ! マザーから答えが届いたのね!」
天空の村は、多くの霊体が棲む、空に浮かぶ孤島にゃ。霊力の源である地霊『ガムラ』を筆頭に、イオラの木に宿る『イオラ』。天空の村そのものを身体とする『ヴィーナス』。天外魔境を管理する『フィーネ』。かつて村に棲んでいたとされる森の精霊の長で、今は銀甲虫らに身を宿している『銀霊』。そして……ウチらの友であるミロネにゃんの本体で、天空の村を観測・監視する保守空間『マザー・ミロネ』。
中でもこれら六大精霊は『神霊』と呼ばれ、実体霊体問わず、森に生きる全ての者たちに敬われ、慕われている存在にゃのにゃん。
ミロネにゃんの口にした一言は、思いがけにゃいものにゃった。
「今、『天空の村』の六大精霊は全て地霊ガムラ殿の元へと集まられている。
もちろん、マザーも、イオラ殿もおられる」
「にゃ、にゃんと!」「どういうことわん!」「なにかあったんだね」
「イヤな予感がするわ」「非常事態でありまぁす」
動揺するミーにゃん同盟の面々で唯一、平静さを保っているのがミリアにゃん。右手の親指とネコ差し指の股にあごを当てにゃがらの重々しく発した言葉。それはにゃ。
「ひょっとして……、美味しい飲み物でも手に入ったのでしょうか?」
(あのにゃあ。……いや、待つのにゃ)
ミリアにゃんの言葉をきっかけに、ウチらの間で異様にゃ盛り上がりが。『いや、美味しいとくれば食べ物にゃんよ』『違うわん。新しい遊びを思いついたのに決まっているわん』『新しい精霊の誕生に違いありませんです』にゃどの異にゃる意見が続出。それぞれが自分の説の正しさを主張し始めたのにゃ。にゃもんで、果たしてどれにゃん? とミロネにゃんに尋ねたところにゃ。お祭り気分のこの場にそぐわにゃい、苛立ちのこもったようにゃ言葉で話を続けたのにゃん。
「悔しいが、本来であればこちらへも伝えてしかるべき情報をマザーは故意に抑えていたようだ。もちろん、リンクが切れていたことも重なってはいるが……ちっ」
舌打ちの音が聞こえる。顔は無表情なものの、相当、頭に来ているみたいにゃ。
「今の今になってようやく判った。招集をかけたのはマザーだ。レミロを介して、大精霊殿たちにガムラ殿の元へ来るよう、要請した。黙っていたのは発生した事態があまりにも微妙な問題を含んでいたからだ。運の悪いことに、どうやらオレたちも、それの巻き添えを食ってしまったらしい」
(巻き添え? 気ににゃる言葉にゃ。でもまぁ今はそれよりも)
「にゃあ、ミロネにゃん。一体ここはどういうとこにゃのにゃん?」
ウチらを悩ます問題。ミロネにゃんはこともにゃげに教えてくれたのにゃ。
「狭界だよ」
「狭界? にゃんにゃのにゃ? それって」
「まっ。簡単にいえば、境目に存在する特殊な空間だ」
にゃんぼにゃんでも説明の省略しすぎにゃ。にゃもんで、『もっと詳しく判りやすく』と注文をつけたところにゃ。『オレに残っている記憶に頼るしかないので、はなはだ心もとないのだが』と前置きして……。
天空の村のありとあらゆるところに『狭界』は存在するという。空域と地域、空域と水域、地域と水域の間はもとより、地域と地域などのおんにゃじ区域の間も。岩と岩、物と物の間すらも。『時の狭間』といわれる空間でさえもそうした狭界の一つとのことにゃ。
……とまぁ大ざっぱにいえば、こんにゃ内容にゃったとネコ頭では理解しているのにゃ。
「すると、ここは?」
「湖『彩花』と空との間にある狭界さ。水面を見つめた時、一瞬でも気を、霊気を集中させたはずだ。そこを、がしっ、とつかまえられ、身体ごと引きずり込まれたってわけだ」
「どうしてそんにゃことに?」
「歪みだよ。貴殿たちも知っての通り、天空の村は全域に渡って、地霊ガムラの霊力に満ちている。ところがだ。何百年も経つと、空、地、水、などの各区域が溜め込んでいる霊力に偏りが生じてくる。この偏りを一番影響受けるのが、各区域の干渉地点である狭界だ。本来であれば、実空間と狭界の間には極めて強い霊力の隔壁があって、出入りなど到底出来ない。ところが偏りが大きくなればなるほど、狭界内の歪みも大きくなり、延いては隔壁をもろくしてしまう原因へと繋がる。ある程度の霊力を持つ者であれば、容易に中へ入れる状況を造り出してしまうというわけだ」
「でもにゃ。ウチは別に入りたくて入ったのじゃにゃいのにゃけれども」
「狭界の自己防衛本能が働いた為、とオレは見ている」
「自己防衛本能?」
「今いった歪みが限界値まで達したら、どうなると思う? 狭界が崩壊する。
マザーミロネのように高いレベルではないが、ここもまた空間精霊の内部なのは間違いない。ということはだ。意志と呼べるほどのものがあるかどうかはともかく、本能ぐらいならば持ち合わせているはず。自分が壊れていくのを放って置くようなことはしない。少しでも多くの霊力を取り込み、歪みを最小限に抑えようとする」
「にゃらウチらがここに閉じ込められたのは」
「霊力を得る為に他ならない、とオレは見ている。恐らくこの動きは他の狭界でも起こっている。オレたちのような被害者が増えているはずだ」
と、ここでミムカにゃんが息巻くようにゃ感じで口を挟んできたのにゃ。
「悪い奴ってことでありますですかぁ?」
「違う。ミムカ殿。良い悪いじゃない。自分が生き残ろうと必死なだけだ」
この答えにミムカにゃんは明らかに不満そうにゃ。膨れっ面とにゃっているもの。
ミクリにゃんにしても、おんにゃじとみえてにゃ。
「悪かろうとなかろうと、ボクたちがこんな目に遭っているのは紛れもない事実だけどねぇ。……まぁいいや。それじゃあ、被害者を救済するのが目的で大精霊様たちは集められたわけだ。早い話が、『狭界をこらしめちゃおう!』ってさ」
「それも違う。大精霊殿たちは狭界をどうこうするつもりはない。今、問題なのは歪みだ。本当に狭界を壊すほどの大きさになってしまったとしたら……、霊力バランスが一気に崩れる。『天空の村』という孤島が、空に浮かんでいられるのも、外部からの衝撃に耐え得る霊波の見えない壁に覆われているのも、全てガムラの霊力に依るものだ。霊力の伝達に異常をきたせば、安定した飛行も防壁も保てなくなる。結果、孤島は毒ガスの雲海へ、つまり、地獄へと墜ちることになる。そしてそのあとは……防壁に依る守りがないかぎり、惑星ウォーレスの地上に下りることなく、ぼろぼろになって跡形もなく消え去る。
とまぁそんな悲劇の結末が待っているわけだ」
「そんにゃあ……」
ウチは唖然とするしかにゃい。
「断じてあってはならないことだ。だからこそ、マザーは大精霊殿たちに集まってもらったのだ。それぞれのお務めを一時中断してでも、歪みを抑えることに尽力するよう、お願いする為だ」
「で、結果はどうにゃったのにゃん?」
「全員一致だ。願いは聞き入れられた。既に行動を起こしているとのことだ」
(願いは聞き入れられた……か。にゃるほどぉ)
この言葉からして、マザーミロネにゃんが六大精霊の中でどの辺りの地位を占めているのか、おおよその見当がつくというものにゃ。
「まぁそれにゃら……。ああでも、ウチらはどうにゃるのにゃん?」
「歪みが正常値にまで戻れば、狭界は安心する。結果、オレたちのような被害者は解放される。大精霊たちも元のお務めに戻れる。マザーはそう考えている」
(果たしてそう上手くいくのにゃろうか?)
ウチにゃけじゃにゃいらしい。ミクリにゃんも半信半疑のようにゃ顔にゃ。
「一件落着。めでたし、めでたし、ってわけだ。
本当に狭界がいい奴で、本当にそうなればね」
冷やかすようにゃ口調からも、それが感じられる。でもにゃ。ミロネにゃんは至ってマジメにゃ。『マザーはそう考えている』にゃら、ミロネにゃんも本気でそう思っているのか。あるいは、そう思いたいのか。どちらかは判らにゃいのにゃけれども。
「『悠久の昔から存在していることを鑑みれば、生まれながらの悪意を持った精霊ではない』。これがガムラを始めとする、六大精霊の一致した意見だ。ただ……、
『心ないし、心に近いものがあるならば、魔が射すこともないとはいえない』との意見もまた一致している」
「こりゃあまた、どっちつかずのご意見だなぁ。
魔が射す、かぁ。うん、間違いない。ボクたち自身がいい見本だものねぇ。
……にしてもだよ。ミロネ君。こうなる前にもっと早く行動を起こせなかったのかい?
保守空間だ、なんて威張っている割には、やっていることが後手後手に回っているような気がするんだけどさぁ」
「…………」
急にミロネにゃんが黙り込む。顔を見れば、ミクリにゃんを見つめているのにゃ。睨む、といった強い視線じゃにゃい。たにゃ見つめている。でもにゃ。にゃにを思っているのか、判らにゃい目にゃ。周りが、しぃぃん、とする。緊張感らしきものが漂う中、しばしの間、空白の時が流れたのにゃ。そしてそのあとに。
「ミクリ殿。威張った覚えは更々ないが?」
決して突っかかるようにゃ物言いではにゃい。いつものように、たんたんと喋ってはいるのにゃ。でもにゃ。綺麗で無表情というのは、見方次第で、冷たい表情ともとれるのにゃ。裏に怒りを隠しているのでは、と勘ぐれば尚更、その感を強くするというもの。にゃもんで、にゃんとにゃく怖いのにゃん。ミクリにゃんも臆したとみえ、
「まぁまぁ。これは言葉のアヤって奴さ。気に障ったらごめん」と素直に詫びたのにゃ。
ミロネにゃんは首を横に振ったあと、
「いや、確認しただけだ。謝る必要はない』といって、話を続けたのにゃ。
「貴殿のいう通り、事態の把握に時間がかかったのは紛れもない事実だ。しかし、未知なるものが相手となれば、それもまたやむを得ない」
「未知なるもの、って、大昔から存在しているんじゃないの?」
「未知なるものには二つある。一つは新しいがゆえに未知なもの。もう一つは古すぎるがゆえに未知なもの、だ。今回は後者に当たる。保守空間は天空の村が出来てから生まれた。しかしながら、狭界は、村が『天空の村』となる前、時をさかのぼれば、惑星ウォーレスが生まれた時からあるとのことだ。知っていたのは、ガムラ殿とイオラ殿だけ。しかも、お二方のいずれもが、『仔細は承知せず』とのことだ。これらを鑑みるに、『未知なるもの』との評価を下しても、必ずしも不合理とはいえないと思うが?」
話をしているうちに幾らか表情が和らいにゃようにみえる。みんにゃも気がついたのにゃろう、どの顔にも、ほっ、と安堵の表情が。ウチとしてもおんにゃじ気分にゃ。
「そんなに昔っからぁ? じゃあしょうがないかぁ……。
それでさぁ。歪みのほうは大精霊様に任せるとして。ミロネ君。ボクたちはどうすればいい? 聞けば、向こうは当分、歪みの是正に傾注するっていうじゃないか。それが仮に上手くいって、狭界が開放する気になったとしてもだよ。ボクたちが無事にここから脱出出来るまでには、かなりの時間がかかるはずだ。正直いって、こんなところにいつまでも居なきゃならないなんて、まっぴらだよ。出来ることなら今直ぐにでも出ていきたいんだ」
「そうですよぉ。どうやったら出られますですかぁ?」
(そう。そこにゃのにゃよ。一番知りたいのは)
ミクリにゃんに続いてミムカにゃんが喋ったのは、恐らくウチら全員の思いにゃ。
でもって、みんにゃが固唾を呑んで待っていたミロネにゃんの返事は、というとにゃ。
「マザーとレミロは歪みをなんとかするのに大わらわで、とてもこちらまでは手が回らない。それは取りも直さず、『早く出ていきたいなら、自分たちで抜け道を探るしか手はない』ことを意味する。マザーからも、『リンクが不確かだから、自分たちとは別行動をとってくれて構わない』とまぁそんな内容の言葉をもらった。
実はオレに幾つか考えがあるんだ。幸いなことに、湖の広場付近には、とうの昔からスバルが配備されている。扱う許可もレミロから得ているから、応答がとれた時点で既に指示は出した。どの方法ならば上手くいくか、今、全力で調べている最中のはずだ」
「とすると、直ぐには」
ミクリにゃんが喋った言葉のあとを引きとる形でミロネにゃんは答えたのにゃ。
「出られない。というか、本当にここから出る方法が見つかるのか、それすらも判らないんだ。ましてや『いつ頃ぐらいなら』なんて予想は、とてもじゃないが出来っこない。
それにだ。誠にいいにくいことだが……、恐らくリンクが切れたのだろう。マザーからの連絡がまた途絶えた。依って今の時点でいえるのは、『調べている』。これだけだ」
話を耳にしても、にゃにをどうしていいのかさっぱり判らにゃい。といってじっとしていても、というわけでみんにゃがみんにゃ、右往左往し始めたのにゃん。
「ああっ、と。それから」
ぴたあっ!
申し合わせたかの如く、一斉にみんにゃの動きがとまる。視線の先も一緒にゃ。ネコ型の銀目……青色にゃ……が、翅人型の浅緑色の目ん玉が、ミロネにゃんへと注がれている。
「どうでもいいことだが……、今も話したように狭界はどこにでもある。でもって、一つの狭界は一つの意志を持つ。これらの意志を総称してこういうらしい。
『メノオラ』と」
「あにょぉ……、それにゃけ?」
「ああ、それだけだ」
本当にどうでもいいことにゃった。
(名前が判ってもにゃあ)
がっくり。
再びみんにゃは意味もにゃく右往左往し始めたのにゃん。
でもってウチは、というとにゃ。
「きゃははは! モォワアァン!
ほらほらぁ。アタシを早くつかまえないと、どっかへ行っちゃうわぁん!」
「にゃははは! 待つのにゃあ、ミーにゃあぁん!」
思いっ切りジャンプすれば届きそうにゃ高さで誘ってくる親友相手に、頭を空っぽにしての追い駆けっこにゃ。『前足を振るっては逃げられ』の繰り返しにゃのにゃけれども、狩猟本能を呼び覚ますのか、ネコじゃらしよりも面白いのにゃん。
(全くもってミーにゃんはネコを遊ばせるのが上手いにゃあ。
ああでもこれって……現実逃避? ……まぁいいにゃん。ネコにゃもん)