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誰がタメにサク、百合と薔薇  作者: 石橋凛
プロローグ
1/78

E = mc2

 太陽を墜とし、豊穣の女神の末裔どもは、傀儡とした。


 もはや、われを阻むものなど、現れぬ!

 いざ、と鼻息荒く意気込む女神の行く手を遮るように、現れる二つの人影。

 人影から放たれる鋭い戦意を、女神は無視することが出来ず、歩みを止める。


 おかしい。

 有り得ない。

 何故、今更、この二人が?!


 煮えたぎる憎しみの炎を身にまとう、金髪碧眼の鬼。

 鬼と視線を合わせた女神は、些細ではあっても、自分が気圧されたことを自覚し、剣士よりも鬼を難敵と認識する。


 あの鬼の視線は、が身には毒にしかならぬと。

 汚毒は消毒せねばと。


 油断などあり得なかったにも関わらず、女神が鬼へと関心を向けた瞬間に、剣士が旋風のように舞いながら放つ、刺突、斬撃、殴打の嵐を、女神は確認するかのように見ながら、受け流し、再び歩み始める。

 

 女神と剣士の技量差は、隔絶している。

 剣士が攻撃してから、遅れて女神が反応しているかのように見えていても。

 剣士の剣先は、女神の身体を捉えることが出来ない。

剣士に先手を譲っても、後塵を拝することがないのだ。


 「何をしに来た!」


 女神の“髪”による奮撃を、剣士は大きく身体を開き、エビ反りになりながら、かい潜る。

 そして、返答代わりに、女神の首すじ目掛けて、剣先を振り落とす。


 「今更、今更、われに何の用だ!」


 女神も抜刀し、剣士の斬撃を弾き返す。

 もはや、人間には視認できない速度で、刃の応酬を始める女神と剣士。

 斬撃の余波は山を断ち、刺突は大地を穿ち、川は湖に、湖は海へとつながる。

 天空の雲は散らされ、月の輝きだけが、二人を照らしている。


 女神と幾重にも刃を交え、周囲の地形を根こそぎ書き換えるような激闘を続ける剣士の技量は、人間を超越している。

 セカイを救った勇者の肩書は、伊達ではないのだろう。


 だからこそ、だからこそ、女神には、眼の前の剣士を赦せなかった。

 超人的な剣士であっても、●●となってしまった、われを何故、救えなかったのか!

 やはり、やはりやはりやはり、この二人は、汚毒だ!


 二人、そう、二人だ。

 剣士との死合にキョウずるうちに、鬼への警戒が、わずかに疎かとなった。

 ヤツは、何をしている?!


 剣士の影から、ぬるりと這い寄る鬼の姿に女神が気がついた時は。

 もう、手遅れだった。

 鬼が裏返り、反物質と化したのを認識した女神は、全力での全周防御を選択。


 反物質は、接触したあらゆる物質と対消滅により爆発する。


 Eエネルギー=m(質量)×c(光速度)の2乗。


 異世界の女神が、特殊相対性理論など知るはずもなく。

 質量とエネルギーの等価性なども予想もできず。

 鬼の質量との等価交換から生まれる破壊力など、理解できるはずもなく。


 デタラメな爆発を認識しながら、女神の意識は、為す術もなく、闇に呑まれた。

 

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