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第五話『そして誰も居にゃくにゃってしまったのにゃん!』

 第五話『そして誰も居にゃくにゃってしまったのにゃん!』


 良くある表現で大変申しわけにゃいのにゃけれども……、

 あれから数日が過ぎたのにゃ。

 戦士の休息。『湖の広場』には名前の通り、広場の半分強くらいを湖『彩花さいか』が占めているのにゃ。この湖を囲むが如く、ほとりには黒色と灰色が入り混じったようにゃ大岩が並んで鎮座している。ミーにゃん同盟の仲間らは今、ひとりひとりが、それぞれ違う岩の上に陣取っていて思い思いの格好で寛いでいるところにゃ。

 不意に、といういい回しがぴったしのタイミングで、友にゃちのひとりが、ごろ寝のまま、ぼやき始めたのにゃん。

「ダァメだぁ。ボクのところはもちろん、他のナワバリに棲む連中にも声をかけてみたんだけどさぁ。これがまた……ふぅ……全然なんだよ」

 ミクリにゃんは地の妖精。棲み家は遊びの広場にある沼底の真下。深い地中にゃん。

「ウチもミーにゃんとにゃ。ここを徹底的に捜してはみたのにゃけれども」

「どっこにも居ないわん。もっとも、そんな簡単に見つかるんだったら、こんな大騒ぎなことにはなっていないんだけどね」

「彩花の中も捜してみたのにゃ。主と呼ばれる大魚のパロンにゃんに頼んで、お魚さんらにも協力してもらったのにゃけれども……ふぅ。

 あいにくと見つからずにゃ。骨折り損のくたびれ儲けで終わってしまったにゃんよ」

「まっ、そうだろうね。やれやれ。ボクとミアン君たちは空振りか。

 ミムカ君、ミスト君。樹海の森のほうはどうだい?」

 微かにゃ望みを抱いて、みたいにゃ感じで他の仲間にも水が向けられたのにゃ。

 でもにゃ。指名されたどちらも浮かにゃい顔にゃん。

「こちらも成果はなに一つありませんですよ。ミリアが棲んでいる果物園とかお隣の薬園とか、いろいろと捜してはみましたですけどぉ。

 あっ、そうそう。温泉の森にも行ってみましたですよ。相変わらずのいいお湯でしたけど、こちらにも居ませんでした」

 さすがは自称『森の妖精』にゃん。幅広く捜してくれて有り難い……のにゃけれども。

(でもにゃあ)

「温泉に浸かったの? 調査中なのに」

 期待した通りにゃん。非難めいた目つきと口調でミストにゃんが早速ツッコミを。

「イヤですよ。捜索を一通り終えてからでありまぁす」

 今のミムカにゃんは翅人型の姿。『誤解しないで』とでもいうかの如く、両手のひらを相手にかざして盛んに振っているところにゃんか、ちょっと慌てているようで見ててにゃかにゃか面白いのにゃん。

「まぁそれなら、仕方がないわね」

 ミストにゃんの顔に納得したようにゃ表情が浮かぶ。でもって、

「じゃあ、お次はわたしの番かしら」

 そういって自分の棲み家での報告を始めたのにゃん。

「こっちも同じよ。大体あの子が、年柄年中、霊水の霧が立ち込めている霧の園なんかに来るはずがないわ」

「それもそうだね。というわけで」

 ミクリにゃんは今、ネコ人型モードにゃ。岩に右腕の肘を突いて頭には手を当てて、の格好で身体を横たえている。視線を自分の頭よりも前にある大岩へ。精神を統一するかの如く目を閉じて、あぐらをかいているミロネにゃんに声をかけたのにゃ。

「君の報告が最後の希望ってことになるんだけど……、

 どうだった? ミロネ君」


(ミロネにゃんかぁ……)

 天空の村にはにゃ。『空間精霊』と呼ばれる特異にゃ精霊が居るのにゃん。

 文字通り、空間自体が精霊という、にゃんとも判りにくい存在で、外界から閉ざされたところにその身を置いている。『マザーミロネ』にゃんもそのひとりにゃ。村の観測・監視を担っていることから、『保守空間』との名がついているのにゃん。

 お務めは見かけ上、保守空間の内と外でそれぞれひとりが果たしている。空間内に居るのは、レミロにゃん。正式名称はレディ・ミロネにゃ。直接、空間を操作することで保守に当たっている。でもって外に出ているのは、いわずとしれたウチらの友にゃち、ミロネにゃん。霊覚をフルに発揮、自分の身体を張った体当たりの保守を敢行しているのにゃ。

 見かけ上、というのは、実はどちらもマザー・ミロネにゃんの影、影霊にゃのにゃん。つまり、実際にやっているのは、マザーミロネにゃんひとりにゃけ。それでも影霊らと役割分担する形をとったこと、交互に作業のチェックが出来るようににゃったことで、負担もミスを犯す割合も格段に減ったという。にゃもんで、これからもこの体制でいくつもりとのことにゃ。

 影霊らは常にマザーミロネにゃんとリンクしている。マザーミロネにゃんを介して自分らもリンクしている。でもにゃ。たまぁに途切れることもあるというのにゃ。影とはいっても、それぞれが『おのれ』という個も加えられているので、そんにゃ事態とにゃっても、単独で動けることは動けるみたいにゃ。でもにゃ。『ただし、アホで力なしになる』とはミロネにゃん自身の言葉。もっとも、『アホで力なし』のミロネにゃんに出逢ったからこそ、ウチとミーにゃんは友にゃちににゃったのにゃ。

(ぶふっ。類は友を呼ぶのにゃん)


 ミロネにゃんは目を開くと、軽く睨むといった感じの視線をミクリにゃんに浴びせたのにゃ。心にゃしか、むっ、としているようにも感じられる。ひょっとすると、マザーとの通信の途中にゃったのかもしれにゃい。

「判っているとは思うが、マザーにはオレが、いや、違うな。マザー自身が許可しないかぎり、誰も入ることは出来ない」

「知っているよ、そんなの。ボクが聞いているのは調査結果さ。

 ねぇ。再調査はしてみたんだろう?」

「新しい報告は来ていない。さっきと同じ。『見つからない』ということだ」

「相も変わらずそっけない、いい方だねぇ」

 ミクリにゃんの評価を受けて、話し相手の冷静にゃ顔に『困ったなぁ』と戸惑うようにゃ表情が浮かび上がる。少しばかり可愛げのある親しみやすい感じとにゃったのにゃ。

「そうか……。済まない。自分では良く判らないんだ」

「いや、謝る必要はないんだけどね。ふぅ。やっぱダメかぁ」

 落胆、ともとれる声にゃ。『観念したよ』といわんばかりにミクリにゃんは目を瞑る。他のみんにゃもおんにゃじ気持ちにゃのにゃろう。聞こえるのは、湖のせせらぎのみ、とにゃってしまったのにゃん。


 みんにゃがみんにゃ、ごろん、と身体を横たえ、目を瞑ってひと休みにゃ。『それにゃらウチも』と、目を瞑ろうとした。するとにゃ。ミーにゃんが、ぱたぱたと忙しげに翅を羽ばたかせにゃがら飛んできて、蹲っているウチの横っ腹に背中を預けたのにゃ。

(にゃにか話したいことでもあるのにゃろうか)

 そう思っていたらウチの親友は、『ねぇ、モワン』といったあとに、続けて『はぁう』と大きにゃため息を。

(生まれてから何百年も経つとはいえ……、まにゃ幼児期真っ盛りのミーにゃんにため息にゃんか突かせてもいいのにゃろうか)

 そう思いつつ、声をかけてみる。

「どうしたのにゃん?」

「こんなに捜し回ったのに見つからないなんて。……まさか、本当に」

「これこれ、ミーにゃん。そんにゃ不吉にゃことをいってはいけにゃいのにゃよぉ」

「いいたくなんかないわん。でも、現実に」

「どこを探しても居にゃい……か。困ったものにゃ、本当に」

「これからどうするわん?」

「取り敢えずは、休もうにゃん。

 にゃんにせよ、こういう捜索って精神的にかにゃりこたえるものがあるしにゃ」

「ねぇ、ちょっと聞いていい?」

 いつににゃくためらいがちに尋ねるミーにゃん。もちろん、ウチはうなずく。

「にゃんでも」

「モワンって、普通のネコだった頃のことを覚えているんでしょ? 実体のある生き物って、どうなの? こういう時って。疲れ方が違うわん?」

「急にいわれてもにゃ……。行方不明の誰かを捜すっていう状況に追い込まれたことがにゃかったから、にゃんともいえにゃいにゃあ」

「同じケースじゃなくても構わないわん。たとえば……、うぅぅん。ちょっと思いつかないなぁ。まぁ、漠然としたいい方になっちゃうけど、とにかくぅっ、なにか災難に巻き込まれて、どんなにもがいてもどうにもならない場合、とかよ」

「それにゃら」

 自分の経験を喋ることにしたのにゃ。

「ウチは人間の家庭の中で生まれたのにゃよ」

「飼いネコだったのよね。両親もそうだったんでしょ?」

「野良ネコに較べれば、恵まれた環境にゃった。にゅくにゅくとにゃんの苦労もにゃく育ったのにゃから。ところがにゃ」

「飼い主の人間が流行り病に倒れ、モワンたち親子は路頭に迷った。ごみ箱を漁っては口に出来る物を手当たり次第、食べていた。そんな生活を続けていたのよね」

「今から考えれば、どこでもいいから早く森の中へと飛び込めば良かったのにゃ。

 どの森ににゃって、それにゃりに食べる物があったのにゃもん」

 天空の村のほとんどは森。主にゃ森としては、『自由の森』『アーガの森』『フーレの森』『銀光虫の森』。そして……ここ『イオラの森』の五つにゃ。人間の区域は『自由の森』の一角にすぎず、少し歩くにゃけで出られたのにゃ。

「でも、生まれた時から人間の居住区を、ずぅっ、と棲み家としていたのは、モワンの両親も同じ。だから、そんなことに考えも及ばなかった」

「いや、考えたことは考えたと思うのにゃ」

「そうなの? じゃあどうして?」

「ほら、良くいうじゃにゃいか。ネコは人間にじゃにゃくて場所に居着くって。長年棲み慣れた場所から離れることがどうしても出来にゃかったのにゃよ。人が居にゃくにゃって空き家とにゃっても、そこを寝床にしていたのにゃ」

「生きていけるとは思ったのよね。ところが」

「人間の病が染ったのか、はたまた漁った食べ物が空気中に晒されていたことで汚染されていたのか。理由は判らにゃいのにゃけれども、両親もウチも次第に身体が弱ってきたのにゃ。年のせいや食べた量が多かったせいもあるのにゃろう。先ずは両親が亡くにゃって、それから」

「モワンも歩くのがやっとの身体になった。でも、誰がなにをしてくれるでもない。動かない左の後ろ足一本を引きずりながら歩いて歩いて歩いた挙句、なんとか人間の区域から抜け出られた。……それなのに」

「ウチは息絶えたのにゃ。『自由の森』の木の実がたんと生っている樹木の下で」

「『もっと食べ物を』っていい残して、だったのよね?」

「肉体から分離する際、しかばねとにゃった自分を眺めたようにゃ気がするのにゃ。多分、霊体ににゃったのにゃと思う。空を飛んでいる、と気がついたウチは木の実をつかもうとしたのにゃ。ところが、幾ら触ろうとしても触れにゃい。目の前にあるのにもかかわらずにゃ。霊体の身体では、形ある物がつかめにゃいことを痛感した。それでも諦めにゃかった。ウチは捜し回ったのにゃ。必ず、今のウチでも食べられる物があるはずにゃと」

「だけど……」

 それ以上、言葉を口にはしにゃかった。いや、出来にゃかったといったほうが正しいかも。常日頃は、わがままし放題の性格を前面に押し出しているミーにゃん。でも本当は心優しい妖精にゃのにゃ。さすがはイオラにゃんの一粒種と思えるぐらい。潤んでいる瞳の輝きもそれを証明している。ウチがミーにゃんの親友で居るのも、居たいと願うのもそれが理由にゃん。

「そう。長くは続かにゃかったのにゃ。霊体の姿が消え始め、意識までも遠のき出した。ウチはどんにゃ形であれ、生きることに執着していたのにゃと思う。最後の最後まで『ウチは死にゃにゃい! このまま死んでたまるかにゃん!』と思った記憶が今も残っているのにゃ。やがて目の前が真っ白とにゃって、にゃんにも考えられにゃくにゃった頃にゃ。緑色の暖かにゃ光が射したのにゃ。『成仏』の瞬間、と早合点したのにゃけれども、でも違ったのにゃ」

「イオラとの初めての出逢い、だったのよね」

「そうにゃ。ウチはいつの間にか、ここイオラの森の中に入っていたのにゃ。そしてイオラにゃんと巡り逢うことが出来た。ウチが化け猫として生まれ変われたのも、こうしてミーにゃんと居られるのも、全てはイオラにゃんのおかげ。感謝しているのにゃ」

「アタシもよ。だって、モワンと親友になれたんだもの。

 同じ棲み家でさぁ、一緒に暮らせるんだもの」

(嬉しい言葉にゃん。……ああでもにゃあ)

「ミーにゃん。何度も繰り返すのにゃけれども、ウチはミアンにゃ」

「どっちでもいいわん」

「どっちでも良くはにゃいのにゃよ。名前にゃのにゃ。ちゃんと覚えて欲しいのにゃん」

「そんなにいわなくったって……判ったわん。近いうちになんとかするわん」

(はて?)

「『近いうちに』とか、『なんとかする』って、どういう意味にゃん?」

「んもう。これから考えるってこと。

 それで? 今の話とアタシが質問した『疲れ方の違い』とどういう関係があるわん?」

「居場所を求めてさまよっている間にゃ。どうしたらいいのにゃろう、って先ずは精神的に追い詰められて、自然と足早ににゃって、にゃのに歩いても歩いてもゴールが見えにゃくって、へとへとに身体が疲れて動けにゃくにゃって。そしてついには……希望の光を見失い、心が闇に閉ざされた。そんにゃ感じにゃったと思うのにゃ」

「ふうぅん。身体と精神の両方かぁ。ねぇ、実体と霊体ってどっちが大変かなぁ」

「実体ある者は身体と心で自分を支える。一方、霊体は心のみで自分を支える。とはいってもにゃ。心の強さは生き物それぞれ。身体があったからといって、それが為に心が弱くにゃることにゃってあるはず。一概にこうとは、いえにゃいと思うのにゃん」

 ちょっとミーにゃんには小難しい話とにゃってしまったかもしれにゃい。それが証拠に、

「なぁんか聞いていたら、余計、疲れちゃったわぁん。ふわあぁっ」

 そういうと、両腕を上げて大あくび。終わると寝ぼけまなこでウチの顔を一瞥するも、あとは静かに。

「ミーにゃん?」

 ウチはちょっと首を長くする。親友の顔を覗いた途端、合点がいく。すやすやと眠ってしまったのにゃ。寝顔がとても可愛い。癒される思いにゃ。首の長さを元に戻すと、脳裏に焼きついたミーにゃんの寝顔を見にゃがら、いつしかウチも眠りについていたのにゃ。


 がばっ!

 どれくらい眠っていたのにゃろうか、と陽の傾き加減を見てみる。それほど経ってはいにゃいようにゃ。みんにゃは、まにゃ眠っているのかと周りを見回してみる。

 くるっ。きょろきょろ。くるっ。きょろきょろ。

(はて?)

 くるっ。きゅろきょろ。くるっ。きょろきょろ。

 何度も何度も身体の向きを変え、視線を動かすも、結果はおんにゃじ。

「にゃんと! 誰も居にゃいにゃんて」

(また捜索に出かけたのにゃろうか)

 それにしては腑に落ちにゃいことが。ウチの横っ腹で眠っていた親友までもが居にゃいのにゃ。胸騒ぎを覚えずにはいられにゃい。

「おっかしいにゃあ。ミーにゃんにゃら絶対に声をかけてくるはずにゃ」

 ウチの中で不安が拡がる。居ても立ってもいられにゃい。とはいってもにゃ。湖の広場はウチが今座っている大岩にゃら一望出来る。にゃのに、どこにも誰も居にゃいのにゃん。

(まさか……)

 そう思いつつも、湖を眺めたのにゃ。するとにゃ。不思議にゃことが。

 にやり。

 にゃんと、水面に映るウチの顔が笑ったのにゃん。

「そんにゃあ……うわあああんにゃっ!」

 にゃにかに吸い込まれるかの如く、ウチは湖へと落下していく。



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