カレーの作り方
「坂倉くんに料理を提供したいんです」
まさにリア充。付き合っている人のためにする奉仕。男子高校生だとしたら、そんな言葉を言われてみたい。
「でも、料理はあんまり得意じゃないの。坂倉くんの手前、美味しくない物を提供するのは良くないし」
迎は親友であり、クラスメイトの川中に料理の相談をしていた。
「いいなー。私もそんな手料理を提供したいよ」
「……川中さんって、その気になれば男性に提供できると思うけど」
迎は高校生にしてはかなり小柄。それがコンプレックスであるが、長身の坂倉はそーゆう可愛くて小さいところを気にいっていた。あくまで理想としたら、大人っぽさに可愛い顔もできる、川中みたいな容姿に憧れていた。
「大丈夫!愛さえあれば、美味しいって言ってくれるよ!」
「そ、そうかな?」
ポジティブなのは川中に本命がいないからだと思う。恋愛に疎い部類か。
「まず、作ることから始めよう!カレーとかどうかな?」
「が、学校に持っていくのにカレーはちょっと……」
「じゃあ、家庭科室でも借りちゃって当日に提供するとか!」
平凡普通小さい程度の人間である迎の恋を、全力で応援してくれる大天使の川中。性格に容姿が良いとくれば、学園の姫と呼ばれてもおかしくはない。
そんな2人の奮闘料理教室物語を、なんとなく聞いていたのは小悪魔ポジ。それから腐り過ぎたサキュパスといったところか。こいつ等2人に美味しい話が届いてしまっては、男共は阿鼻叫喚間違いなし。
「今の、聞いたかしら?嶋村」
「ええ。川中と迎が料理を作って。坂倉やその他に提供してくれるかもしれないという話」
ここの女子高校生のラスボス的な小悪魔、御子柴。男子×男子物には涎すら垂らす性別♀の魔物、嶋村。
美味しい物をより美味しくするためのアシスト。にしても、度が過ぎるレベルか。
後日、2人の楽しみを生み出すため、生贄を数人用意された。御子柴達と同じ男子クラスメイト。
「御子柴、その話は本当なんだろうな?川中さんのお料理を頂けるとはな」
舟 虎太郎。
「この前みたいな、嘘ドッキリだったらぶっ飛ばすぞ」
相場 竜彦。
「迎ちゃんがそんなことまで」
迎の恋人である坂倉 充蛇。
「しかし、川中さんの料理を食べられる話だというのに、どうしてカレー屋に?」
バスケ部エースでイケメンな上、高身長だけど興味あるのは男子だけ。四葉 聖雅。
4人の生贄はとあるカレー屋に呼び出しをくらった。無論、御子柴からである。
「全員の私服姿。とても美味しく拝見させてもらいますよー」
「嶋村。なんで写真を撮る?あと、涎が出ているし。四葉も俺と相場の尻に触ってくるな」
「ハハハ、堅いねー。舟と相場も。ただの食事会じゃないかよー」
訪れたカレー屋は激辛で有名なお店である。激辛が有名であって、美味しいかどうかは別である。御子柴と嶋村はカウンター席、男4人共は奥のテーブル席に座った。
「ところでいい加減、このカレー屋に連れて来られた理由を教えろ」
「ふふっ、そうね。店長、この4人にはあの激辛大盛りコースカレーを、私には普通のカレーをお願いするわ。けど、スプーンを2つ」
「へい、かしこまりました!」
勝手にまず注文をする御子柴。それから、男達に話しをする。これが上手いのなんのってね。
「今、川中と迎はカレーを作る勉強をしているの」
「カレーを作る勉強?」
「あんなもん簡単だろ」
ただ食っているだけの男共には分からない。
「あらあら、ボンカレーやお母さんのカレーしか食べたことのない男の言い草ね」
「悪かったな。作ったことはねぇーよ」
「カレーは簡単って言われるけど、その実。奥が深い。舐めて掛かると火傷するわ」
お冷を握りながら、御子柴はちゃんと説明をする。
「川中の料理の腕は確かだと思うわ。けど、必ず美味しく成功するとは限らない。状況は何事も最悪を想定して、味見をする。込められる愛よりも、その味を敏感にキャッチするのが舌というもの。今はまず、舌を慣らす必要なのよ」
激辛カレー。そして、この店の大盛りメニューはあんまり美味しくない。値段もそこまで高くない。
「つまり、もし川中さん達が作ったカレーの味が悪い時の練習をこれでしろと?」
「そうです。うっかり激辛を買っちゃった川中さんに萌えてくるでしょう?」
「嶋村…………。まさにその通りだ。そーゆうドジ部分だって、プラスになる可愛さを持っているのが川中さんだ。分かっているな」
状況を把握する男共4人。置かれる大盛り激辛カレー。
確かに提供される料理が不味かったときの感想、及び完食にいたるまでの練習は必要だ。天使的な状況だって一変するのが、料理の恐さ。それはそれで可愛いポイントだと思えるのは友達までの範囲内だ。
「いくぜ!川中さんのカレーのためだ!」
「激辛がなんだってんだ!」
「迎ちゃんのカレーを美味しく食べるためだ!!」
相場、舟、坂倉は燃えるように激辛カレーを食べていく。二口ほどで顔にその辛さが飛んでいく。
「私は遠慮しようかな。3人で食べていいよ」
「あら?食べないの?」
「ううん、男3人の熱い恋を食べることにするよ」
舌が濡れてくるのは熱い男子を感じている証拠。平和で感じる空腹を吹き飛ばす重い愛情が弾き飛ばす。
また、四葉には元女性の勘が働いているのか、御子柴の小悪魔な悪戯を察知できたのだろう。四葉分のカレーは3人均等に分けられた。
「しまった!一口食べてから、君達に渡せば間接キッスになっていた!」
「してたら受け取らんぞ!」
「ビックリしたじゃねぇか!」
しかし、余裕のようなやり取りもここまでだった。その辛さは恋を攻撃していく。まず、水が必須。3口に一杯は必要なほどの辛さだ。
それでも男共は喰らっていく。小悪魔、魔物、ホモに熱く見つめられる状況で食べていく。
「ぐはぁっ、辛ッ!」
「これはキツイ!」
「でも、迎ちゃんのためだ!俺は食らっていく!」
熱くなっていくボルテージ、額から流れ出る汗。まるで運動してきたみたいな、疲れたその顔に
「萌えますね。カメラ持ってきて正解です」
「あとで見せてくれよ、嶋村」
四葉も御子柴側に回って3人の戦いを見守っていく。熱い食の戦いは……
カランッ
「食ったーー!」
「あ~っ、辛かった~」
「腹一杯だが……。大丈夫!俺は全力で美味しいと、迎ちゃんに叫べる!」
すげぇー。御子柴達は純粋に感じた。この激辛カレーをちゃんと食べられると、お店側も驚き。しかし、その代償も大きく。膨れたお腹とすぐには動けない辛さが全身にやってきた。食休みをしている男3人。そんな時、メールが御子柴の携帯に届いた。
「!あら、川中からだわ。……なになに、……。『今、美味しいカレーができました!坂倉くん達を家庭科室に連れてきても大丈夫です。味もバッチリです!』……だそうよ」
そのメールは声だけでなく、まさに川中がちゃんと打っていた文であった。
男3人は辛さから凍えるほどのダメージを負った。
「今日、川中さんのカレーが提供されるのかよ!?」
「御子柴、ふざけんなーー!だから、ワザと大盛りにしやがったのかーー!?げふっ」
ダメだ。無理に動くと吐きそうなくらい食ってしまった。いくら、川中さんの料理でもそれを取り込める場所がもうない。やられた!!
「じゃあ、私と嶋村、四葉は川中と迎のカレーを食べに行こうかしら」
「とっても熱いお食事会でしたね」
「ふふっ。私は本当の夕食をいただきに行くよ」
またやられた。なんて奴等だ!!つーか、四葉の奴、絶対勘付いてやがったな!!
「ま、待て!!御子柴!」
「なによ、坂倉くん。あっ、そうよね?迎が作ってくれたカレーだもんね、そりゃ食べたいわよね?」
なんてS顔だ。こいつ、小悪魔で済むレベルなのかな?
「あ、当たり前だ!!俺もいく!一口でも食べて、迎ちゃんに美味しいと伝えてくる!!」
「……ふっ、そこが坂倉くんのモテる理由の一つね。素晴らしい男気よ。まぁ、場所は学校の家庭科室だからゆっくり来なさい」
「今、行くさ!」
ヨロヨロしているが、坂倉も御子柴達の後を追っていった。一方、相場と舟にはそれができない。愛とかではなく、人の器が足りていなかった。
「くっ、くそ……」
「しかし。これもしょうがねぇな。行って食えなかったら、川中さんに悪いからな」
「それもそうだな……くそー……やられた」
落ち込んでいる相場と舟にトドメを刺す言葉と伝票。
「お会計をお願いしまーす」
「………割り勘でいいか?」
「………ああ、いいよ」
結局、大盛りカレー4つと。御子柴と嶋村が食べたカレー1食分の代金を払うことになった。2時間ほど休んで良いと、店長から安らぎを頂いた。




