ある従者の話
太陽が真上にあったときに産まれた王女
サラエル・ラフィーカス第一王女
満月が真上にあったときに産まれた王女
ルナイト・ラフィーカス第二王女
2人は年こそ違えど同じ日に産まれ
その両年とも豊作に恵まれたことから
神の愛し子と呼ばれ
民を始め、精霊からも愛されていらしっしゃいました。
今日は
サラエル様は10歳の
ルナイト様は5様のお誕生の祝いであります。
お2人は近くにお生まれになった5人の貴族の御子様たちと共に仲睦まじくお過ごしになられていました。
祝いの品が次々と献上されていきます。
最後にクレスト帝国の使者が参りました。
かの者は全身を黒い布に覆っておりました。
くぐもった声が響きます。
『御二人が今年も健やかであらせますようにとのこと。我らが主は心よりお祈り申しております。』
その態度に近くから野次が飛びました。
そのときです、鈴のようなお声がかかったのは。
「あいがとです。うれしーです。」
「ルナイト、いえてないよ。」
「ならもっかいです。あねうえも。」
「そうね、いっしょに。せーの」
「「ありがとーございますっ!」」
御二人の無邪気な笑顔に辺りは静まりました。
すると使者は涙してこう言いました。
失礼ながら申し上げます。
このような聡明な姫君をどうして暗殺することができましょうか、と。
あたりは騒然としました。
私はルナイト様の前に立ちました。
近衛兵は彼の者を捕らえます。
彼は続けます。
「姫君方、帝国に帝はおりません。
帝国は野心ある者たちの巣窟と成り果てました。
創国の怨念を晴らさんとする者たちばかりです。
私には止められません。
どうか、どうか、お願いです。
国をお助け下さいませ。
力を失った私めにできることは、かの伝説を蘇らせることだけです。」
ルナイト様はお尋ねになりました。
「でんせつ?」
すると西の領主の娘、翡翠の瞳を持つナターリア様がおっしゃいました。
「むかしばなしのことですか。」
「左様にございます。あれは正しい伝承ではありません。」
何を言っているのでしょうか。
すると王様たちは男を強引に連れていこうとします。
今思えば少し不自然でした。
まるで何か焦っているような、怯えていたような。
「貴方たち7人がなぜ共に育てられたのか。
年が近いお子なら他にもおりましたでしょうに。
かの理由をお考えなさいませ。
創国の真実を、神の亡骸をお探しください!
なぜ5人は領地で暮らさず、王宮で育てられたのか!お探しください!あの日の真実を!」
男は地下牢へ引き立てられる前に叫びました。
偉大なる神よ
愛し子たちを守りたまえ
我らが主クレスエント帝万歳
そうして黒髪の使者は自らの命を絶ちました。
閉じられた緑瞳は2度と開きませんでした。
それから5年後
王様の弟君は妻をめとりました。
そしてあの失踪事件が起こりました。
この時はまだ誰も知らなかったのです。
更に4年後
弟君の奥方が皇子を流産してしまうことも
彼女が帝国の生まれだということも
魂に染み込んだ神の怨念が子を喪った女にふりかかることも
それが妬みとなり王夫妻にむけられることも
あの使者がクレスエント帝の最後の子孫だということも
彼がナターリアの実の兄だったことも。
炎に包まれてから気付いたのでは遅すぎました。
ルナ様の神力がすでに覚醒していたことも。