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第三話『ちゃぶ台を囲んで話し合おうにゃん!』

 第三話『ちゃぶ台を囲んで話し合おうにゃん!』


 天空の村では、実体を持たにゃい命の総称を『霊体』と呼ぶのにゃ。精霊や、精霊から命を与えられたウチら妖体もまた霊体に他にゃらにゃい。

 霊体とは本来、透明かつ不定形にゃ姿にゃ。もっとくだけていうにゃら、目の前に居ても見えにゃい、ぐにゃにゃの身体にゃん。それが長い年月の果てに輪郭が浮かび上がり、やがて定形化、ついには色までつくようににゃったとのこと。今では、『ネコ型』『翅人型』そして従来通りの『ぐにゃぐにゃ型』と、霊体の体型はこの三つにほぼ収まっているのにゃ。ちにゃみに天空の村の希少種である『人間』は、『翅人型』が原型。翅が背中に仕舞われた姿を模した、とされている。身体の色について言及するにゃら、色がついた当初は一色か二色ぐらいにゃったとか。時間が経てば経つほど、多くの色が出てきたということらしい。それは取りも直さず、霊体も個性が強く表われるようににゃってきたことを意味するのでは? とウチには思えてにゃらにゃいのにゃけれども。

 ウチ自身についていえば、生前が普通のネコにゃったこともあってか、実体波を纏う力が元々備わっていたのにゃ。それでまぁ霊体とにゃった今でもおんにゃじ姿、『ネコ型』でいられるし、日常にゃってほぼ変わらにゃい生活を送れる。有り難いことにゃん。


 ……ウチは意識を取り戻した。にゃにか自分らしからにゅ考えごとをしていたようにゃ気がするのにゃけれども、今はもう覚えてはいにゃい。起き上がって周りを見れば、やっぱり、誰もがきょろきょろ状態。偶然、目と目が合った友にゃちにウチは声をかけてみる。

「にゃあミクリにゃん。ずいぶんとまぁ復活が早かったとは思わにゃいか?」

「当然だよ。核だけじゃなくて、身体もそっくりと残っていたからね」

『核』とは霊体の本体を指すのにゃん。これさえ無事にゃら、霊体は何度でも再生することが出来る。ましてや今回、損傷はあるものの、誰もが妖体の原型をとどめているとくる。とにゃればにゃ。自ずと復活は早まる方向へ。良ぉく考えれば聞くまでもにゃい話にゃん。

 かくしてウチらは無事に復活を遂げたのにゃった。

(めでたしめでたし。……って、これで終わってどうするのにゃん!)


「よいしょ。よいしょ」

 ウチらは今、遊びの広場にある一番大きにゃ木に立て掛けてあったちゃぶ台をいつもの話し合いの場所へと運んでいる途中にゃん。

(しっかしぃ……、どうして、『よいしょ』にゃのにゃろう?)

 物を運ぶ際につい口に出てしまうこの言葉。みんにゃ申し合わせたわけでもにゃいのに揃っている。ささいにゃことではあるのにゃけれども、これも一つの不思議と思っているのにゃ。ミクリにゃんにも尋ねてみたことがある。返ってきた答えは、『うぅぅん。なんとなく、かなぁ?』。さっぱり要領を得にゃい言葉にゃのに、『そうかもしれにゃいにゃあ』とうなずく自分。これまた一つの不思議といえば不思議かも。

 ふと、みんにゃが運ぶ姿に視線を合わせてみたのにゃ。

 水平にしたちゃぶ台の端をつかんでいるのは、どの妖体もおんにゃじにゃ。ネコ型は歩きにゃがら、翅人型は翅をぱたぱたさせにゃがら、の違いがあるにゃけ。ついでにゃがら、ネコ型には二つの姿勢があるのにゃ。一つは実体あるネコとおんにゃじ四つ足姿。ネコ型モードと呼ばれている。普段はこの格好にゃ。もう一つは翅人型の如く、後ろ足を『足』に、前足を『腕』と『手』にして二つ足で立つ姿。こちらはネコびと型モード。いうまでもにゃく今は後者の格好。ネコらしくにゃくてちょっと切にゃいのにゃん。


 そして……目的の場所へと辿り着く。

「ここでいいかい?」

「ちょっと待って」

 ミクリにゃんへの返事の主はミストにゃん。ちゃぶ台から手を離すと、しゃがんで地面に目を向けたのにゃ。

(はて? 一体にゃにを?)

「……ほら、ここ。以前、使った時のくぼみがあるわ。これにぴったりと合わせて」

「ミスト君さぁ。無理に合わせなくたって」

 口をとがらせ、ぶぅたれるミクリにゃん。

(にゃろうにゃぁ)

 ウチも口には出さにゃいものの、気持ちはおんにゃじにゃ。ところが、これに対するミストにゃんの反応がイマイチ良く判らにゃい。

「ダメ。ダメよ。なにかしら。とにかく気分が落ち着かないの。これはひょっとすると」

 腕を組み、うつむく姿勢に。ややあって、きっ、と見上げた顔には暗い影がくっきりと。

「ワナ。ほんのわずか、ずれたのが元で大爆発」

 ここでしばしの沈黙。そして。

「ばっがががあああん!」

 いきにゃりにゃん! 最後の最後で両手をグーからパーへと拡げ、耳をつんざくようにゃ大きにゃ擬音。みんにゃがみんにゃ、ぎょっ、とする。ちゃぶ台を落とさにゃかったのが奇跡とすら覚えるのにゃ。

「はたまた、わたしたちの誰かが原因不明の死に見舞われ……。

 おお怖っ! 怖いわよねぇっ。そうでしょ?」

 おどろおどろしい表情で語った本人すら、両手で反対側の腕をつかみ、ワナワナと震えているのにゃ。

(ウチらを怖がらせているのは、あんた自身にゃ)

 ウチのみにゃらず恐らく誰の心にも、『もう怖いのはイヤにゃん』『いい加減に早くちゃぶ台を下ろしたいのにゃあ』との欲求が沸き起こっているはず。とにもかくにも、『ミストにゃんが気の済むようにしよう』との方針がお互いの目配せを通して固められたのはいうまでもにゃい。

「そうそう。その調子その調子……。あっ、ダメよ。ずれたわ」

 地面にほおを押しつけつつ、目はしっかと、ちゃぶ台の足先と地面の間を。手で指図を繰り返し続けている。そしてついに、にこっ、と笑った顔の口から飛び出た言葉は、

「はい。お疲れ様」

 手を開いたみんにゃの顔……多分、ウチも、にゃのにゃろうけれども……が揃って、『肩の荷を下ろして、ほっ、とする』がぴったりの表情を浮かべていたのにゃん。


 ちゃぶ台の周りに腰を下ろしたウチらが思い思いの格好……『毛づくろいに余念がにゃい』とばかりにウチは足をぺろぺろとなめていたのにゃけれども……をする中、

 ばんばん!

 丸い板を割れんばかりの勢いで叩く荒武者ひとり。

「ほら、みんな! のんびりとしている場合ではないわん!」

 間違えた。独裁者にゃん。

「この非常事態にもっと緊張感を持ってもらいたいわん!」

 右手に造った拳を振るわせて力強くいい放つ、と突然。

「ミーナ。さっき、ちゃぶ台を持っていなかったでしょ?」

 ぎくぅっ!

 図星を指されたかの如く、ミーにゃんの身体が、ぶるぶるぅっ、と震え始めたのにゃ。口を噤み、恐る恐るといった様子で向けた視線の先にはミストにゃん。腕を組みにゃがらうつむき加減の頭を振っている。いかにも、『困った子だわぁ』といわんばかりの姿にゃ。

 ついでにウチは、ミーにゃん、ミストにゃん以外の顔色も伺ってみる。思った通りにゃ。みんにゃがみんにゃ、薄々気がついてはいたらしい。ウチとおんにゃじく、『声に出すのもどうかと思い、黙っていた』というのが本音にゃろう。

「それはそれ、これはこれだわん!」

 物事を客観的に切り分けることで責任逃れを、が思いのミーにゃん節を久し振りに聞く。やや上目遣いにゃがらも、声の口調はしっかりとしたまま。

(相も変わらず怖いもの知らずにゃにゃぁ)

 ふぅ、とため息の洩れる音がミストにゃんから。

「やめましょう、時間のムダだわ。それよりも早く円卓会議を始めなきゃ」

「あのぉ、ミスト」

「なに? ミムカ」

「ミムカたちが囲んでいるのはちゃぶ台ですよぉ?

 だから、ここは『ちゃぶ台会議』のほうが相応しいかと思いますですが」

「ダメ。お願い、ミムカ。わたしを、わたしの乙女心を傷つけないで」

 両手を合わせて頼んでいる友にゃちの目が心にゃしか潤んでいるようにも見える。

(心の琴線にでも触れたのにゃろうか。……でも、あの言葉のどこに?)

 良く判らにゃい会話のあと、再びミストにゃんの視線はミーにゃんへと戻ったのにゃ。

 びくうっ!

 一瞬で親友の背筋が伸びたのをそばに居たウチは見逃さにゃかった。べちゃくちゃと他愛もにゃいお喋りをしている時はともかく、こういうマジメにゃ場でのミストにゃんの前では黙りこくってしまうことが多いのにゃ。

(ミーにゃんはどうやら、ミストにゃんが苦手とみえるにゃ)

 ミストにゃんはミーにゃんを見据えにゃがら一言。

「で? 大変ってなんなの?」

(おっ、とと。そうにゃん!)

 恥ずかしにゃがらウチにゃけが、ではにゃくて、ほっ、とした。みんにゃの顔を見れば、一目瞭然。ミーにゃん、ミストにゃん以外の誰もが、ここに集まった本当の理由を忘れていたのにゃ。

(さぁミーにゃん。ここは格好いいところを一つ……ふにゃ?)

 きょとん、とした顔がウチを見ている。にゃもんで思わず、がっくり。どうやら、お騒がせの当の妖精様も忘れたみたいにゃん。

「ほら、ミーにゃん。さっき、大変って爆発」

 ウチが助け船を出した途端、

「そうだわん!」

 ミーにゃんの目にきらきらが戻っている。張り上げた声もきらきらにゃん。

「良く聞いてよ、みんなぁ。ミリアんが……ああ……ミリアんが」

 最初の『ミリアんが』から表情が一転。目も声も悲しげににゃってしまったのにゃ。

(どうしたのにゃろう)

 途切れた声。顔からも、にゃんらかの思いに胸が詰まって喋るに喋れにゃい、といった様子が伺える。でもそれはほんの束の間。思いは更に募ったのにゃろう。叫び声とにゃって吐き出されたのにゃ。

「森から……森から居なくなっちゃったわああん!」


 絶叫。みんにゃが涙目の友にゃちのところへと集まる。話を聞いたところに依るとにゃ。今朝早くから湖の広場で遊ぶつもりにゃったみたい。もちろん、『お早うございます』といって現われたそうにゃ。でもぉ……。

 おもちゃとして愛用している『ネコネコニャンマー』を見せびらかそうと、ミーにゃんがイオラの木の中、精霊の間へ取りに戻ったまでは何事もにゃかったらしい。ところがにゃ。手に取って外へ出てみれば、ミリアにゃんの姿は影も形もにゃい。慌てて湖の広場のみにゃらず、ミリアにゃんの棲み家である『樹海の森』の果物園をもくまにゃく捜してみた。それでも、どこにも居にゃい。にゃらば、と頼みの綱ともいうべき『霊覚交信』を使って呼びかけても返事をもらえず、といった具合で、要するににゃ。手詰まり状態とにゃったのにゃん。

「そう……」

 ミストにゃんは、左手を右肩の脇に挟み、右手の拳をあごの下に当てている。思慮の念に耽っているみたいにゃ。ややあって、見上げた視線の先。それはウチも尋ねたいと思っていた相手にゃ。

「ねぇ、ミロネ。なにか情報は入っていないの?」

「待ってくれ。今、捜している」

 ちゃぶ台に両肘の角を突き、両手を絡ませた腕の間にはうつむいた頭を挟んにゃ格好。いかにもにゃにかを調べているといった様子にゃ。しばらくすると、両手を絡ませたまま、肘を置いた。顔を上げると同時に目が開いていく。動作はとてもゆっくりにゃ。開き切った視線を誰も居にゃい真正面に向けて口から出た言葉は。

「信じられない。しかし、これは事実だ」

「というと?」

「やっぱり、ミリアにゃんはこの森には居にゃいのにゃん?」

 悪い、とは思ったのにゃけれども、黙ってはいられず、ミストにゃんの言葉の途中で口を挟んでしまったのにゃ。ウチを振り返ったミロネにゃんの顔には深刻そうにゃ表情が浮かんでいる。口を開くまでにちょっとの間があったのは、話していいのか悪いのか迷っていたからかもしれにゃい。

「いや、事実はミーナ殿が喋った以上だ」

「どういうことにゃのにゃん?」

 ウチは背筋が寒くにゃるようにゃ予感を覚えたのにゃ。

「彼女はイオラの森はおろか、天空の村のどこにも居ない」

「まさか、そんにゃあ」

 ミロネにゃんに、きっぱりと告げられ、唖然とするウチ。

「そ、それって……つまり」

 ミストにゃんの口調が震えている。悲しいことにゃのにゃけれども、次にミロネにゃんが口にしたのは、ウチが、いや、みんにゃが絶対聞きたくにゃい言葉にゃったと思う。

「彼女は、いや、ミリア殿は……、

 誰にも知られることなく消滅してしまった……のかもしれない」

 先ほど、ミストにゃんが喋った『原因不明の死』が脳裏によみがえってきたのにゃ。

(このちゃぶ台。本当は、ずれてしまっているのではにゃかろうか)

 真剣にそう考え、そっと、ちゃぶ台の下を覗いたのにゃん。



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