最初のスキルを選ぼうねっ
カミカが目を覚ましたのは、それから一時間後。
「スキルの使い方ー?」
カミカのテンションが戻っていた。
「じゃあ、ボクのスキルと使い方を教えてよ」
「えっと、ヨークのスキルは、魅了と隷属化と魔力技能だよっ」
魅了、隷属化の二言を聞いて、ヨークがぴくりと反応する。
「ふ、ふーん。魅了と隷属化ってどうやって使うの?」
興味なさそうに言っているが、目が輝いていた。
「魔力技能はパッシブだからそのまま。魅了と隷属化は口に出せばいいよっ」
ヨークが私の前にダッシュで移動してきた。
「ミランダ、ミランダこっち向いて!魅了!隷属化!痛いっ!?」
つい手が出てしまった……。平手で頬を叩くと、痛そうに転げまわっている。
「あー、ミランダは役持ちだからレベル上がらないと効果が薄いと思うよっ?」
「早く言ってよ!?」
「今のレベルなら動物くらいじゃないかなっ使って慣れるとミランダにも効くかも?」
ヨークが窓の外を眺め、外の犬に向かって言う。
「そこの犬、魅了!」
犬が走ってヨークの側へ寄ってくる。
そしてヨークの足でカクカクと腰を振り始めた。
「……ど、どうすればいいの?」
困ったようにヨークがカミカを見る。
「隷属化使ってみたらどうかなっ」
「隷属化、待て!離れろ!」
犬が指示に従って離れていく。
「便利そうね」
本心からの声が出た。モフモフの動物に愛され、命令を聞いてくれる。
手紙を鳥に運ばせたりといった、ちょっとした行動くらいさせられそうだ。
「ミランダ、あんまりボクを虐めると隷属化して全裸で土下座させてやるからな!痛いっ!?」
つい手が出てしまった……。後悔はしていない。
転げまわるヨークの頭を足で踏み、睨みつけて言った。
「全裸で土下座しなさい」
「……?」
「全裸で土下座しなさい」
「え、え……ご、ごめんねミランダ。ちょっと調子にのっただけで」
「全裸で土下座しなさい。服を脱ぐ動作をやめるとぶつわよ?」
「ひっ!?」
めそめそと泣きながらヨークが服を脱ぎ始める。
可愛らしいヨークがこっちを睨みながら顔を赤くして、少しずつ服を脱いでいく。
「くっ、魅了と隷属化スキルが上がったら同じ事をミランダにしてやるんだからな!」
「頑張ってねっ翼主人公はスキル成長率が高いから、動物を100匹くらい魅了と隷属化すればミランダに効くかもだよっ」
100匹か……。思ったよりも近いな……。
全裸で土下座しているヨークを眺める。
「覚えてろよ、ボクがスキルをあげたら全裸で寮を走らせてやるからな!」
ヨークは頭が悪いんだろうか……。
「全裸で寮内を一周してきなさい」
「……?」
「全裸で寮内を一周してきなさい」
「え、え……嘘、嘘だから。そんな酷いことは本当にさせる気なんてなかったし、強がりで」
「じゃあ、このフロアだけでいいわ。女性しかいないし、言うこときかないとぶつわよ?」
「ひっ!?」
めそめそと泣きながら、ヨークがこっちをチラチラ見ながらゆっくりドアへと向かう。
もしかして止めてくれるのを期待しているんだろうか。
何も言わないで睨む私に、ヨークはうわぁーん、と泣きながら出て行った。
「きゃっ、セント家のヨーク嬢よ!」
「全裸だわ!絵に写しとる魔道具を誰か持ってきて!」
「ちょ、ボクを見ないで!?撮影しないで!?ミランダ!覚えてろー!?」
モブ令嬢達がキャーキャー盛り上がっている声が響く。
「ねえ、カミカ。この状態異常スキル無効化って魅了と隷属化にも効果ある?」
「あるよっそれ付けるのかなっ?」
「じゃあ、まずこれを付けるわ」
数日後、傷だらけで犬や猫、小鳥を100匹従えたヨークが私の前に自信たっぷりで現れた。
レベルアップしたスキルが効かなくて、絶望したヨークは2日間、部屋の中で服を着ることを禁止させられたというのはまた別の話である。




