悪役は務まるの?
公爵令嬢ミランダ=アーバンツは、一文で表せる
『天才美少女だ』と。
「ミランダ様は今日も可愛らしいですねえー。」
侍女のノピクは、鏡の前で私の髪を梳かしてくれている。
「あ、ありがと」
ノピクは黒目黒髪で私よりも四つ上のお姉さんである。
ノピクはアーバンツ家の親類にあたる子爵家の令嬢だが、私の世話役、侍女としてお世話をしてくれている。
ノピクは完全無欠な美少女だった。
十歳の私が幼女と少女の間を彷徨っている、子供カテゴリなのに対して、ノピクは胸も女性らしく膨らみ、活動優先の服もお姫様のドレスのように愛らしい。
「(可愛いな……触りたい)」
記憶の始まりが青い世界の私には前世の記憶は一切無い。知識も無い。
ただ知力を限界まで振った私に解る事がある。
ノピク(美少女)は正義だ。ステータスだ……。
「ミランダ様、可愛いねー。可愛いねー、可愛いですよー」
「……あ、ありがとう?」
ノピクが物凄く美少女なのは解るんだけど、自分の顔、自分の身体という事もあり、自分自信はそこまでの自覚が出ない。
可愛いとは思う。
可愛いとは思うんだけど、微笑みかけたら気絶する程ではないと思う。
まあ自分で自分に微笑みかけて気絶したら生物的におかしいと思うんだが。
美しい色の蛙が池の周りを飛ぶ姿を思い浮かべた。
池に映る自分の姿を見て、
「美しすぎるゲロー!?」
美しさのあまり気絶する。
おそらく、後は鳥が咥えて美味しく頂くのだろう。
私も気絶すれば、男達に違った意味で美味しく頂かれるのかしら?
「うん、考えてみると、自覚できなくてよかった。まるで餌になるための生き物だし」
「えー?ミランダ様、何か言いましたー?」
「……何でもないわ」
変なミランダ様ね、と髪を梳かすノピク。
髪を梳かしながら、私の顔や身体にさり気なく触るノピク。
おい……。
胸元は解る。
髪があるから。
ただ、髪の延長線上とも言えない足の間にノピクの櫛があたったり。座って安定しているのに腰を掴んでいる、というか揉んでいるのはどういう事だろう。
「の、ノピク?ちょ、ちょっと……?」
無表情なら全然問題無いのだけれど、肉食獣の目をして、ギラギラしている。
「ミランダ様、ハァハァ…何、何この感じ。これは恋、愛?ダメ、妊娠してしまいそう……むしろ妊娠しないかなーミラたんーかわいいよーーミラたんーー」
ボソボソと小声で意味不明な事を口走りながら私の身体を偶然から逸脱しない程度に触りまくるノピク。
顔を上気させ、時折、足を擦り合わせて震えている絵は、子供に見せていいのだろうか。
イメビでミリオンヒットするレベルのエロさがあった。
悪い影響を受けて育ちそうだった。
「やん、ノピク、も、もういいから」
「……そ、そうですかー。それではー失礼しますー」
ノピクが立ち去った後、私は
金髪碧眼、サラサラのストレートヘア。目は親譲りで吊り目がちだが、目が大きく可愛らしい猫のような印象がある。
体躯は細い。華奢でありながら、胸は程々に主張している。
「……ハイクオリティだな」
人形の様な美貌があった。恋愛感情を持てないが、自分がすごく可愛いのは解るんだが。テンションに任せて美貌を振ったけど、この美貌で何度も変態に攫われかけた事を思えば、マイナス属性になっているんじゃないだろうか。
「……さて」
悪役令嬢と言いながら、自覚が全くありません。まだ十歳なんだけど、縦ロールとか性格の悪さとかそういう物の片鱗が無い。
本当に悪役なのだろうか。ヒロインらしい人が来ても好かれる自信があるんだけど、悪役なんて務まるんだろうか……。
スキルを三つ振った影響か、女性ですらも恋に落とせてしまえる。一度、ノピクに意地悪してみたが、
「ミランダ様はツンデレですねー、可愛いー」
と言われてますます懐かれただけだった。
まあ、貴族スタートですし、何も無ければラッキーなんだけどさ。
そして私はノピクの梳かしてくれた髪の毛を弄び、感触を楽しんだ。
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