第十六話『にゃあまんにゃあ!』
第十六話『にゃあまんにゃあ!』
ウチは今、水の中を下へ下へと泳いでいるのにゃ。水面近くは、青一色と呼ぶに近い様相。でもにゃ。深く進むにつれ、緑色が少しずつ混じり込んでいくのにゃ。
(強い霊力の意志を感じる……。ミロネにゃんのいう通り、この中にメノオラの核があるのかもにゃ)
そう考えると、水人形が、やられてもやられてもまた直ぐに現われる理由が判る気がするのにゃ。この空間全体に拡がる霊力……ウチらが闘っている際に放出する力も含めてにゃ……が水人形らの力の源にゃのにゃ。
(とにゃると、ウチが倒さねばにゃらにゃいのは、……うんにゃ。『水』そのものにゃ)
「パンにゃん。聞こえているのにゃん?」
「もちろんのぐし」
「にゃら、そろそろ呼び出したいのにゃけれども」
「では始めるのぐし」
パンにゃんが教えてくれた『特別な力』とは……、
にゃにを隠そう、にゃあまん様との合身にゃん。
湖底へ着くや否や、マフラーが、ばさぁっ、と拡がり、マントへと変わる。霊布のせいにゃろうか。水の中にゃというのに、少しも濡れにゃい。まるで地上にでも居るかのように、水流が風でもあるかのように、なびいているのにゃ。
マントは、外側は青一色。内側は赤一色で裾にはポケットが一つ、ついている。にやり、と口元に笑みを浮かべたウチは、このポケットに右手を入れたのにゃ。つかんで、すぅっ、と持ち上げたのは木の串一本。高々と掲げるとにゃ。一瞬で串に、ヨモギ団子の真ん丸オモチ三個が並ぶ。
(ぶふっ。これこれ、これにゃん)
ウチが『にゃあまん様』ににゃろうと決めた最大の理由がここにあるのにゃ。パンにゃんの話の中で心の琴線に触れた言葉もまさにそれを指しているのにゃん。
『戦神様へと変身する度に、ワタグシのヨモギ団子を食べて貰わないといけないのぐし』
この一点に尽きるのにゃん。『変身する度に大好きにゃヨモギ団子が食べられる』。これがウチにとってどれほどの福音の言葉か。人間の居住区から離れたウチにとって、小さい頃に食べたヨモギ団子は恋焦がれる存在。協力を惜しむほうが無理というものにゃ。
「いったにゃきますにゃあん!」
串を握った指にもっとも近いオモチ部分を噛むと、そのまま一気に腕を引いたのにゃ。
ずるずるずるずるずるっ。
(ぶふっ。上手くいったのにゃん)
真ん丸オモチを三個とも、あっという間にほお張れたのにゃん。愛しきものたちが今、現実にウチの口の中に。たとえようもにゃい感動にうち震えつつ、咀嚼したのにゃ。
もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。
仄かに漂うヨモギ葉の香り。美味しさの中心とにゃっている優しい甘さが、乙女心を魅了するのにゃ。『もちもちぃっ、とした柔らかぁにゃ弾力のある』から、『すぅっ、と溶けてしまいそう』へと変わる触感。『噛めば噛むほど零れていく』から、『噛んだ瞬間、じわぁっ、と口一杯に拡がる』へと変わる甘さの伝わり方。オモチからあんこへと移る際の、これら二つの音色が奏でる変化もまた、ウチの心を惹きつけてやまにゃいのにゃん。
「これこれ、この味にゃのにゃん」
長い旅から帰った気がする。美味しさと懐かしさで思わず、涙が溢れそうににゃる。『たにゃいまぁ!』と叫びたくにゃる。
もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。もぐもぐもぐ。…………。
「ふぅ」
幸せはいつか終わるもの。口の中は既に空っぽにゃ。とはいえ、今しばらくは快い余韻に浸れる。
「美味いにゃあ、パンにゃん」
「ワタグシが造ったオモチのぐし。だから、当たり前のぐし」
「出来れば、もう一本、貰えると……おや? あれは」
湧湖の中に入ったのを気がついたのにゃろうか。向こうのほうから、何にんものミストにゃんの水人形が姿を現わしたのにゃ。
「狙いはウチの霊力か。……にゃらばっ!」
平らげてにゃんにもにゃくにゃった串を再び高く掲げる。
(来るのにゃ!)
「にゃあまん!」
ぴにゃんにゃんにゃんにゃんにゃん!
パンにゃんの全身から1677万とんで1色の光がほとばしる。近づいてきた水人形らは光の中、溶けるように消えていく。間髪容れずに、戦神の身体を包み込んでいる殻の石像が湧湖の中へと飛び込んできた。異界であろうとにゃかろうと、戦神には関係にゃい。呼ばれて飛び出てにゃんにゃんにゃん。
パンにゃんが教えてくれた。
長き闘いの果てに心をすり減らした戦神は、自らが造った石の殻の中でひたすら眠り続けていたのにゃ。パンにゃんの光にはそんにゃ戦神のわずかに残った心をゆさぶる力があるという。パンにゃんが光を放つと、ウチは自動的に実体波を解除され、霊体へと戻る。そしてウチ自身もまた光とにゃるのにゃ。これらの輝きに魅かれてやってきた戦神は、そこで一つの意志を見つける。いうまでもにゃくウチのことにゃん。戦神は意志を、心を求め、ウチは力を求める。お互いの求める思いが、ウチらを一つにしたのにゃ。
ばっががああぁぁん!
はた目には、ウチにぶつかった石像が木っ端微塵に砕けた、ぐらいにしか映らにゃかったのかもしれにゃい。でもにゃ。実際は違うのにゃん。
光とにゃったウチは石像の体内へと潜り込む。戦神がウチを受け入れる。空っぽ同然とにゃっている戦神の意志にウチの意志が重にゃる。意志が身体を目覚めさせ、覆っていた石像の殻を破壊したのにゃ。
そして……爆塵が消えたあとに現われたのは。
「ウチこそはヨモギ団子の化身。愛と正義の戦神、にゃあまんにゃあ!」
(くうぅっ。決まったにゃあ!)
ずんぐりむっくり。
見た目は、おんにゃじ大きさの真ん丸オモチを幾つもくっつけて造った、『ウチの大型フィギュア』といったところにゃ。尻尾もちゃんとあるし、顔と身体の筋も、まるで彫像のように浮き彫りされている。肝心のあんこは、といえば、身体の中に秘められているのにゃん。『見つけて下さるお方に出逢えるまでは』と、まるで乙女が王子様との出逢いを待つようにゃ感じで。『甘く切にゃい思いは胸の奥深くに』というわけにゃん。
続けてウチは右手の肉球……身体の中で一番もちもちぃっとした部分にゃ……を、まにゃ残っている敵の群れへとかざしたのにゃ。
「乙女にゃのに、にゃあまん!」
呪の言葉をトリガーにして、手のひらから放たれたご威光、3396万とんで1色の光が、泳いで向かってくる水人形らをその体勢のままに、一掃してしまったのにゃ。水の姿へと戻した。そんにゃ感じのする消え方にゃん。
(これでおしまい……おやっ?)
ほっ、とするのも間もにゃく、幾つもの水流の渦が目の前に現われ、ウチの、じゃにゃい、にゃあまん様の身体を包み込む。でもにゃ。『にゃんにゃ? にゃんにゃ?』と慌てふためく間に、これらの水流は『もうおしまい』とでもいうように離れたのにゃん。身体を見回すも、これといって変わった様子は見当たらにゃい。
(一体にゃにをしたのにゃん?)
答えは目の前に現われたのにゃん。何本もの水流が水球へと身を変えたのにゃ。
ぼむぼむぼむ。ぼむぼむぼむ。
変化はまにゃまにゃ続く。水球同士がくっつき合い、あれよあれよという間に一つの身体を、思いもよらにゅ身体を成したのにゃん。
「にゃ、にゃんと!
あれは……、『水玉のにゃあまん様』にゃあ!」
どっきり、でもって、目をぱちくり、にゃのにゃん。
(にゃんで……正義の味方がもうひとり……)




