第二話 光太郎達、吉備団子など携えて敵キャラ退治の旅始まる(2)
みんなは駅近くのファミレスで昼食を済ませた後、美観地区へ向かって歩き進んでいると、備中和紙型、はりこ型、手まり型、角皿型などの物体が浮遊したり跳ねたりしながら近づいて来た。
「やはり民芸品の数々がモンスターになってましたか」
「お土産に欲しいなぁ」
澄乃と晴帆はその姿を見て和んでしまう。
「倉敷の民芸品達。体力は14から37まであるけどどれも雑魚じゃ。ゲーム上では一回の戦闘につき五種類くらいで襲ってくるんじゃよ」
「確かに弱そうだけど、素早過ぎる。なかなか当たらんぞ」
光太郎が竹刀、
「小さいから当たりにくぅい。ガラス細工はピカピカ光って眩しいよぅ。太陽直接見たみたい」
眞凛がヨーヨーでぶっ叩き、
「いたたたっ、角皿型のやつ、顔挟みやがったがぁ」
彩果がバットとGペンを用いて、三人で何度か空振りになりながらも一分足らずで全滅させた。吉備団子、倉敷銘菓むらすゞめ、藤戸まんぢゅうを残していく。
美観地区に入ってほどなく、
「ひゃぁんっ! きゃあああああっ!」
晴帆が何かに全身を絡み付かれてしまった。
「倉敷の柳じゃ。こいつは身動き封じてくるから厄介じゃよ。体力は35。弱点は他の植物型の敵同様炎じゃよ」
「見た目通りね。マッチで。きゃっ、きゃぁっ!」
澄乃も全身に絡み付かれてしまう。
敵キャラ名通り、柳の木型モンスターだった。
高さは五メートルくらい。
「あーん、私のパンツに枝と葉っぱ入れないで」
「ぃやぁん、この柳さん、ぬるっとした樹液まで出して来たわ。いたくすぐった気持ちいいです」
数十本ある枝や、葉を自由自在に動かすことが出来ていた。
「こうなったら炎使えないな。俺に任せて」
光太郎は巻き付き攻撃に注意しつつ、倉敷の柳の幹を竹刀でぶっ叩く。
「一撃じゃやっぱ無理か。うぉわっ!」
攻撃し返され、葉っぱでバチンッと頬を引っ叩かれた。スパッと切れて血が少し噴き出てくる。
「光太郎くぅん、早く回復して」
「これくらいノーダメージと同じだよ」
光太郎は怯まず竹刀でもう一撃。
まだ倒せず。
「くらえーっ!」
眞凛はヨーヨー攻撃を幹に食らわせた。
「一八禁同人誌みたいなことしやがったエロ柳、これでどうじゃっ!」
彩果の幹へのバット攻撃でもまだ倒せず。
「しぶといな」
光太郎が竹刀でもう一発幹をぶっ叩いてようやく退治出来た。
「みんな、ありがとう」
「ありがとう、ございます」
解放された晴帆と澄乃はかなり疲れ切っていた。
「なかなか倒せんかったんは、晴帆様と澄乃様の体力を吸い取って自身の体力回復させとったからじゃよ」
桃恵は得意げに解説する。
「澄乃お姉ちゃん、晴帆お姉ちゃん、これで回復させてね」
眞凛はむらすゞめを一本ずつ与えて全快させた。
「ここの敵、本当に手強いな」
あまりダメージのない光太郎は吉備団子で全快させることが出来たが、その直後に、
「ぐぉっ!」
建物の壁から突如出て来た長い棹のうようなもので腹部をボスッと突かれ、弾き飛ばされてしまった。
それからすぐに編み笠を被り半纏を身に纏った、船頭さんらしき人が壁の中から現れる。
「くらしき川舟流し船頭さん、体力は41じゃ」
「光太郎くん、これを」
晴帆は駆け寄っていこうといたら、
「きゃぁんっ、ひゃっ」
くらしき川舟流し船頭さんの棹でスカートを捲られてしまった。弾みで前のめりに転げてしまう。
「ひゃんっ!」
澄乃は棹を股の間に通され、弾き飛ばされてしまう。
「澄乃お姉さん、一瞬箒に跨る魔法少女になってたがぁ」
彩果はにっこり微笑む。
「リアルくらしき川の船頭さんに失礼だろ」
藤戸まんぢゅうを食して自ら体力を全快させた光太郎は、竹刀でくらしき川舟流し船頭さん背中をぶっ叩く。
「おっちゃん、棹はそういう風に使うもんじゃないがぁ」
彩果は一瞬の隙をついて棹を奪い取り、それでくらしき川舟流し船頭さんの頭をぶっ叩いた。
「悪い舟流しのおじちゃん、これでもくらえーっ!」
眞凛が手裏剣を背中に食らわし、ついに消滅。
しかしその直後、
「きゃぁんっ、あの、やめて下さい」
「光太郎くぅん、助けてぇー。この素隠居さんは絶対敵だよぅ」
澄乃と晴帆は背丈一八〇センチ以上はあるだろう法被姿でお面を被った敵一体ずつに背後から抱き着かれ、手に持っていた渋うちわで胸をパシパシ叩かれてしまった。
「この爺ちゃんの面被った中の人、やけに嬉しそうじゃなあ」
彩果はバットとカッター、
「阿智神社の例祭でお馴染みのもモンスター化されてたか。リアルのに倣って胸じゃなく頭を軽く叩いてやれよ」
光太郎は少し楽しげな気分で竹刀で、
「おかしなお顔のお面の素隠居さん、くらえーっ!」
眞凛は生クリームでお面を攻撃し、苦戦することなく全滅させる。
「あ~、あの素隠居さんは怖かったぁ」
「わたしの力では抵抗し切れず申し訳ないです」
解放された晴帆と澄乃はホッと一息。
「体力34の素隠居のうちわ攻撃はダメージは0で御利益が授かるものじゃけぇ、ゲーム上で遭遇した場合は倒さずに逃げるを選択するんが良心的じゃよ。皆様、大原美術館内に出る敵もぎょうさん散らばってもうとるみたいじゃけぇ、次はそこを攻略していきましょう」
「ダンジョン攻略かぁ。魔物がぎょうさんいそうで楽しみじゃ」
「あたしもわくわくして来たよ」
「俺もRPGの博物館や図書館のダンジョンはけっこう好きだな」
「わたしも好きですよ」
「遠足とかで何度か行ったことがある大原美術館にまで敵が出るなんて、嫌だなぁ。怖いなぁ」
「晴帆様、一般人が多かったら敵は出んと思うけぇ、安心して歩きねー」
みんなはこの後は敵に遭遇せず、大原美術館へ辿り着くことが出来た。
光太郎が代表してみんなの分の入館料を支払い、館内へ。
「ワタシこの美術館の絵ではこれが一番好きじゃ。このタオルみたいなんであそこ隠しょおるとこがますますエロいがぁ。ルノワールさんは神絵師じゃなあ。セザンヌの『水浴』とゴーギャンのあそこボーボーな『かぐわしき大地』もヌードやが、ワタシはその絵見て萎えたよ」
『泉による女』の絵画前で、彩果はにやけ顔で感想を呟く。
「彩果、芸術作品をそんないやらしく鑑賞しちゃダメ。ヌードは芸術なんだよ」
晴帆は俯き加減で注意しておいた。
「わたしもこの絵、絵柄が好きですよ」
「おっぱい丸見えだね」
眞凛は数センチ先まで近づいてにこにこ笑いながら眺める。
「ゲーム上の大原美術館他でもこういったヌード絵画が閲覧出来ることも、CEROがBの理由なんじゃよ」
桃恵は楽しそうにこの絵を眺めつつ、豆知識を伝えた。
「光太郎お兄さんはこの絵のことどう思う?」
「全く興味ない」
「光太郎お兄さん、紳士振りよるがぁ」
彩果はにんまり微笑む。
「そんなことよりみんな、敵キャラらしきのが俺達の方へ近づいて来たぞ」
光太郎は遠くの方へ視線を逸らしたが、それが功を奏したようだ。
セガンティーニ作、『アルプスの真昼』の絵が額縁に飾られた状態で跳ねながら近寄って来ていた。
「やはり展示されている絵画がモンスター化されていますね」
「絵が生き物みたいだね」
澄乃と眞凛は興味津々だ。
「防御力高そうだし、体当たりされたらめっちゃ痛そうだ」
光太郎は容赦なく竹刀でぶっ叩く。
「やっぱ一撃じゃ無理か」
もう一発食らわそうとしたら、
「ぐおっ!」
絵の中の木にもたれている青い服の女性が手に持っていたステッキで腹部を突かれてしまった。光太郎は突き飛ばされ尻餅をつく。
「光太郎くん、これ」
「サンキュー晴帆ちゃん、船頭の棹攻撃よりダメージ食らったよ。なんか今この絵のおばさん、くすって笑ったぞ」
晴帆はすぐに大手まんぢゅうを与えて回復させてあげた。
「さすがモンスター化しょおるだけはあるがぁ。光太郎お兄さん、次ワタシが攻撃しちゃる」
彩果も手裏剣で攻撃を加える。
「この絵、強いね」
まだ退治出来なかったので、眞凛も水鉄砲で攻撃。
すると次の瞬間、
メェェェ~、メェェェッ! メッメェェェ~。
「いったぁぁい」
絵の中の山羊が三匹飛び出して眞凛の腕に噛み付いて来た。
山羊はすぐに消滅し、ほぼ同時に絵も消滅した。
倉敷銘菓むらすゞめを残していく。
「大原アルプスの真昼は倒した後にダメージを与えていく自爆系の敵なんじゃ。ゲーム上で遭遇したら倒した後、すぐに十字キーの下押して逃げるんがベストじゃよ」
「そんな攻撃もしてくるなんて、敵のレベルもすごく上がってるね」
眞凛は喜んでいた。
「うわっ、『信仰の悲しみ』も襲って来たぞ」
「ほんまじゃ。信仰の悲しみの絵が中を舞いよるがぁ」
「あたしこの絵暗いから嫌ぁい」
「私もあまり好きじゃないな。悲しい気分になっちゃう」
「この敵は一体どんな攻撃をしかけてくるのかしら?」
「大原信仰の悲しみちゃんの体力は39じゃ」
桃恵が伝えた直後。
うわあああああああああああああああああ~。
大原信仰の悲しみちゃんは大きなむせび声を上げた。
「不気味過ぎるがぁこの声、精神がおかしくなりそうじゃ」
「これはやばいな」
「あたしも変になりそう」
「わたしもです」
「私もだよ。中の女性、五人ともむせび泣きしてるよね?」
光太郎達は動きが鈍ってしまう。
「皆様、耳を塞いで聞かないようにしねー。混乱状態になっちゃうけぇ。こいつの弱点は音じゃ。晴帆様、早くヴァイオリンを」
桃恵は注意を促した。彼女には効果がなかったようだ。
「分かった」
晴帆は急いでリュックからヴァイオリンを取り出し、メリーさんの羊を演奏し始めた。
すると大原信仰の悲しみちゃんは途端に叫ぶのをやめてくれたのだ。
「晴帆ちゃん良くやった。むせび声さえなければ弱そうだ」
光太郎の竹刀攻撃と、
「この暗い絵、早く消えちゃえ」
眞凛の水鉄砲攻撃で退治完了。
「晴帆様、上手くいきましたなあ。不気味な声には耳障りな音で対抗するのが一番いいんじゃよ」
「私のヴァイオリン、やっぱり耳障りなんだね」
晴帆はしょんぼりしてしまう。
「晴帆お姉さん、今回は楽器の下手さが武器になったけぇ喜びなよ」
彩果はにっこり笑って慰めてあげた。
「あたしはそんなに耳障りじゃなかったよ。あっ! あの絵だぁっ!」
眞凛は角から曲がって姿を現したそいつに気付くと嬉しそうに叫んだ。
「岸田劉生作の大原童女舞姿は体力38じゃ」
「これも有名な絵だよな」
光太郎はさっそく竹刀で絵のおかっぱ少女のお顔をぶっ叩く。
「うわっ、いってぇぇぇっ!」
即、仕返しされてしまった。絵から飛び出した扇子が光太郎の顔面を直撃する。額からちょっと血が流れ出た。
「光太郎くん、これ食べてね」
晴帆はすぐに良寛てまりを差し出してあげる。
「ありがとう晴帆ちゃん」
光太郎は今までと同じく瞬時に回復。
「光太郎お兄さん、絵の不細工な女の子泣きよるがぁ。さっきの攻撃はひどいんちゃう。これでーれー美味いで」
彩果は絵の中央部分に燦然をぶっかけた。
すると8の字を描くような動きをしたのち攻撃を加えることなく消滅した。
「ありゃまっ、ダメージになったんか? 回復すると思ったんじゃけど」
彩果は拍子抜けしたようだ。
「体力は回復したようじゃけど、酩酊状態になっちゃって自分で自分を攻撃したみたいじゃ」
桃恵は微笑み顔で伝える。
「彩果さん、子どもにお酒攻撃はダメですよ」
澄乃は微笑み顔で優しく注意。
「酒ぶっかけ攻撃は一部の敵には酩酊状態にさせる効果があって、そうなるとさっきみたいに自分で自分を攻撃したり、仲間を攻撃したりして自滅する場合もあるんじゃよ。その場合は経験値とお金入るよ」
桃恵は微笑み顔で伝える。
「それはええこと聞いたがぁ。一回使っただけで消えてまうんは勿体ないよなあ」
彩果がちょっぴり残念がっていると、
「おーい、今度はモネの睡蓮が来たぞ」
光太郎が新たな絵画型モンスターの接近に最初に気付く。
「なんか私、眠くなって来ちゃったぁ」
「あたしもー」
「ワタシもじゃ」
「俺も、急に睡魔が」
「わたしも眠いですぅ」
「皆様、大原睡蓮ちゃんは催眠術を使ってくるけぇ絵を見んように。眠ったところを追突してくるのがこいつの攻撃方法じゃ」
「さっさと片付けないとな」
光太郎が寝惚け眼を擦りつつ、少しふらつきながらも竹刀二発で退治。
すると途端にみんな眠気が冴えた。
引き続き館内を歩き進んでいると、
「いたたたぁ。りんご当てられたぁ」
眞凛は死角になっている所から先攻された。
「これは絶対あの絵だろ」
光太郎の推測通り、ピサロの『りんご採り』の絵画型モンスターがまもなくみんなの前に姿を現した。
「よくもやったなぁ。仕返しーっ!」
眞凛はヨーヨーを左端のりんごを齧る女性の顔面に叩き付けた。
「切り裂いちゃる」
彩果は楽しそうにカッターでズバッと切り付ける。
絵の中の枝が何本か落ちた。
「いたたたぁっ」
落とされた葉っぱ付きの枝は絵画から飛び出して来て、彩果のほっぺたを両サイドから思いっ切りビンタした。彩果のほっぺたもスパッと切れて血が少し噴き出してくる。
「きゃっ!」
その枝は澄乃の顔面にも襲い掛かって来たが、澄乃はとっさにうちわで仰いで吹き飛ばし、ダメージ回避。
「しぶといな」
光太郎が額縁の裏を竹刀で叩いて消滅させた。
「彩果、絵を切り付けるのはダメだよ」
「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったんじゃ」
晴帆から受け取った良寛てまりを食して、やや涙目になっていた彩果の頬の傷は瞬く間に消える。
「きゃっ、あのエッチな絵がやって来たよ」
晴帆はそいつの姿を見るや、床に視線を向けた。
「おう、『泉による女』もモンスター化しょおった。ええ匂いもしてくるがぁ」
彩果は嬉しそうに呟く。
「オレンジみたいですね」
「私、オレンジの香り大好き」
「あたしもー。気分が安らぐね」
「光太郎様は、この匂い嗅いじゃおえん、あっ、遅かったかぁ」
「あんぅ、光太郎くん、やめて」
「ごめん、なんか俺、晴帆ちゃんの汗まみれのパンツ見たくてしょうがないんだ」
光太郎はとろんとした目つきで晴帆のスカートを捲ってしまう。
「光太郎お兄ちゃんが、エッチなお兄ちゃんになっちゃった」
眞凛は楽しそうに笑う。
「光太郎さん、普段は絶対そういう猥褻なことする人じゃないのに。この敵の力のせいね」
「大原泉による女の、男の人によく効く魅惑の香水の力で、光太郎様はムラムラ状態に侵されちゃったんじゃよ」
「晴帆お姉さぁん、大好きじゃ♪」
「あっ、彩果ぁ。やめて。光太郎くんも彩果も変だよぅ」
彩果からはほっぺたにディープキスをされてしまった。
「彩果様、女の子なのに効いちゃうなんて、百合の気質を持ってるのかも」
桃恵は楽しそうににっこり微笑む。
「晴帆ちゃん、俺、パンツの匂いも嗅ぎたい」
「晴帆お姉さぁん、口開けねー。舌入れさせて欲しいんじゃー」
「んもう、光太郎くんも彩果も早く正気に戻ってぇぇぇぇぇ」
晴帆は中腰の光太郎にショーツ越しだがお尻に鼻を近づけられ、彩果に口づけを迫られる。
「すみやかに倒しましょう」
「泉による女のおっぱい丸出しおばちゃん、くらえーっ!」
澄乃のメガホン、眞凛の生クリーム&ヨーヨーの三連続攻撃によりあっさり消滅。
「あれ? 俺。うわっ、なんで晴帆ちゃんの尻が俺の目の前に!?」
「ありゃ、ワタシさっきまで何を」
光太郎と彩果は途端に平常状態へ戻る。
「光太郎お兄ちゃんと彩果お姉ちゃん、晴帆お姉ちゃんにずっとエッチなことしてたよ」
眞凛は楽しそうに伝えた。
「ごっ、ごめん晴帆ちゃん!」
光太郎はすみやかに晴帆から離れてあげ深々と頭を下げた。
「晴帆お姉さん、百合なことしちゃったようで申し訳ない」
彩果は晴帆のお顔をじっと見つめたまま頬を火照らす。
「べつに、気にしてないよ。さっきの敵のせいだもん。ん? きゃっ、きゃぁっ!」
また新たな絵画モンスターが視界に入り、晴帆は思わず目を覆った。
「立派な芸術作品だけど、こんな風に登場されると猥褻なおじさんに見えちゃいますね」
澄乃は頬を少し赤らめて微笑む。
「このおじちゃん素っ裸だぁ! お○ん○んも丸見えーっ!」
眞凛はくすくす笑いながら楽しそうに、駆け足で迫ってくるそいつを眺める。
オーギュスト・ロダンによって作られただろう、筋肉ムキムキな男性の裸体ブロンズ像型モンスターだったのだ。
「玄関前に飾られてあるのがモンスター化みたいだな」
光太郎は苦笑いする。
「大原洗礼者ヨハネくん、体力は45。大原美術館内の敵じゃ攻撃力最大じゃ。パンチとキック攻撃に注意しねー」
「やぁ、かわいいドミヌラ達、おじさんといっしょにカレーを食べに行かないかい?」
そいつは人間の言葉を使って誘いかけてくる。
「ワタシ、こういう系の、苦手なんじゃ」
彩果は眉を顰め、すかさずあの部分目掛けてマッチ火を投げつける。
「うをおおおおおおおおおおっ、ぐあああああああああああああああああっ!」
大原洗礼者ヨハネくんは断末魔の叫び声を上げたのちあっさり消滅した。
「彩果お姉ちゃん、あの裸のおじちゃん火炙りの刑にしちゃったね」
「なんか、あとで呪われそうだな」
☆
みんなは大原美術館から脱出後、JR倉敷駅へ戻っていく途中、
「くらしき川舟流し船頭さん、また現れたな」
路上で光太郎が発見すると、
「あの船頭さんにあるまじきエッチな爺ちゃん、ワタシがやっつけちゃるわ~」
「あたしもやるぅ」
彩果と眞凛は武器を構えて楽しそうにそいつのもとへ駆け寄っていく。
「とりゃぁっ!」
彩果はバットで背中を、
「お爺ちゃん、くらえーっ!」
眞凛はヨーヨーで肩を一発攻撃した。
「いたたたぁ。こらっ、お嬢ちゃん、何するの?」
「まだ消えないか。攻撃力足りんかったようじゃなあ」
「もう一発叩けば消えそう」
「あのう、この方は本物のくらしき川舟流し船頭さんみたいじゃ。人型の敵は本物と見分けつきにくいんもおるんじゃよ。リアルのを参考にしてデザインされとるけぇ」
桃恵が苦笑いして呟くと、
「えっ!? すっ、すみませんでしたぁ」
「お爺ちゃんごめんなさーい」
彩果と眞凛は慌てて謝罪。
「いや、いいんじゃ。なんか今朝からこの辺りにわしらと同じような格好をして若い女性に猥褻な行為をするけしからん輩が出ておると聞いておるし。お嬢ちゃん達はわしがその者と思ったんじゃろう? では、旅路気をつけてな」
本物のくらしき川舟流し船頭さんはハハハッと笑って快く許してくれ、川舟乗り場の方へ足を進める。
「間違いなく敵キャラの船頭さんのしわざじゃろうな」
桃恵はちょっぴり罪悪感に駆られる。
「ついに一般人にも直接被害受けたやつが出たわけか」
「岡山市内の商店で、商品が誰かに入られた形跡もなく持ち出される不可解な現象が相次いでるみたいじゃ。アニメイト岡山とメロンブックスさんも被害に遭ったみたいじゃけど、それはきっとアニヲタ君、声ヲタ君のしわざじゃろうね」
彩果は自分の携帯をネットに繋いでローカルニュースと関連記事を確認する。
「泥棒もやってる敵キャラさんは、あたし達が懲らしめなきゃいけないね」
「わたし達、使命感がさらにふくらみましたね」
「敵キャラさん達、大人しくしてて欲しいものだよ。私達にも襲い掛からないで欲しいよ」
☆
みんなは倉敷駅から出雲市行き特急やくもを乗り継いで新見へ。
駅近くの城山公園内を散策していく。
「あーっ、お寿司が空飛んでるぅ」
新たな敵襲来で、眞凛は嬉しそうに伝えた。
長さ五〇センチほどある、サバで巻かれた寿司型モンスターが信晴目掛けて突っ込んで来た。
「新見名物の鯖寿司か。酢臭いな」
光太郎は竹刀で打ち返し地面に落としたが、
「おっと」
今度は飛びかかって来た。
かろうじてかわすと、もう一発竹刀でぶっ叩く。
「ぶぉぁっ!」
今度はサバを飛ばされ、光太郎は吹っ飛ばされてしまった。
「光太郎お兄さん、あとは任せて」
彩果がGペンを投げつけ、消滅させた。
鯖寿司、ゆずりは餅を残していく。
ンモゥゥゥ!
その直後に体高1.5メートルくらいある二本の角が付いた黒毛牛も突進して来た。
「千屋牛くん、体力は52。火が弱点じゃよ。突進攻撃は大ダメージ食らうけど、動きは遅いけぇ簡単によけれるよ。ゲーム上でも命中率は低いんじゃ」
「ステーキにして金山の焼き肉たれで食いたいものじゃなぁ」
彩果は千屋牛くん目掛けてマッチ火を投げつけた。
ンモモモモモゥゥゥゥゥ!
千屋牛はボワァッと燃えたのち、怒りの表情を浮かべた。
「まあ一発じゃ倒せんだろう」
光太郎もマッチ火を投げつけ、さらにダメージを与える。
ンモモモ、ンモモモゥゥゥゥゥゥゥ!
しかし、まだ消滅せず。燃えたまま光太郎目掛けて突進して来た。
「動き速なりよるね」
彩果がすかさずGペンを命中させ、ついに消滅。昭和天皇皇后両陛下に献上されたという黄身餡焼き菓子【備中小判】を残していく。
ちょうどその頃、
「このキャビア、すごく美味しいね」
「そうだね。私、もっといっぱい食べたいな」
「わたしもです。このチョウザメのモンスターさん、倒すの勿体ですね」
眞凛と晴帆と澄乃は、全長三メートルくらいあるチョウザメ型モンスターからぶっかけられたキャビアを堪能中だった。
「ワタシもキャビア食べたぁい。ワタシにもぶっかけねー」
彩果はチョウザメモンスターの方へ吸い寄せられるように歩み寄っていく。
「でーれー美味いがぁ」
望み通り、キャビアを全身にたっぷりぶっかけてもらうと満足げに味わい始めた。
「あらら、彩果様まで戦意喪失の虜状態に」
桃恵が苦笑いで呟いた直後、チョウザメ型モンスターは口を大きく開け、鋭い歯をむき出しにして眞凛達に襲い掛かって来た。
「危ないよっ!」
光太郎はとっさに竹刀で叩き付けチョウザメ型モンスターを弾き飛ばすと、休まずもう一発叩いて消滅させた。たたら饅頭を残していく。
「ありがとうございます。ついついキャビアに夢中になってしまいました」
「光太郎お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」
「光太郎くん、迷惑かけてごめんね」
「光太郎お兄さん、すまんね。あれはやばい魅力持ってたがぁ」
澄乃達は途端に正気に戻れたようだ。
「俺ももう少しであの罠にかかりそうになったよ」
「体力48の新見チョウザメくんは、キャビア攻撃で虜状態にさせたところを強烈な噛みつき攻撃かましてくるんじゃよ」
「さすがこの辺りになると卑怯なことしてくるんも出てきょぉるね」
「ちなみにゲーム上で新見市内を散策する時、戦闘時以外でも注意を要する場所があるんじゃよ。満奇洞など阿哲台の鍾乳洞内では時々鍾乳石が落ちて来て、勇者らにダメージ与えてくるんじゃ。ヘルメットを装備することでダメージ回避出来るけどね」
「厄介なトラップもあるんだな」
光太郎はちょっぴり感心してしまう。
「鍾乳洞って敵出んでもRPGのダンジョンっぽい雰囲気あるけぇワタシ好きじゃ。おう、今度はあれが襲って来たがぁ」
長さ1.2メートルくらいのゴム容器に団子状に詰められたアイスが六体、ぴょんぴょん飛び跳ねながら襲い掛かって来た。
「バクダンキャンディーのモンスターさんですね。さすが発祥地」
「こんなに大きいといっぱい食べれるね」
「晴帆様、敵じゃけぇ見惚れんように。バクダンキャンディーくんはどの種類も体力50じゃ。弱点は炎じゃけど、それで攻撃するとゴムが溶けて変なにおい出して皆様気分が悪い状態に侵されちゃうけぇおえんよ」
「トラップ付きかぁ。敵の手強さがどんどん増しよるがぁ。この子もエッチなことして来そうじゃなあ。んぎゃっ」
彩果はメロン味の一体をバットで叩き付けようとしたら、腹部に突進され弾き飛ばされてしまった。
「彩果、無茶はしちゃダメだよ」
晴帆は藤戸まんぢゅうなどを抱えてすぐさま回復させにいく。
「バクダンキャンディーくんは女の子でも容赦なく突進かましてくるんじゃよ。硬派なんじゃ」
桃恵は苦笑いで伝える。
「意外と脆いな。暑いからか?」
光太郎は彩果に重傷を負わせた一体を竹刀で叩きつけ、一撃で消滅させた。
「きっと水も弱点だね。すごく美味しそうなバクダンキャンディーくん、溶けちゃえーっ!」
眞凛はコーヒー味とグレープ味、計二体に水鉄砲を発射。
見事直撃し、バクダンキャンディーくんは共に弱った。それぞれにもう一発ずつ当てると消滅した。
「眞凛さん、ナイスです。溶けやすくなるためか風も弱点みたいですね」
澄乃はうちわで仰いでソーダ味のバクダンキャンディーくんを吹き飛ばすと、メガホンでぶっ叩いて消滅させた。
「あとはワタシが倒しちゃるっ!」
彩果はミルク味のにGペン、オレンジ味のに手裏剣を食らわし消滅させた。
これにて全滅。モンスター化状態時と同じ味のバクダンキャンディーを残していく。
「リアルのより美味しいかも♪」
眞凛はソーダ味、
「ほんま、でーれー美味いがぁ」
彩果はメロン味、
「私もすごく幸せな気分だよ」
晴帆はグレープ味、
「本当、いつまでも味わっていたい美味さだよな」
光太郎はコーヒー味、
「容器もリアルのより開けやすいですね」
澄乃はミルク味、
「うちのおる世界じゃ、これが通常のじゃけどね」
桃恵はオレンジ味を堪能していたところ、
「フォフォフォ、皆の者、敵キャラ退治、良く頑張っておるようじゃな。若い娘さんがぎょうさんおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」
突如、白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんがみんなの目の前に姿を現した。
「おう、思わぬ場所に現れよったね。ゲーム上ではこの敵、湯原温泉よりちょっと南の箸立天満宮に出るんじゃよ」
「エロそうな爺ちゃんじゃなあ」
彩果はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。
「フォフォフォフォッ。わしは小学生の女子が一番の好みなのじゃよ」
お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。
「ロリコンなんかぁ。見た目通りじゃなあ」
「あたしが好きなの?」
眞凛がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、
「眞凛、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」
「そんなことしないよ」
「いや、しそうだよ」
晴帆に背後から掴まえられた。
「このお方は学力仙人といって、対戦避けることも出来るけど、戦った方が後々の冒険で有利になるかもじゃよ」
「学力仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、岡山編で早くも遭遇するんだな」
光太郎は興味深そうに学力仙人の姿を眺めた。
「敵キャラだけど、倒せば味方になってくれるんじゃよ。主人公達に学力向上を授けてくれるいいお方よ。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きなんじゃ」
「ホホホッ。わしはゲーム上では箸立天満宮におるのは学問の神様、菅原道真公が祀られておるからじゃよ。わし、午前中はリアル箸立天満宮におったのじゃが、早く勇者達に会いたくてタクシーを利用してここまでやって来たのじゃ」
「タクシー利用か。なんか、仙人っぽくないな。雲に乗ってくるとか」
光太郎はにっこり笑ってしまう。
「雲に乗れるとかあり得んし。少年よ、現実的に考えよ。ホホホッ、そこの眞凛と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」
「やる、やるぅ」
「眞凛、危ないからダメだよ」
「小学生の眞凛様では、まだ無理だと思うんじゃ」
「戦いたいんだけどなぁ」
「わたしがやりますっ!」
澄乃が率先して学力仙人の前に歩み寄った。
「ショートがよくお似合いのお嬢さんは、東大志望かのう?」
学力仙人が問いかける。
「いや、わたしは京大第一志望よ」
澄乃はきりっとした表情で答えた。
「そうか。まあ京大でもいい心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ!」
学力仙人はいきなり杖を振りかざした。
「ひゃっ!」
澄乃は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまう。
「想像以上に強いな。このエロ爺」
光太郎はとっさに澄乃から目を背けた。
「きゃんっ!」
服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。
「なかなかのスタイルじゃわい」
学力仙人はホホホッと笑う。
「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。痛い」
仰向けで苦しそうに呟く澄乃のもとへ、
「大丈夫? 澄乃ちゃん、これ食べて」
晴帆はすぐさま駆け寄って、吉備団子を与えて回復させた。けれども服は元に戻らず。
「学力仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力しちゃる」
「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」
彩果はバット、眞凛は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。
しかし、
「ほいっ!」
「きゃわっ! もう、ほんまにエッチじゃなあ」
「いやーん、すごい風ぇ」
澄乃と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。
「彩果も眞凛も大丈夫?」
「平気じゃ、晴帆お姉さん」
「あたしも、大丈夫だよ」
「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」
晴帆は心配そうに駆け寄り、岡山瀬戸内えび煎餅で全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。
「一応、やってみるか」
彩果と眞凛のあられもない姿も一瞬見てしまった光太郎も、竹刀を構えて恐る恐る立ち向かっていったが、
「それっ!」
「うおあっ!」
やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。
「男の裸なんか見たくないからのう」
学力仙人はにっこり微笑んだ。
「光太郎さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」
「ありがとう、沼本さん」
明日用の替えの服を着た澄乃は瀬戸大橋まんじゅう岡山物語で光太郎を全快させてあげた。
「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」
「いいえけっこうです!」
学力仙人に微笑み顔で誘われた晴帆は、青ざめた表情で即拒否した。
「このエロ爺、とんでもない強さじゃ。これは倒しがいがあるがぁ」
「中ボスの力じゃないよね?」
彩果と眞凛は圧倒されるも、わくわくもしていた。
「どうやっても、勝てる気がしないわ」
澄乃は悲しげな表情で呟く。
「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ?」
光太郎は彩果と眞凛のあられもない姿を見ないよう視線を学力仙人に向けていた。
「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」
学力仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を光太郎に差し出して来た。
「これ、テストか?」
「学力仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学力仙人が出すペーパーテストの正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるんじゃよ。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるんじゃ」
桃恵は解説を加えた。
「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ二割も取れんと思うがのう。二割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」
学力仙人はどや顔でおっしゃる。
「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか?」
光太郎は苦笑いした。
世界で六番目に大きい島は?
小説『牛部屋の臭ひ』の著者は誰?
岡山県内にある次の地名の読み仮名を記せ【宍甘】などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。
「あたし一問も分からないよぅ」
「ワタシもじゃ」
「彩果ちゃん、眞凛ちゃんも、服破けてるから」
前から覗き込まれ、光太郎はもう片方の手でとっさに目を覆う。
「すまんねえ光太郎お兄さん、すぐに着てくるけぇ」
「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」
彩果と眞凛は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。
「私も、ちょっとしか分からないよ。二割も取れないと思う」
晴帆もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。
「それならわたしに任せて」
澄乃はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答をし始めた。
全部で百問。一問一点の百点満点だ。
「どうぞ」
澄乃は三〇分ほどで解答を終え、学力仙人に手渡した。
「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ! なんと、九八点じゃとぉっ!」
学力仙人は驚き顔で呟く。
「澄乃様。さすが賢者。大変素晴らしいがぁ。どこにでもおるごく普通の高校生なら二割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学力仙人、能力値九割八分減で桃太郎人形くん並に弱くなったと思うよ」
「本当か? 姿は全然変わってないけど」
光太郎は少しにやけた。
「いや、わしの強さは全く変わってないぞよ」
学力仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。
「明らかに弱くなってますけど。学力仙人さん、エッチな攻撃した仕返しよ」
澄乃はメガホンで学力仙人の頬を引っ叩いた。
「ぐええ! まいった」
学力仙人は数メートル吹っ飛ばれてしまい、あえなく降参。
「能力値極端に下がり過ぎだろ」
光太郎は思わず笑ってしまう。
「服も戻ったわ」
「ほんまじゃ」
「勝ったんだね」
澄乃、彩果、眞凛の破かれた服も瞬く間に元通りに。
「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きたまえ」
学力仙人はみんなに学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。
「なんか、急に頭が冴えて来た気がするがぁ」
「俺も」
「私も」
「わたしもですよ」
「あたしもすごく頭が良くなった気がする。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」
「皆様、お疲れ様でした。このあと湯原温泉に移動したら、宿を決めましょう」
「湯原温泉、この時期に六人も泊まれるとこあるのかな?」
光太郎は少し心配になった。
「菊禄景旅館は空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万七千円だって。六名以上だと団体割引で一万三千円よ」
「それでも高めじゃけど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。澄乃お姉さん、ここにしよう!」
「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」
「私もー」
「ええ場所にあるね。うちもここがええなあ」
「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったよ」
澄乃は携帯のネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。
「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるんじゃよ」
「そこもリアルさがあるな」
光太郎はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。