全年齢版だからほどほどにねっ
ミランダ=アーバントは天才であり、美少女であり、公爵令嬢でもある。
さらに悪役、いや爆薬令嬢でもある。
講堂で学園長の要点が解らない長々とした話を聞かされた後、クラス決めの紙が張り出された。
「友達はできるのかしら」
そのミランダの不安は、僅か数十秒後に解消される事になる。
「ミランダ嬢、初めてあった時からずっと好きでした!」
「……私の記憶が確かなら貴方とは今あったばかりだけど。お友達から始めましょう」
「ミランダ様、下僕にしてください」
「……下僕は間に合っています。お友達になりましょう」
「ミランダ、私の妹にならない?」
「私は長女なので甘えられそうにありません。お友達から」
「ミランダお姉様、私のお姉様になってください」
「私は末っ子なので甘えられるのは無理です。お友達になりましょう」
告白や勧誘をかわしつつ、クラスで席に座る頃には、全員の顔と名前を脳内エヴァーノー○に記録する。
ヒロインらしい外見の人がいない……。
「いないねっ」
「……消えたはずのカミカがなんで居るの?」
「ボク、ここでの設定は隣国のお姫様だからねっ身分をわきまえ……痛いよっ!?」
平手で頬を叩いたらカミカがビービーと騒ぎ始める。
「ごめんなさい、カミカが姫ポジで偉そうにしているのを見てついカッとなって……」
「まあ、許してあげてもい……痛いよ?」
カミカの手を抓りながら尋ねる。
「次に翼主人公が転生するまで来ないんでしょう?」
「うん、翼主人公が転生したからねっ」
「早ッ……成長して私の前に来るまでは十年くらいかしら」
「大丈夫だよっセント伯爵のご子息としてきちんと戻したから、すぐ会えるよっ」
「きゃっ、あれはセント伯爵の……」
「可愛いわね!」
モブ令嬢が騒ぐ先に目をやると……
「……」
可愛くなっていた……。
禍々しい漆黒の身体は、薄茶色に。日焼けした健康的な肌色だ。
翼が生えていた背中には、飾りのような二枚の羽があった。
濃い顔の男だったのが、可愛らしい美少女になっていた。
「おい、貴様!」
声のトーンも高くなっていた。
「どうしてくれる!鋼のような硬い身体も、魔力を高める術式もポイントが足りなくて転生するのがやっとだったんだぞ!」
プンプンと怒る翼主人公。
「貴様ではなく、ミランダよ」
そっと手を伸ばすと、さっと距離をとりビクビクと震える翼主人公。
やだ、何これ可愛い……。
「さ、触るな!も、もう一回殺されたら今度は転生できないんだからな!」
怯える翼主人公にそっと手を伸ばしてみる。
「……カミカ、どういう転生をしたの?」
「翼主人公のデフォルト能力転生、チート無しだねっ君に怯えてたから爆発しないようにって女性に変更してるよっ」
女体化!?
TS娘きた!
「や、やめろ寄るなミランダ……僕はもう力があんまりないんだからな!」
翼主人公の頭を撫でまわす。ふわふわな手触りの良い黒髪だ。
「何で頭を撫でてるんだ!」
翼主人公の顔をペタペタと触ってみる。もちもちした柔らかい肌質。
「触るな!」
翼主人公の胸を軽く揉んでみた。柔らかい。
年齢にふさわしいくらいの慎み深い胸の弾力性を確かめるように、押して反発を確認してみる。
「ひっ何をするこの変態め!」
「……カフカさん。私は悪役、いや爆薬令嬢。翼主人公を虐めればいいんだったよね」
「そうだよっ」
「い、いじめる?」
怯える翼主人公。なんという素晴らしいプレゼントだろう!
「それはハードな虐めでもいいのかしら?性的な物でもいいのかしら?」
「駄目だよっ全年齢版だから、緩い感じならオッケーだけどねっ」
不穏な発言をする私とカフカを振り払い、涙目で距離をとる。
「ミランダ、お前を僕の物にしてやるんだからな!バーカ!」
だん、と足をふみならすと、ふぇぇぇ、と情けない声をあげて走って逃げていく。
「がんばってねっ」
全年齢版か。全年齢版はどれくらいまで大丈夫だったんだろう。
読んでいただきありがとうございました。