第九話『お説教好きにゃミストにゃん!』修正01
第九話『お説教好きにゃミストにゃん!』
「お待たせ」
今度はミストにゃんが浮かび上がってきたのにゃん。
「ようこそ。わたしのところへ」
「あのぉ。ウチらは最初からここに居るのにゃけれども」
「アタシもそう思うわん」
「つまらないことを気にしてはダメよ」
そっぽを向くようにして喋るミストにゃん。横顔のほおがほんのりと赤い。ひょっとすると、ウチとおんにゃじシャイにゃ性格にゃのかもしれにゃい。赤い目との印象の差が、とても激しいのにゃ。
「ごほん」
照れ隠しのようにゃ咳払い。でも直ぐにいつもの愛想のなさげにゃ表情に。あえて、そう務めようとしているとも見てとれるのにゃ。視線もこれまたいつもの如く、目をそらすかのようにゃ、やや下向き加減。こっちが『にゃにもそこまで』と思うくらい、『自分は暗いのよ』を全面に押し出しているといった感じにゃ。端正にゃ顔立ちもそれに拍車をかけている。たにゃ、これも黙っている時にゃけ。話をし始めたが最後、顔の表情や全身から伝わってくる気配が変わってくるのにゃ。ややもすれば頑にゃと目に映っていた態度が、どんどん氷解していく。素直に自分の心を姿に投影していくのにゃ。黙っている時とのギャップが大きく、その移りゆくさまが見ていてにゃんとも楽しい。
(はてさて。今日はどんにゃミストにゃんが見られるのにゃろうか)
「それではゲームを始めるわ。ルールはもう知っているのよね?」
「ミクリにゃんが喋ったのとおんにゃじにゃら」
「良かったわ、覚えていてくれて。おかげで余計な手間をかけずに済むもの」
と、ここまではにゃんてこともにゃい、ごくありふれた会話にゃ。
問題はこのあと。ここから先が大変にゃのにゃん。
「大体、説明なんてものはね。やらないで済むならそれに越したことはないのよ。面倒くさいし、エコじゃないし。もし喋った内容に少しでもおかしなところがあってごらんなさい。もう大変。鬼の首を取ったかの如く吹聴しまくるわ。そうでしょ? そうじゃないの?」
(あのにゃあ)
にゃあんか話が愚痴っぽくにゃったきた。しかもにゃ。怒りの感情も少にゃからず含んでいるようにゃ。
(こうにゃると、もう誰にもとめられにゃいのにゃあ)
「また始まったわん」
ウチのナデ肩をにゃんとか椅子代わりにしているミーにゃんが、ぼそっ、と呟く。
「このお小言、いつまで続くのにゃろう?」
「長くならないといいんだけど。心配だわん」
「頭を低くしたほうがいいと思うのにゃ。多分、お説教に変わるはずにゃもの」
「なるほどね。低くすれば、頭の上を素通りかぁ。
うん。ナイスな考えだわん。早速、採用するわん」
小声でひそひそ話するウチらをよそに、ミストにゃんの話は続いたのにゃ。
「全くぅ。説明するってことが、教えるってことが、どれほど大変なことか判っているのかしら? 間違ったことを教えちゃいけない、ってことで常にお勉強。喋っている間は絶えず緊張しっ放しよ。気を抜く暇なんてありゃしない。それにね。時には多くの目に晒されることもある。真摯に教えを乞おうとする目だけじゃない。隙あらば、からかいや非難を浴びせようと待ち構えている目だってある。ストレスが溜まる一方なのよ。時には暴走したくもなるわ。なのにどうよ。世間様は一向に判ってくれない。教師は聖職者だから常に冷静でなければならない? 模範となって誰からも好かれる存在じゃないといけない? ふん。冗談じゃないわ。こちとらだって一皮むけば、ただの生き物。そんなの無理に決まっているじゃない。ちょっと考えれば誰だって判ることだわ。ねっ。そうでしょ?」
(あんた、いつから教師ににゃったのにゃん)
「あのにゃあ」
延々と続くであろう愚痴の嵐。それに巻き込まれるよりは、まし、ってことで、気が進まにゃいにゃがらも、『そろそろゲームを』と続けようとしたのにゃ。そしたら、ミーにゃんの小さい手が、ウチのほおを、ぽんぽん、と叩く。見れば、顔を、ぶんぶん、と横に振っているのにゃ。
「モワン。諦めたほうがいいわん。終わるまで放って置くわん」
「ミーにゃん。何度もいっているけどにゃ。ウチはミアンにゃ。
……にしても、どうにゃのにゃろ? あんにゃ風にちょっとばかし拗ねてみせれば、同情にゃいし理解が得られるのでは? とでも期待しているのにゃろうか?」
「かもしれないわん。けど……。本当にそうだとしたら、それこそお門違いというものだわん。苦労はあっても微塵もみせない。いつも笑顔で、のほうがはるかに感動するわん。『この先生ってタフだなぁ。すごいなぁ』みたいな」
「先生の行ない、って生徒への影響大にゃものにゃぁ。先生がグレれば生徒もグレる。逆に先生が一生懸命にゃら生徒も」
「ならアタシも、って気になるのにね。ミストんの話って、聞けば聞くほど、こっちまで投げやりな気分に陥るわん」
「そうそう。ウチにゃんてもう、半分やさグレ気分にゃよ。大体にゃあ。ウチみたいにゃ可愛くて可憐でおまけに清純派にゃネコに愚痴を聴かせてどうするっていうのにゃん?」
「アタシもアタシも。清く正しく美しくが売りの純真無垢な美少女だっていうのにぃ。もし、ここが人間の通う学校とやらだったら、『先生に生徒の気持ちなんか判ってたまるかぁ!』って、教室の机を片っ端から蹴り飛ばしているわん」
「まぁウチらがこんにゃ話をしてもしょうがにゃい……っていうか、ウチらといい、ミストにゃんといい、幼児同士とは、とても思えにゃい会話をしているのにゃあ。
まっ、それはともかくにゃ。
どうにゃろ? ミーにゃん。ちぃとばかし疲れてもいることにゃし」
「うん。このままだらだらと聴いているくらいなら、いっそのこと眠ったほうがいい」
「わけないじゃない!」
びくうっ!
ミーにゃんとの話に気をとられてしまったのと、『こちとらのお喋りにゃんぞ聴いているわけがにゃい』とたかを括っていたのが仇とにゃった。恐る恐る目を向けてみれば、そこには。
「ふにゃん!」「きゃわん!」
きっ、とこちらを赤い目で睨んでいるミストにゃんの恨みがましげ顔にゃ。
ウチとミーにゃんは思わず抱き合う。ビビリまくりにゃ。もはや眠るところじゃにゃい。
「あのね……。そういう態度だから、こっちもだんだんとやる気を失くすの。『なんで、こんな奴らに教えなくちゃいけないのよ』ってグレてもいくわけよ。判る?」
「は、はい! にゃん!」
「は、はい! だわん!」
「みんななにか思い違いをしているんじゃないかしら。教育の場っていうのはね。教師が生徒を育て、生徒が教師を育てるところなの。そうした相互依存の関係の中でお互いが成長していくものなのよ。違う?」
ウチらにはうなずくことしか出来にゃかった。もうたにゃたにゃ、早く話が終わればいい、とそれにゃけを切に願ったのにゃん。
「ふぅ。教わるほうがどんなに楽か。そりゃあエラそうに注意されたり、お説教されたりするのが気にくわないって思いも判らないではないわ。でもね。教えるほうにだってそれなりに気苦労があるのよ。大体、責任を取る、って意味からしても違うわ。教わるほうの範囲は小さいし、仮にそうなったとしても、軽微なもので済む。それに引き換え、教えるほうに課せられる責任の大きさっていったら、もう……」
このあともにゃ。『幼児に、こんな大っきな責任を背負わせていいのっ?』とか『大体、水の精霊の教育がなっていないからぁ!』とか、『そもそもなんでこんなことを幼児が頼まれるのよぉ!』とか、『どうしてわたしなのっ!』とか、そりゃあもうエキサイティングにゃ。永遠に続くんじゃにゃいかって思うぐらい。聴いているこっちの『気力』が……妖体にゃから『霊力』にゃ……が萎えてくる。ミーにゃんともども、ふらふら気味にゃ。このままでは、卒倒するのも時間の問題、と危ぶんでいたところ、話の内容が少しずつ変わってきたのにゃ。『それはね。わたしにも悪いところはあるかもしれないわ。たとえば……』にゃどと、自戒めいた言葉を口にした時から、声のトーンが低くにゃってきたのにゃ。『良ぉく考えてみたら、たくさん居る霧の妖精の中から、わたしを選んだってことは、取りも直さず、水の精霊が、わたしにそれだけの力があると見込んでのことよね。だとするなら、その期待に応えることこそが』と前向きの姿勢へと転じ、自分を困らせている水の妖精たちに向けての言葉も、非難めいたものから、応援みたいにゃものへと変わったのにゃ。
「……まぁいいわ。だからその分、教わるほうは失敗を恐れず、いろいろなことに勇気をもってチャレンジして欲しいとも思うわけよ。成功と失敗を繰り返すことに依って、やがては立派な…………はっ!
わたしったら、なにを熱心にお喋りしているのかしら……」
ミストにゃんは、我に返った、といわんばかりの顔を。
(おっ。これは……ひょっとして期待出来るかもにゃ)
「ごめんなさい。わたしの管理下、でもないんだけど、臨時的に水の精霊から、しばらくの間、『水の妖精』たちの面倒をみてくれって頼まれたの。これがまぁ水のあるところなら、必ずごちゃごちゃといるのよ。それでもって、いっつも仲間同士で、べちゃくちゃぺくちゃ。こちとらのいうことなんかこれっぽっちも聴きやしない。それでイライラが募っちゃったの」
「へぇ。ミストにゃんも大忙しにゃ」
「おまけによ。前にもいったと思うけど、ミリアが相も変わらず、新規のサークル……くっだらないものばっかだけどね……を考えては、わたしをしつっこく誘うの。もうイライラは増すばかり。ふぅ。これじゃあ、愚痴っぽくもなるわね」
このあとにゃ。ついに待ちに待った言葉が。
「さてと。愚にもつかないお喋りはここまで。早速ゲームといきましょうか」
どれほど聴きたかったか。目がウルウルするぐらいの感動が心に込み上げてきたのにゃ。
(ああぁぁああ、やっと終わったのにゃん!)
「ミーにゃん!」
「モワン!」
ひしっ。
ウチらが涙にゃがらに抱き合ったのはいうまでもにゃい。
「じゃあ、始めるわね。一瞬で片づけてあげる」
空恐ろしげにゃセリフをのたまうにゃり、ミストにゃんは青緑色の地面を蹴って、ジャンプ。勢いを駆って羽ばたいたのにゃ。会話の時よりもちぃとばかし離れて、見上げる高さも斜め45度ぐらいと、『見上げる』という言葉にちょうどいい高さになった頃、霊技を発動させると思われる呪の言葉が口から紡ぎ出されたのにゃ。
「秘儀。死霧の舞」
ぱっ!
ミストにゃんは、たくさんの細かにゃ水滴状の姿へとその身を変えたのにゃ。本物の『霧』と見紛うぐらいのそれは、今にもこちらへと降り注ごうとしている。にゃもんで思わずウチは。
「危にゃい!」
ミストにゃんの霧は、自身さえその気にゃら霊体をも溶かす『溶解水』とにゃるのにゃ。今回は気を失わせるのが目的のはずにゃから、そうはにゃらにゃいと思うのにゃけれども、万が一のことにゃってある。ウチも直ちに、でっかくて平べったい壁へと変化。ミーにゃんの盾として、襲ってくる霧の前に立ちはにゃかったのにゃん。
「モワン」
「大丈夫にゃよ、ウチが守……おっとと……守るのにゃん」
姿見としては、そうにゃにゃあ、ネコ人型モードで大っきくして、胴体部分を縦に長四角にゃ壁にした、といったところにゃ。身体の色は変わらじ。頭や足、それに尻尾にゃって、ちゃんとついているのにゃけれども、これらはどれも引っ込めることが出来るし、やろうと思えば、胴体のありとあらゆる場所に移動出来るのにゃ。
(まっ、化けネコにゃもんで)
ウチは今、背中の真ん中辺りから、ぴょこん、と顔を出してミーにゃんと話をしているのにゃ。胴体の大っきにゃ割には後ろ足が短く、それでいて、ぶっといわけでもにゃいことから、いささかバランスが取りにくい。にゃもんで風も吹いていにゃいのに、ゆらゆらとゆれる始末にゃ。
(まっ。足が短いのもネコにゃもんで)
とほほ。事態はまさに最悪のケースとにゃってしまった。
音もにゃく霧はゆっくりと、そして余すところにゃくウチを濡らしていく。でもって、濡れたところが、たらぁりぃ、たらぁりぃ、と溶け出してきたのにゃ。
「溶解水にゃん! ミストにゃんは本気にゃ。もうダメにゃん!」
左足は既にべたべた状態。普通に立っているつもりでも、実際は、ぐらぐらっ、としているのにゃ。右足にゃけでは到底でっかい胴体を支え切れず、ってことで、ついには、うつ伏せに倒れてしまう。
ばたあぁん!
痛覚は切ってあるから、痛みはにゃい。でもにゃ。身体に沁みついた溶解水のせいにゃろうか。身体全体に、にゃにかが重くのしかかっているようにゃ感じにゃのにゃ。
(これじゃあ、身動き一つ、取れやしにゃい)
「あっ、モワァン!」
倒れたウチのそばにしゃがみ込むミーにゃん。
「大丈夫? しっかりぃ! しっかりするわん!」
今にも涙ぐみそうにゃ顔でウチをさすっている。
不思議にゃことに、ウチの身体が次第に軽くにゃってきた。
(どうしてにゃん?)
首にゃけを、くるっ、と回してみれば、霧の雫がウチから次々と離れていくのが目に映ったのにゃ。これらは、空の一点に集結。翅人型の妖精の姿へと変わっていく。
すたっ!
「どおぉ? ミーナ」
元の姿に戻ったミストにゃんが地面へと降り立ったのにゃ。
「判ってくれたかしら。わたしに逆らってもムダだということが」
不敵にゃ笑みを顔に浮かべて、一歩一歩、ゆっくりとミーにゃんに向かっていく。
「心配しなくてもいいわ。あなたやミアンを滅ぼす気なんて、これっぽっちもないもの。
欲しいのは霊力。とはいっても、『全部を差し出せ』みたいな無茶なことをいうつもりは毛頭ないわ。わたしが、『これくらいは』と思う分だけ手に入れば、それで十分なの」
「モワンは? モワンはどうなるわん?」
「大丈夫。わたしの霧はね。霊体の身体を溶かすことも修復することも出来るの。あなた方が霊力をくれるっていうなら、あっという間に治してあげる。約束するわ」
ウチは倒れたままでも気を失ってはいにゃい。
(ミーにゃんは返事に困るのにゃろうにゃ。どうしたらいいか判らず)
そう思いきや、間髪容れずに、
「判ったわん。モワンを治してくれるなら、喜んでアタシの力をあげるわん」
(ミーにゃんっ!)
嬉しかったのにゃ。ミーにゃんの心が。ウチを思ってくれる優しい心が。
(よぉし。こうにゃれば、ひと踏ん張りにゃ)
ミーにゃんの言葉に奮い立つ。幸い、左腕と右足はにゃんとか使えそうにゃ。
『それなら』とミストにゃんがウチに右手をかざそうとする寸前、
がばっ!
不安定にゃ身体をにゃんとか起こすと、ふたりの間に割って入ったのにゃ。
「ミストにゃん。そうはさせにゃいにゃよぉ!」
「今更なにを……うぎゃ!」
ミストにゃんの態度がみるみる間に変わっていく。優越感に満ち溢れていたのが一転、恐怖におののく姿へと。
「きゃあああ!」
「きゃあわあああん!」
(あれっ? ミーにゃんまで)
ふたりがそれぞれ前後しにゃがら競い合うように飛んでいく。
(にゃんにゃろ?)
ふと下を見れば、ミーにゃんかそれともミストにゃんか、どちらのかは判らにゃいのにゃけれども、鏡が一枚落ちていたのにゃ。
「やっぱり女の子にゃ。さてと。ウチは一体どうにゃって…………ふにゃん!」
見にゃければ良かった。全身、ありとあらゆるところが、溶けて爛れていたのにゃ。でもにゃ。一番ショックにゃったのは……首から上にゃん。
そこに見慣れたウチの顔はにゃかった。顔にゃったものが全面に爛れていて、もはや原形を留めにゃいまでに。
「う……ううっ……うわんにゃ! うわああんにゃ! うわああんにゃ!」
あまりの現実を目の当たりにして、ウチは慟哭の涙に沈む。
誰かにすがって泣きたい。にゃのに、周りには誰ひとりとして居にゃい。もちろん、ネコダマを呼んでミクリにゃんを出すことは可能にゃ。ウチもそうしたい。でもにゃ。こんにゃ姿は誰にも見せられにゃい。見せたくにゃい。にっちもさっちもいかず、今ウチに出来ることっていったら、泣き叫ぶことが精一杯にゃ。
「うわああんにゃ! うわああんにゃ! うわああぁぁんにゃああ!」
やがて涙が枯れ始め……そして激高。無念の思いをぶちまけたのにゃん。
「おおぉ!
ウチの……ウチの……、かつて絶世の美少女と謳われ、『年頃ににゃれば求愛の男子が引く手あまた』との折り紙つきにゃったウチの、ウチの美貌がぁっ!」
と、そこへ。
びゅうぅぅん!
「デタラメこいているんじゃないわん!」
ぼがっ!
いつの間にか戻ってきたミーにゃん。お得意のツッコミと同時に、これまたお得意の脳天蹴りをウチに浴びせたのにゃん。
くらくらっ、としにゃがらも踏ん張って、
「ウソじゃにゃいもん! ウチのお父にゃんやお母にゃんにゃって、夢に現われた予言者のクレオPにゃんにゃって、そういってたのにゃもぉん!」
ウチの気迫のこもった叫びに対して、あろうことかミーにゃんは呆れ顔にゃ。
「クレオPって……。どこのごみ箱から拾ってきた名前よ。
そもそも親と夢じゃ説得力の欠片もないわん!」
(ミーにゃん。あんた……)
『親と夢じゃ説得力の欠片もない』。この言葉を聴いた途端、ウチの心に劇的にゃ変化が訪れたのにゃ。興奮が静まると同時に、心配ににゃってきたのにゃん。
「にゃあミーにゃん。ひょっとして、イオラにゃんと喧嘩でもしたのにゃん?」
「えっ。どういうこと?」
「ミーにゃんにゃって可愛いとか綺麗とかいってくれるのは、イオラにゃんぐらいにゃもんにゃろ? にゃのに、親のいうことが説得力に欠けるっていういい方はどうもにゃ」
「ち、違うわん。誤解しないで欲しいわん。アタシがいいたかったのはね。
評価はあくまでも第三者。客観的じゃなきゃダメってことよ」
「じゃあ、ミーにゃんは他に誰かいるのにゃん?」
ミーにゃんはちょっとうつむき加減で、指を折る真似をして、
「そりゃあ、モワンとか、……モワンとか、あと……モワンとか」
(そういってくれて嬉しいことは嬉しいのにゃけれども)
「ウチとミーにゃんは一緒に暮らしている間柄じゃにゃいか。
それではとても第三者とはいえにゃいのにゃよぉ」
「それは……そうなんだけど……はっ!」
ウチの顔に視線を合わせた途端、にゃにかを想い出したみたいにゃ。
「んもう! 顔が怖くなったから、大急ぎで逃げている真っ最中なのよ。なのに、非常識にも話しかけてきたりしてぇ。これ以上、忙しくさせてどうしようっていうの?
少しはこっちの身にもなって欲しいわん!」
ぶっきらぼうともいえる捨て台詞を残して、ウチの親友は直ぐにまた飛び去っていったのにゃん……と思ったら。
「忘れていたわん! これはクレオPの分だわん!」
ぼがっ!
今度の飛び蹴りはウチの後頭部にゃ。脳天とは違ってダメージは至って少にゃい。でもにゃ。代わりに、といってはにゃんにゃのにゃけれども、頭の上に『?』の文字が。
「ミーにゃん!」
またもや直ぐに飛び去ろうとする親友に急いで疑問をぶつけたのにゃ。
「前方へと真っ直ぐに飛んでいったはずにゃのに、どうしてウチの後ろから来られるのにゃん!」
「んもう! そんなことでいちいち呼びとめないでっ! 地球は丸いわん!」
「地球ってにゃんにゃ! 丸いからにゃんにゃっていうのにゃん!」
「そんなの知らないわん!」
にゃあんか、ひっちゃかめっちゃかにゃ会話にゃ。所詮、興奮気味のミーにゃん相手にまともにゃ会話が成立するはずもにゃし。加えて、ミーにゃんに蹴りを入れられたことで、ウチも、かっか、としていたのに違いにゃい。文句をいうつもりが、気がついてみれば、自分でもわけの判らにゃいことを懸命に口走っていたのにゃん。
でもにゃ。時既に遅し、というか、聞く耳持たず、というか、ミーにゃんは、はるか遠くへと飛んでしまっている。残されたのはウチひとりにゃ。蹴られた頭が今頃ににゃって、ずきずき、と。『痛い』とかいうのじゃにゃい。にゃにかが頭の中にめり込んでいくようにゃ感覚にゃのにゃ。
(こんにゃ目に遭わされて、ひとりっぽっちにされて)
我が身を振り返ったら、にゃんか悲しくにゃってしまったのにゃ。
(悪い頭がもっと悪くにゃるにゃあ)
身体も心もぼろぼろにゃ。もう情けにゃくって情けにゃくって。
「うわああぁぁんにゃあああ!」
ウチは空飛ぶ絨毯へと変化。泣きにゃがら全速力でふたりの跡を追ったのにゃん。
必死の力というものは『アホ』……本来は別の二文字を当てるところにゃのにゃけれども、もっと柔らかにゃ表現にしたかったもんで……に出来にゃい。あっという間に加害者のそばまで近づいたのにゃん。
「ミストにゃあん! にゃんてことをしてくれたのにゃああ!」
「きゃあああ! 来ないでぇぇ!」
「来ちゃダメだわああん!」
逃げにゃいでいいミーにゃんまでが一緒ににゃって逃げているので、いささか、ややっこしい。ほとんど潰れた両目では、微かに、ぼぉっ、と見えるにゃけ。おんにゃじ翅人型の妖精では、どっちがどっちか判らにゃいのにゃ。興奮気味にゃ今、霊覚も使いにくい。そこで視覚を補う意味で音感と、あと、運も頼りに飛びかかることにしたのにゃ。
(もし、ミーにゃんにゃったら、ごめんにゃ)
ぎゅうぅん!
スピードを加速。狙いを定めたほうが気配を感じたのにゃろう。振り返った……ように見えたのにゃ。
「あり得ない。このわたしがつかま……いやあぁぁっ!」
(『アタシ』でも『わん』でもにゃい。ということは……、
うんにゃ。ミストにゃんににゃ。ミストにゃんに間違いにゃい!)
恐怖の為にゃろう。声が引きつっている。悲鳴も聞こえた。冷静さを欠いているのは一目瞭然。これではもう、『死霧の舞い』はおろか、どんにゃ霊技も使えにゃい。
ぼわぁっ!
もごもごもごもご。
絨毯化したウチの身体に、すっぽりと包まれたのにゃん。
「ミストにゃん! ウチの美貌と身体を元に戻すのにゃん!」
くるまっている霧の妖精を上から覗き込む。ウチに気がついたのにゃろう、向こうも見上げた……風に見えたのにゃ。
「身体はともかくとして、美貌?」
いかにも、解しかねる、といいたげにゃ。
「ミアン。こういっちゃあなんだけど、あなたの顔なんてネコ十匹に会えば、三匹ぐらいは必ずそっくりさんが……」
全然ネコを判っていにゃい物言い。友にゃちに選んだのは失敗にゃったかも、と思った矢先にゃ。失言……と思っているかどうかは別としてにゃ……を取りつくろうかのように、こんにゃ言葉もつけ足したのにゃん。
「ああでも……、これだけふっくらとした重厚な毛並みはないわね」
そばに飛んできたミーにゃんが、ここぞとばかりに口を出す。
「もわんもわん、っていうの。だから、名前もモワン。ねぇ、モワン」
「ミーにゃん。ウチはミアンにゃ」
にゃにしろ生まれたその日から、ウチの背中に目をつけて、『もわんもわん』といいにゃがら、ごろごろごろごろ。矯正するにはまにゃまにゃ時間がかかりそうにゃ。
ミストにゃんが、ふぅ、とため息を突く。
「判ったわ。あなたがそのままじゃ、ゲームもへったくれもないし。
暗くてイマイチ良く判らないけど、一体どれくらい…………きゃああああ!」
逆光で見えにくかったらしい。にゃもんで、光が少しでも多く入るように、と顔を引いた途端、このざまにゃん。
(ウチの顔を見て悲鳴を上げるにゃんて……。失礼にもほどがあるのにゃ)
惜しいことにミストにゃんは、そのまま、がくっ、とはいかにゃかった。それでも、腰が抜けて動けにゃいといった様子。『このままじゃ、闘うどころの話じゃない』とでも思ったのにゃろうか。こんにゃ提案を口にしたのにゃ。
「どう? 今のは引き分けとしない?」
かにゃりの見栄っ張りみたいにゃ。
「そんにゃあ。どう見たって」
「ミストん。あなたの負けだわん」
ウチら抗議にうなずくミストにゃん。『その代わり』とウチを指差し、交換条件を持ち出してきたのにゃん。
「ミアン。あなたの身体を治してあげるわ。今直ぐによ」
(やったにゃん!)
ウチはもちろんのこと、ミーにゃんも自ら進んで、『引き分けでいいわん』と同意してくれた。霊体ではあっても、実体波や霊体内に沁み込んにゃ溶解水を取り除かにゃいかぎり、復元にゃんてとてもじゃにゃいけど、覚束にゃいもの。
ミストにゃんが右手をかざすと、手のひらから霧が発生。ウチの身体へと降り注がれたのにゃ。すると……、まるで夢でも見ているようにゃ。溶け落ちた部分や爛れた部分がみるみる間に修復。たちまち元通りの姿にゃん。
「はい、モワン」
親友の手には、きらり、と光るものが。
(これってミーにゃんのにゃったのかぁ)
お目目も今は、ぱっちり、と見えている。
手渡された鏡を覗き込みにゃがら思わず感涙にむせぶ。
「おおぉ!
ウチの、かつて絶世の美少女と謳われ」
ぼがっ!
「ふにゃん!」
「同じセリフを吐いて嬉しがっているんじゃないわん!」
……ミーにゃんの脳天蹴りは相も変わらず痛かったのにゃん。
「これで貸し借りなし。次のゲームこそが本当の勝負よ」
そういうとミストにゃんはちょっと屈んで自分の真下、青緑の、まるで湖の中でも見ているようにゃ色合いが拡がる地面へと両手をかざしたのにゃ。
ぼこぼこぼこぼこ。
たちまちミストにゃんの視線の先には小っちゃい小っちゃい噴水が。それはあっという間に一つの形を為す。円錐を逆さまにした、に近い格好で、下側のど真ん中には『先のとがった芯』といったものが突き出ているのにゃ。
「はて? コマみたいにゃけれども」
「水で造られたからかな。透明で綺麗だわん」
ウチらが話し合っていると、ミストにゃんからこんにゃ声が。
「氷ゴマよ。わたしが『開発』したの。これで勝ったも同然。ふっふっふっ」
『開発』に強いアクセントが。いかにも自慢げにゃ。『どう? 自分は天才なのよ。参った?』といわんばかりで少々うざったい。にゃもんでアラを探してみる。
(ええと……そうにゃん!)
「割と小さいのにゃあ」
それもそのはずで、ウチの前足のひらサイズにゃん。
(あれにゃら、ちょっとばかし、でかいのをぶつけるにゃけで……ああでも)
「ミストにゃん。ウチらには相手をするコマにゃんて」
『にゃいにゃよぉっ』と続けようとしたところにゃ。『待って、モワン』とミーにゃんにとめられたのにゃん。
「あれくらいの大きさなら、確か持っていたはずだわん」
がさがさ。ごそごそ。
お布団の時もそうにゃった。ウチに、『見ちゃダメだわん』といって、後ろ向きでにゃにやら秘め事を。
「ええと……これ、これだわん!」
見れば、ミストにゃんとほぼおんにゃじ大きさ。木造りのコマにゃ。上側の丸い面には赤や青の輪がぐるぐると描かれていて、側面は青一色。でもってそれから下、斜めに削られている部分と芯は木の色のまま白っぽい。不思議にゃことに、このコマを見ていると、『古き良き時代』というキャッチフレーズが思い起こされてにゃらにゃい。
「ミストん!」
ミーにゃんはコマを高く掲げる。
「アタシはこれで勝負だわん!」
「どうぞ。誰の挑戦でも受けるわ」
ミストにゃんの妖しげにゃ赤い目が、きらり、と光ったのにゃん。
ぴきぃぃん!
話をしていたミーにゃんの後ろにゃ。地面の一部が光った、と思ったのも束の間、光が消えたあとには、丸く氷が張られていたのにゃ。
「この氷面がコマの闘技場よ。気に入って頂けたかしら?」
コマを回すにはコマ紐も必要にゃん。ミーにゃんが手にしているのは、植物の茎と思われる細いものを何本もねじり合わせた白っぽい代物。片っ方の先端は端に近づけば近づくほど、細くにゃっている。でもって、もう片っ方はといえば、結び目があってそこから先は緑色に彩られている。ねじられていはいず、ぼぉぼぉと真っ直ぐに伸びているのにゃ。
このコマ紐を、ミーにゃんは本体にぐるぐると巻きつけたのにゃ。それが終わると、紐の終端部分……緑色のほうにゃ……とコマを右手でつかむ。『あれでどうやって回すのにゃん?』と思って良く良く見れば、コマと紐を握る指がそれぞれ違う。
「準備OKだわん!」
「そう。だったら、そちらから始めてもいいわ」
ミーにゃんはコマを持っていにゃい左手に、ぐぐぐっ、と拳を造ると、自分の心を奮い立たせんとばかりに力強く叫んにゃのにゃ。
「アタシが勝つわん!」
ミーにゃんがミストにゃんに闘争心みたいにゃものを燃やしている一方で、じゃあ、ウチは? といえばにゃ。
「るんるん。るんるん。にゃんにゃん。にゃんにゃん」
(今度の闘いは気楽でいいにゃあ。高みの見物。ゆっくりと楽しもうにゃん)
ついさっきまでの哀れにゃ自分とは、もうおさらば。
毛づくろいをしにゃがらの観戦にゃ。
「どちらも負けるにゃあ!」
るんるん気分で、つい口にしてしまった言葉。闘おうと身を乗り出していた当事者ふたりが同時にこちらを振り返ったのにゃ。
「そんな勝負はないわ」
「アホだわん。ゲームといえどもこれは『勝負』よ。『勝ち』か『負け』しかないわん」
(にゃるほろ。でもにゃ)
「さっき、『引き分けとしない?』『引き分けでいいわん』っていったのは誰にゃん?」
「…………」「…………」
両者、口をとがらせて黙りこくっている。恨みがましい目をこちらに向けて。
束の間、ではあったのにゃけれども、ウチは勝利者気分を味わえたのにゃん。
とまぁ、ここまでは良かったのにゃけれども。
るんるん気分で毛つくろい。おっさん座りで後ろ足を上げてなめていた時にゃ。
びくん!
にゃにやら毛を逆立てるようにゃ異様にゃ雰囲気が。どこからと探せば、真っ正面に居るミーにゃんとミストにゃん。にゃんと、こちらを振り返っているふたりの姿が、最後に目にしたまんまにゃ。全然変わっていにゃい。どちらも怒りを含んでいるかのようにゃ険しい顔つきにゃ。
(これはまずいのにゃん。ええと……あれでもやってみるのにゃ)
苦肉の策、ってわけでもにゃいのにゃけれども、ウチは慌てて四本の前足を身体に追加したのにゃ。でもって、しゃがんにゃ姿で、『見ざる』『いわざる』『聞かざる』のポーズを。するとにゃ。『ぷふっ』とミストにゃんもミーにゃんも吹き出してくれた。おかげで張り詰めた空気が一気に解消。ウチは、ほっ、と胸を撫で下ろしたのにゃん。
にゃんのかんのしにゃがらも、ゲームは始まったのにゃ。
ミーにゃんがコマを放り投げるように指から離す、と同時に、握っていたコマ紐を、ぐっ、と引いたのにゃ。自由の身とにゃったコマは、芯の先が氷面に届くと、さも嬉しそうに、くるくるくるくる回り出す。
お次はミストにゃん。氷面に突っ立ったままのコマに手をかざすと、まるで命令でも受け取ったかの如く回り始めたのにゃ。回転速度はどちらもおんにゃじくらい。ひょっとしたら熱戦が繰り拡げられるかも、とちょっぴり期待してしまったウチにゃのにゃん。
ぎゅん! ぎゅん! ばじっ!
ぎゅん! ぎゅん! ばじっ! ぎゅん! ばじっ!
回っている二つのコマは、『ぶつかっては弾き飛んで。弾き飛んでは戻って。戻ってはぶつかって』を延々と繰り返していたのにゃ。不思議にゃことに回れば回るほど、ミストにゃんのコマが大きくにゃっていく。そしてついには。
ばじっ!
ころころころ。
「ああっ! やられたわん!」
残念。相手のコマの大きさと威力にあえにゃく吹っ飛ばされてしまったのにゃん。氷面に力にゃく転がって、ぴたっ、と、とまった様子は、まさに敗者の姿にゃ。
「ふっふっ。わたしの勝ちね」
両手を腰に当てての勝利宣言。いかにもご満悦といった表情にゃ。上から目線にゃのはにゃにも、『高いところに浮かんでいるので』とかの、要するに単純にゃ位置関係が理由じゃにゃい。勝利者が敗者を見下しているのにゃん。
(ミーにゃん。さぞや悔しいのに違いにゃい)
親友の心中を思えば、心が痛むばかりにゃ。
(にゃんていって慰めたらいいのにゃろう?)
悩める化けネコ、ウチの耳に聞き慣れた声が届く。
「まだまだぁっ。勝負はこれからだわん!」
「ミーにゃん!」
顔を見れば、闘志満々といった表情。ミーにゃんの気迫に圧されたのか、ミストにゃんの顔は困惑げにゃ表情に変わっている。
「まだやる気なの?」
「当然だわん」
「そう。まぁ続けたいっていうなら、こちらも受けて立つわ。
でも……闘わせるコマはあるの?」
(そこにゃのにゃよ、問題は。さぁてと。ミーにゃんの返事は?)
耳を澄ましていると、これまた当然といった調子で、
「もちろん、あるわん」
そういうとミーにゃんは、高みの見物を決め込んでいたウチを振り返ったのにゃ。
「ここにぃっ!」
(にゃ、にゃんと!)
本気にゃった。ウチを指差すミーにゃんの目には、めらめらとリベンジの炎が燃え上がっていたのにゃん。
「にゃんでこんにゃ格好に?」
今はネコ人型モード。頭を下げて自分のお腹を見てみる。さっきとは較べものににゃらにゃいほどの大っきにゃコマ紐で、ぐるぐる巻きにされているという、にゃんとも、みっともにゃい姿。例によって例の如くミーにゃんが、がさごそ、して探し出してきた品にゃ。色は最初のとおんにゃじ。でもにゃ。『良くもまぁこんにゃのあったにゃあ』って感心するくらい、ぶっといのにゃん。
心の準備はおろか、説明さえも、すっ飛ばして、あれよあれよという間にこの姿。ウチは、自分の運命を自分で決められにゃいネコと化しているのにゃ。
(とほほ。情けにゃいのにゃん)
ともあれ、ミーにゃんは勢いづいている。
「これが答えだわん!」
そういうや否や、手にしたコマ紐の端を引っ張ったのにゃ。一方、それを見届けたミストにゃんも氷ゴマを回し始めた。
(にゃ、にゃんと!)
先ほどとは桁違いの速さにゃ。みるみる間に氷ゴマは大きくにゃって、もうウチとおんにゃじぐらいの高さ。幅もそれにゃりにあるのにゃ。
「ふふっ。やっぱり、私の勝ちね。さぁ氷ゴマよ。ミアンにトドメを刺しなさい!」
これまた、『了解しました』といわんばかりにこちらへと近づく氷ゴマ。既に大きさもスピードもウチをはるかに凌ぐ。
(あんにゃのを食らったらぁ……。どうか、あっちへ行ってくれにゃあ!)
避けたくても、くるくると回る身体がそれを許してくれにゃい。にゃらば氷ゴマにと、儚い願いを抱くのにゃけれども、ウチに向かってくるのは変わらにゃい。それどころか、相手ゴマの芯が氷面を削って、氷の破片をこちらへとぶつけてくる。更にゃる恐怖を煽り立てるのにゃ
(ダメにゃん! こっちに来にゃいでくれにゃあぁん!)
「来るにゃ! 来るにゃあ!」
願いはついに口からも。でもにゃ。呼べど叫べど、二つのコマは近づき合う。まるで、『これが運命にゃ』といわんばかりに。
そして……今、氷ゴマは目の前に。
「ぶ、ぶつかるのにゃあ!」
ウチは思わず目を瞑る!
どがっ!
ぱりぃぃん!
「…………ふにゃ?」
ぱちくり。
目を見開けば、砕けたのは氷ゴマのほう。ぶつかった衝撃は大きかったのにゃけれども、ウチがこらえ切れにゃいほどではにゃかったのにゃん。
「きゃ!」
逆に被害に遭ったのはミストにゃん。氷ゴマの破片をまともに受けたのが原因にゃろう。どん、と尻モチを突いたのにゃ。でもにゃ。被害はそれにゃけに留まらにゃい。ふらふらにゃがらも立ち上がったところへ、今度はウチの大回転が近づいたのにゃ。氷面を越えて青緑色の地面に入ったものの、回転力が強すぎて自分ではとめられにゃいのにゃん。
「きゃあああ!」
逃げようと慌ててウチに背を向けた時点で、運命は決まってしまったのにゃん。
ぼがっ!
尻にぶつかって、吹っ飛ばされるという喜劇を演じたのにゃ
「あれええええっ!」
にゃんとも、あっけにゃい幕切れ。
ここが通常空間にゃら、こんにゃ締め括り方で終わったのに違いにゃい。
『……そして彼女はお空のお星様となったのです』
しばらくして地面へ、どがっ! と墜ちたミストにゃん。ぐったり、としていにゃがらも命に別条はにゃいみたい。口がもごもご動いている。にゃにやら、うわ言を喋っているようにゃ。ちょっと気にかかったので、耳を近づけてみる。するとにゃ。
「どうして……ふふっ。そうね。
見た目がどんなに大きくなろうとも、所詮はガラスの身体。当たれば砕け散る。
ミアンのエクストラ・ダイナマイトボディには遠く及ばなかったというわけね」
「ダイナマイトボディって……まぁそれはそれとしてにゃ。
これって氷にゃろう?」
「ふふっ。お願い、ミアン。これ以上、わたしを傷つけないで」
「うん? ミーにゃん、どういう意味にゃろう?」
「そうねぇ……。なんとなく気持ちは判るわん」
「というと?」
「ほら。『氷の身体』っていうより、『ガラスの身体』っていったほうが詩的で素敵じゃない。それにさ。『冷たい』よりも『もろい』のほうが断然、乙女のイメージに、ぴったし、と思うわん」
「ぶふっ。『詩的で素敵』も素敵にゃ言葉にゃあ。
ああでもにゃ、ミーにゃん。暑い日のカキ氷もまた断然、美味いと思うのにゃ」
「うぅぅん。それもあるかぁ……。
やっぱり、これは難問の部類に入るわん。まっ、それはそれとして。
ねぇ、ミアン。カキ氷といえばシロップだわん」
「当然にゃよ。アレの味で全てが決まる、といっても過言じゃにゃいもん」
「全てはいいすぎだわん。使われる氷がどんな風にして造られたのかも大事よ。味わいとか硬さとかはそれで決まるもの。あとそれから、どんな削り機を使ったかもね」
「にゃるほど。そう考えていくと、どこで食べたか、どんにゃ天候か。どんにゃ容器に盛ったかも重要にゃファクターとにゃる気がするのにゃあ。
いやあ、カキ氷もにゃかにゃか奥が深いのにゃん」
「奥が深いのは初めっから判っているわん。
だからね。先ずはシロップに的を絞ってみようと思って。
いろいろとあるけど……。ねぇ、ミアンはどれが好みだわん」
「ウチはやっぱり王道のメロンにゃ。
トッピングに、生クリームが、くるくるっ、と乗っけてあるのはいうまでもにゃい」
「アタシも王道のイチゴかなぁ。もちろん、ミアンと同じ生クリームつきわん。
ねぇ、ミストんはどれがいい?」
「わたし?
わたしは、抹茶乗っけの、アズキ乗っけの、生クリーム乗っけの…………あらっ?
天空の村に『カキ氷』ってあったかしら……」
ばたん!
ミストにゃんは気を失ったのにゃ。自分、ウチ、ミーにゃんと、ひとり三役をこなして、わけの判らにゃい独り言を、ぶつぶつ、と呟いたあとで。
もっとも……、目を開けにゃがら気を失っているのは、ちょっと不気味にゃん。でもにゃ。おかげで一目見たにゃけで確認は終わった。予想違わず、目ん玉は浅緑色。ミストにゃんはメノオラから解放されていたのにゃ。有り難いことにゃん。
(一応、これも、めでたし、めでたし、ってことにしようにゃん)
氷の闘技場も、飛び散った氷ゴマの破片も、いつの間にか、消えていたのにゃ。
まるで全てが夢であったかのように。
思いがけにゃいことが。ウチの知らぬ間にネコダマが驚異の進化を遂げていたのにゃ。
ミストにゃんを放り込もうと、呼び出しをかけたところにゃ。びゅぅっ、とどこからともにゃく飛来して顔をきょろきょろ。ミストにゃんを見つけるや否や、これにゃこれにゃとばかり、口を下に向けて、ぱかっ、と開く。次の瞬間、ひゅうっ、と音を立てて身体を吸い込み、最後は、ぱくっ。
と、ここまでの動作を完了した途端、またいずこへともにゃく飛び去ったのにゃ。
(にゃんにもいっていにゃいのに)
気がついたら、唖然としたままでウチは、去りゆくネコダマを見送っていたのにゃん。
しばらくしてから、翅人型の親友がそばに飛んできたのにゃ。
「なにあれっ? 勝手に食べて勝手に飛んでいっちゃったわん」
どうやら、ミーにゃんも、ぼぉっ、と眺めていたみたいにゃ。
答えを返そうにも『なにあれ』はウチが知りたいくらい。でもにゃ。にゃあんとにゃく、『あれこそまさしくウチにゃん』と思い始めていたのにゃ。にゃもんで返す言葉は当然。
「面目にゃい」




