第十四話 幼年期の始まり
五歳になり、あたしも陽月さまと一緒に赤城の城下町にある、幼年学校に入学しました。
朝陽さまと暁姉上は、幼年学校の先輩になったけど、いくつかの教科は一緒に受けてるのよね。
基礎課程は入学年次にあわせて勉強しないといけないんだけど、基礎だけでは満足できなければ、選択過程を初年度から選んで勉強できるのよ。
幼年学校と言えど、通学する学生の年齢はバラバラです。
士族の場合は、五歳ごろから入学する子が多いんだけど、商家や農家の子供、あるいは先住の民の中には、十歳を越えてから入学する子供もいるみたい。
士族は幼年学校卒業後に、士官学校に入学して、卒業後は武官、あるいは文官として、自分の主君に仕えるようになるのが、ほぼ確定した進路。
士族の以外の子供は、高等学校や冒険者学校などに進学してさらに勉強を続けるか、職人の親方に弟子入りしたり、商家に見習いとして就職したりと進路は様々。
冒険者学校には興味があるんだけど、天城家の姫として産まれてしまった以上は、士官学校に入学するしか選択が無いのよね。
赤城国には、遺跡が沢山あるので、冒険者と言うか、トレジャーハンターみたいな人たちが沢山いるみたいなのよ。
実は、響母上は、士官せずに実家を飛び出して、冒険者として遺跡探索に挑んでいた時期があったとか。
響母上の冒険譚を聞かされると、あたしも興味が湧いてきたのよね。
巫女王はどうしたかですって?
あたしは、女の子を嫁にしたいんじゃなくて!
男の子のお嫁さんになりたいのよ!
天城家を継ぐのは、暁姉上にほぼ確定してるから、あたしは赤城家に直接仕える直臣になるという進路を選ぶこともできる。
と言いますか、もうアルバイトとして雇われてるんだけどね。
あたしが、一瞬で神鏡を修復してしまうほどの神通力の持ち主であることは、赤城のお殿さまに知られてしまったのよ。
青嵐おじいさまは立場上、お殿さまに報告しなければならなかったみたいで。
あたしの年齢で、高度な【月光加持】を使える神通力の持ち主は珍しいみたいで。
大けがをした人を治療したり、大事な物が壊れてしまった時などは修復したりと、神通力を使うたびに、皆に喜ばれてるのは良いんだけど。
【月光加持】の神通力は、あたしが努力して身につけたわけじゃないので、褒められても、むずがゆいだけなんだよなあ。
仕事ができれば、年齢に関係なく正当な報酬が貰えるみたいで。
年俸として、金貨百枚も支給されており。
城下町に流通している商品から、大雑把な貨幣価値を日本のそれに当てはめてみると、金貨一枚で日本円にして十万円。
五歳にして、年収一千万円ってのはどうなのよと思うんだけど、「有能なものこそ、最初から高禄で雇うのだ」と、お殿さまに言われてしまって、ありがたく頂戴してます。
流石に、五歳でこれだけの年収は持て余してしまうので、半分は月の女神さまの神社に寄付してるのよ。
女神さまのおかげで、これだけ貰ってるわけだから、半分ぐらいは差し出さないとね。
残りは、母上たちに預けようと思ったんだけど、「お金の使い方を勉強しなさい」と、受け取りを拒否されちゃった。
……五歳児に、年間五百万円も自由にさせるのはどうかと思うんですけど、異世界だからなのか、有力武家の姫だからなのか。
日本の庶民とは、金銭感覚が随分と違うようで。
仕方がないので、大半は貯金に。
無駄遣いする癖がつくと、収入が減った時に困るので、大きなお金を動かす時は、暁姉上に相談してるんだけど。
姉上もまだ七歳児なのよね。
五歳で年間五百万円も寄付している子供は、あたししかいないみたいで。
神社の皆さんからは、信仰心が篤い氏子として褒められてしまい、やはりむずがゆくて。
ぜひ、巫女王にと声をかけられるんだけど、あたしは信心深いわけでなく、女神さまのパシリと弟子を兼任してるだけなんだけどなあ。
幼年学校では、既に派閥が出来ていて、あたしは天城家の一族なので、天城派。
天城家に匹敵する名家である、葛城派。
本当は、天城と葛城に並ぶ名家だったけれど、今はちょっと落ち目の鳥海派。
鳥海派に代わり勢力を伸ばした、愛宕派の四つに分かれていて、年齢一ケタの子供達が、駆け引きしてるのよねえ。
あたしは、駆け引きとか苦手なので、暁姉上に面倒な話は丸投げしてます。
おかげで、暁姉上は、味方だと頼もしいけど、敵に回すとコワい人だということがわかっちゃった。
朝陽さまと、陽月さまは、別格。
当たり前よね。
赤城領内では、一番のお家柄なんだから。
各派閥は、二人にどのようにしてお近づきになるのかを争ってるみたい。
「朔の神通力のおかげで助かってるわ」
などと、暁姉上から、時々褒めてもらえるんだけど、赤城城で仕事する時ぐらいしか、神通力は使ってないのよねえ。
姉上は、あたしの力を何に利用しているのか、想像すると怖いので、考えるのは放棄。
三歳の七五三以来、毎晩欠かさず、右手にお祈りして、夢の中で女神さまの道場で、九頭龍の弟子として、何度も何度も殴り倒されるあたし。
ちなみに、五歳の七五三では、朝陽さまに合わせて、【豊穣の女神】の加護を得ている。
三柱の女神さまの加護を受けるようになったのだけど、月の女神さまの神通力以外は、今のところ使えるようになる気配は無く。
他の神通力は、やっぱり修行しないと身につかないのかしら?
起きてる時は、幼年学校の勉強と、神通力を使ったアルバイト。
寝てる時は、武術の修行と、実に充実した毎日だろう、と女神さまに言われてるので、「はい、喜んで」とだけお答えしてます。
忙しいので、他の女神さまの神通力の修行をしてる時間がないけど、まずは武術からと割り切ってる。
さて、今晩もお祈りしないと。
右腕にお祈りすると、右手の甲に、【月の女神】さまの神紋が浮かび上がる。
歪んだ五芒星の内側に、赤く燃える炎の目。
これが、月の女神さまの神紋。
……まったく月と関係なさそうな図柄なのは、なぜなのかしら?
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