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最終話 岡山編ボス登場。最終決戦へ

みんなは蒜山高原へ移動後、長袖を羽織って防御力をさらに高めた。

レストランで早めの昼食を取った後、三木ヶ原を散策していく。

「相変わらずのすごくいい眺めだね」

「そうだな。天気もいいし涼しいし、蒜山三座も大山もくっきり見れるし最高だな」

「光太郎お兄さん晴帆お姉さん、二人の記念写真とっちゃるよ」

「いいって」

「私、みんなで撮る方がいいよ」

「二人とも恥ずかしがらんでもええがぁ」

「晴帆様と光太郎様、お互い意識し合ってるようじゃなあ♪」

「あのう、皆さん、モンスター化されたと思わしきジャージー牛さんがわたし達の方に近づいて来ているようですよ」

「あれ、絶対敵のジャージー牛さんだよね?」

 澄乃と眞凛は先に接近に気づき、少し焦り気味に伝える。

ンモゥゥゥゥゥゥゥ!

 体高二メートル以上はある茶色い毛並みの牛型モンスターがみんなに向かって突進して来た。

「ジャージー牛の化け物だぁぁぁ~」

 晴帆は大慌てで光太郎の背後へ。

「体力91の蒜山暴れジャージー牛はダメージ受けたら草食って回復するけぇ、皆様一斉に攻撃して一気に倒しちゃいねー」

 桃恵はすぐにアドバイス。

「この大きい牛さん、すごく怒ってるみたいだね」

 眞凛は手裏剣、

「ミルクがぎょうさんとれそうじゃね。うひゃっ、ぶっかけやがった」

乳房から突如噴き出た牛乳を顔面にたっぷりぶっかけられた彩果も手裏剣、

「突進されたら間違いなく大ダメージ食らいそうですね」

 澄乃はマッチ火で、続けざまに攻撃を与えた。

 ンモゥゥゥゥゥゥゥ! ンモゥゥゥゥゥゥゥゥ!

「燃えながらも草食ってるし」

 蒜山暴れジャージー牛の命乞いをしているかのような鳴き声にも容赦せず、光太郎が竹刀で攻撃して消滅させた。

 蒜山ジャージープリン、ヒルゼン高原饅頭を残していく。

 息つく間もなく、淡紅色の花型モンスターが十数本束になって飛び跳ねながら近づいて来た。

「高山植物の一種、イワカガミのモンスターね」

 澄乃は推測。

「その通りじゃ。蒜山イワカガミ。体力は74で蒜山の敵では低いけど、縛り付け攻撃に気をつけねー」

「切り裂いたるがぁ」

彩果は楽しそうにカッターで茎をズバッと切り付けた。

イワカガミの花びらが何本か落ちる。

「いたたたぁっ」

 落とされた四本のイワカガミは一斉にジャンプして、花びら部分で彩果のほっぺたを両サイドから思いっ切りビンタした。彩果のほっぺたもスパッと切れて血がかなり噴き出してくる。

「彩果、お花を傷付けるのは罰当たりだよ」

「大原のりんごの絵と同じような攻撃しょおったね。こっちのがより強烈じゃったけど」

 晴帆から受け取ったたたら饅頭を食して、彩果の頬の傷は瞬く間に消える。 

「お花潰しちゃえ」

 花びら部分を眞凛がヨーヨーで、

「きゃっ! 茎だけでも動けるのね。足に絡みついて来たわ。いたぃっ! 離れて下さい」

 茎部分を澄乃がメガホン、

「なかなかしぶといな。さすがボスの近場の雑魚だな」

 光太郎が竹刀で叩いて消滅させた直後に、

「あっ、ちちぃっ! 痛いがぁ。これ、チーズじゃ」

 彩果は背後から新たな敵キャラに両足にぶっかけられた。

 振り向くとそこには、鍋に入ったチーズフォンデュ型のモンスターがいた。

「美味しそうな敵だね。きゃんっ!」

 眞凛は鍋から飛び出て来た熱々チーズ塗れなブロッコリーの直撃を顔に食らった。

「蒜山チーズフォンデュくん、体力は83。鍋からいろんなものが飛び出してくるから接近戦は危険じゃよ」

「あっぶねっ。トンカツラーメンより遥かに危険な敵だな」

 熱々チーズ塗れのフランスパンの一片を顔面に食らいそうになった光太郎はなんとかよけて、マッチ火を投げつけた。

 蒜山チーズフォンデュくんはゴォゴォ激しく燃える。

 次の瞬間、チーズの中からいろんな具材が弾けるようにたくさん飛び出して来た。

「あっつぅ! いったぁ! エビ食らったわ。光太郎お兄さん、炎で攻撃したんはやばかったんちゃう?」

「そうかもなっ。うわっ、フォークまで飛んで来っ、いっててっ!」

 光太郎はこれはよけ切れず尖った先端が顔に当たり、頬から少し血が出た。

「きゃぁんっ。じゃがいもさんとにんじんさんとアスパラが当たっちゃった。アスパラはあたし嫌ぁい」

「私も足にマッシュルームとうずらの卵が当たったよ。靴下べとべとぉ」

「熱いです、熱いです。ぅぶっ!」 

 澄乃は足や腕に芽キャベツやミニトマトなどが当たり、さらに唇にソーセージまで食らわされてしまった。

 ともあれ蒜山チーズフォンデュくんはまもなく自然に消滅する。

 プラトーマフィンを残していった。

「蒜山チーズフォンデュくんはどんな攻撃方法でも倒された後、熱々チーズ塗れな食材やフォークを飛び散らす性質を持っとるんじゃ。ゲーム上で遭遇したら倒した後、コントローラの十字キーの下押して即逃げんと大ダメージ食わらされるがぁ」

 光太郎達と固まっていたにも拘らず、一つも当てられずに済んだ菊恵は笑顔で忠告する。

「澄乃お姉ちゃん、晴帆お姉ちゃん、これで回復させてね」

 眞凛ははんざきサブレを二個ずつ与えて全快させた。

「ここの敵、本当に手強いな」

 あまりダメージのない光太郎は、ゆべしで全快させることが出来た。

「きゃっ、きゃあああっ! またオオサンショウウオが出たぁっ!」

 晴帆の悲鳴。

「蒜山も生息地だもんな。湯原のよりでかっ!」

 光太郎は思わず魅入る。全長2.5メートルくらいあった。

「蒜山オオサンショウウオの体力は93。湯原のよりも攻撃多彩じゃよ」

「恐竜みたいだね」 

 眞凛は楽しそうに蒜山オオサンショウウオに手裏剣を投げつける。

「動き速ぁい。さすが田舎ほど強くなるだけはあるね」

 しかしかわされてしまった。

「おわっ! 俺目掛けてジャンプして来たぞ」

 光太郎は予想外の動きを寸でのところでかわし、ダメージ回避。

「湯原のよりも本当に強いみたいですね」

 澄乃はすかさず蒜山オオサンショウウオにマッチ火を命中させた。

「これでもまだあまりダメージ食らってないようじゃな」 

 彩果は自分目掛けて飛び掛って来たこいつの顔面をバットでぶっ叩く。

 これでもまだ倒せず。 

 蒜山オオサンショウウオは全身から粘液を出して来た。

「ええ香りじゃ。あっひゃっひゃっ」

 彩果は途端にうつろな目つきに変わり、ふらふらしながらバットで自分を攻撃した。

「彩果様が、混乱状態に」

「彩果、しっかりして。きゃん。いたぁい」

 晴帆は彩果から膝にバット攻撃を食らわされてしまう。

「晴帆様、そのうち自然に戻るけぇ心配せんねー。今、彩果様に近づくと危険じゃよ」

「彩果ぁ、早く正気に戻って。あっ、服脱いじゃダメだよ」

「ぐわぁっ! この敵、強過ぎる」

 光太郎は竹刀攻撃をかわされ、大きな口で足を噛まれてしまった。

「光太郎様、蒜山オオサンショウウオに打撃攻撃するとさっきみたいに混乱の粘液出すけぇおえんよ」

 桃恵は大声で警告。

「彩果お姉ちゃんいつも変な妄想してるけど、より変にしたオオサンショウウオさん、敵討ちだよ」

 眞凛は生クリームを命中させる。

 すると動きが鈍った。

「これはチャンスね」

 澄乃は二度目のマッチ火攻撃を食らわせる。

「まだ消えないとは、しぶと過ぎるな」

光太郎もマッチ火攻撃を食らわし、ようやく消滅させることが出来た。

「ありゃ? ワタシ粘液の匂い嗅いでからの記憶がないんじゃけど」

 彩果も瞬時に元の精神状態へ。

「彩果、戻ってくれてよかった♪」

 晴帆がホッと一安心していると、

「うわぁっ、おい、やめろっ! あっつぅぅぅ!」

 光太郎が背後から襲われてしまった。

「光太郎くぅん!」

 晴帆は深刻そうな面持ちで叫ぶ。

「おう、光太郎お兄さんあのB級グルメで緊縛プレーされよるぅ。これは萌えるがぁ」

 彩果は嬉しそうに携帯のカメラに収めた。

「彩果ちゃん、撮るなよ」

 直径二メートル以上はある巨大な皿から伸びて来た焼きそばの麺で全身絡み付かれたのだ。味噌だれやキャベツ、鶏肉などもおまけで絡み付いて来ていた。

「蒜山焼きそば次郎、体力は90。熱々麺と具の絡みつき攻撃が得意なんじゃよ」

「光太郎お兄ちゃん、今助けるよ」

 眞凛は遠くから手裏剣で麺を攻撃。

 見事命中。

「これは接近し過ぎたらやばそうじゃね」

 彩果も手裏剣で麺を攻撃した。

「光太郎さん、お任せ下さい」

 澄乃はマッチ火を光太郎に当たらないように投げつけた。

 これにて消滅。

 熱湯三分、インスタントの蒜山焼きそばを残していった。

「めっちゃダメージ食らってしまった」

 光太郎も解放される。服にこびり付いた味噌だれの汚れや具もきれいに落ちた。彼は温泉まんじゅうとプラトーマフィンを食して全快させた。

 直後に、

「きゃぁんっ、凶暴なオオルリさんのモンスターに襲われちゃいましたぁ」

「光太郎くぅん、彩果、眞凛、助けてぇぇぇーっ! かわいいけど恐ろしいよ」

 澄乃と晴帆の悲鳴。ピーリーリーリージィーと鳴き声を上げつつ羽を激しくバタつかせるオオルリ型モンスターに追いかけられていた。

「蒜山オオルリ、体力は80。蒜山の敵では弱い方じゃよ」

 桃恵はそいつに完全スルーされていた。

「でかいな。リアルの十倍はあるんじゃないか」

 光太郎はその敵の姿に驚く。体長1.5メートルくらいはあったのだ。けれども怯まず竹刀を構えて立ち向かっていく。

「お肉は不味そうだね」

 眞凛も楽しそうに敵に立ち向かっていった。

「ワタシも戦っちゃる。あっ、ちっ、ちっ。上からなんかかけられたがぁ。これ、焼き肉のたれじゃ」

 髪の毛からお顔にかけてぶっかけられた彩果はとっさに木の上を見る。

 そこにいたのは、巨大な鍋に羊肉、キャベツ、ピーマン、タマネギ、トウモロコシ、シイタケなどが乗っかっていたモンスターだった。湯気もかなり噴き出ていた。

「蒜山ジンギスカン太郎、体力は88。鍋を高速回転させて強烈な具やたれの散布攻撃してくるけぇ接近戦は危険じゃよ」

「木の上からぶっかけ攻撃してくるなんて卑怯過ぎるがぁ」

 彩果はすばやく手裏剣を投げつけた。

 命中して、蒜山ジンギスカン太郎は枝の上から地面に落っこちる。

「さっきの仕返しじゃ」

 彩果は今度は黒インクを投げつけ、休まずマッチ火を投げつけて消滅させた。

 ぶっかけられたたれも同時に消滅する。

「彩果お姉ちゃん、パワーアップしたね」

「一人で圧勝してたな」

 蒜山オオルリを協力して倒した眞凛と光太郎は感心する。

「これはボス戦自信沸いて来たわ~」

彩果が余裕そうな笑顔で呟いた直後。

「おまえら、おいらの存在に気付けないなんて灯台下暗しだな。おいら、おまえらが湯原温泉でカジカガエルとかと戦ってた時からすぐ近くで見てたんだぜ」

こんな声と共に、木の裏側から白い布のような物体が現れた。

長さは十メートルくらいはあった。

正体は一反木綿だった。

「捕獲成功♪ おいらの仲間を退治した仕返しだ」

「みんなぁぁぁ、たーすーけーてー」

「離しんちゃい。痛いんじゃ」

「あの、やめて下さい。離して下さい」

晴帆と桃恵と澄乃はあっという間に強く巻き付けられてしまった。

「おい、一反木綿、よくも晴帆ちゃんと桃恵ちゃんと沼本さんを」

「一反木綿ちゃん、せこいことせずにワタシ達と正々堂々戦いねー」

「晴帆お姉ちゃんと桃恵お姉ちゃんと澄乃お姉ちゃんを返せーっ!」

 光太郎達は急いで駆け寄って行くも、

「返して欲しかったら、ここの町家まで来いよ。ボスのスイトンといっしょに楽しみに待ってるぞよ」

 一反木綿はそう伝え、地図が描かれた紙を落として晴帆達を巻きつけたまま空高く舞い上がってしまった。

「離して下さい。怖いです。わたし、高い所苦手なんです」

「みんなーっ、絶対助けに来てねーっ!」

「あなた、鹿児島編の敵キャラじゃない。岡山編に現れるなんて反則じゃ」

澄乃と晴帆と桃恵は懸命に叫ぶ。

「本来主人公一人で攻略すべき岡山編を、こんな大人数で攻めてくるおまえらの方がよっぽど反則であろう」

 一反木綿はこう主張して、さらに高く舞い上がりスピードを上げた。

「津山かよ。公共交通機関よりタクシー使った方が絶対速く着けるだろうな」

「ワタシますます闘志が湧いて来たがぁ!」

「お姫様の救出劇みたいになるね。急ごう!」

 光太郎、彩果、眞凛は最寄りの休暇村へ向かって走っていく。

 途中、蒜山暴れジャージー牛三体に行く手を阻むように遭遇してしまった。

「こんなやつらに時間食ってるわけにはいかない。おっと、危ねっ」

 光太郎は突進をひらりとかわすと、すかさず竹刀で胴体をぶっ叩き、一撃で消滅させる。

「光太郎お兄さん、会心の一撃出たみたいじゃなあ」

 彩果は攻撃される前に手裏剣を二発投げつけ消滅させた。

「モンスタージャージー牛さん、邪魔だよ」

 眞凛は手裏剣&水鉄砲で攻撃。

 計三発で倒すことが出来た。

 光太郎達は休暇村へ向かってまた走り出そうとしたら、

「うぉわっ!」

「おう、うさぎちゃんじゃ。きっとモンスターじゃな」

「ウサちゃん、あたし達急いでるの。悪いけどのいてね」

 体長五〇センチくらいの野うさぎ型モンスターにまとわりつかれ、進みにくくされてしまった。

「桃恵ちゃんいないからどのくらいの強さが分からないけど、風貌的に大したことなさそうだ」

光太郎はマッチ火を投げつけ一体を消滅させる。

 次の瞬間、

「ぐわあああっ、いってててぇ!」

 別の一体に足をカブッと噛まれてしまった。光太郎はあまりの痛みにその場に崩れ落ちる。

「攻撃力やばそうじゃ。蒜山の敵は弱そうに見えても侮れんがぁ。気を引き締めんと」

 彩果はGペンとマッチ火を同時に投げつけ、

「慎重に狙わないとかわされちゃうね」

眞凛は水鉄砲と手裏剣を何発か食らわし全滅させた。

ほとんど間を置かず、

「今度は花のモンスターが襲って来たぞ。何の花か知らないけど」

「これはきっとトリカブトだね」

 高さ五〇センチくらい。青紫の花を咲かすトリカブト型モンスターが光太郎達の足元に襲い掛かって来た。

「眞凛ちゃんよく知ってたね。トリカブトってことは有毒植物だし早く倒さないとやばいことになりそうだ。いってぇっ!」

 光太郎は絡み付かれる前に竹刀でぶっ叩いたが、花びらで膝をパチンッと叩かれてしまった。

「モンスターイワカガミみたくまとめて枯らしちゃるよ」

 彩果は黒インクをトリカブト型モンスターにぶっかけた。

「よぉし、こいつにも効きよるみたいじゃ」

 イワカガミ同様、一気にしおらせることが出来た。

「完全に枯れちゃえっ!」

 眞凛が生クリームをぶっかけて、トリカブト型モンスターは消滅する。

「気分悪っ。毒に侵されたみたいだ。やばいなぁ。俺、毒消しの薬草持ってないぞ」

 光太郎は顔を少々青ざめさせ、息苦しそうに呟いた。

「ワタシも持ってへんよ」

 彩果は深刻そうな面持ちで伝える。

「回復役の晴帆ちゃんと、桃恵ちゃんがさらわれたのはかなりの痛手だな」

 光太郎はさらに状態が悪化したようで、その場に座り込んでしまった。

「大丈夫だよ光太郎お兄ちゃん、あたし、湯原温泉の足湯のお湯汲んどいたから。山だから毒持ってる敵も多いと思って」

 眞凛は水筒に詰められたそれをリュックから取り出し、光太郎の眼前にかざした。

「眞凛ちゃん、準備良いな」

光太郎はありがたく受け取って中の液体を膝にぶっかけると、瞬時に毒状態から完治。同時に体力も全快する。

三人がまた走り出してからすぐ、袈裟を身に纏い、数珠を持った六歳くらいの坊主頭な男の子が三体、目の前に現れた。

「おう、また見たことない敵じゃ。かわいい♪ ひゃぅっ! 飛び掛かって来よった」

「これ、一貫小僧かなぁ? くすぐったいよ。やめてー」

「俺もそうだと思う。スイトンと共に蒜山に伝わる妖怪だな」

 光太郎は竹刀で自身をくすぐって来た一体の背中をぶっ叩いて消滅させた。

「光太郎お兄さん、やりよるなあ。ワタシのも引き離して。振り解こうとしても離れてくれんのじゃ。あっひゃ。もうやめねー」

「きゃはははっ、光太郎お兄ちゃん、あたしのも早くお願ぁい」

「こいつめっ、離れろっ!」

 光太郎は眞凛をくすぐっている方から両手で引き離してあげ、地面に叩き付けた。

 すかさず竹刀で攻撃を加えて消滅させる。

 すると、彩果をくすぐっていた残り一体の一貫小僧は自ら離れてどこかへ走り去ってくれた。

「光太郎お兄さんの強さにびびったみたいじゃなあ」

「そのようだな。かなり弱かった」

「光太郎お兄ちゃん、さすが主人公だね。あたし達の中で最強だよ」

「そうかなぁ? 素早さは彩果ちゃんと眞凛ちゃんの方が俺より上だと思うけど。うをあっ! 今度は何だ?」

「ひゃっ、地面が盛り上がっとるがぁ、きゃんっ」

「きゃあああっ!」

 三人は下から突き上げられる形で弾き飛ばされ、けっこうダメージを受けてしまう。

なんと地面から新たに見る敵が現れたのだ。

長さ二メートルちょっと。白っぽく太く土塗れで葉っぱも付いていた。

「蒜山大根のモンスターかよ。こんな登場の仕方までする敵もいるとは」

 光太郎のマッチ火、

「蒜山大根ちゃん、芝生破壊したらおえんよ」

彩果の手裏剣、

「美味しそうだけど、あたし達急いでるのっ!」

眞凛の怒りのヨーヨー攻撃三連発で攻撃の隙を与えず消滅させた。

 壊された芝生も瞬時に元に戻る。

 それからすぐに、蒜山オオルリが五体襲い掛かって来たものの、

「おう、あっさり倒せたぞ」

「二発で消えるとは思わんかったわ」

「すごく弱く感じるね。あたし達またレベルが上がったんだね」

 光太郎の竹刀、彩果のカッター、眞凛のヨーヨー攻撃でダメージを食らわされずあっさり倒すことが出来た。

その矢先、蒜山オオサンショウウオ三体に行く手を阻まれるように遭遇してしまった。

「鬱陶しい」

光太郎はすぐにマッチ火を三回連続で投げつけ一体を消滅させる。

「こいつに打撃はNGじゃったなあ」

 彩果は別の一体にマッチ火を投げたあと、手裏剣とGペンを同時に食らわし消滅させた。

「くらえーっ!」

 眞凛は残る一体に生クリームをぶっかけ動きを鈍らせたのち、水鉄砲三発で倒すことが出来た。

 再び走り出した光太郎達、ほどなくまた行く手を阻まれてしまう。

 体長二メートル以上はある、ツキノワグマ型モンスター三頭だ。

「ここに出るってことは、蒜山グマなんだろうな。美作グマよりのより体格良いし。うわっ、あぶねっ。ぐあっ、いってぇぇぇ!」

 鋭い爪を繰り出された。光太郎はかわし切れず、頬がスバッと切れてしまう。

「接近すると危ないよね」

「蒜山グマ、ワタシ達急いどるんじゃ」

 眞凛と彩果は手裏剣で攻撃を加える。

 一撃では倒せなかった。

「一頭は何とか倒せたけど、強過ぎだ」

 光太郎はマッチ火と竹刀で頬を切り付けた一体に対抗し勝利を収めるも、足や腕にもけっこうダメージを食らってしまった。すぐに鹿肉ハムなどを食して体力を全快させる。

「ほんとに美作グマよりも強いがぁ」

 彩果は残った二頭に黒インクを投げつけ、目つぶし攻撃を食らわす。

 クゥゥゥオ!

 クァァァッ!

「彩果お姉ちゃん、けっこう効いてるみたいだよ」

「おう、上手くいったか!」

すばやく眞凛と彩果は手裏剣、

「彩果ちゃん、ナイスだ。熊怯んでるぞ」

光太郎はマッチ火攻撃を、休まず何発か食らわし全滅させた。

「ジャージー牛のプリンとヨーグルトとロールケーキまで落してくれるなんてちょうどよかったがぁ」

「太っ腹な熊ちゃんだったね」

「やっぱ蒜山グマだったみたいだな。でも圧倒的な強さの差はなくてよかった。移動しながら体力全快させとくか」

 その後は敵に遭遇することなく、レジャー客が多くいた休暇村前に辿り着くことが出来た。

 その場所で光太郎が代表してタクシーを呼ぶ。

     ※

光太郎達がタクシーに乗り込んでから一時間ほど経った頃、

「痛いんじゃぁ」

「締め付け弱めて、っていうか、離して下さい」

「私、おしっこしたくなっちゃった」

 澄乃と桃恵と晴帆は、津山市内のとある町家内和室隅でかずらで全身を拘束されていた。

「縛られた女子おなごを眺めながら飲むリアル新見の紅茶はじつに美味いのう」

「そうですね、スイトン」

 高さ二メートルくらいあるスイトンと、一反木綿は彼女達のすぐ側で茶を啜っていた。

「きゃっ! パンツ捲って来たよ」

「いやらしいなあ」

「なんともエッチなかずらさんですね。解けないわっ!」

 縛られた三人は必死で振り解こうとするも、なすすべなし。

「こいつは徳島編祖谷のかずら衛門じゃからのう。倉敷の柳よりも十倍は強いぞよ。ホホホ、いい肉がとれそうじゃのう」

 スイトンはにやりと微笑む。

「ぼたん鍋といっしょに煮込むとより美味しくなりそうですね」

 一反木綿も微笑む。

「私達、食べられちゃうの? 私、脂肪と贅肉だらけだからすごく不味いよ」

「わたしも同じく不味いです。ムダ毛も多いですよ。汗臭いですよ。食べないで下さい」

 晴帆と澄乃の顔が青ざめる。

「晴帆様、澄乃様。冗談で言っているのだと思うんじゃよ」

 桃恵は笑っていたが、やはり恐怖心を感じていた。

「さてと、そろそろ調理を始めようかのう」

「スイトン、出刃包丁持って来ましたぜ。まずは一番美味そうな太ももから裂いていきましょうや」

 一反木綿は自身に巻き付けて運んで来た。

「いやぁぁぁ~、やめてぇぇぇーっ!」

 晴帆は恐怖心で目から涙からこぼれ出た。

「本当に、やる気なのですか?」

 澄乃の表情も引き攣る。

 そんな時、

「みんなーっ、助けに来たよ」

「お待たせ。ボスバトル、張り切るよっ。おう、スイトン、蒜山のトーテムポールのにそっくりじゃ」

「みんな無事か?」

 光太郎達、到着。

「光太郎くん、眞凛、彩果。来てくれてよかったぁぁぁ」

「光太郎さん、眞凛さん、彩果さん、わたし達が犠牲になるまでに間に合うと信じていましたよ」

 晴帆と澄乃は嬉し涙をぽろりと流す。

「光太郎様、眞凛様、彩果様。健闘を祈っとるけぇ」

 桃恵はホッとした笑顔で伝えた。

「ホホホ、よく来たな」

「おまえらに勝てるかな?」

「スイトンって、女なのかよ? とにかくみんなを早く解放してやれ」

 光太郎は険しい表情で訴える。

「わしらに勝てたら解放してやろう。わしが出る幕もないと思うがのう。わしのお供よ、こっち来んちゃい」

 スイトンが岡山弁まじりでそう言うや、後ろの襖がガラリと開かれた。

「おまえら、おれっちが片付けてやるぜ」

 そして別の敵キャラが登場する。

「おう、あなたは昨日の男の娘! 今日は服装もかわいいがぁ♪」

 彩果は満面の笑みを浮かべた。

「根暗っぽい姉ちゃん、昨日はよくもやってくれたな。今日のおれっちは本気モードだぜ。仕返しだぁーっ!」 

 花柄チュニックに水玉ミニスカートを穿いた男の娘姿のキュウモウ狸はそう言うや、彩果に飛びかかり、両おっぱいを服越しに鷲掴みしてくる。

「こっ、こら。おっぱい揉まんねー。力抜けちゃうけぇ」

 予想以上のすばやい動きだったため、彩果はちょっぴり動揺してしまった。

「それそれそれーっ」

「あぁっん、もうやめて欲しいわ~。変な気持ちになっちゃうけぇ」

 優しく揉まれるごとに、彩果のお顔はだんだん赤みを増していく。

「おいっ、やめろっ!」

 光太郎はキュウモウ狸の後ろ首襟を掴んで引き離そうとした。

「動き遅過ぎ♪」

 しかし余裕でかわされた。

「きゃんっ!」

 弾みで光太郎の右手が彩果の胸に服越しだがしっかり触れてしまう。

「ごっ、ごめん彩果ちゃん」

 光太郎は反射的に右手を引っ込めた。

「いや、べつにええけぇ」

 彩果は照れ笑いする。

「みんな頑張れーっ!」

「うち、期待しょおるけぇ」

「光太郎さん達なら絶対勝てると信じてますよ」

 晴帆と桃恵と澄乃はきつく縛られて苦しそうにしつつも、温かいエールを送ってくれた。

「お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん、くらえっ! フラーッシュッ!」

 眞凛はポケットからデジカメを取り出し、キュウモウ狸の写真を撮った。

「ぎゃっ、目がくらんだ。卑怯だぞおまえ」

 怯むキュウモウ狸。

「卑怯じゃないもん」

 眞凛は続いて水鉄砲を取出し、キュウモウ狸の顔面目掛けて連射。

「うひゃぁぁぁっ!」

 けっこう効いたようだ。

「キュウモウ狸、動き鈍ったな」

 光太郎はすかさず竹刀でキュウモウ狸の腹をぶっ叩く。

「いってぇぇぇ。こうなったら……」

 キュウモウ狸は本来の姿に戻るや、口から糸を吐き出した。

「ん? うわっ!」

 光太郎は体中を巻きつけられてしまった。

「どうよ、奥義、キュウモウ狸の糸車♪」

 キュウモウ狸は得意げに笑う。

「身動きとれねえ。うわっ」

 光太郎、体を揺さぶってみたらバランスを崩して地面に転がってしまった。

「光太郎お兄さん、ワタシがほどくけぇ」

「あたしも手伝うぅ」

 彩果と眞凛は光太郎の側へ駆け寄っていくが、

「おまえら油断し過ぎ。それぇっ!」

「うわっ、引っかかっちゃったぁっ!」

「しまった。油断したがぁ」

 キュウモウ狸に光太郎と同じようにされてしまった。二人とももう一歩動こうとしたらバランスを崩し、地面に転がってしまう。

「ふふふ、いい気味ね」

「これで攻撃し放題だな」 

 スイトンと一反木綿はにやりと笑う。

「おれっち、彩果っていう腐女子っぽい子、ボコボコに痛めつけたい。おれっちに猥褻なことした仕返ししてやるぅっ!」

 キュウモウ狸は男の娘姿に戻り、にやにや笑いながら彩果の方へ近づいていく。

「くっそ、糸さえほどければ」

「ワタシ達、大ピンチになっちゃったがぁ」 

「ほどけないよぅーっ」

 光太郎、彩果、眞凛。自分で糸をほどこうとするがほどけず。

「光太郎くぅん、眞凛、彩果ぁ。助けてあげられなくてごめんねー」

「うち、何も出来んのが甚だ悔しいなあ」

「わたしも同じく」

 晴帆と桃恵と澄乃は心配そうに見守る。

「なわとびの鞭で十発くらい叩こうかな?」

 キュウモウ狸はにやにやしながら彩果の側でしゃがみ込む。

「あーん、屈辱じゃぁ」

 彩果は頬を火照らせ照れ笑いする。

「そう言いながらやけに嬉しそうにしてるじゃないか。ひょっとして姉ちゃん、マゾ?」

「いやぁ、嬉しくはないって」

「ほんまかよ? さてと、まず手始めに姉ちゃんのパンツの柄を拝見……あっ、しまった。こんなに縛り付けたらスカート捲れないじゃないか」

 キュウモウ狸はそのことにたった今気付いたようだ。

「キュウモウ狸ちゃんったら、ドジッ娘じゃなあ」

 彩果はくすっと笑った。

「こうなったら、スカートの周りだけ糸外してやるぅっ!」

 キュウモウ狸はむきになってスカートポケットから鎌を取り出した。

「きさまの生尻とくと拝見してから、次はそっちのお兄さんの生尻を」

「おーい、俺の尻見たって何も得しないぞ」

 光太郎は呆れた表情で主張した。

「ワタシも光太郎お兄さんの生尻見たい! キュウモウ狸ちゃん、ワタシにも見せてね」

「いいぜ。まずおれっちが拝見してからね」

「よっしゃぁ!」

「二人とも、何打ち合わせしてんだよ」

 光太郎はいらっとした表情を浮かべていた。

「あたしは光太郎お兄ちゃんのお尻、昨日見たばっかりだよ。いっしょにお風呂入ったもん」

 眞凛はにこにこ顔で伝える。

「眞凛ちゃん、そんなこと伝えなくていいから」

 光太郎は穴があったら入りたい気分だった。

「羨ましい! どんな感じだった?」

 キュウモウ狸は興奮気味に質問する。

「パパのお尻よりは小さかった」

 眞凛はにこにこ顔のまま答えた。

「そっか。まだ成長途中だもんな」

「ワタシが最後に光太郎お兄さんの生尻見たのは、もう五年以上は前になるかな?」

 彩果はにやついた表情で呟く。

「おまえら、いい加減にしてくれ」

 光太郎、ますます居た堪れない気分に陥る。

「姉ちゃんも見たことあるのかよ。ますます許せなくなったぜ。こちらの眞凛っていう女の子はかわいいから、足の裏こちょこちょ攻撃で許してあげるよ」

 キュウモウ狸はそう伝えてパチッとウィンクした。

「ええーっ、それは嫌だなぁ」

 眞凛は苦笑い。

「彩果ってやつ、大人しくせられっ! 動くと肌までブシュッて切れちゃうよ。この鎌はでーれー切れ味良いからね」

 キュウモウ狸は彩果のスカートに接している糸の結び目部分をスパッ、スパッ、スパッと三箇所切る。

「これでスカートずらせる」

 キュウモウ狸がにやついた表情でそう呟くや、

「スカートずらせるだけじゃないけぇ、キュウモウ狸ちゃん」

 彩果はガバッと立ち上がった。

「あれ? 今ので全部ほどけちゃった?」

 目を大きく見開き口をあんぐり開けて唖然とするキュウモウ狸。

「そうみたいじゃ。キュウモウ狸ちゃん、やっぱドジッ娘じゃなあ」

 彩果はにっこり微笑む。

「彩果お姉ちゃん、自由になれたね」

「キュウモウ狸、自滅したな」

 光太郎と眞凛は安堵の表情を浮かべた。

「こうなったら、実力で」

 キュウモウ狸はまた本来の姿に戻り、彩果に果敢に立ち向かっていく。手をグーにして彩果のお腹にパンチを食らわそうとしたが、

「ワタシ、昨晩よりはレベル上がってるけぇそう上手くはいかんよ」

 彩果は余裕でキュウモウ狸の体にガバッと抱きついた。

「あれ? なんでそんなに動きいいの?」

「さっきのは演技じゃけぇ。よっと」

「わーん、おーろーしーてー」

 そして両手で抱き上げたのち片手で肩に担ぎ上げ、そのまま眞凛のもとへ。

「眞凛、じっとしててね」

「うん」

もう片方の手で地面に落ちた鎌を拾い、眞凛の体に接している糸の結び目を何箇所か切る。

これで眞凛の体は自由になった。

彩果は同じ要領で光太郎の体に絡み付いている糸も、

「この格好のままの光太郎お兄さんもなんか萌えるけぇ、そのままに」

「こらこら彩果ちゃん。早く切れって」

「彩果、光太郎くんで遊んじゃダメだよ」

「彩果お姉ちゃん、いじわるしないで早く切ってあげて」

「冗談、冗談。ごめんね光太郎お兄さん」

 一回躊躇ったがすぐに切って、自由にしてあげた。

「彩果ちゃん、ありがとな」

「どういたしまして」

「さてと、こいつをなんとかしないとな」

 光太郎は竹刀を持って、キュウモウ狸の側へにじり寄る。

「やめて下さい。おれっち、深く反省してます」

 うるうるした瞳で言われるが、

「許さない」

 光太郎は容赦なくぽっこりふくれた腹を竹刀でぶっ叩き、消滅させた。

「やったね光太郎くん」

 晴帆は嬉しそうに微笑んだ。

「やりよるのう」

 スイトンはちょっぴり感心しているようだ。

 キュウモウ狸が消えた後には、柄の違う水玉ショーツが二枚残されていた。

「晴帆お姉ちゃん、これ、昨日盗まれたやつでしょ?」

「うん、それだよ。戻って来て良かった♪」

「よかったね晴帆お姉さん。なんか、よだれでべっとりしょおるよ」

 彩果は手で掴もうとしたが、思わず引っ込めた。

「じゃあ、もういらなーい。捨てといて」

 晴帆は嬉しそうな笑顔から悲しげな表情へと変わった。

「変態狸だな」

 光太郎は呆れ笑いする。

「あいつはゲームの中でも人間の女によくエロいイタズラしてるぞよ。妖怪のくせに妖怪の女には全く興味ないそうだ。さて、おまえら、次はおいらと勝負だっ!」

 一反木綿は光太郎達に立ち向かって来た。

「一反木綿なんて所詮布じゃろ?」

「うわっ、しまった」

 彩果はカッターで一反木綿をズバッと切り付けた。一反木綿の体に切れ目が入る。

「水が弱点なんだよね?」

 眞凛は水鉄砲を命中させた。

「ぬぉぉぉっ」

 一反木綿、ぐっちょり濡れて弱る。

「俺が戦うまでもなく勝てそうだな」

 そんな無様な姿を見て光太郎はにこっと笑った。

「こいつ、思ったより弱いがぁ」

「彩果お姉ちゃん、いっしょにとどめ刺そう」

 彩果は黒インク、眞凛はヨーヨーを一反木綿に向けた。

「こうなったら」

 一反木綿は目をきらっと輝かせる。

 するとなんと、

「えっ! 嘘?」

「ありゃ?」

 深刻な事態へ。

眞凛と彩果はあっという間に石化されてしまったのだ。

「あっ、眞凛っ! 彩果ぁ!」

「眞凛さん、彩果さん!」

 晴帆と澄乃、予想外の光景に思わず叫んだ。

「魔法は、使えないはずじゃ」

 唖然とする光太郎に、

「これは妖力じゃからな」

 スイトンは得意げに言う。

「彩果と眞凛が、石になっちゃったぁぁぁ~」

 晴帆は嘆きの声を漏らし、悲し涙をこぼす。

「心配せんねー晴帆様。石化を解く粉を使えば、つまり一反木綿を倒せば、手に入って元に戻せるんじゃよ」

「本当?」

「はい。一反木綿、岡山編の敵では使ってこない妖力使うなんてますます反則じゃ」

「反則なのはおまえらの方もだろう」

 一反木綿はフフフッと笑って得意げに反論する。

「なんだ。急に体に異様な疲労感が」

 光太郎はハァハァ息を切らす。

「おいらの妖力できみの体力吸い取っちゃった♪」

一反木綿は完全復活してしまった。

「そんな技まで使えるのかよ」

 光太郎はヒルゼン高原饅頭を食して、体力を八割方回復させた。

「おいらじゃ男には石化攻撃は効かんっていう謎設定は納得いかんがのう」

 一反木綿は少しやさぐれた表情で不満を呟く。

「ほほほ、わしとこいつ、きみ一人で倒すしかないわよ。まあ無理じゃろうけど」

 スイトンは勝ち誇ったようににこにこ微笑む。

「本気で行くぞっ!」

 光太郎は怒りに満ちた表情を浮かべ、竹刀をスイトンの大きく開いた口の中の歯を目掛けてすばやく思いっ切り振りかざす。

「あんっ、いっ、痛いのう」

 見事直撃し、スイトンは甘い声を漏らした。

「光太郎様、いい振りじゃなあ。乗り気なようで嬉しいなあ」

「みんなを救うために、本気になってくれてるね」

「光太郎さん、主人公らしい活躍振りですね」

 桃恵と晴帆と澄乃は賞賛する。

「やりおるのう。ここからは相撲勝負じゃ」

 スイトンは光太郎の体にガバッと抱きついた。そして彼のジーンズの裾を指はない丸太状の両手でがっちり掴む。

「しまった! 早く振り解かないと」

 光太郎は焦りの表情を浮かべる。

「やったぁっ! いい形だスイトン」

 一反木綿は布で出来た両手でガッツポーズを取った。

「それっ!」

 スイトンは光太郎に寄りかかって体勢を崩させ、馬乗りになった。

「うっ、動けねえ。重いっ。俺より小柄なのに、なんてパワーだ」

「どんどん重くなってくるわよ♪ わしは伸縮自在じゃからの♪」

「ぐあぁぁぁっ!」

 光太郎は必死に振り解こうとするが、どうにもならず。

「ただいまの決まり手は、寄り倒しだな」

 一反木綿はにこにこ顔で呟いた。

「光太郎くーん、頑張ってー」

「光太郎様、早くやっつけちゃいねー。長引くとまずいけぇ」

 晴帆と桃恵からそう言われるも、

「そうは言ってもなぁ……」

 光太郎は何も活路を見い出せなかった。

「それっ、縦四方固じゃ」

 スイトンは柔道の技を用いてさらに強く圧し掛かってくる。

「いってててぇーっ!」

 苦しがる光太郎。

「そろそろ参ったって言った方がいいんじゃないかしら? きみの体、一反木綿みたいにぺっちゃんこになっちゃうわよ♪」

 スイトンは嘲笑う。

「まだ降参はしない。振り解いてやるっ!」

「光太郎様ぁ、もう降参しねー。体力が0になっちゃうけぇ」

「光太郎さん、もう無理はしないで」

「そういうわけにはいかない。俺は、主人公、だから」

 光太郎は非常に苦しそうな表情で伝える。スイトンを自分の体からなんとか引き離そうと懸命に力を込めて続けてみるも、スイトンはびくともせず。

「わしはまだまだ重くなれるのじゃよ」

 スイトンはにっこり笑って余裕の表情だ。

「関係ない。俺は、全力を、尽くす、だけだ」

「ほほほ、起き上がれるものなら起き上がってみんちゃい」

「ぐぁっ、ダメだ。こいつ強過ぎる。くっそ。もう少し、レベルを、上げて、いれば……」

 光太郎の意識は徐々に薄れゆく。

「光太郎くぅん、しっかりしてーっ」

「申し訳ないです光太郎さん、わたし達は無力でした」

「光太郎様、今のレベルじゃ勝ち目百パーないけぇ。降参して、もっとレベルを上げて再チャレンジしましょう」

 晴帆、澄乃、桃恵の三人は涙をぽろりと流しながら伝えた。

「いや、それは……」

 光太郎は朦朧とした意識の中で懸命に呟く。

「わしの勝利ってことでオーケイじゃな?」

 スイトンは満面の笑みで勝利宣言。

「主人公もまだまだレベルが足りんかったな」

 一反木綿も嘲笑う。

「この男の子、じつに美味そうじゃ。足からいただきまーす♪」

 スイトンは大きな口を光太郎の太ももに近づけた。

「やめてえええええっ!」

 晴帆は泣き顔のまま大声で懇願した。

その直後だった。

驚くべきことが起きた。

「あれ? ワタシ、どうなってたんじゃ?」

「あたし、動けるようになってる」

 彩果と眞凛が石化から元の状態へ回復したのだ。

「彩果、眞凛。よかったぁぁぁ~っ!」

「二人とも、戻ってくれてよかったです」

「おう、奇跡が起きたがぁ。あっ、あれ?」

 さらに晴帆、澄乃、桃恵も絡み付いたかずらが解かれ自由の身になった。

「なっ、何ゆえ?」

「そんな、バカな。なぜじゃ?」

 一反木綿とスイトンもあっと驚く。

「スイトン、急に軽くなったな」

「んぎゃっ! しまったわ。つい力抜いてしもうた」

 光太郎はスイトンを突き飛ばし、すっくと立ち上がった。

「光太郎様も完全復活じゃなあ」

「光太郎くん、よかったぁぁぁっ!」

 晴帆は歓喜の叫びを上げ嬉し涙を流した。

「どういうわけか、体力も全快したみたいだ」

 光太郎は元気溌剌とした声で伝えた。

「なぜじゃ? なぜなのじゃ?」

 スイトンが呆気に取られた様子で呟いた。

 その矢先、

「これこれ、一反木綿、スイトン」

 女性の穏やかそうな声がこだました。

「この声は、大洲の濡女子ぬれおなご様?」

「おい、大洲の濡女子。なっ、なぜここに?」

一反木綿とスイトンはびくりと反応した。

「ゲームの外に飛び出して何やってるのかな?」

 声の主はみんなの目の前についに姿を現す。

「一反木綿ちゃんとスイトンちゃん、やけにびびりよるけぇどんな恐ろしい風貌の濡女子なんじゃろうと思ったけど若くて美人がぁ」

「濡女子っていう妖怪、あたしも知ってるぅ。この濡女子は顔が全然怖くないね。普通の人間のお姉ちゃんに見える。恰好は変だけど」

「この人も妖怪なんだね。私も妖怪には見えないよ」

「あのゲームの製作者は大洲に出たという濡女子さんをこんな風にデザインされたんですね。言い伝えにかなり則していると思います」

 三姉妹と澄乃は興味深そうにじっと見つめる。

「なんかエロいな」

 光太郎は姿を数秒拝見したのち、罪悪感に駆られたのか視線を畳に向けてしまった。

 腰の辺りまで伸びた長い黒髪、ぱっちりしたキラキラな瞳、少し青ざめてはいたが十代半ばくらいの少女の顔つきで、背丈は一五〇センチあるかどうかくらい。その名の通り全身びしょ濡れで胸と恥部を木の葉で纏っただけの露出度だった。

「大洲の濡女子は姿形は諸説あるけぇ、基本的な設定が言い伝えに則してれば顔つきはどんな風にデザインしてもいいだろうという製作者の考えで、こんな萌え系の造形になったみたいじゃ」

「それは初耳です。あんたら、おらの妖力で石化を解除して、かずら衛門も瞬殺しておいたわよ。あと光太郎さんという男の子の体力も回復させておいたわ」

 大洲の濡女子は満面の笑みを浮かべ、得意げに伝える。

「そんな能力が使えるとは、か弱そうな見かけによらず相当強い敵なのでしょうね」

 澄乃は感服したようだ。

「愛媛県大洲市菅田のご当地妖怪、大洲の濡女子は愛媛編の雑魚敵で体力は1200以上あるんじゃよ」

「雑魚敵で1200超えって……岡山の次に進むべきステージが、しおかぜの直通で行ける愛媛じゃないってことは確かだな」

「ありゃ? 痺れて動けないわ」

「おいらもだ」

「おらの眼光で痺れ状態にさせたんよ。あんたら、今のうちに倒しておきなさい」

 大洲の濡女子はほんわかした表情で勧めてくる。

「それじゃ、遠慮なく。スイトン、覚悟しろっ!」

「きゃあああん、やめて、痛いんじゃ」

「それは不可だ」

 光太郎はスイトンを竹刀で何度も攻撃しまくる。

「一反木綿、ワタシを石化したお返しじゃ」

「一反木綿のおじちゃん、覚悟してね」

 彩果は黒インク、眞凛は生クリームと水鉄砲を用いて攻撃する。

「うぎゃっ!」

 真っ黒け、クリーム塗れでふやけてしまった一反木綿に、

「ボスのスイトンさんは、主人公の光太郎さんが一人で倒した方が良さそうですね。わたしが一反木綿さんにとどめを刺すわ」

 澄乃はマッチ火を投げつけた。

「ぐげぇぇぇ。あっ、ちっ、ちぃっ」

 一反木綿、苦しそうに跳ね回る。

「なんか、かわいそうになって来た」

 心優しい晴帆は同情してあげた。

「もう、やめてくれ。おいら、ゲームの中に戻るから」

「わしもじゃ。降参じゃ、降参。わしを痛めつけるのはやめて、お願いじゃ」

 一反木綿とスイトンは怯えた様子で懇願してくる。

「ワタシ、もう満足したけぇええよ」

「あたしも許してあげるよ」

「わたしも、許しますよ」

「皆様心優し過ぎるなあ」

「俺は許したくないけど、これで俺達の勝ちってことでいいな?」

 光太郎が確認を取ると、

「うむ、わしらの負けじゃ」

「おいら達の負けでいいよ」

 スイトンと一反木綿はあっさり負けを認めた。

「光太郎様、最後は主人公らしく締めましたなあ」

 桃恵は満面の笑みを浮かべる。

「光太郎くん、ありがとう。すごく格好良かったよ」

「光太郎さん、無力なわたし達を救って下さり、誠にありがとうございました」

 晴帆と澄乃は光太郎の手をぎゅっと握り締めた。

「いや、べつに当たり前のことをしただけだから。礼なら彩果ちゃんと眞凛ちゃんと濡女子の方に言って」

 光太郎はかなり照れてしまう。マシュマロのようにふわふわ柔らかい感触が、光太郎の両手のひらにじかに伝わって来たのだ。

「光太郎お兄さん照れよる照れよる。ともあれワタシ達の勝ち決定じゃなあ」

「これでリアルな岡山編クリアだねっ!」

 彩果と眞凛は満面の笑みを浮かべる。

「あんたら、一反木綿とスイトンが多大なご迷惑をおかけして本当にごめんね。二度とリアル世界に飛び出て悪さしないよう、しっかり懲らしめとくけん。一反木綿、スイトン、みんなに謝りなさい」

「いっ、て、て、てぇ。ごめん」

「すまんのう」

 大洲の濡女子は光太郎達に向かって深々と頭を下げて謝罪。一反木綿とスイトンも無理やり下げさせられていた。

「いえいえ。うち全然気にしよらんけぇ」

 桃恵は苦笑いを浮かべる。一反木綿とスイトンのことを少しかわいそうに思ったようだ。

「光太郎というお方、おら達、ゲーム内に帰るけん、今から出すテレビにゲーム機を繋いで例のゲームを起動させてくれないかしら」

 大洲の濡女子はこうお願いして、畳に水滴を髪からポタポタ垂らすとなんと、四八インチ液晶テレビが現れた。

「おう、魔法じゃっ!」

「濡女子のお姉ちゃん、すごーい」

 彩果と眞凛はパチパチ拍手する。

「彩果という子、魔法じゃなくて妖力なんよ」

 大洲の濡女子はホホホッと笑った。

「あの、俺の部屋のテレビじゃないと、飛び込めないと思いますけど」

「そこはおらの妖力で何とかするけん。スイトンをゲーム内に戻せば、残る岡山編の雑魚敵達も皆二、三日中には現実界から完全消滅して、ゲーム内に戻るようになっとるんよ」

「そうなんですか。じゃあ繋げますね」

 光太郎は準備が整うと桃恵が飛び出て来た続きからのデータを選択。桃恵のいない茶店内部の画面が映る。

「ほら一反木綿、スイトン、帰るよ」

「嫌じゃぁぁぁ」

「痛いよ大洲の濡女子様、頬引っ張るなって」

 スイトンと一反木綿は大洲の濡女子に無理やり引き摺られていく。

「あんたら、もっともっとレベルを上げて、ゲーム上でいつかおらに挑んで来てね。愛媛編で楽しみに待ちよるけん」

大洲の濡女子はこう言い残し、スイトンと一反木綿を掴んだまま画面に入り込んでいく。

「リアル蒜山もなかなか居心地よかったわ。ゲームの中に帰りたくないんじゃあああああっ」

 スイトンは名残惜しそうに捨て台詞を吐いた。

 テレビもその約一秒後に消滅した。畳に付いた黒インクなどの汚れもきれいに消える。

「あの濡女子、でーれーかわいかったがぁ。敵キャラはまだおるってことじゃなあ。帰りも倒しながら進もう! まだ三時ちょっと過ぎじゃし」

「賛成! あたしもまだまだ戦いたぁーいっ!」

「わたしも同じく」

「俺も、もう少し戦い楽しみたい」

「みんなぁ、タクシーここに呼んでなるべく外出歩かないようにして帰ろう」

「ご安心しね晴帆様。皆様の今の力なら岡山編の雑魚敵はどれも楽勝じゃろうけぇ。あのう、じつは、敵キャラ、うちがわざと飛び出させたんじゃよ。皆様にリアルRPGを体験してもらおうと思って。岡山編の敵なら、リアル世界のごく普通の高校生以下の子でも何とか出来るじゃろうと見込んでたんじゃ。それにうち、リアル岡山県も旅したかったし」

 桃恵はえへっと笑って唐突に打ち明けた。

「えっ! 本当なの? 桃恵ちゃん」

「そうだったのですかっ!」

「桃恵お姉ちゃんが仕掛けたんだね」

「桃恵ちゃんもなかなかのエンターテイナーじゃなあ」

「おいおい、俺のせいじゃなかったわけか」

 他のみんなは当然のように面食らったようだ。

「一昨日の夜に伝えた時は、じつはまだ敵キャラ飛び出してなかったんじゃよ。光太郎様がぐっすり眠っておられた真夜中にこっそり飛び出させたんじゃ」

 桃恵はさらにこんな秘密も打ち明け、てへっと笑う。

「電源切ってたのに、出れたのか?」

 光太郎は驚き顔だ。

「テレビの電源切られてても、ゲーム機が繋がれてあのゲームが中に入ったままじゃったけぇね」

「……そうか」

「それもまた不思議な仕組みですね」

「桃恵お姉ちゃんは、敵キャラとお友達なの?」

「一部はそうじゃよ」

「桃恵ちゃん、また新しい敵、どんどん飛び出させてや。今度はのちの敵からの援助なくワタシ達だけの力でボス倒したいんじゃ」

「彩果、私はもう戦いには絶対参加しないよ」

「晴帆お姉さんは今回もほとんど戦ってへんかったがぁ」

「痛い思いしたくなかったんだもん。結果的に何度もしちゃったけど。私、おトイレ行ってくる」

 先ほどから尿意を感じていた晴帆は、玄関横のトイレに駆け込んだ。

「……えっ! 和式の、ぼっとん!?」

          ※

結局みんなは帰り、津山のねり天神、河童のごんご、ホルモン焼きうどん、動物標本。高梁のゆべし、シャクヤク型モンスターなど、行く時通り過ぎた地へも立ち寄って新しい敵キャラとも出遭い、楽しく戦闘をしながらそれぞれのおウチを目指して進んでいったのであった。

      ☆

 みんなが帰宅したのは午後八時過ぎ。

「リアル岡山土産、ぎょうさん買えて大満足じゃ。ほんなら光太郎様、おやすみー。また出しねー」

「おやすみ桃恵ちゃん」

 光太郎は玄関を抜けると、母に見つからないよう注意して自室に桃恵を連れて行き、あのゲームを起動させて桃恵をゲーム内に戻してあげた。     

 同じ頃、妹尾宅では夕食の団欒中。

「岡山県内で多発してる怪奇現象、みんなは遭遇せんかった? 夕方の県内ニュースで特集やってたわよ。今日のお昼過ぎからはだいぶ報告が減ってるみたいだけど」

 母のこんな質問に、

「そんなのがあったの?」

「ワタシ全然知らんよ」

「あたしもーっ」

 三姉妹は一応知らないふりをしておいた。

「そっか。母さんも遭遇してないけど、空飛ぶ鯛やカブトガニを見たとか、体のないジーンズがダンスをしてたとか、凶暴な鹿を撃ったら姿が消滅したとか、ジャージー牛が壁をすり抜けたって目撃情報もあったみたいよ」

     ※

 翌日の敬老の日、光太郎と三姉妹は旅の疲れを癒すため、一日中家でゴロゴロしてしっかり休養を取った。

 澄乃はその日、午前中は岡山市内のゲーム販売店であのゲームを探し回ったが見つからず、午後から母運転の車で倉敷まで遠征して、

「やっと見つけたぁっ! 家帰ったらやりまくるよっ!」

「そんなにはしゃぎ回る澄乃、久し振りに見たわ」

日も暮れて来た頃に一本だけ投売りされていたのをやっと見つけて購入したのであった。


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