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第十四話『みんにゃでスタセミに乗ろうにゃん!』修正01

 第十四話『みんにゃでスタセミに乗ろうにゃん!』


「モワン、ほらっ。みんな、なんともないみたいだわん」

(はぁっ。『モワン』とはにゃあ)

 いつの間にかウチの名前、呼び名が、本来の『ミアン』から『モワン』に戻ってしまっていたのにゃ。ミーにゃんって、気がたかぶった時や落ち込んにゃ時、要するににゃ、心がゆさぶられるようにゃシーンでは、ちゃんと、『ミアン』と呼んでくれることもままあるのにゃ。でもにゃ。それ以外では相も変わらず、『モワン』。せめて逆ににゃれば、とつくづく思う次第にゃ。

 まっ。愚痴はこのくらいにして。

 全員、気がついたのにゃ。みんにゃがみんにゃ、『ここはどこ?』『ボクは誰?』にゃどと、アホにゃことを口走ってはいたものの、次第に頭がはっきりとしてきたのにゃろう。自分が誰にゃのかはもちろん、どういう状況に置かれていたのかも想い出したのにゃ。

「まさか、メノオラに憑かれるとは思わなかったなぁ」とミクリにゃん。

「わたしとしたことが……まさに油断大敵ね」とミストにゃん。

「なにか異常なくらい、ハイテンションだった気がしますですよ」とミムカにゃん。

 ここまではすんにゃりと言葉を受け留められたのにゃ。水に潜ったりとか、とり憑かれたりとか、それにゃりに大変にゃったろうと思うし。でもにゃ。次がいけにゃい。

「私も。でなければ、『友愛』を誰よりも重んじる私が、あんなことをするわけがないんです。やっぱり、とり憑かれていたせいなんでしょうねぇ」とミリアにゃん。

(こにょぉっ!)

 ウチとミーにゃんは知っているのにゃ。『無気力波』を放つ前、悪鬼にも似た形相で追い駆けられている時にはもう、両目が普通に戻っていたことを。

「あんたは違うのにゃん!」「いいわけ無用だわん!」

 すかさず怒鳴り声のツッコミを入れたウチらを、『まぁまぁ』といってなだめにかかたったのはミロネにゃん。

「自分ではどうにもならなくなっていた、という点では同じだと思う。

 とはいえ……、迷惑をかけたな。済まなかった。

 オレたちがこうして無事に集まれたのは、貴殿たちが諦めることなく闘ってくれたおかげだ。心から感謝したい。有難う」

 締め括るように喋ったミロネにゃんの言葉をきっかけに、みんにゃが揃って、お詫びと感謝の言葉を口にしたのにゃ。それを聴いたウチとミーにゃんが怒りを忘れて、またまた、ぽっ、とほおを赤らめたのは、……いわずもがな、のことにゃん。


 お互いの無事を喜び合ったあとにゃ。『注意しておくことがある』とミロネにゃんが話を切り出したのにゃ。

「みんなも薄々気がついてはいると思うが……、

 今、オレたちは自分たちの霊力をコントロール出来ない状況下にある。自然放出される分についても目一杯。実体波並みの強さだ。霊的攻撃には強いが、反面、物理的影響をもろに受けてしまう。空を泳げない。水にはおぼれる。幸い、ここには障害物がないが、仮にあれば、通り抜けられないし、ぶつかれば身体はダメージを食らう。普通の生きものとさほど変わらない立場にあるということをそれぞれが肝に銘じてもらいたい」

「ミロネ、ちょっと質問」

 そういって手を上げたのはミストにゃん。他の翅人型妖精とおんにゃじに、膝を抱えて座った姿勢で聴いていたのにゃ。

「おぼれたのは事実だけど……、

 わたしの錯覚かしら。誰かに引っ張られたような気がするわ」

 この発言に、『そういえば』との声が続出にゃ。正確にいえば、被害に遭わにゃかったウチとミーにゃん、『そうですかねぇ』と首を傾げているミリアにゃんを除く全員にゃ。

「実際、引っ張られたのだろう。メノオラの仕業とみて間違いない。

 ところで、と。メノオラについてだが……、いや、その前にだ。

 時には干上がり、時には湖のような深さともなる、あの不思議な湧き水の集まりには、今のところ名前がない。そこでだ。『湧湖ゆうこ』と呼ぶことにしたいのだが……、構わないだろうか」

 異論にゃど出るはずもにゃく、みんにゃがみんにゃ、こくり、とうなずく。ミロネにゃんも確認したのにゃろう。ちょっと微笑んにゃあと、『では、そういうことで』といって、話を戻したのにゃ。

「湧湖全体から放たれている霊波は、霊体が体外に発するものと同じだ。ということは、湧湖自体がメノオラということになる。核も恐らくは、あの中にひっそりと隠れている」

 みんにゃもそれとにゃく気がついてはいたようにゃ。特に驚いた声も聞こえてこにゃい。

(まぁ実際にとり憑かれたからにゃ。この反応は当然かも)

「やっつけちゃたら、いいんじゃない」

 ミクリにゃんのお気楽にゃ調子での提案に、すぐさま反論が起きたのにゃ。

「ミムカは賛成出来ませんです」

「どうしてさ?」

「ではお聞きしますですが、ミクリはミストと闘いたいと思いますですか?」

「どうしてミスト君と……。ああ、そうことかぁ」

「そういうことよ」

『ふたりの会話は自分が引きとる』とでもいうようにミストにゃんが口を開く。

「よっぽどの力か策でも持たないかぎり、水を操れる霊体とは闘わないほうがいいわ。

 命をムダに捨てるだけよ」

「でもさぁ。それじゃあ、どうするんだい?」

「逃げるんだ」

 ミロネにゃんの答えは至って明快にゃ。

「闘うこと自体、無意味だ。負ければ、霊力を絞りとれるだけ絞りとられる。結果、ここからは二度と出られなくなる。仮に勝てたとしてもだ。メノオラが滅べば、狭界は崩壊する。オレたちもろともな。相手が負けを認めて、おとなしくなったとしてもだ。それからどうする? 聴きたいことはあるにはあるが…、先ず無理だろうな。ここから外に出たことのない霊体が知っているとは到底思えない」

「だから、『逃げろ』かぁ。いっていることは判るんだけどねぇ。

 このままやられっ放しじゃあ、なぁんか腹が立つんだ。

 ねぇ、ミロネ君。一矢報いるとか、ひと泡吹かせるとか、とにかくなんでもいいからさぁ。胸のつかえが、すぅっ、ととれるような、なにかって出来ないのぉ?」

『前足を、ぴん、とおっ立って、後ろ足を屈して』の清楚にゃ感じに座っているウチやミリアにゃんとは違い、ミクリにゃんは、お尻を地面にくっつけた、いわゆる、おっさん座りにゃ。それが口をとがらせて、ぶぅたれている。態度の悪さに呆れたのか、はたまた、相手をするにゃけムダと悟ったのか、『切り札』ともいえる言葉をミロネにゃんは口にしたのにゃ。

「オレには判らない。『マザー』に尋ねてみるか?

 運が良ければ、連絡がとれるかもしれない」

「ひぃっ! いいよいいよ。そんなことしなくたって。

 大精霊様に迷惑なんてかけられないよ」

 ミクリにゃんは慌てふためいた姿に。顔をぶんぶんと横に振って、前足二つも、話相手に肉球をかざしたまま盛んにゆらしているのにゃ。

(この変わりようが、またにゃんとも面白いのにゃん)

 ミロネにゃんは、と見てみれば、顔を横向きにして、右手で口元を覆う仕草をしている。両目と少し上がったほおの様子から、笑いを押し隠そうとしているのは一目瞭然。いや、ミロネにゃんにゃけじゃない。ミーにゃん、ミストにゃん、ミムカにゃん、それにミリアにゃんまでもが、顔を見合わせて、くすくすと笑っているのにゃ。

 この状況にさしものミクリにゃんも憮然とした感じで、おとなしくにゃってしまう。それを待っていたかのように、ミロネにゃんは、『あらためていうまでもないが』と口を開いた。笑顔は消え、真剣そのものにゃ。

「ここから無事に脱出するには、『どれだけの霊力を確保出来るか?』『どんな手段を選択するか?』の二点にかかっているといっても過言じゃない。

 しかしながら……、現状は極めて厳しいといわざるを得ない。

 霊力についていえば、一番まずいのは、消耗が早いことだ。自分の霊力をコントロール出来ない為、闘っている間はもちろん、なにもしないでいても、むやみやたらと霊力を奪われている。その上にだ」

 ミロネにゃんは首を少しばかり持ち上げる。

「君たちには見えないと思うが、オレの目には、はっきりと映っている。ここは今、二つの半透明な霊波がどちらも荒れ狂わんばかりに、ぶつかり合い、せめぎ合っている。空域からのは青みを、水域からのは緑みを帯びている。もし仮にだ。二つの霊波が衝突した際、その境目に居たとしたら……、『ゼロの時』を迎えることもある」

(はて? 聴いたことのにゃい言葉にゃ)

 疑問があれば、直ぐに聴く。良い子のマナーにゃ。

「にゃんにゃ? その『ゼロの時』って?」

「一定の時間、文字通り、おのれの持つ霊力がゼロに等しい状況になる。そうなる前に一瞬、気を失うぐらいの強い圧迫を身体に感じるから、『これがゼロか』と直ぐに判ると思う。衝撃の度合いに依ってダメージは異なる。なんでもない場合もあるし、逆に、霊技が全て使えなくなるばかりか、霊体に依ってはそのまま消滅する事態にもなりかねない」

「怖いのね」

 ミストにゃんの身体が、ぶるっ、と震える。ウチも気持ちはおんにゃじにゃ。

「まっ。確率的にいえば、『なんでもないほう』が高いはずだから、気にしないでもいいとは思うが……。

 ともあれだ。オレがいいたいのは、このような動的状況の中では、失った霊力を回復させることなど、ほとんど不可能に近いということだ。早い話が、ここに居るかぎり、個々の持つ霊力は減り続け、決して元には戻らない。

 脱出の手段についてもいおう。マザーの記憶や記録を幾ら掘り起こしても、霊体が狭界を出入りした事例は一つも見当たらない。記録の中には大精霊たちの記憶も留めているから、それでもないということは……、手段を知っている者は誰も居ない、恐らく、メノオラもだ。オレたちが棲む『通常空間』と『狭界』。この二つを知る者でないかぎり、的確な手段を講ずることなど出来ないからだ。

 これらの点を踏まえれば、次の結論が導き出される。すなわち、

 ここから出たいのであれば、一刻も早く、行動を起こさなければならない。……そして、

 どういう行動を起こすか、については、自分たちだけで考えなければならない。

 以上だ」

 にゃんとも八方塞がりにゃ内容にゃ。ミクリにゃんも、ミムカにゃんも、心にゃしか、肩を落とした感じ。でもにゃ。希望はまにゃある。

 ウチは、ちょっと前にミロネにゃんが喋った意味ありげにゃ言葉を想い出す。

(そろそろ尋ねてもいい頃にゃ)

「にゃあ、ミロネにゃん。あんたがここに来たのって」

『マザーミロネにゃんが脱出方法を考えついたからじゃにゃあい?』と続けようとした、まさにその時ににゃ。

 どどどどどっ!

 またまた青緑の地面から水が湧き出してきたのにゃ。みるみる間に水位が上がってくる。さっきよりも急激にゃ。一斉にウチらネコ型はネコ人型モードとにゃるも、あっという間に身体の半分が浸かってしまう。

「同じ轍を二度と踏むもんかぁ!」

 ミクリにゃんが怒りを含んにゃようにゃ声を張り上げ、ネコ差し指から霊糸を射出。直ぐ真上に、一筆書きの大っきにゃ星型を描いたのにゃん。

「みんなぁ! 早くこれに乗るんだぁ!」

 真っ先に応じたのは翅人型の妖体ら。そそくさと星型霊形物の上に飛び乗っていく。続いてウチらネコ型も、それぞれが星型の一辺を両手でつかむ。

(まっ。指を上手く使えるのが、霊体ネコの強みにゃのにゃけれども)

「それじゃあ、行っくよぉ!」

 ずぼっ! ずぼっ! ずぼっ!

 星型が上昇。ウチらネコ型もぶら下がった格好で、再び湧湖とにゃってしまった水の中から抜け出せたのにゃん。


「手伝ってあげるわん」

 ミーにゃんが放った念動霊波のおかげで、楽々とネコ型のみんにゃも、星型の上に足を乗せられた。下を見れば、既に前の湧湖を超える水位とにゃっているのにゃ。

 ミクリにゃんは、さも得意げにいう。

「どうだい? この星型飛行体の乗り心地は?

 フォルムだって結構いかすだろう? ボクはね、これを『スターセイバーミクリ』と名づけることにするよ。略して……むぐっ!」

 ウチは慌ててミクリにゃんの口を塞いにゃのにゃ。

「ダメにゃん。その三文字を公言するのは、にゃにかと問題があると思うのにゃ」

「む……ちょ、ちょっと待ってくれよ」

 ウチの前足をどけたミクリにゃんは、

「君は誤解しているよ。僕がいおうとしたのは四文字。『スタセミ』さ」

「にゃあんにゃ。……ところでミーにゃん。焦ったら喉が渇いたのにゃ。

 にゃもんで、珈琲こーひーを一杯」

 ぼがっ! ばたっ!

「そんなものどこにあるわん!

 っていうか、自分からバラしにかかってどうするのわん!」

 ミーにゃんの飛び蹴りが後頭部を直撃。ウチは前のめりに倒れたのにゃ。

(痛い珈琲にゃん)



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