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第十話『ちょっとひと休みにゃん! その二 ~寝込みを襲う~』

 第十話『ちょっとひと休みにゃん! その二 ~寝込みを襲う~』


「にゃら、あとはよろしくにゃあ」

『今』のウチへ引き継がせると、『昔の』のウチは、すぅっ。すぅっ。すぅっ。

「ミストにゃんも無事にウチらの手に……か。まぁそれはともかくとして」


 のっしのっし。のっしのっし。

「ふぅぅむ。寝込みを襲う……とはにゃあ」

「こらこら」

「おや、ミーにゃん。どうしたのにゃ? こんにゃところで突っ立っているにゃんて。

 まさか、イオラにゃんにオネショがばれてその罰で」

「うわわわわわわあああぁぁぁ! んもう! なんてことをいうわん!」

「違ったのにゃん?」

「全然だわん!」

「にゃら繰り返すけど、どうしたのにゃ?」

「どうしたの? って聞きたいのはアタシのほう。親友が立っているのに素通りしようとするなんて」

「それはそれは。大変失礼したのにゃん。

 いろいろと考えていることがあってにゃ。つい」

「へぇ。ミアンがねぇ。で? 一体なにをそのネコ頭で思い巡らしていたのわん?」

「お話の中に出ていたウチの呼び名にゃ。ミーにゃんってば、あの頃は、『モワン』もしくは『モワンモワン』としかいわにゃかったものにゃあ。『ミアン』とはめったに呼んでくれにゃかった」

「本当にそう思い込んでいたんだもの。しょうがないわん」

「今はちゃんと名前で呼んでくれるからいいけどにゃあ。

 ……良く良く考えてみれば、このお話からおよそ百年もの間にゃ。まさか、児童期に移る直前ぐらいまで続くとは思わにゃかったのにゃん」

「感慨深いわん。当時が懐かしいわん。出来ることならもう一度あの頃に」

「戻って欲しくにゃいのにゃん。

 ミーにゃんったら、にゃに、いい想い出みたいにゃことをいっているのにゃ」

「だってそうなんだもん。

 ミアンって被害者感がありすぎよぉ。楽しいことだって一杯あったはずだわん」

「まぁにゃ。ミーにゃんのいうことにも一理あると認めるのにゃん。

 おおっ、と。そういえば」

「またなにを想い出しわん?」

「ウチとミーにゃんって、時の流れに応じて、というか、にゃんらかのきっかけで、力の優劣が、ころころ、と変わっていったにゃ」

「確かにね。ああでも、イオラにいわせるとね。アタシにもミアンにも自分の命の欠片を分け与えているから、行き着くとこまで行けば同じになるんだって」

「ネコは平和が好きにゃ生き物にゃんよ。もし、ミーにゃんが行き着くとこまで行ったとしてもにゃ。ウチはミーにゃんの暴挙を抑えられるぐらいまでにしておくのにゃん」

「んもう。幾らアタシだってそこまではならないわん。……にしても不思議。ネコも妖精みたいにわがままって良く聞くわん。なのにどうしてミアンはそんなに我慢強いの?」

「当然にゃろう? そばに居る親友にいつも鍛えられているのにゃもん」

「それってつまり……、アタシってエラいわん?」

「どうしてそうにゃるのにゃん?」

「鍛えられている、っていう意味がイマイチ判然としないけど……、

 アタシのおかげで今のミアンがあるってことでしょ? なら、アタシはミアンからすれば、かけがえのない指導者、尊敬に値する存在、ってことになるわん」

「にゃるほど。反面教師も教師にゃものにゃ」

「んまぁ!」


「あっ、そうだ」

「どうしたのにゃ? ミーにゃん」

「話が脇道にそれちゃったから忘れていたわん。

 ねぇ、ミアン。最初に喋っていたあの言葉って一体なんだったの?」

「最初の言葉? ……ひょっとして、『寝込みを襲う』っていったことにゃん?」

「そう。それよそれ。聞けば、道徳的にあるまじき物騒な発言。下手をすると、首に縄を巻かれないともかぎらないわん」

「首に縄? はて? ネコに? 他の動物にゃらいざ知らず、ネコの首に縄を巻いて散歩するにゃんて聞いたこともにゃいのにゃん」

「飼いネコの話じゃないわん。

 要するにね。お縄になる。つかまっちゃうかも、ってことよ」

「ウチが? またにゃんで?」

「にゃんで? って……。寝込みを襲うんでしょ? 誰を、なのかは知らないけど」

「とんでもにゃい。ウチが問題にしているのは言葉そのものにゃんよ」

「言葉そのもの? どういうことわん?」

「ほら。良くネコのことを『寝子』って当て字で考える者がいるじゃにゃいか」

「確かにね」

「『寝込み』っていうのは、本当は『ネコ込み』を省略した言葉にゃのじゃあるまいか。

 ふと、そんにゃ風に思ってしまったのにゃよ」

「へぇぇ。これは新説、いや、斬新すぎる考えかもしれないわん」

「寝込みを襲う→ネコ込みで襲う。つまりにゃ。誰かが襲われる際、ネコまで巻き添えを食う、っていう意味かもしれにゃいのにゃよ」

「それは大変だわん」

「この考えをどんどん突き詰めていったらにゃ」

「どうなったわん?」

「『寝込み』とは、ひょっとしたら、『ネコ身』か『ネコ実』のことかも、って考えが膨らんにゃのにゃ。ネコが、ウチが食われてしまうことを意味している。そう思うようににゃってしまったのにゃん」

「それはちょっと膨らませすぎじゃないの?」

「いや、それにゃらまにゃいいほうにゃのかもしれにゃい」

「またまたなにか考えたわん?」

「もし、これが……、『ネコ美』にゃとしたら」

「『ネコ美』? それってなにわん?」

「美少女ネコたるウチの底知れにゅ美しさのことにゃよ」

「はぁ?」

「『寝込み』とは『ネコ美』。ウチの美しさを奪うことを意味するのにゃん!

 そのことに気がついた途端、ウチは……ウチは……はぁはぁはぁ! はぁはぁはぁ!」

「ちょ、ちょっと。なんでそんなに顔を真っ赤にしているわん? 興奮しすぎだわん」

「おおぉ! 奪われるにゃんて。奪われるにゃんてぇぇっ!」

「ちょ、ちょっとぉ」

「おおぉ!

 ウチの……ウチの……、かつて絶世の美少女と謳われ、『年頃になれば求愛の男子が引く手あまた』との折り紙つきにゃったウチの、ウチの美貌がぁっ!」

 ぼがっ!

「ふにゃっ!」

 ばたぁん!

「…………はっ!」

 ぐわっ! ふるふるふる。

「思わず目まいを起こしてしまったのにゃ……。

 ミーにゃん! どうしてウチの脳天に蹴りにゃんてかますのにゃん?」

「決まっているわん! 他のところじゃ全然、倒れてくれないからよ!」

「倒れて、って……」

「そんなことよりさぁ。……ふぅ。おかしいと思ったのよ。それほど、お話のきりがいいわけでもないのに、『ちょっとひと休みにゃん!』を強引に入れてきたりして」

「はて? にゃんのことにゃん?」

「とぼけなくったっていいわん。

 お話の中のセリフをもう一度いいたくて、でしょ? バレバレだわん」

「ミーにゃん。ウチ、ちょっと用事を想い出したので、これで失敬するにゃん」

 のっしのっし。のっしのっし。

「ちょ、ちょっとぉ! 一体どこに……って、あれっ?

 ぐるっ、と回って戻ってきたわん。

 ……と思ったら、また向こうへ行ったわん。

 ……と思ったら、また、ぐるっ、と回って戻ってきて、

 ……と思ったら、また向こう…………むかっ!

 ちょっとミアン! アタシの前をぐるぐると回ってどういうつもりわん!」

「あのにゃ。このまま行っちゃうと、お話が続けられにゃいって気がついたのにゃよ。

 かといってにゃ。『失敬する』っていった手前、留まるのもにゃんか格好悪いしぃ。

 行こか戻ろか悩みに悩んで、つい、ぐるぐると……ぐすん。

 ミーにゃん、どうしよう? 助けてぇ。……ぐすん」

 イライライラっ!

「んもう! つまんないことに涙ぐんでいるんじゃないわん!」


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